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散りゆくもの
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魔王城。
呪われた不毛の地の奥にそびえ立つ、禍々しき魔王の居城。
王国の平和を脅かす、魔物たちの拠点。
その最上階に、勇者グレンとクリスティ姫はたどり着いた。
魔王が待ち構える広間へと続く、大きな扉のまえでクリスティが言う。
「兵士たちを外に待機させて、本当によかったの?」
「ああ、彼らには増援を抑えてもらう。それに、ここから先は一騎討ちのほうがやりやすい。魔王とて、四天王を失った今、もはやヤツみずからが戦うほかないのだから」
「わかったわ。……セーブするわよ?」
グレンが決意の表情でうなずくと、クリスティは目を閉じ、指と指とを固く絡ませてセーブを行なった。
これが、決戦前の最後のセーブとなるだろう。
ふたりは、ここにたどり着くまでにも、何度も何度もイキ戻りに救われてきた。
わかっていた火薬の罠は回避できても、そのような手段をとるほどなり振り構わぬ攻勢に出ている魔王軍に対し、彼ら人間の身体はあまりに脆かった。
燃やされ、燻され、埋められ、流され……。
そのたびにクリスティはイキ戻っていた。
ときに彼の協力を得て。
ときに意識のない彼の身体を使い。
そしてときには、記憶の中の彼の手を借りて。
そう、クリスティはグレンの愛情を受けた結果、以前よりずっと、イキやすい身体になっていた。
彼の愛を思い出せば、もはや自分の指を使ってでも、果てることができる。
愛による行為というものを本当に理解した彼女は、イキ戻りを制御することに成功したのだ。
一方、グレンのほうからはイキ戻りの発動は認識できない。
彼からすれば、ふたりでセーブを繰り返しているだけだ。
だが、クリスティの様子から、その発動回数の壮絶さは彼にも伝わっていた。
目が潤み、唇は朱に染まり、頬の上気はもはや治まることがない。
クリスティは全身でグレンを求めるようになっていた。
「クリスティ。ここで、待てるか?」
勇者が心配そうに言う。
さすがにここから先、魔王との直接対決の場に彼女を連れて行くのは危険すぎる。
扉のまえで待機するよう、話はつけてあった。
「ええ、大丈夫。いつでも戻れるよう、スタンバイしておくから」
「入念に準備しすぎて勝手に発動しないよう頼む」
「ふふ、待たせすぎるとわからないわよ」
そう笑うクリスティの顔を愛おしそうに眺めながら、勇者は扉の中へと消えていった。
***
ほんの数分後ーー
クリスティにとっては無限にも思える数分だったが、扉は再び開かれた。
暗闇から、グレンの顔がうっすらと見える。
「グレン! 早かったわね!」
喜びに飛び上がらんばかりのクリスティが駆け寄ろうとすると、
ごろん。
グレンが、床に落ちた。
「え……?」
固まるクリスティのまえに、暗闇から巨大な存在が現れる。
「弱すぎたな、勇者グレン。いや、あえて言うなら、まじめすぎたのだ。一騎討ちのまえに名乗りを上げるなど、戦場では無意味で無価値。そのようなつまらぬことをしているから、不意をつかれ、そんな哀れな姿となってしまうのだ」
床を転がるのは、勇者グレンの生首だった。
クリスティのほうを向いているが、その目に光はまったくない。
巨大な魔王は、笑いながら、グレンの頭を踏みつぶした。
肉片が飛び散り、クリスティにぶつかる。
「ひっ……」
彼女の血の気は完全に引いていた。
顔も、バトルドレスから見える華奢な肩も、すべてロウのように真っ白だった。
(あ……イカなきゃ……。イキ戻り……しなきゃ……)
全身から力という力が抜けている。
歯の根も合わない。
手も足も、ガタガタブルブルと勝手に動いている。
スタンバイしていたはずのイキ戻りは、とても発動することができなかった。
呪われた不毛の地の奥にそびえ立つ、禍々しき魔王の居城。
王国の平和を脅かす、魔物たちの拠点。
その最上階に、勇者グレンとクリスティ姫はたどり着いた。
魔王が待ち構える広間へと続く、大きな扉のまえでクリスティが言う。
「兵士たちを外に待機させて、本当によかったの?」
「ああ、彼らには増援を抑えてもらう。それに、ここから先は一騎討ちのほうがやりやすい。魔王とて、四天王を失った今、もはやヤツみずからが戦うほかないのだから」
「わかったわ。……セーブするわよ?」
グレンが決意の表情でうなずくと、クリスティは目を閉じ、指と指とを固く絡ませてセーブを行なった。
これが、決戦前の最後のセーブとなるだろう。
ふたりは、ここにたどり着くまでにも、何度も何度もイキ戻りに救われてきた。
わかっていた火薬の罠は回避できても、そのような手段をとるほどなり振り構わぬ攻勢に出ている魔王軍に対し、彼ら人間の身体はあまりに脆かった。
燃やされ、燻され、埋められ、流され……。
そのたびにクリスティはイキ戻っていた。
ときに彼の協力を得て。
ときに意識のない彼の身体を使い。
そしてときには、記憶の中の彼の手を借りて。
そう、クリスティはグレンの愛情を受けた結果、以前よりずっと、イキやすい身体になっていた。
彼の愛を思い出せば、もはや自分の指を使ってでも、果てることができる。
愛による行為というものを本当に理解した彼女は、イキ戻りを制御することに成功したのだ。
一方、グレンのほうからはイキ戻りの発動は認識できない。
彼からすれば、ふたりでセーブを繰り返しているだけだ。
だが、クリスティの様子から、その発動回数の壮絶さは彼にも伝わっていた。
目が潤み、唇は朱に染まり、頬の上気はもはや治まることがない。
クリスティは全身でグレンを求めるようになっていた。
「クリスティ。ここで、待てるか?」
勇者が心配そうに言う。
さすがにここから先、魔王との直接対決の場に彼女を連れて行くのは危険すぎる。
扉のまえで待機するよう、話はつけてあった。
「ええ、大丈夫。いつでも戻れるよう、スタンバイしておくから」
「入念に準備しすぎて勝手に発動しないよう頼む」
「ふふ、待たせすぎるとわからないわよ」
そう笑うクリスティの顔を愛おしそうに眺めながら、勇者は扉の中へと消えていった。
***
ほんの数分後ーー
クリスティにとっては無限にも思える数分だったが、扉は再び開かれた。
暗闇から、グレンの顔がうっすらと見える。
「グレン! 早かったわね!」
喜びに飛び上がらんばかりのクリスティが駆け寄ろうとすると、
ごろん。
グレンが、床に落ちた。
「え……?」
固まるクリスティのまえに、暗闇から巨大な存在が現れる。
「弱すぎたな、勇者グレン。いや、あえて言うなら、まじめすぎたのだ。一騎討ちのまえに名乗りを上げるなど、戦場では無意味で無価値。そのようなつまらぬことをしているから、不意をつかれ、そんな哀れな姿となってしまうのだ」
床を転がるのは、勇者グレンの生首だった。
クリスティのほうを向いているが、その目に光はまったくない。
巨大な魔王は、笑いながら、グレンの頭を踏みつぶした。
肉片が飛び散り、クリスティにぶつかる。
「ひっ……」
彼女の血の気は完全に引いていた。
顔も、バトルドレスから見える華奢な肩も、すべてロウのように真っ白だった。
(あ……イカなきゃ……。イキ戻り……しなきゃ……)
全身から力という力が抜けている。
歯の根も合わない。
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スタンバイしていたはずのイキ戻りは、とても発動することができなかった。
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