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第2章 夜な夜な泣き彷徨う霊
第10話 手遅れ
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晴高の車で送ってもらう間、千夏は泥に沈むように眠っていた。
乱暴に肩を揺すって起こされたときにはもう、自分のマンションの前だった。千夏は寝ぼけ眼で晴高に礼を言うと、車から降りる。
どうやら晴高は千夏に何かあったときのために、夜の間ずっとあそこに車を置いて待機してくれていたようだった。そのことについても一応頭を下げて礼を言っておく。
晴高は相変わらずの無表情でちらっとこちらを見ると、「今日は代休にしとくから」とだけ告げて車で去っていった。
翌日出社すると、百瀬課長が千夏の姿を見るや否や駆け寄ってきて「いきなり晴高くんが無理させたんだって? 彼には私からもよく言っておくから」と声をかけてくる。
「い、いえ。大丈夫ですから」
百瀬課長があまりに心配するので、大丈夫ですと笑みを重ねた。
親会社にいた時は、仕事の締め切りが迫ってくると会社に泊り込むことも少なくなかった。それに比べれば一晩の徹夜なんて大したことない……はずだったのだが、霊に触れたせいか、昨日は酷い疲労感と眠気とだるさにやられて一日中寝ていたのだ。代休にしてもらえて助かった。
おかげで、今日はすっかり回復。
自分のデスクへ行くと、晴高は黙々とノートパソコンで作業をしていたし、元気は相変わらず空席になっている千夏の隣の席に座っている。
ただひとつ違うのは、元気は一昨日のような青い顔をして俯いてなどおらず、千夏の姿を見つけると元気そうに笑いながら手を振ってきたことだ。
まったくもって、幽霊ぽくなくなってしまった。
(元々こういうタイプなんだよね、きっと)
千夏が席について「おはようございます」と挨拶すると、晴高は視線すらあげずに「おう」と呟くだけだし、元気は明るく元気に「おはよう」と返してくる。
うん。出社、実質二日目だけど。これがこれから自分が毎朝みる光景なのだろうなと思うと、存外悪くない。
そう思ってから自分で自分の気持ちに、少し驚いた。ほんの数日前まで、子会社へ勤務することがあんなに惨めで気が重かったのに。
さて、今日は調べ物しなきゃな。まず千夏はあの日あのアパートで経験したことを晴高に報告した。彼はキーボードを打つ手を止めもせずに話をきいていた。
ちゃんと聞いているのか?と心配になるも、一通り千夏が話し終わると彼は「へぇ……」と感心したように感想を口にした。
「そんな現象、初めて聞いた……」
「え? 何がです?」
「いや、だからその。霊の記憶が覗けたって話」
そこに食いついてくるあたり、ちゃんと千夏の話には耳を傾けていたようだ。千夏はデスクに身を乗り出すと、はす向かいの席に座る晴高に食い気味に尋ねる。
「やっぱり、珍しい現象なんですね」
「……そうだな。身内に坊さんや、霊能力あるやつは多いけど。そんな話聞いたことがない」
「俺も、初めてだったよ。いままでも他の霊に触ったことはあったけど、あんな風になったことなんてなかった。でも、千夏が俺の手に触れようとした途端、起きながら夢をみているみたいに別の映像が見えたんだ。がーって頭の中に映像の激流が流れ込んできた感じだった」
そう語る元気は、のんきに湯飲みから熱いお茶をすすっている。ちなみに、そのお茶を淹れたのは千夏だ。自分のものを淹れてくるついでに淹れてきた。晴高にもいるかどうか聞いてみたが、「いらない」とすげなく断られてしまった。
「あのとき見えたものが本当に幸子さんの記憶なのかどうか、確証はないんですけど。とりあえず、いろいろ調べてみたいことがあるので、幸子さんの相続財産管理人の弁護士と面会してもいいですか?」
「ああ、それは構わんが。ソレも連れていくのか?」
晴高は彼の前の席で、のんきにお茶を飲んでいる元気を目で示した。ソレとはつまり、元気のことだ。
「それは彼の好きにすればいいかなと思ってますが、また霊の出る現場に行くときはぜひ連れていきたいな、なんて思ってはいます……」
そう晴高の様子をうかがいながら躊躇いがちに言う千夏に、はぁと彼は露骨に大きくため息をついた。
「もう一回、忠告しとくけど。霊障とか何かよからぬことがあれば、すぐにそいつから離れろ。直ちに除霊するから」
『除霊』という言葉に、元気がぴくりと肩を動かした。
それに構わず晴高は話を続ける。
「それと。人前でそいつと会話してると完全に危ない奴だぞ、お前」
「……!!!!」
たしかにそうだ。千夏の目には元気のことははっきり見えているけれど、他の大部分の人には彼の姿は見えない。その人たちからすると、千夏が一人で虚空に向かって会話をしているように見えることだろう。それはまずい。明らかにまずい。
「……気をつけます」
しゅんと肩を落とすと、元気も「俺も気を付けるよ」と晴高に言う。
「これからは、人前で話しかけてこないでよね」
「それ、お互いさまだから」
なんてついうっかり元気と話していたら、
「だから、ソレをやめろっていってんだろ」
と晴高に呆れられてしまった。
