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46.怪しいジョストン家
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「ヴォルテル様っ……いきなり何を言い出すんですか!?」
「ははは、許せ。友人が幸せになったと思うと嬉しくてつい、な」
ヴォルテル様は学生時代からずっとユリウスを気にかけていた。態度は素っ気ないながらもユリウスもヴォルテル様に感謝してるところも多いし、友人として大切に思っているはずだ。
そんな関係だしヴォルテル様がそう思うのはわからないでもない。でも抱き潰されたかどうかの確認まではしなくてもいいと思うんですがね!?
「ユリウスはずっと誰も寄せ付けないようにしていた。でもその頑なだった心を開いたのはハルトのお陰だ。ハルトが聖人だから、というのは関係なく、ユリウスの心を慰めてくれたことに感謝したい」
「そんな大げさなことではないですけど……ヴォルテル様はどうしてユリウスのことをそこまで?」
友人だから、という理由はわからないでもない。でも一国の王子様としてはちょっと肩入れしすぎているというかなんというか。その辺りにちょっと違和感を抱いていた。
「ユリウスと私が似ていると思ったからだろうな」
「似ている……?」
「以前話しただろう? 私は生まれた時から王族で、この世に生を受けた時から重圧と責任が圧し掛かっていたと」
その話は覚えている。ヴォルテル様のその言葉に俺は頷きを返した。
ヴォルテル様は生まれた時から膨大な魔力量を持っていた。そして王太子となるべく様々な教養を詰め込まれ、小さな時はそれが辛くて泣いたこともあるって言っていた。
それほど周りからの期待も大きく、ヴォルテル様ならなんでも出来る。出来て当たり前。そんな風に思われていたそうだ。でもヴォルテル様はその重圧が苦しいと思っていた。魔力量も多くて魔法の才もあって、勉強も出来て人柄もいい。
その期待に応えるために常にそう見えるよう振舞う。ヴォルテル様は一人になる時間なんてほとんどない。常に誰かが側にいる。気を抜くことは出来なかった。笑顔という仮面を付けて苦しい胸の内を隠していた。
そして学園に入りユリウスの存在を知る。貴族の庶子、なんてのは意外とどこでもある話。最初はヴォルテル様も余り気にすることはなかったそうだ。
でもユリウスは王太子である自分にすり寄るどころか、その瞳には何も映さない虚無に見えた。それがヴォルテル様がジョストン家を調べるきっかけとなったそうだ。
ユリウスの境遇は自分と違えど、『自分が望まない重すぎる重圧』をかけられていることは同じで、そしてその立場から逃げられないところも同じ。
そんなところからヴォルテル様はユリウスに自ら話しかけ接点を持とうとする。もちろんその思惑の中には優秀なユリウスを自分の側近にしたいという気持ちが当然あった。でもそれ以上に似た者同士、親しくなりたいという思いの方が強かったそうだ。
王太子である自分が話しかけても興味なさそうに適当にあしらわれる。そんなことをされたのも当然初めてだったヴォルテル様は、そんなユリウスが新鮮で興味深かった。
そんな日々を過ごしていればユリウスも情が湧いたのか、ぶっきらぼうながらもヴォルテル様の相手をするようになった。そうやって少しずつ二人の友人関係が構築されていった。
「今では私を支えてくれる人がたくさんいることもわかっているし、自らの使命から逃げたいなんて思うことはなくなった。だがユリウスはそうじゃない。ますます酷くなるユリウスへの扱いと、それに晒されるユリウス自身の心が壊れないか心配だった」
そして俺が現れた。
ユリウスが初めて俺をヴォルテル様の前に連れて行った時、自ら自分の家にいればいいと提案した。その時にヴォルテル様は、今まで何も興味を持たなかったユリウスが俺に対してはっきりと関心を向けたことに驚いたそうだ。
これはいい傾向かもしれない。そう思って俺をユリウスに預けた。
「あの時の判断は間違っていなかった。ハルトのお陰でユリウスの心は守られた。本当に感謝する」
「……いいえ。俺はただユリウスが居心地のいい場所を作ろうとしただけですよ」
「それがユリウスの一番欲していたものだったんだ。そしてそれを与えてやれたのはハルトだけだ。私にいくら地位と権力があっても、それだけは与えてやれなかったから」
境遇は違えど、似たものを背負っていた二人。だからこそお互いの苦しみも辛さも、そして欲しいものもわかったのかもしれない。
ちょっと恥ずかしいことを言われたものの、ヴォルテル様がユリウスを心配している気持ちは本物だ。だからユリウスが幸せの一歩を踏み出せたことが何より嬉しかったんだろう。
ユリウスには味方がちゃんといる。心から心配してくれる味方が。恋人としてこんなに嬉しいことはない。
「それから一つハルトに注意を促しておこう。ユリウスの実家であるジョストン伯爵家のことだ」
さっきまで優しい微笑みを浮かべていたヴォルテル様は、一転して真剣な表情へと変わった。そしてヴォルテル様がユリウスさんの実家のことを口にしたその瞬間、ロキュスさんは紅茶が入ったポットを倒してしまい、ガチャン! と大きな音が鳴る。
「あっ……! も、申し訳ございませんっ……!」
「ロキュス、怪我はないか?」
「あ、はいっ、大丈夫ですっルーカス様……申し訳ございません。すぐにこちらを取り換えてまいりますっ……!」
ロキュスさんはさっと零した紅茶を拭きあげるなり、ポットを抱えて執務室を出てしまった。火傷をしていなければいいんだけど、あんなに慌てた姿は初めて見るから少しだけ驚いた。皆もロキュスさんの珍しい行動に若干あっけにとられている。
「それで、ジョストン伯爵家がどうしたんですか?」
とりあえず話を戻そうとヴォルテル様に声をかける。すると「ああ、すまない」と一言挟み、ジョストン伯爵家の現状を教えてくれた。
「ここ最近のジョストン家だがどうやら怪しい動きをしているらしいんだ」
ヴォルテル様は、ユリウスの兄二人が騎士団を解雇されてからジョストン家の動向を注視していた。しばらくは大人しくしていたのか目立った動きはなかったそうなのだが、ここ最近ユリウスの兄二人が頻繁に外出しているのを見かけたそうだ。
ただどこヘ行って何をしているのかまではわからないそう。今は変異種のことや瘴気溜まりの件でバタついているし、一貴族の動向を見張るために貴重な人材を割く余裕もない。だが何かを企んでいてもおかしくないとヴォルテル様達は警戒しているんだそうだ。
「あれだけ過去の栄華を取り戻すことに躍起になっていた家だ。ユリウスへの直接の接触か、それとも家にいるハルトを狙うのか。何もしない可能性もあるが、万が一のことがある。ハルトも重々注意してほしい」
「わかりました。俺は外出もユリウスがいなければしませんし、誰かが訪ねて来ることもないので家にいれば大丈夫だと思います」
「ああ。だが警戒だけは怠らないようにしてくれ」
その一言に頷きを返すと、ヴォルテル様も安心したのかまた笑顔を見せてくれた。
「ははは、許せ。友人が幸せになったと思うと嬉しくてつい、な」
ヴォルテル様は学生時代からずっとユリウスを気にかけていた。態度は素っ気ないながらもユリウスもヴォルテル様に感謝してるところも多いし、友人として大切に思っているはずだ。
そんな関係だしヴォルテル様がそう思うのはわからないでもない。でも抱き潰されたかどうかの確認まではしなくてもいいと思うんですがね!?
「ユリウスはずっと誰も寄せ付けないようにしていた。でもその頑なだった心を開いたのはハルトのお陰だ。ハルトが聖人だから、というのは関係なく、ユリウスの心を慰めてくれたことに感謝したい」
「そんな大げさなことではないですけど……ヴォルテル様はどうしてユリウスのことをそこまで?」
友人だから、という理由はわからないでもない。でも一国の王子様としてはちょっと肩入れしすぎているというかなんというか。その辺りにちょっと違和感を抱いていた。
「ユリウスと私が似ていると思ったからだろうな」
「似ている……?」
「以前話しただろう? 私は生まれた時から王族で、この世に生を受けた時から重圧と責任が圧し掛かっていたと」
その話は覚えている。ヴォルテル様のその言葉に俺は頷きを返した。
ヴォルテル様は生まれた時から膨大な魔力量を持っていた。そして王太子となるべく様々な教養を詰め込まれ、小さな時はそれが辛くて泣いたこともあるって言っていた。
それほど周りからの期待も大きく、ヴォルテル様ならなんでも出来る。出来て当たり前。そんな風に思われていたそうだ。でもヴォルテル様はその重圧が苦しいと思っていた。魔力量も多くて魔法の才もあって、勉強も出来て人柄もいい。
その期待に応えるために常にそう見えるよう振舞う。ヴォルテル様は一人になる時間なんてほとんどない。常に誰かが側にいる。気を抜くことは出来なかった。笑顔という仮面を付けて苦しい胸の内を隠していた。
そして学園に入りユリウスの存在を知る。貴族の庶子、なんてのは意外とどこでもある話。最初はヴォルテル様も余り気にすることはなかったそうだ。
でもユリウスは王太子である自分にすり寄るどころか、その瞳には何も映さない虚無に見えた。それがヴォルテル様がジョストン家を調べるきっかけとなったそうだ。
