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番外編
裏ストーリー③ エレンside
今日はライリー達の屋敷に泊まることになった。屋敷に着くなりそのまま部屋へ籠る。まずは状況の整理だ。
詳しくガンドヴァの事を聞けば、ガンドヴァという国はドゥクサス神を唯一神として他の神を認めていない。そしてその神の子孫が王族だ。ドゥクサス神信仰が強く、半ば洗脳状態。神の子孫である王族の為に仕え命を捧げることを是としている。
そしてヴォルテル君は『神の愛し子』。それを周知出来たらヴォルテル君が王となることに周りの反対は出ないだろう。
ただどうやってそれを周知させるか。そしてどうやってヴォルテル君を即位させるか。
即位させるには生きていてもらわないといけない。じゃあどうやってヴォルテル君の命を救う?
「エレン…食事の用意が出来たようですよ。食堂へ行きましょう」
全面戦争は避けられそうにない。そしてあまり時間も残されていない。ガンドヴァとの戦争になったら間違いなくリッヒハイムが勝つだろう。魔力剣を扱える人も多くなったし、ライリーやアシェル、それにアーネストがいるし。こいつらだけでも大概だからな。
「エレン。…エレン? エーレーンー」
そうなったらガンドヴァはリッヒハイムが治めることになる。だけどそうなればヴォルテル君は死ぬ。死なずに王になってもらわないといけないんだけど…。うーん。リッヒハイムの内情を知ってるわけじゃないからな…。まずヴォルテル君の命を救うためにはリッヒハイムがどうしたいのかを知らないと進めないとな。なら教えてくれるかはわからないけどヴィンセントに聞いて――。
「ちゅっちゅっちゅっ」
「うわぁぁぁ! おい! いきなり何しやがる!」
「ずっと呼びかけてるのに気づかないからですよ」
「あ、ごめん。だからっていきなりちゅーしなくても…しかもここ、ライリー達の家だぞ」
「だからなんです? ライリー達だってわかってますよ。さ、食事です。行きましょう」
呼びかけに気づかなかったのは悪かったけど、不意打ちでちゅーしなくてもいいだろうが! 人ん家の、それもライリーの家で! 見られたらどうするんだよ全く…。というかヴィンセントには何も隠せないんだった…。
それから用意してもらった食事をいただいた。ライリー達は俺達とは違い、王都に屋敷を持っている。というかこの屋敷も俺の父上と母上が結婚祝いで用意したものだけど…。ライリー達はどちらも王宮で務めているから屋敷の管理は大変だろうと、俺の実家から使用人が数人ここへ来ている。今日の食事もその料理長が作ってくれた食事だ。相変らず美味い。
「そうだ、ヴィンセント。後でリッヒハイムとガンドヴァの事について教えて欲しいことがあるんだ。国家機密の内容だろうから食事が終わったら部屋に来てくれるか?」
ここの使用人達も口が堅いことは知ってるけど、国家機密の話をわざわざ聞かせることもない。
「母さん…? 何かしようとしてるの?」
「んー、まあな。だけどそれが出来るか出来ないかは、情報をちゃんと得てからだな。わからないことが多すぎる」
「では、この後にお部屋へ伺いますね」
…ライリーの目が怖いな。ホントにガンドヴァが関わると冷静じゃなくなるんだから。それから食事後、2人は俺達の部屋に来てくれた。
「それで母さんは何を知ろうとしてるの?」
「うん、あのな。リッヒハイムが戦争で勝利した後、ガンドヴァを治めることになると思うけどその時にヴォルテル君が王となるのはダメなのか?」
「ああ、その事ですね」
ヴィンセント曰く、正直リッヒハイムがガンドヴァを治めることは出来れば避けたい。あの土地にそこまでの魅力もなく、民は疲弊し、あの国の特に上流階級の人間をまとめることにかなり骨が折れる。しばらくは赤字続きになるし、人員もかなり投入しなければならない。
だからヴォルテル君が王として即位することになるのは、リッヒハイムとしては問題ないそうだ。それに賠償金も手に入れられるしガンドヴァ相手ならすぐに戦争も終結出来るし軍事費もさほどかからない。
ただ、問題はヴォルテル君が王になった後、また内乱が起こり殺される確率が高い。そうなればまたリッヒハイムに対して戦争を仕掛けたりいざこざを繰り返したりと今までと変わらないことになる可能性が高い。
だからそれを防ぐにはリッヒハイムが治めるしかないのだが、それではただ不良債権を背負い込むのと同義。それで今は中枢でもどうするかで少し揉めているらしい。
「ふ~ん、じゃあヴォルテル君が王様になるのは問題ないのか。なるほどなるほど…」
じゃあ、ガンドヴァの人達にヴォルテル君が王様になることに対して反対出来ないようにしちゃえばいいんだよな。だとするならば…。
『神の愛し子』って使えるんじゃね? 神様の神託を降ろしてもらって、国民にヴォルテル君以外はあり得ませんよってわかってもらえばいいんだよな。
「ライリー、通話の魔道具を借りてもいいか?」
「え? いいけどどこにかけるの?」
「アシェルだよ」
それからアシェルに動画を撮れるカメラを外に投影出来ないかを確認した。すると…
『う~ん…。なるほどね。…アレをこうして、こうすれば………うん。多分大丈夫だと思う。ちょっと実験してみないとわからないけどすぐ出来ると思うよ』
「そうか。そうしたらすぐに取り掛かってもらえるか? 忙しいのはわかってるけど、こっちもあまり時間が残されてないんだ」
『ふふ。大丈夫。任せて』
「ああ。じゃ頼んだぞアシェル」
よし。後は宰相様と面会させてもらおう。ヴィンセントに面会できるようお願いして今日はそのまま寝た。…ライアスに手を出されそうになったが、ライリーの家だからと我慢させた。それに苦労したとだけ言っておく。
そして2日後、かなり早く宰相様と面会することができた。あまり時間を掛けられない状況だから助かる。
「お久しぶりですね、エレン殿。お元気そうで何より」
「宰相様、ご無沙汰しております。お時間を作っていただきありがとうございます」
それからヴォルテル君の事について話をした。ヴォルテル君が神の愛し子であること。それを利用し、国民にヴォルテル君が王様になることを認めさせること。そしてそのためにアシェルの魔道具を使う事。
そしてそれが実現できれば、リッヒハイムが無駄な労力を負わなくてもよくなること。ガンドヴァの事はガンドヴァで管理してもらえばいい。そしてそれがヴォルテル君なら正しい方向で行ってくれる事。
「随分とあの殿下の事を認めているのですね」
「宰相様もお会いしているのでわかっているとは思いますが、あの子は本当に良い子です。ちゃんと王族としての責任感もありますし、何より国民の為に自分の命を差し出すだなんて自ら申し出ることはなかなか出来ることではありません。そんな彼だからこそ、その命を散らせてしまうのはこちらにとっても不利益です。どうか認めていただけないでしょうか」
「…エレン殿はその作戦が上手くいくと、そう思っていらっしゃるのですね? それにしても『神の愛し子」だなんて…」
「詳しいことはお話しできませんが、私自身も彼は神の愛し子だと思っています。そしてガンドヴァはかなり特殊な国です。ドゥクサス神信仰がかなり強い。長い歴史で、しかも閉鎖された環境でそのように教育されてきているんです。この作戦はかなり有効だと考えます」
「…なるほど。わかりました。その作戦が上手くいって彼が王となって治めてくれるならばこちらとしても助かる話ですからね」
そして宰相様はそのまま王太子殿下の執務室へ向かった。結果はまた知らせてくれるとのことで、俺達もソルズの街には帰らずライリーの家へ戻った。
そしてその夜。早くも宰相様から連絡が来た。俺の作戦を使うとのことだ。だが、問題はそれを軍議で納得させなければいけない。その為、俺にその軍議への参加を要請された。俺は二つ返事で了承した。こんなところで話をするなんて経験ないけど、ヴォルテル君の命が掛かってる。
それにもし俺が婚約破棄をされず、あのままあの王子と結婚していたらこういう場に参加していたんだ。その為の教育も受けてきている。大丈夫。やれる。
詳しくガンドヴァの事を聞けば、ガンドヴァという国はドゥクサス神を唯一神として他の神を認めていない。そしてその神の子孫が王族だ。ドゥクサス神信仰が強く、半ば洗脳状態。神の子孫である王族の為に仕え命を捧げることを是としている。
そしてヴォルテル君は『神の愛し子』。それを周知出来たらヴォルテル君が王となることに周りの反対は出ないだろう。
ただどうやってそれを周知させるか。そしてどうやってヴォルテル君を即位させるか。
即位させるには生きていてもらわないといけない。じゃあどうやってヴォルテル君の命を救う?
「エレン…食事の用意が出来たようですよ。食堂へ行きましょう」
全面戦争は避けられそうにない。そしてあまり時間も残されていない。ガンドヴァとの戦争になったら間違いなくリッヒハイムが勝つだろう。魔力剣を扱える人も多くなったし、ライリーやアシェル、それにアーネストがいるし。こいつらだけでも大概だからな。
「エレン。…エレン? エーレーンー」
そうなったらガンドヴァはリッヒハイムが治めることになる。だけどそうなればヴォルテル君は死ぬ。死なずに王になってもらわないといけないんだけど…。うーん。リッヒハイムの内情を知ってるわけじゃないからな…。まずヴォルテル君の命を救うためにはリッヒハイムがどうしたいのかを知らないと進めないとな。なら教えてくれるかはわからないけどヴィンセントに聞いて――。
「ちゅっちゅっちゅっ」
「うわぁぁぁ! おい! いきなり何しやがる!」
「ずっと呼びかけてるのに気づかないからですよ」
「あ、ごめん。だからっていきなりちゅーしなくても…しかもここ、ライリー達の家だぞ」
「だからなんです? ライリー達だってわかってますよ。さ、食事です。行きましょう」
呼びかけに気づかなかったのは悪かったけど、不意打ちでちゅーしなくてもいいだろうが! 人ん家の、それもライリーの家で! 見られたらどうするんだよ全く…。というかヴィンセントには何も隠せないんだった…。
それから用意してもらった食事をいただいた。ライリー達は俺達とは違い、王都に屋敷を持っている。というかこの屋敷も俺の父上と母上が結婚祝いで用意したものだけど…。ライリー達はどちらも王宮で務めているから屋敷の管理は大変だろうと、俺の実家から使用人が数人ここへ来ている。今日の食事もその料理長が作ってくれた食事だ。相変らず美味い。
「そうだ、ヴィンセント。後でリッヒハイムとガンドヴァの事について教えて欲しいことがあるんだ。国家機密の内容だろうから食事が終わったら部屋に来てくれるか?」
ここの使用人達も口が堅いことは知ってるけど、国家機密の話をわざわざ聞かせることもない。
「母さん…? 何かしようとしてるの?」
「んー、まあな。だけどそれが出来るか出来ないかは、情報をちゃんと得てからだな。わからないことが多すぎる」
「では、この後にお部屋へ伺いますね」
…ライリーの目が怖いな。ホントにガンドヴァが関わると冷静じゃなくなるんだから。それから食事後、2人は俺達の部屋に来てくれた。
「それで母さんは何を知ろうとしてるの?」
「うん、あのな。リッヒハイムが戦争で勝利した後、ガンドヴァを治めることになると思うけどその時にヴォルテル君が王となるのはダメなのか?」
「ああ、その事ですね」
ヴィンセント曰く、正直リッヒハイムがガンドヴァを治めることは出来れば避けたい。あの土地にそこまでの魅力もなく、民は疲弊し、あの国の特に上流階級の人間をまとめることにかなり骨が折れる。しばらくは赤字続きになるし、人員もかなり投入しなければならない。
だからヴォルテル君が王として即位することになるのは、リッヒハイムとしては問題ないそうだ。それに賠償金も手に入れられるしガンドヴァ相手ならすぐに戦争も終結出来るし軍事費もさほどかからない。
ただ、問題はヴォルテル君が王になった後、また内乱が起こり殺される確率が高い。そうなればまたリッヒハイムに対して戦争を仕掛けたりいざこざを繰り返したりと今までと変わらないことになる可能性が高い。
だからそれを防ぐにはリッヒハイムが治めるしかないのだが、それではただ不良債権を背負い込むのと同義。それで今は中枢でもどうするかで少し揉めているらしい。
「ふ~ん、じゃあヴォルテル君が王様になるのは問題ないのか。なるほどなるほど…」
じゃあ、ガンドヴァの人達にヴォルテル君が王様になることに対して反対出来ないようにしちゃえばいいんだよな。だとするならば…。
『神の愛し子』って使えるんじゃね? 神様の神託を降ろしてもらって、国民にヴォルテル君以外はあり得ませんよってわかってもらえばいいんだよな。
「ライリー、通話の魔道具を借りてもいいか?」
「え? いいけどどこにかけるの?」
「アシェルだよ」
それからアシェルに動画を撮れるカメラを外に投影出来ないかを確認した。すると…
『う~ん…。なるほどね。…アレをこうして、こうすれば………うん。多分大丈夫だと思う。ちょっと実験してみないとわからないけどすぐ出来ると思うよ』
「そうか。そうしたらすぐに取り掛かってもらえるか? 忙しいのはわかってるけど、こっちもあまり時間が残されてないんだ」
『ふふ。大丈夫。任せて』
「ああ。じゃ頼んだぞアシェル」
よし。後は宰相様と面会させてもらおう。ヴィンセントに面会できるようお願いして今日はそのまま寝た。…ライアスに手を出されそうになったが、ライリーの家だからと我慢させた。それに苦労したとだけ言っておく。
そして2日後、かなり早く宰相様と面会することができた。あまり時間を掛けられない状況だから助かる。
「お久しぶりですね、エレン殿。お元気そうで何より」
「宰相様、ご無沙汰しております。お時間を作っていただきありがとうございます」
それからヴォルテル君の事について話をした。ヴォルテル君が神の愛し子であること。それを利用し、国民にヴォルテル君が王様になることを認めさせること。そしてそのためにアシェルの魔道具を使う事。
そしてそれが実現できれば、リッヒハイムが無駄な労力を負わなくてもよくなること。ガンドヴァの事はガンドヴァで管理してもらえばいい。そしてそれがヴォルテル君なら正しい方向で行ってくれる事。
「随分とあの殿下の事を認めているのですね」
「宰相様もお会いしているのでわかっているとは思いますが、あの子は本当に良い子です。ちゃんと王族としての責任感もありますし、何より国民の為に自分の命を差し出すだなんて自ら申し出ることはなかなか出来ることではありません。そんな彼だからこそ、その命を散らせてしまうのはこちらにとっても不利益です。どうか認めていただけないでしょうか」
「…エレン殿はその作戦が上手くいくと、そう思っていらっしゃるのですね? それにしても『神の愛し子」だなんて…」
「詳しいことはお話しできませんが、私自身も彼は神の愛し子だと思っています。そしてガンドヴァはかなり特殊な国です。ドゥクサス神信仰がかなり強い。長い歴史で、しかも閉鎖された環境でそのように教育されてきているんです。この作戦はかなり有効だと考えます」
「…なるほど。わかりました。その作戦が上手くいって彼が王となって治めてくれるならばこちらとしても助かる話ですからね」
そして宰相様はそのまま王太子殿下の執務室へ向かった。結果はまた知らせてくれるとのことで、俺達もソルズの街には帰らずライリーの家へ戻った。
そしてその夜。早くも宰相様から連絡が来た。俺の作戦を使うとのことだ。だが、問題はそれを軍議で納得させなければいけない。その為、俺にその軍議への参加を要請された。俺は二つ返事で了承した。こんなところで話をするなんて経験ないけど、ヴォルテル君の命が掛かってる。
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