危ない危ない。ハッと周りを見わたすと、同僚の皆さんが気持ち悪そうな顔をしてこちらを見ていた。すぐに目をそらされる。もう手遅れかもしれない。
乱暴に肩を揺すって起こされたときにはもう、自分のマンションの前だった。千夏は寝ぼけ眼で晴高に礼を言うと、車から降りる。
どうやら晴高は千夏に何かあったときのために、夜の間ずっとあそこに車を置いて待機してくれていたようだった。そのことについても一応頭を下げて礼を言っておく。
晴高は相変わらずの無表情でちらっとこちらを見ると、「今日は代休にしとくから」とだけ告げて車で去っていった。
翌日出社すると、百瀬課長が千夏の姿を見るや否や駆け寄ってきて「いきなり晴高くんが無理させたんだって? 彼には私からもよく言っておくから」と声をかけてくる。
「い、いえ。大丈夫ですから」
百瀬課長があまりに心配するので、大丈夫ですと笑みを重ねた。
親会社にいた時は、仕事の締め切りが迫ってくると会社に泊り込むことも少なくなかった。それに比べれば一晩の徹夜なんて大したことない……はずだったのだが、霊に触れたせいか、昨日は酷い疲労感と眠気とだるさにやられて一日中寝ていたのだ。代休にしてもらえて助かった。
おかげで、今日はすっかり回復。
自分のデスクへ行くと、晴高は黙々とノートパソコンで作業をしていたし、元気は相変わらず空席になっている千夏の隣の席に座っている。
ただひとつ違うのは、元気は一昨日のような青い顔をして俯いてなどおらず、千夏の姿を見つけると元気そうに笑いながら手を振ってきたことだ。
まったくもって、幽霊ぽくなくなってしまった。
(元々こういうタイプなんだよね、きっと)
千夏が席について「おはようございます」と挨拶すると、晴高は視線すらあげずに「おう」と呟くだけだし、元気は明るく元気に「おはよう」と返してくる。
うん。出社、実質二日目だけど。これがこれから自分が毎朝みる光景なのだろうなと思うと、存外悪くない。
そう思ってから自分で自分の気持ちに、少し驚いた。ほんの数日前まで、子会社へ勤務することがあんなに惨めで気が重かったのに。
さて、今日は調べ物しなきゃな。まず千夏はあの日あのアパートで経験したことを晴高に報告した。彼はキーボードを打つ手を止めもせずに話をきいていた。
ちゃんと聞いているのか?と心配になるも、一通り千夏が話し終わると彼は「へぇ……」と感心したように感想を口にした。
「そんな現象、初めて聞いた……」
「え? 何がです?」
「いや、だからその。霊の記憶が覗けたって話」
そこに食いついてくるあたり、ちゃんと千夏の話には耳を傾けていたようだ。千夏はデスクに身を乗り出すと、はす向かいの席に座る晴高に食い気味に尋ねる。
「やっぱり、珍しい現象なんですね」
「……そうだな。身内に坊さんや、霊能力あるやつは多いけど。そんな話聞いたことがない」
「俺も、初めてだったよ。いままでも他の霊に触ったことはあったけど、あんな風になったことなんてなかった。でも、千夏が俺の手に触れようとした途端、起きながら夢をみているみたいに別の映像が見えたんだ。がーって頭の中に映像の激流が流れ込んできた感じだった」
そう語る元気は、のんきに湯飲みから熱いお茶をすすっている。ちなみに、そのお茶を淹れたのは千夏だ。自分のものを淹れてくるついでに淹れてきた。晴高にもいるかどうか聞いてみたが、「いらない」とすげなく断られてしまった。
「あのとき見えたものが本当に幸子さんの記憶なのかどうか、確証はないんですけど。とりあえず、いろいろ調べてみたいことがあるので、幸子さんの相続財産管理人の弁護士と面会してもいいですか?」
「ああ、それは構わんが。ソレも連れていくのか?」
晴高は彼の前の席で、のんきにお茶を飲んでいる元気を目で示した。ソレとはつまり、元気のことだ。
「それは彼の好きにすればいいかなと思ってますが、また霊の出る現場に行くときはぜひ連れていきたいな、なんて思ってはいます……」
そう晴高の様子をうかがいながら躊躇いがちに言う千夏に、はぁと彼は露骨に大きくため息をついた。
「もう一回、忠告しとくけど。霊障とか何かよからぬことがあれば、すぐにそいつから離れろ。直ちに除霊するから」
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それに構わず晴高は話を続ける。
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「……!!!!」
たしかにそうだ。千夏の目には元気のことははっきり見えているけれど、他の大部分の人には彼の姿は見えない。その人たちからすると、千夏が一人で虚空に向かって会話をしているように見えることだろう。それはまずい。明らかにまずい。
「……気をつけます」
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「これからは、人前で話しかけてこないでよね」
「それ、お互いさまだから」
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「だから、ソレをやめろっていってんだろ」
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