ユリウスの境遇は自分と違えど、『自分が望まない重すぎる重圧』をかけられていることは同じで、そしてその立場から逃げられないところも同じ。
そんなところからヴォルテル様はユリウスに自ら話しかけ接点を持とうとする。もちろんその思惑の中には優秀なユリウスを自分の側近にしたいという気持ちが当然あった。でもそれ以上に似た者同士、親しくなりたいという思いの方が強かったそうだ。
王太子である自分が話しかけても興味なさそうに適当にあしらわれる。そんなことをされたのも当然初めてだったヴォルテル様は、そんなユリウスが新鮮で興味深かった。
そんな日々を過ごしていればユリウスも情が湧いたのか、ぶっきらぼうながらもヴォルテル様の相手をするようになった。そうやって少しずつ二人の友人関係が構築されていった。
「今では私を支えてくれる人がたくさんいることもわかっているし、自らの使命から逃げたいなんて思うことはなくなった。だがユリウスはそうじゃない。ますます酷くなるユリウスへの扱いと、それに晒されるユリウス自身の心が壊れないか心配だった」
そして俺が現れた。
ユリウスが初めて俺をヴォルテル様の前に連れて行った時、自ら自分の家にいればいいと提案した。その時にヴォルテル様は、今まで何も興味を持たなかったユリウスが俺に対してはっきりと関心を向けたことに驚いたそうだ。
これはいい傾向かもしれない。そう思って俺をユリウスに預けた。
「あの時の判断は間違っていなかった。ハルトのお陰でユリウスの心は守られた。本当に感謝する」
「……いいえ。俺はただユリウスが居心地のいい場所を作ろうとしただけですよ」
「それがユリウスの一番欲していたものだったんだ。そしてそれを与えてやれたのはハルトだけだ。私にいくら地位と権力があっても、それだけは与えてやれなかったから」
境遇は違えど、似たものを背負っていた二人。だからこそお互いの苦しみも辛さも、そして欲しいものもわかったのかもしれない。
ちょっと恥ずかしいことを言われたものの、ヴォルテル様がユリウスを心配している気持ちは本物だ。だからユリウスが幸せの一歩を踏み出せたことが何より嬉しかったんだろう。
ユリウスには味方がちゃんといる。心から心配してくれる味方が。恋人としてこんなに嬉しいことはない。
「それから一つハルトに注意を促しておこう。ユリウスの実家であるジョストン伯爵家のことだ」
さっきまで優しい微笑みを浮かべていたヴォルテル様は、一転して真剣な表情へと変わった。そしてヴォルテル様がユリウスさんの実家のことを口にしたその瞬間、ロキュスさんは紅茶が入ったポットを倒してしまい、ガチャン! と大きな音が鳴る。
「あっ……! も、申し訳ございませんっ……!」
「ロキュス、怪我はないか?」
「あ、はいっ、大丈夫ですっルーカス様……申し訳ございません。すぐにこちらを取り換えてまいりますっ……!」
ロキュスさんはさっと零した紅茶を拭きあげるなり、ポットを抱えて執務室を出てしまった。火傷をしていなければいいんだけど、あんなに慌てた姿は初めて見るから少しだけ驚いた。皆もロキュスさんの珍しい行動に若干あっけにとられている。
「それで、ジョストン伯爵家がどうしたんですか?」
とりあえず話を戻そうとヴォルテル様に声をかける。すると「ああ、すまない」と一言挟み、ジョストン伯爵家の現状を教えてくれた。
「ここ最近のジョストン家だがどうやら怪しい動きをしているらしいんだ」
ヴォルテル様は、ユリウスの兄二人が騎士団を解雇されてからジョストン家の動向を注視していた。しばらくは大人しくしていたのか目立った動きはなかったそうなのだが、ここ最近ユリウスの兄二人が頻繁に外出しているのを見かけたそうだ。
ただどこヘ行って何をしているのかまではわからないそう。今は変異種のことや瘴気溜まりの件でバタついているし、一貴族の動向を見張るために貴重な人材を割く余裕もない。だが何かを企んでいてもおかしくないとヴォルテル様達は警戒しているんだそうだ。
「あれだけ過去の栄華を取り戻すことに躍起になっていた家だ。ユリウスへの直接の接触か、それとも家にいるハルトを狙うのか。何もしない可能性もあるが、万が一のことがある。ハルトも重々注意してほしい」
「わかりました。俺は外出もユリウスがいなければしませんし、誰かが訪ねて来ることもないので家にいれば大丈夫だと思います」
「ああ。だが警戒だけは怠らないようにしてくれ」
その一言に頷きを返すと、ヴォルテル様も安心したのかまた笑顔を見せてくれた。
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