13 / 53
13 髪を切ることにした
しおりを挟む
「少々長くなってしまいましたね。今日はここまでに致しましょう」
ランドルはそう言って本をぱたんと閉じた。時間を見れば既に昼を過ぎていた。双子は慌てて食事の用意をすると言い、部屋を出て行ってしまった。昼食はこのままこの部屋で取るそうだ。
「ランドル、ありがとう。神子が一体何なのか、ちゃんと知ることが出来た」
「いえいえ。本来なら召喚された時に聞かされることなのですがね。ヒカル様こそかなり集中されていらっしゃったのでお疲れではありませんか?」
そう言われればかなり疲労感を感じる。まだ本調子じゃないからだろうか。元から引き籠りだったからな。体力もあまりないし、ちょっと色々と考えないといけないかもしれない。
双子が戻り食事の用意をしていく。が、どうやら俺1人分だけのようだ。確認すればそうだと言う。
俺は今まで火傷の跡があったから1人でいることを選んだ。家族とすら会わないようにしていたけど、ここに来てからの皆の様子と今日のランドルの話を聞いて、1人で食事をすることが寂しいと思ってしまった。
それで皆に一緒に食事を取りたいと言ったところ、はっきりと全力で断られてしまった。正直断られると思っていなかったから何気にショックだった。
「ヒカル様勘違いしないで! 僕達は使用人で、神子様はこの世界で最も尊い人なんだ。そんな人と一緒に食事をするなんて許されないんだよ」
「ヒカル様のそのお気持ちはとても嬉しいのですが、立場を考えるとどうしても……」
双子の言葉にランドルも頷く。皆が言ってることは理解した。でも理解することと納得することは別だ。
俺は元々一般庶民の家で育っているしこうやってかしこまられたり世話をされることに慣れていない。皆の事を考えれば1人で食事する方が良いんだと思う。
だけど俺はそれが物凄く寂しいと思ってしまった。
「でも俺は皆と一緒に食事がしたい。もちろん食堂でブレアナさんオースティンさんと一緒の時は別でもいい。だけどこの部屋で食事をする時くらいは一緒に食べたいんだ。もしそれで何かを言われても俺に命令されたってことにしてよ。俺は最も尊い人なんでしょ? じゃあ俺にそうしてって言われて断れなかったって言っても誰も怒れないよね? だから俺と一緒に食事することが嫌じゃないのなら一緒がいい」
立場上同席出来ないと言うのであれば、断れなかった状況にしてしまえばいいのだ。なんてったって俺はこの世界で最も尊い人で、この国の王族よりも立場は上だって言ってたし。そんな人から命令されたら断れないはずだ。
自分でも強引だなとは思うけど、どうしても1人は嫌だと思ったからごり押しさせてもらう。
元々こんな事言えなかったんだけど、ここにきて皆と関わったことで俺も変わったんだと思う。この人たちなら大丈夫だって思えたから。
「……ヒカル様にそう言われたら断れないよね?」
「……そうですね。ヒカル様たっての希望ですし?」
「……神子様が希望されたことを叶えるのも俺達の仕事ですし?」
3人がそれぞれ顔を見合わせながら一つ一つ確認を取っている。
そうそう。仕方ない状況だしね。納得して欲しい。
「良かった。誰かと食事するってここ数年なかったんだ。だから誰かと一緒に食べれるって嬉しい」
こんな風に思えたのも皆のお陰だ。1人で過ごすことは苦ではなかったけど、寂しくないかと言われたら……。
でも火傷の跡があったから人の目が怖くて避けていた。でも皆はそうじゃない。なら一緒にいたいと思うのも普通だよな。
「ヒカル様っ……僕皆の分準備してくるね! ちょっとだけ待ってて!」
「あ、ローリー! 私も手伝います!」
双子は駆け足で部屋を飛び出して行った。残された俺とランドルさんは顔を見合わせて「はは」っと笑ってしまった。こうやって笑うのも随分と久しぶりだ。本当にここは居心地がいい。こんな風に過ごせることに感謝しないとな。
それからしばらくして双子も戻り、4人で昼食を取ることになった。こうやって誰かと会話しながらの食事は、不思議ともっと美味しく感じるし凄く楽しい。
双子もランドルも「神子様と一緒に食事が出来るなんて、皆に自慢しないと!」なんて言ってくれた。
楽しい食事が終わってから、俺は髪を切ることに決めた。
ここにいるなら俺を蔑んだり化け物だなんて言われることはない。それに俺を理不尽に扱った人たちに気を遣う必要もない。ここに来てたったの2日間で俺は随分と前向きになれた。
もし俺が何かを言われても俺の事を大切にしてくれる人たちがいる。それが分かったからもう怖くない。だから髪で隠さなくても大丈夫。
でも一応公爵家とは関係のない人と会わなきゃいけなくなったら、初対面だとびっくりさせてしまうだろうし仮面か何かで顔を隠そう。そう言ったらランドルは「会いたくなければ会わなきゃいいんです」と。それもそうだと皆で笑った。
レイフがゆっくりと俺の髪を切っていく。俺の髪は肩を越す長さになっていた。それをバッサリと切り落とす。でもローリーみたいな短さになるかと思いきや、ショートボブくらいの長さが残された。
「ヒカル様は可愛らしいお顔立ちですしね。ローリーみたいに短くするより、こちらの方がお似合いです」
「うん、いいですね。似合っていますよヒカル様」
