【完結】恋人ごっこから始まる俺たちの話

華抹茶

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 王都から村までは馬車を使って5時間ほど。運よく村方面に行く乗合馬車が出発前で、滑り込みで乗り込んだ。
 そして他の町を経由して、馬車を乗り換え生まれ育った村へと到着する。

 馬車を降りるなり、俺は焦る気持ちが抑えられなくて猛ダッシュで家まで走っていった。こんなに全力で走るなんていつぶりだろうか。途中こけそうになりながらも、懐かしい家が見えてくるとまだ速く走れるのかと自分でも驚くほど加速した。家に着くと焦れる気持ちが抑えられず玄関の扉を激しく叩く。

「母さん! ローディー! 俺だ! アルテだよ!」

 じっとしていられなくてドンドン! と何度も扉を激しく叩いた。

 母さんはどうなった!? お願いだ! 早く開けてくれ!

 俺の気持ちが通じたのか、家の中からバタバタと足音が響く。妹のローディーだろうか。
 そしてガチャッと鍵が開き、扉が開いた。

「あらアルテじゃない。慌ててどうしたの? っていうか帰ってくるなら帰って来るで、先に手紙を寄こしなさい。びっくりしたでしょうが」

 そこには顔色もめちゃくちゃいい、元気いっぱいの母さんが立っていた。

「こんなに強く扉叩いて大声で叫んで、ご近所さんに迷惑でしょう? 本当にあわてんぼうなのは変わらないのね」

「え……あれ? 母さん、倒れたんじゃないの?」

「え? 倒れてなんかないわよ? この通り元気いっぱいよ?」

「は?」

「え?」

「やーっと帰って来た! もうおにぃってば一度も帰って来てないんだもん!」

 母さんの後ろにぷりぷりと頬を膨らませてお冠の妹が立っていた。

 「とりあえず入んなさい」と促されて久々の家に入る。俺は訳がわからなくて未だに呆然としたままだ。
 懐かしい家。俺が村を出た時のまま。少し物が増えたかな、という程度。キッチン横に置かれたテーブルにお茶が置かれた。

「ほら。のど渇いたでしょ?」

 ああ、いつもの母さんだ。何があったのかわからないけど、今の姿は元気そうでとにかくほっとした。

「で、一体どうしたの? 何の連絡もなく帰ってくるなんて」

「…赤封筒で母さんが倒れたっていう手紙が届いたんだ。それで慌てて帰って来たんだけど…」

「え? 私、倒れてなんかいないわよ? ここしばらくずっと元気だもの」

「…ローディー?」

 母さんは元気だった。手紙を送ってくるのはいつも妹だ。なら、こいつが嘘を書いた手紙を送ったってことになる。ぎろっと睨みつけると、しゅんと肩を落とし「だって…」とか細く話し出した。

「だってお兄ってば王都に行ってから一回も帰って来てないじゃん。母さんの病気が治りそうだからって、手紙でも帰ってきてって言ってるのに無視するし…。だからこう書いたら帰ってくるって思ってそれで……ごめんなさい」

「全くローディーは相変らずお兄ちゃん大好きなんだから。気持ちはわかるけど、お兄ちゃんも困るからもうこういうことするのはやめなさいね?」

「うん、分かってる…」

「俺、めちゃくちゃ心配したんだからな。もし命に関わる事だったらって思ってすっげー怖かったんだぞ!
 でも、一度も帰ってこなかったのはごめん。寂しい思いさせてごめんな」

「うん…私もごめんなさい」

 もういいよ、って久しぶりのローディーの頭を撫でた。

 とりあえず倒れたっていうのは嘘で、母さんは元気で、もう病気も治りそうってことで、とにかく安心した。

「はぁ…すっげー疲れたし腹減った…。走ったおかげで汗だくだし…」

「ふふ。じゃあアルテの為に久々に腕を振るおうかしらね。先にお風呂入ってらっしゃいな」


 久々の家族団らんの時間を過ごした翌日。俺はエリックに手紙を書くことにした。普通に手紙を出すと3日は掛かってしまうから、赤封筒を使うことにした。赤封筒だと普通の手紙の倍は料金がかかってしまうが、店に迷惑を掛けている以上仕方ない。

 母さんと妹に「せっかく帰って来たんだし」と言われ、一週間村にいることにした。帰ったらまたがむしゃらに働かねば。

 2人にしばらく村にいて欲しいと言われたときは店の事が気がかりではあったけども、トレヴァーさんと顔を合わせたくなかったからほっとしたのも事実だった。俺が会いに行かなくても店に食べに来れば嫌でも顔を合わせてしまう。……もう食べに来ることはないかもしれないけど。

 今、母さんたちと一緒にいられるのは正直心強い。くさくさした気持ちは無くなったから。でも一週間後には店に戻らなきゃいけない。その時は仕方ないけど、今のうちに心に癒しの補充をしておこう。

「お兄! 手紙出し終わったなら、せっかくだから出かけようよ! 母さんと3人で!」

「いいよ。市場で買い物しよっか。ローディーの食べたいもの作ってあげる」

「ほんと!? やった! じゃあねじゃあね。んーとえーと……」

「あはは。市場で買い物しながら考えなよ。時間はあるんだし」

「うん! そうする! ほら母さんも早く早く!」

 もう15歳だっていうのにこんなに子供っぽくて大丈夫なんだろうか。好きな子とかいないのかな。うーん…この調子だといなさそう。

 それから久しぶりに市場で買い物をして家に帰った。食材を買うだけのつもりが、あっちへこっちへ連れまわされて、よっぽど俺が帰って来たことが嬉しかったんだと、それだけ寂しい思いをさせてしまったんだと、ちょっと考えさせられた。

 あと1年くらいはエリックのところで世話になって、その後はもう母さんの病気も治ってるだろうし村へ戻ろうか。そしてまた3人で生活するのもいいかもしれない。

 トレヴァーさんとのことはもうだめかもしれない。きっと、あの女の人と一緒になるのかも。

 それならそれでいいや。その時はちゃんと笑顔で祝福してあげよう。悔しいし悲しいけど、たった1度だけでもトレヴァーさんを抱けていい経験が出来たんだ。うん。それでいい。

 まだ付き合って日が浅くて良かった。もっと長く付き合っていたら、もっと俺は苦しい思いをしていただろう。今ですらこんなに胸が痛いのに。



「アルテ。お茶を淹れたんだけど飲むでしょう? 少し話しましょう」

 夜、お風呂上りに母さんが俺を待っていた。

「王都はどう? 楽しくやれてるのかしら? いつもたくさん仕送りしてくれてありがとう。あなたには苦労ばかり掛けてごめんなさいね」

「何言ってんの。エリックっていうすごくいい奴に出会えたし、王都で楽しくやれてるよ。それに仕送りの事は気にしないで。住み込みで働かせてもらってるし衣食住は困ってないんだ。だから大丈夫だよ」

「そう。よかったわ。だけど、貴方ももういい歳なんだから、そろそろ結婚のことも考えないとね。誰か良い人はいないの?」

「え…と。いない、よ。それどころじゃ、なかったし……。っていうかそれよりも、病気の方はどうなの? もう薬はそろそろ必要なさそうって聞いたけど」

 母さんに良い人はいないのかと聞かれて、ぎくりとした。トレヴァーさんの顔が浮かんだけど、トレヴァーさんとはもう無理だろうからそういう人がいる、とは言えなかった。だから思いっきり話を逸らしたけど母さんにはバレてるだろう。
 だけど俺の気持ちを分かってか、逸らしたことを気にすることもなく病気のことについて話してくれた。

 病気はもうかなり良くなっていて、あと数か月もすれば完治するだろうとのこと。高い薬だったけど、その分かなり効く薬だったようですごく感謝された。

「内臓系の病気だったから、薬がなければ早くに死ぬ運命だったけど、あなたが頑張ってくれたお陰で生きられたわ。その分、ちゃんとアルテにお返ししなきゃね」

「だからいいって。このまま長生きしてくれればそれでいいからさ」

「ありがとうアルテ。優しいあなたには幸せになって欲しいわ」

 うん。とだけ返事をして少し冷めたお茶を口に含んだ。


 母さんごめん。俺、もしかしたら一生独身で終わるかも。でもそれが不幸とは限らないしね。母さんとローディーがいてくれるだけで、十分幸せなんだから。
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