7 / 35
転生
しおりを挟む
案内の男は、少し足を引きずっている。
さっき襲われた時、僕が脚を打ち据えたからだ。
こうしておかないと、駆け出された時に追い付けない。四人の男のうち、
彼を案内に選んだのはそういう理由からだ。
新人類としてネアンデルタール人を「山の猿」と見下している彼らは、
僕のことを不可思議な存在に見ているに違いない。
だからといって、
二万年後の子孫が目の前にいるんだと。
こう説明しても、
新人類である彼らには
とうてい理解できないだろう。
僕がこんな時代に
ネアンデルタール人が滅ぶ前、
新人類が生まれてきたこんな時代に、
転生してきたのは
悲劇でも
喜劇でも
アクシデントでも
悪ふざけでも
気まぐれでもなんでもない。
本気だった。
事情を知るものからすれば、
たかが卒業論文のために…
と散々に言われたが、
この学問で生きていくと決めた以上は、
やるなら徹底的にだ。
転生機
こう書くと
輪転機くらいの大きさをイメージされてしまうが
実際は、とんでもない大きさ。
実用段階まであと少し。
と言われ続けて10年以上。
非公式な人体実験で
何人かの精神破綻者が生まれているとか
帰ってこれなくなった者もいるとか
とにかく成功例が少なく
危険極まりないものと言われている。
高校時代の親友の叔父が
転生機の開発者の一人で
そのつてで
実際の状況を詳しく聞くことができた。
転生先から戻ってこれた者が半分。
うち半分は精神に異常をきたし、入院中。
残り半分は日常生活に戻っている。
親友の叔父もその一人だ。
戻ってこない者が半分。
意識を失った、元の体はまだ、
研究所の中に隠すように保管されている。
それを思うとリスクが高い。
高すぎる。
もちろん、普段の学術研究でも
ネアンデルタール人の生活を
想像し得るところまでは来ている。
大学では考古学を専攻し、
太古を学ぶという僕の夢は
叶ったかに思えた。
でも、実際はわからないことが多すぎて
わずかな事実を元にして
派閥がそれぞれの推論を闘わせ、
お互いの足を引っ張り、
重箱の隅をつつきあい、
それが考古学と言われて、
私の夢は何一つ前に進まなかった。
夢を進めるには
実際に見てくるしかない。
人体実験は
むろん公式には認められていない。
それでも、
非公式でも転生研究を進めたい人びとと、
僕の思惑が一致した。
こうして僕はここにいる。
(本当は彼らの側に行くつもりだったんだけどな。)
ネアンデルタール人と同時期に存在した新人類として転生したつもりだった。
それが、なぜか僕がネアンデルタール人に。
転生実験を行う際、
僕は研究室から無断で持ち出した、
二万年前の人骨を握りしめていた。
転生するには「きっかけが必要だ。」と言われていたからだ。
そのきっかけとして持ち出した骨
「あれがネアンデルタール人のものだったとは…。」
思わず口に出た言葉を聞き、
同行する平地人の男が不気味そうな顔で振り返った。
僕は独り言をごまかすように
「もうすぐか?」
と尋ねる。
「はい、あと少しで…。」
もうすぐ、新人類の村が見られる。
さっきまで、
彼らと交渉するという重大な任務の責任感に押し潰されそうになっていた僕は、
新しい発見ができるのではという、
学者としての期待に胸を踊らせた。
平野の緑が濃くなり、
大きな木が何本も生えているエリアに入った。
「畑?」
僕は思わずつぶやいた。
明らかに、人の手が入った地形が見える。
「はい、このあたりは育つんです。」
案内の男は、相変わらず怯えた声で答えた。
もう村の一部に入ったと見ていいだろう。
すると、煙が上がるのが遠くに見えてきた。
どんどん近づいて煙のシルエットが大きくなってきた頃、
その煙の下に村があるのが見えてきた。
いよいよだ。
ー続くー
さっき襲われた時、僕が脚を打ち据えたからだ。
こうしておかないと、駆け出された時に追い付けない。四人の男のうち、
彼を案内に選んだのはそういう理由からだ。
新人類としてネアンデルタール人を「山の猿」と見下している彼らは、
僕のことを不可思議な存在に見ているに違いない。
だからといって、
二万年後の子孫が目の前にいるんだと。
こう説明しても、
新人類である彼らには
とうてい理解できないだろう。
僕がこんな時代に
ネアンデルタール人が滅ぶ前、
新人類が生まれてきたこんな時代に、
転生してきたのは
悲劇でも
喜劇でも
アクシデントでも
悪ふざけでも
気まぐれでもなんでもない。
本気だった。
事情を知るものからすれば、
たかが卒業論文のために…
と散々に言われたが、
この学問で生きていくと決めた以上は、
やるなら徹底的にだ。
転生機
こう書くと
輪転機くらいの大きさをイメージされてしまうが
実際は、とんでもない大きさ。
実用段階まであと少し。
と言われ続けて10年以上。
非公式な人体実験で
何人かの精神破綻者が生まれているとか
帰ってこれなくなった者もいるとか
とにかく成功例が少なく
危険極まりないものと言われている。
高校時代の親友の叔父が
転生機の開発者の一人で
そのつてで
実際の状況を詳しく聞くことができた。
転生先から戻ってこれた者が半分。
うち半分は精神に異常をきたし、入院中。
残り半分は日常生活に戻っている。
親友の叔父もその一人だ。
戻ってこない者が半分。
意識を失った、元の体はまだ、
研究所の中に隠すように保管されている。
それを思うとリスクが高い。
高すぎる。
もちろん、普段の学術研究でも
ネアンデルタール人の生活を
想像し得るところまでは来ている。
大学では考古学を専攻し、
太古を学ぶという僕の夢は
叶ったかに思えた。
でも、実際はわからないことが多すぎて
わずかな事実を元にして
派閥がそれぞれの推論を闘わせ、
お互いの足を引っ張り、
重箱の隅をつつきあい、
それが考古学と言われて、
私の夢は何一つ前に進まなかった。
夢を進めるには
実際に見てくるしかない。
人体実験は
むろん公式には認められていない。
それでも、
非公式でも転生研究を進めたい人びとと、
僕の思惑が一致した。
こうして僕はここにいる。
(本当は彼らの側に行くつもりだったんだけどな。)
ネアンデルタール人と同時期に存在した新人類として転生したつもりだった。
それが、なぜか僕がネアンデルタール人に。
転生実験を行う際、
僕は研究室から無断で持ち出した、
二万年前の人骨を握りしめていた。
転生するには「きっかけが必要だ。」と言われていたからだ。
そのきっかけとして持ち出した骨
「あれがネアンデルタール人のものだったとは…。」
思わず口に出た言葉を聞き、
同行する平地人の男が不気味そうな顔で振り返った。
僕は独り言をごまかすように
「もうすぐか?」
と尋ねる。
「はい、あと少しで…。」
もうすぐ、新人類の村が見られる。
さっきまで、
彼らと交渉するという重大な任務の責任感に押し潰されそうになっていた僕は、
新しい発見ができるのではという、
学者としての期待に胸を踊らせた。
平野の緑が濃くなり、
大きな木が何本も生えているエリアに入った。
「畑?」
僕は思わずつぶやいた。
明らかに、人の手が入った地形が見える。
「はい、このあたりは育つんです。」
案内の男は、相変わらず怯えた声で答えた。
もう村の一部に入ったと見ていいだろう。
すると、煙が上がるのが遠くに見えてきた。
どんどん近づいて煙のシルエットが大きくなってきた頃、
その煙の下に村があるのが見えてきた。
いよいよだ。
ー続くー
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる