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しおりを挟む2つの力がぶつかり合う。物凄い音と衝撃だ。
痛い…体が痛い…。あいつに刺された傷と骨折はそのままなのに、こんなに力を放出してるから体がギシギシいってる。
でも俺は絶対負けない。サナトスを、俺が大好きなサナトスを殺そうとする奴なんかに絶対負けない。
「消えろ!!邪神っ!!」
最後の力を振り絞って更に力の出力を上げた。
聖属性の光が邪神の力を飲み込んで、そのまま邪神をも飲み込んだ。
物凄い衝撃の後はしーん…と静かな静寂に包まれる。邪神がいた場所は小さな光が一つ、漂っていた。
『ありがとう、私の愛し子よ。この子は私が連れて行きましょう。本当にありがとう。そしてごめんなさい。』
そしてその小さな光はひゅっと上へ伸び上がり、そして消えた。
それを見届けた俺は、体に力が入らずそのまま後ろへ倒れ込んだ。
「タケル!!」
そこへ、ラウムさんに担がれながらサナトスが駆け寄る。
「なんという無茶を…っ!」
「へへっ…。俺、勝っちゃった…。愛の…力かな…なんちゃって…。」
そんな冗談を言ってもサナトスの顔に笑顔がない。物凄く辛そうな顔で、泣きそうな顔で俺に覆いかぶさる。
「タケル…っ。すまない…。我のせいで…我が守れなくて…。そなたを、抱き締めたいのに…腕が足りぬ…。」
俺が代わりに抱き締めたいのに、体が動かせない。
「ごめん…サナトス……すげぇ…眠い……。」
サナトスの暖かさを感じながら俺は意識を手放した。
「ん……。」
ふ、と目を開けると明るい部屋の中。どこかわからなくて隣を見れば、サナトスが眠っていた。
「サナ、トス…。」
声を出そうとしても、喉がカラカラで上手く声が出せない。体を動かそうとしても、もぞもぞするだけで上手くいかない。
でもそんな僅かな音でもサナトスは気づいてくれた。
「…!タケルっ!気がついたのか!」
「…サナトス…み、ず…。」
ゆっくり抱き起こされて、水を飲ませてくれる。あれ?サナトスの体、元に戻ってる??
「…サナトス、体が…。」
「言ったであろう?核が無事なら問題ないと。…流石に我も、元に戻るのに3日かかったがな。」
3日…。え?じゃあ俺は?何日寝てた!?
「タケルは5日間だ。…よく起きてくれた。」
そう言って俺を抱きしめた。俺も抱き締め返したいのに、腕が上がらない。
「サナトス…俺も抱き締めたいのに、力が入らない…。ごめん…。」
「良い。その分、我が抱きしめよう。……無事で良かった。本当に。」
「サナ、トスぅ…ううう…。」
サナトスが無事なことに、俺も生きてることに安堵して、サナトスの胸でわんわん泣いた。そんな俺の頭を優しく撫でてくれて、俺はもっと泣いてしまった。
「…ぐす…ごめん、サナトス…。」
「良い。気にするでない。」
「…サナトス、俺ね。サナトスの事が好きなんだ。少し前から自覚はあったんだけど、なんか恥ずかしくて言えなくて…。ディケーに連れ去られた時、もう会えないかもって思ったら、もっと早くに言えば良かったって後悔した。……結婚の話、受けてもいい?」
「タケルっ!!もちろんだ!!ああ、何という、何という暁光!!」
テンションマックスのサナトスは、俺をそのまま押し倒してキスをしてきた。
「ん…んふ…んー…ちゅ…。」
「タケル、タケル!我は感動している!くんかくんか、すーはーすーはー!…んんん!やはりタケルの匂いも味も格別だ!くんかくんか…。」
「ちょちょっ!待って待って!サナトスストップ!!俺、病み上がりだから勘弁して!!」
「はっ!そうであった!すまぬ、タケル!我は何という事を…。」
「…ぷっ。…あははははは!サナトス…っ、相変わらずで…あはははは!」
「……そんなに笑うでないわ。…ふふ、でもまぁ、こういうのも悪くない。」
そしてそのまま、また優しいキスをしてくれた。
あれからまた少し眠って体を休めて、俺が気絶した後のことを聞いた。
ラウムさんが俺とサナトスを抱えて、エマシュタル国へと戻った。
ボロボロだった俺に、この国の聖魔法使いの人が集まって治癒魔法をありったけかけてくれたおかげで、俺は一命を取り留めた。本当はこの国に戻る前に死んでいてもおかしくなかったらしいんだけど、創造神様の加護のお陰で助かったらしい。
そして俺の魔力回路はボロボロに。創造神様の力を借りて人の身では大きすぎる力を使ったためだ。元に戻るには3ヶ月はかかるだろうと言われた。当然治るまで魔法は使えない。
こっちの人に協力してもらって、向こうへ帰ることはできるけど、そうすると俺の魔力回路は治らなくなるから治るまではここにいる事になった。
あっちの世界にいる家族に心配をかけるなぁ、と思ったら既にサナトスが向こうへ手紙を飛ばしてくれていた。とりあえずは、家族のことは大丈夫だろう。
さすがに3ヶ月も時間が経つと、こっちへ来たときの時間には戻せないらしくて、それも上手くなんとかしてほしいと伝えてあるそう。
さすがは魔王様。仕事が早くてできる男!
俺の体が動けるようになるまで2週間かかった。それまではずっと寝たきり生活。
怪我は治癒魔法で治っても、体を酷使しすぎたためにすぐ元通りとはならなかった。
そんな俺をお世話しようと、この王宮にいるすごい人達が張り切っていたそうなんだけど、それを全て一蹴しサナトスが1人でやってくれた。他の人に触れられるのが許せないとか言って。
それを聞いてきゅんとしたのは内緒。
体が動かせるようになっても、寝たきりのおかげで筋力も体力もガタ落ち。リハビリ生活の始まりだ。
最初は本当にただ歩くだけでも、すぐ疲れてしまって大変だった。
そんな時もサナトスは俺に合わせて歩いたり休憩したり、一時も離れようとはしなかった。俺も嬉しくて手を繋いで歩いたりしてると、王宮の人たちに微笑ましい目で見られるからすごく照れる。
番部屋から王宮の庭園までは結構距離があるんだけど、最初はそこへ辿り着いても帰る体力がなかった。俺が休憩できるように庭園には、俺用のテーブルや椅子がセットされ毎日そこでお茶を飲むのが習慣となった。
いつもはサナトスと2人なんだけど、たまにラウムさんが参加したり、王様や王妃様、ラルフィーやあんまり会ってない第2王子や王女様ともお茶会をした。
ラルフィーは俺と同じ18歳だった。それでなんか一気に親近感湧いて、すごく仲良くなった。サナトスはそれで嫉妬してたけど。ごめんね、ってキスをしたら機嫌が直った。ちょろい。
第2王子様は11歳。セシル君。ラルフィーのちっちゃい版って感じでめっちゃ可愛い。
王女様は8歳でジェシカちゃん。将来超絶美人になりそうなめっちゃ可愛い女の子だった。
…ほんとこの世界って美形しかいないのかよ。その顔面偏差値、俺にも少し分けてほしい。
そんな感じで俺はリハビリも楽しく、サナトスと一緒に頑張った。
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