ローリーにもランドルにも好評のようで良かった。首筋がすーすーして落ち着かないけど、なんだか新しい自分になったような気持ちになる。
この世界で神子としての力を使いたいとは思えないけど、ここの皆の為には使いたいと思う。だから早く神子の力を使えるようになろう。
ここの人達が俺の事を大切にしてくれるように、俺もここの人達が大切だから。
ランドルはそう言って本をぱたんと閉じた。時間を見れば既に昼を過ぎていた。双子は慌てて食事の用意をすると言い、部屋を出て行ってしまった。昼食はこのままこの部屋で取るそうだ。
「ランドル、ありがとう。神子が一体何なのか、ちゃんと知ることが出来た」
「いえいえ。本来なら召喚された時に聞かされることなのですがね。ヒカル様こそかなり集中されていらっしゃったのでお疲れではありませんか?」
そう言われればかなり疲労感を感じる。まだ本調子じゃないからだろうか。元から引き籠りだったからな。体力もあまりないし、ちょっと色々と考えないといけないかもしれない。
双子が戻り食事の用意をしていく。が、どうやら俺1人分だけのようだ。確認すればそうだと言う。
俺は今まで火傷の跡があったから1人でいることを選んだ。家族とすら会わないようにしていたけど、ここに来てからの皆の様子と今日のランドルの話を聞いて、1人で食事をすることが寂しいと思ってしまった。
それで皆に一緒に食事を取りたいと言ったところ、はっきりと全力で断られてしまった。正直断られると思っていなかったから何気にショックだった。
「ヒカル様勘違いしないで! 僕達は使用人で、神子様はこの世界で最も尊い人なんだ。そんな人と一緒に食事をするなんて許されないんだよ」
「ヒカル様のそのお気持ちはとても嬉しいのですが、立場を考えるとどうしても……」
双子の言葉にランドルも頷く。皆が言ってることは理解した。でも理解することと納得することは別だ。
俺は元々一般庶民の家で育っているしこうやってかしこまられたり世話をされることに慣れていない。皆の事を考えれば1人で食事する方が良いんだと思う。
だけど俺はそれが物凄く寂しいと思ってしまった。
「でも俺は皆と一緒に食事がしたい。もちろん食堂でブレアナさんオースティンさんと一緒の時は別でもいい。だけどこの部屋で食事をする時くらいは一緒に食べたいんだ。もしそれで何かを言われても俺に命令されたってことにしてよ。俺は最も尊い人なんでしょ? じゃあ俺にそうしてって言われて断れなかったって言っても誰も怒れないよね? だから俺と一緒に食事することが嫌じゃないのなら一緒がいい」
立場上同席出来ないと言うのであれば、断れなかった状況にしてしまえばいいのだ。なんてったって俺はこの世界で最も尊い人で、この国の王族よりも立場は上だって言ってたし。そんな人から命令されたら断れないはずだ。
自分でも強引だなとは思うけど、どうしても1人は嫌だと思ったからごり押しさせてもらう。
元々こんな事言えなかったんだけど、ここにきて皆と関わったことで俺も変わったんだと思う。この人たちなら大丈夫だって思えたから。
「……ヒカル様にそう言われたら断れないよね?」
「……そうですね。ヒカル様たっての希望ですし?」
「……神子様が希望されたことを叶えるのも俺達の仕事ですし?」
3人がそれぞれ顔を見合わせながら一つ一つ確認を取っている。
そうそう。仕方ない状況だしね。納得して欲しい。
「良かった。誰かと食事するってここ数年なかったんだ。だから誰かと一緒に食べれるって嬉しい」
こんな風に思えたのも皆のお陰だ。1人で過ごすことは苦ではなかったけど、寂しくないかと言われたら……。
でも火傷の跡があったから人の目が怖くて避けていた。でも皆はそうじゃない。なら一緒にいたいと思うのも普通だよな。
「ヒカル様っ……僕皆の分準備してくるね! ちょっとだけ待ってて!」
「あ、ローリー! 私も手伝います!」
双子は駆け足で部屋を飛び出して行った。残された俺とランドルさんは顔を見合わせて「はは」っと笑ってしまった。こうやって笑うのも随分と久しぶりだ。本当にここは居心地がいい。こんな風に過ごせることに感謝しないとな。
それからしばらくして双子も戻り、4人で昼食を取ることになった。こうやって誰かと会話しながらの食事は、不思議ともっと美味しく感じるし凄く楽しい。
双子もランドルも「神子様と一緒に食事が出来るなんて、皆に自慢しないと!」なんて言ってくれた。
楽しい食事が終わってから、俺は髪を切ることに決めた。
ここにいるなら俺を蔑んだり化け物だなんて言われることはない。それに俺を理不尽に扱った人たちに気を遣う必要もない。ここに来てたったの2日間で俺は随分と前向きになれた。
もし俺が何かを言われても俺の事を大切にしてくれる人たちがいる。それが分かったからもう怖くない。だから髪で隠さなくても大丈夫。
でも一応公爵家とは関係のない人と会わなきゃいけなくなったら、初対面だとびっくりさせてしまうだろうし仮面か何かで顔を隠そう。そう言ったらランドルは「会いたくなければ会わなきゃいいんです」と。それもそうだと皆で笑った。
レイフがゆっくりと俺の髪を切っていく。俺の髪は肩を越す長さになっていた。それをバッサリと切り落とす。でもローリーみたいな短さになるかと思いきや、ショートボブくらいの長さが残された。
「ヒカル様は可愛らしいお顔立ちですしね。ローリーみたいに短くするより、こちらの方がお似合いです」
「うん、いいですね。似合っていますよヒカル様」
ローリーにもランドルにも好評のようで良かった。首筋がすーすーして落ち着かないけど、なんだか新しい自分になったような気持ちになる。
この世界で神子としての力を使いたいとは思えないけど、ここの皆の為には使いたいと思う。だから早く神子の力を使えるようになろう。
ここの人達が俺の事を大切にしてくれるように、俺もここの人達が大切だから。
149
あなたにおすすめの小説
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~
トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。
突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。
有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。
約束の10年後。
俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。
どこからでもかかってこいや!
と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。
そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変?
急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。
慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし!
このまま、俺は、絆されてしまうのか!?
カイタ、エブリスタにも掲載しています。
運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
本当に悪役なんですか?
メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。
状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて…
ムーンライトノベルズ にも掲載中です。
植物チートを持つ俺は王子に捨てられたけど、実は食いしん坊な氷の公爵様に拾われ、胃袋を掴んでとことん溺愛されています
水凪しおん
BL
日本の社畜だった俺、ミナトは過労死した末に異世界の貧乏男爵家の三男に転生した。しかも、なぜか傲慢な第二王子エリアスの婚約者にされてしまう。
「地味で男のくせに可愛らしいだけの役立たず」
王子からそう蔑まれ、冷遇される日々にうんざりした俺は、前世の知識とチート能力【植物育成】を使い、実家の領地を豊かにすることだけを生きがいにしていた。
そんなある日、王宮の夜会で王子から公衆の面前で婚約破棄を叩きつけられる。
絶望する俺の前に現れたのは、この国で最も恐れられる『氷の公爵』アレクシス・フォン・ヴァインベルク。
「王子がご不要というのなら、その方を私が貰い受けよう」
冷たく、しかし力強い声。気づけば俺は、彼の腕の中にいた。
連れてこられた公爵邸での生活は、噂とは大違いの甘すぎる日々の始まりだった。
俺の作る料理を「世界一美味い」と幸せそうに食べ、俺の能力を「素晴らしい」と褒めてくれ、「可愛い、愛らしい」と頭を撫でてくれる公爵様。
彼の不器用だけど真っ直ぐな愛情に、俺の心は次第に絆されていく。
これは、婚約破棄から始まった、不遇な俺が世界一の幸せを手に入れるまでの物語。
【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】
ゆらり
BL
帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。
着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。
凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。
撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。
帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。
独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。
甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。
※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。
★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる