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8 ライリー&ヴィンセントside
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「ドラゴンがこちらへと向かっていることが判明しました」
ヴィンと共にいつものように王宮に出仕した時、参謀課の部屋へ入るとすぐに話があると宰相様が仰った。
語られた内容は、一刻を争う話だった。
「え…ドラゴン、ですか?」
「ええ。それも5体のドラゴンがこちらの方角へ向かって飛んでいると連絡がありました」
「「5体!?」」
まだヴィンと出会う前、父さんたちと一緒にドラゴン討伐をしたことがある。だけどその時はまだ1体で皆で協力して何とか討伐出来たが、今回はそれが5体……。そんなものが一度に襲来したら…。
「この国の何処かへと降りるのか、他へと行くのか、彼らの目的が何なのかはわかりませんが、もし最悪の事態にはライリー殿やドラゴン討伐の英雄に前線に出て貰うことになるでしょう」
「………」
「もちろん我が国の騎士団や魔法師団も出撃します。以前とは違い、魔力剣の習得やエンチャントの魔道具の普及、魔法師団の実力向上もありますから勝算はあるのでは、と考えます。
が、こちらの被害も相当なものと覚悟するべきだとは思いますが……」
ドラゴンは一体で大きな街でも簡単に滅ぶほどの脅威だ。魔力の高エネルギーであるブレスを放たれてしまったら甚大な被害を被ってしまう。
そのブレスを放たせることなく、あの巨体を上手くよけながら戦わなければならない。
個人の実力はもとより、連携の練度も問われる戦いだ。1人のミスが、全員の命を失うことになりかねないから。
「今はまだこちらから3つほど国を跨いだところを飛んでいたそうですが、この辺りへと到着するのはそう遅くないでしょう。騎士団と魔法師団、そして冒険者ギルドにも緊急事態発生と、出撃準備の命令を下します。
今からは時間との勝負になります。よろしくお願いします」
「「かしこまりました」」
それからヴィンと共に騎士団と魔法師団へ命令の伝達、そして出撃の為に物資の確認や準備を急いで行っていった。
その間もドラゴンの飛行路や位置の確認を細かく行っていて、ここから外れてくれと祈るもののその願いは届くことはなかった。
王都に住む人々にドラゴンが襲来していることを伝えることはしなかった。本当は避難を呼びかけなければならないが、時間が余りにもなく避難が間に合わないため余計な混乱を避けるためにそう判断を下した。
だが物々しい雰囲気を隠すことは出来ず、王都の民にも不安が広がっていった。
僕たちは家に帰ることが出来なくなり、この先どうなるかわからないため、ジェフリーとルークを許可が下りるまで家から出さない様伝えておいた。
「ドラゴンの飛行スピードが速まったみたいです。もう明日にでもこの王都へと到着することがわかりました」
あれからたった2日しかたっていない。もう明日にはここにドラゴンが来るという。そのまま通り過ぎてくれればいいけど…。
「これより騎士団と魔法師団は王都の中と外に別れて待機してもらいます。もしドラゴンがここに降り立った場合、戦闘開始となるでしょう。
ライリー殿、貴方は以前ドラゴン討伐に成功しています。経験者として王都外一個団の総指揮を任せます。大任ですがお願いします」
「……わかりました」
「アーネスト殿にアシェル殿、そしてエレン殿にライアス殿も前線へと出ます。経験者である貴方たちが頼りです。どうかよろしくお願いいたします」
それから軽く宰相様と打ち合わせをして、出撃の為に部屋を出た。
「ライリーさん……」
宰相様と話をしていた時はまだ大丈夫だったけど、今2人きりになったヴィンの顔は泣きそうな顔をしていた。
「どうかご無事で……どうか」
「…うん。簡単に死ぬつもりはないよ。
大丈夫、って言ってあげたいけど、正直僕もどうなるかわからない。一度に5体のドラゴンが襲来してくるなんて初めての事だし。だけど勝たなければ王都も襲われる。そうなればヴィンもジェフリーもルークも皆、皆死んでしまうんだ。それだけは絶対にさせない。死力を尽くすよ」
「ライリーさんっ……何もできない自分が悔しいですっ! 貴方と共に戦えないことが、こんなに絶望を感じるとは思いませんでしたっ……うっううっ…」
「ヴィン…」
とうとう泣き出してしまったヴィンをそっと抱きしめる。いつもなら大丈夫って言ってあげられるけど、今回ばかりはその保証がない。
「ごめん。安心させてあげられなくて。だけどもしかしたらドラゴンはこの国を通り越す可能性だってまだ残ってる。そうなってくれればいいんだけど……。
今から僕はヴィンの側についてあげられない。騎士団に入っている以上、僕だけがヴィンの側にいることは許されないから。ヴィンは宰相様と一緒に待ってて。生きてヴィンの元に戻ってこれるよう頑張ってくるから」
「はい……待ってます。待ってますからどうか……」
金と青の瞳から溢れる涙をぬぐって、触れるだけのキスをする。
ごめんね、ヴィン。僕もここでお別れなんて嫌だから戻ってこれるよう頑張ってくるよ。
それから騎士団の皆と合流し、王都の外へと向かった。
予想では明日の午前にはここへドラゴンが到着する予定だ。そのまま飛び去ってくれればいいんだけど……。
緊張感を持ったまま夜が明け、朝日が昇る。時間が経てばたつほど、場の空気感は更に緊張を増していった。
『ライリー殿! こちら2部隊隊長です! わ、我々の近くに、ご子息のジェフリー君が来ています!』
「はぁ!?」
ドラゴンが飛んでくる方向を睨みつけて待っていた時、別部隊からの連絡でジェフリーが近くにいると報告があった。
『おまけにドラゴンが視認できました! 1.2.3……5体確認! え……? ド、ドラゴンが着陸姿勢に入ってます! ここに降りるみたいです! ………ヤバい! ジェフリー君!! 逃げてくれぇ!!』
「は? おい! 何が起きてる!? ……くっそ! 全員出撃準備! 2部隊の元へ行く!」
「「「了解!!」」」
『全部隊に通達する! 2部隊待機場所にドラゴン出現! 着陸した模様! 全員合流しろ!』
通話の魔道具で全部隊に連絡しながら2部隊の元へと全力疾走する。ここを通り過ぎることを祈っていたのに、着陸してしまった。
しかも最悪なことにジェフリーがここにいる! 家から出ない様使用人にも伝達していたのに! なんで!!
「ジェフリー!!」
2部隊の待機場所に到着すると、5体のドラゴンが降り立っていた。そしてそのドラゴンの目の前にジェフリーがマテオと共にそこにいた。
ジェフリーは逃げるでもなく、ただそこに佇んでいた。
~~少し時を戻して(ヴィンセントside)~~
ライリーさんを見送って、私は参謀課の部屋へと戻った。
「ヴィンセント殿、辛い事を強いて申し訳ないです」
私の泣きはらした顔を見て、宰相様は眉尻を下げてそう仰った。
「宰相様…ライリーさんの事は心配ですが、軍人である以上仕方のないことは分かっています。それにドラゴン討伐の英雄ですし、先陣を切っていかなければならないことも承知の上です」
「…すみません」
「謝らないでください。私の心が弱いだけですから……」
こんな思いをしているのは私だけではないはずだ。共に出陣した騎士の友人、家族、恋人…。その人たちもまた、不安で押しつぶされそうになっているだろう。私だけが辛いわけではない。そして私も国の将来を担う仕事に就いている以上、更なる覚悟をしなければならない。
時には非情な判断も必要だ。憎まれる側の立場に在る以上、悲劇のヒロインのように振舞ってはいけないのだ。
それから非常事態に備えて寝る間も惜しむように働き、夜が明けた。
今頃ライリーさん達は、更なる緊張感と重圧に苦しんでいる頃だろう。まだドラゴンが襲来したという連絡はない。そんなもの、この先一生なければいい。
不安で押しつぶされそうになりながら仕事をこなし、どれくらい時間が経ったのかわからないが、バタバタという足音と共に参謀課の扉が開かれた。
「ヴィンセント殿! 大変です!」
「っ!? どうしました!?」
とある文官が焦ったように部屋へと入りそう一言伝えると、彼の後ろからは我が家の使用人が息を切らせて遅れて入室した。
「ヴィ、ヴィンセント様っ……申し訳ありません! ジェフリー様が屋敷から姿を消しました! 少し情報を集めましたら、白い大きな犬に乗って王都の外へと出たかもしれないことが分かりまして……っ」
「な……なんですって…?」
今、何と言った? ジェフリーが王都の外へと、出ていった…? 何故? どうして?
今ドラゴンが襲来するかもしれないと、王都の外は危険地帯となっている。そんなところへジェフリーが出かけていった…?
「……ジェ、ジェフリー………ジェフリーー!!」
頭の中は真っ白になり何も考えられないはずなのに、体は無意識に動きだした。
目の前にいた人を突き飛ばすかのような勢いで部屋の外へと出ると、そのまま外へ向かって勢いよく駆け出していく。
「ヴィンセント殿!?」
がむしゃらに、ただただジェフリーの元へ行くために、それだけが頭の中を支配する。
「うおっ!? な、な…? ヴィンセント殿…?」
途中誰かとぶつかりそうになりながら、転びそうになりながらも走り抜け外へと出る。王宮の外は、何かあった時にすぐ対応できるよう馬が何頭も待機されていた。
「お、お願いです! 私を乗せて王都の外へ! 今すぐ連れていってください!」
「は…? え? ヴィンセント殿!? 一体どうされたんです?」
「ライリーさんに、外にいる騎士たちに渡さなければならないものがあるんです! 時間がありません! 早く!」
あり得そうであり得ない嘘が、いとも簡単に口から零れていく。ここで足を止められては敵わない。
私は必要であれば、簡単に嘘を付ける人間なのだと今認識した。
「わかりました! 私が連れていきます、乗ってください!」
1人の騎士に馬に乗せてもらい、そのまま全速力で駆けて貰う。
ジェフリー! どうか無事で! 何事もありませんように――
必死にそれだけを祈り続け、馬はやがて王都の外へと出る。そのまま待機している騎士の元へ行けば、騎士たちは移動をしているようだった。
その方向へと馬の首を向かせ駆け抜けていく。
するとやがて、巨体なドラゴンが5体降り立っているのを視認した。そしてその前にはジェフリーが。
「ジェフリーーーーー!!」
馬の速度が緩んでいたため、そのまま思い切って馬から飛び降りる。「ヴィンセント殿!?」と連れてきた騎士に驚かれているが知ったことか。
地面に足を付けるとそのまま転び体を打ち付けるが、何とか体を起こしジェフリーの元へと駆け出していく。
あのドラゴン相手に勝てる見込み何てこれっぽっちもない。そんなことはわかっているしわかりきっている。でもそんな理屈じゃなく、ジェフリーを守らなければいけないという思いだけで体は動いていた。
だがジェフリーの元へとたどり着く前に、私の体は誰かに拘束されてしまった。
「ヴィン!! なんでここにいる!?」
ライリーさんだ。近くにいたらしく、あっという間に駆け寄り私の体を抑え込んでしまった。
「は、放してください! ライリーさんもわかっているでしょう!? ジェフリーが! ジェフリーがっ!!」
「わかってる! だけど今むやみやたらに近づくのは危険だ! ここで待って!」
ライリーさんが言ってる意味もわかっている。だけど理解することと納得することは別だ。
私はいやいやと体を動かし、その強い拘束から逃れようともがく。でもライリーさんの力に敵う事はなくその場から離れることは出来なかった。
すると目の前のドラゴンに動きがあった。
ドラゴン5体共、その巨大な顔をジェフリーに近づけて――
「「ジェフリーーーーーーーーーーー!!」」
その顔がジェフリーに触れるかどうかのその瞬間、余りの事に私は目の前が真っ暗になり気を失った。
ヴィンと共にいつものように王宮に出仕した時、参謀課の部屋へ入るとすぐに話があると宰相様が仰った。
語られた内容は、一刻を争う話だった。
「え…ドラゴン、ですか?」
「ええ。それも5体のドラゴンがこちらの方角へ向かって飛んでいると連絡がありました」
「「5体!?」」
まだヴィンと出会う前、父さんたちと一緒にドラゴン討伐をしたことがある。だけどその時はまだ1体で皆で協力して何とか討伐出来たが、今回はそれが5体……。そんなものが一度に襲来したら…。
「この国の何処かへと降りるのか、他へと行くのか、彼らの目的が何なのかはわかりませんが、もし最悪の事態にはライリー殿やドラゴン討伐の英雄に前線に出て貰うことになるでしょう」
「………」
「もちろん我が国の騎士団や魔法師団も出撃します。以前とは違い、魔力剣の習得やエンチャントの魔道具の普及、魔法師団の実力向上もありますから勝算はあるのでは、と考えます。
が、こちらの被害も相当なものと覚悟するべきだとは思いますが……」
ドラゴンは一体で大きな街でも簡単に滅ぶほどの脅威だ。魔力の高エネルギーであるブレスを放たれてしまったら甚大な被害を被ってしまう。
そのブレスを放たせることなく、あの巨体を上手くよけながら戦わなければならない。
個人の実力はもとより、連携の練度も問われる戦いだ。1人のミスが、全員の命を失うことになりかねないから。
「今はまだこちらから3つほど国を跨いだところを飛んでいたそうですが、この辺りへと到着するのはそう遅くないでしょう。騎士団と魔法師団、そして冒険者ギルドにも緊急事態発生と、出撃準備の命令を下します。
今からは時間との勝負になります。よろしくお願いします」
「「かしこまりました」」
それからヴィンと共に騎士団と魔法師団へ命令の伝達、そして出撃の為に物資の確認や準備を急いで行っていった。
その間もドラゴンの飛行路や位置の確認を細かく行っていて、ここから外れてくれと祈るもののその願いは届くことはなかった。
王都に住む人々にドラゴンが襲来していることを伝えることはしなかった。本当は避難を呼びかけなければならないが、時間が余りにもなく避難が間に合わないため余計な混乱を避けるためにそう判断を下した。
だが物々しい雰囲気を隠すことは出来ず、王都の民にも不安が広がっていった。
僕たちは家に帰ることが出来なくなり、この先どうなるかわからないため、ジェフリーとルークを許可が下りるまで家から出さない様伝えておいた。
「ドラゴンの飛行スピードが速まったみたいです。もう明日にでもこの王都へと到着することがわかりました」
あれからたった2日しかたっていない。もう明日にはここにドラゴンが来るという。そのまま通り過ぎてくれればいいけど…。
「これより騎士団と魔法師団は王都の中と外に別れて待機してもらいます。もしドラゴンがここに降り立った場合、戦闘開始となるでしょう。
ライリー殿、貴方は以前ドラゴン討伐に成功しています。経験者として王都外一個団の総指揮を任せます。大任ですがお願いします」
「……わかりました」
「アーネスト殿にアシェル殿、そしてエレン殿にライアス殿も前線へと出ます。経験者である貴方たちが頼りです。どうかよろしくお願いいたします」
それから軽く宰相様と打ち合わせをして、出撃の為に部屋を出た。
「ライリーさん……」
宰相様と話をしていた時はまだ大丈夫だったけど、今2人きりになったヴィンの顔は泣きそうな顔をしていた。
「どうかご無事で……どうか」
「…うん。簡単に死ぬつもりはないよ。
大丈夫、って言ってあげたいけど、正直僕もどうなるかわからない。一度に5体のドラゴンが襲来してくるなんて初めての事だし。だけど勝たなければ王都も襲われる。そうなればヴィンもジェフリーもルークも皆、皆死んでしまうんだ。それだけは絶対にさせない。死力を尽くすよ」
「ライリーさんっ……何もできない自分が悔しいですっ! 貴方と共に戦えないことが、こんなに絶望を感じるとは思いませんでしたっ……うっううっ…」
「ヴィン…」
とうとう泣き出してしまったヴィンをそっと抱きしめる。いつもなら大丈夫って言ってあげられるけど、今回ばかりはその保証がない。
「ごめん。安心させてあげられなくて。だけどもしかしたらドラゴンはこの国を通り越す可能性だってまだ残ってる。そうなってくれればいいんだけど……。
今から僕はヴィンの側についてあげられない。騎士団に入っている以上、僕だけがヴィンの側にいることは許されないから。ヴィンは宰相様と一緒に待ってて。生きてヴィンの元に戻ってこれるよう頑張ってくるから」
「はい……待ってます。待ってますからどうか……」
金と青の瞳から溢れる涙をぬぐって、触れるだけのキスをする。
ごめんね、ヴィン。僕もここでお別れなんて嫌だから戻ってこれるよう頑張ってくるよ。
それから騎士団の皆と合流し、王都の外へと向かった。
予想では明日の午前にはここへドラゴンが到着する予定だ。そのまま飛び去ってくれればいいんだけど……。
緊張感を持ったまま夜が明け、朝日が昇る。時間が経てばたつほど、場の空気感は更に緊張を増していった。
『ライリー殿! こちら2部隊隊長です! わ、我々の近くに、ご子息のジェフリー君が来ています!』
「はぁ!?」
ドラゴンが飛んでくる方向を睨みつけて待っていた時、別部隊からの連絡でジェフリーが近くにいると報告があった。
『おまけにドラゴンが視認できました! 1.2.3……5体確認! え……? ド、ドラゴンが着陸姿勢に入ってます! ここに降りるみたいです! ………ヤバい! ジェフリー君!! 逃げてくれぇ!!』
「は? おい! 何が起きてる!? ……くっそ! 全員出撃準備! 2部隊の元へ行く!」
「「「了解!!」」」
『全部隊に通達する! 2部隊待機場所にドラゴン出現! 着陸した模様! 全員合流しろ!』
通話の魔道具で全部隊に連絡しながら2部隊の元へと全力疾走する。ここを通り過ぎることを祈っていたのに、着陸してしまった。
しかも最悪なことにジェフリーがここにいる! 家から出ない様使用人にも伝達していたのに! なんで!!
「ジェフリー!!」
2部隊の待機場所に到着すると、5体のドラゴンが降り立っていた。そしてそのドラゴンの目の前にジェフリーがマテオと共にそこにいた。
ジェフリーは逃げるでもなく、ただそこに佇んでいた。
~~少し時を戻して(ヴィンセントside)~~
ライリーさんを見送って、私は参謀課の部屋へと戻った。
「ヴィンセント殿、辛い事を強いて申し訳ないです」
私の泣きはらした顔を見て、宰相様は眉尻を下げてそう仰った。
「宰相様…ライリーさんの事は心配ですが、軍人である以上仕方のないことは分かっています。それにドラゴン討伐の英雄ですし、先陣を切っていかなければならないことも承知の上です」
「…すみません」
「謝らないでください。私の心が弱いだけですから……」
こんな思いをしているのは私だけではないはずだ。共に出陣した騎士の友人、家族、恋人…。その人たちもまた、不安で押しつぶされそうになっているだろう。私だけが辛いわけではない。そして私も国の将来を担う仕事に就いている以上、更なる覚悟をしなければならない。
時には非情な判断も必要だ。憎まれる側の立場に在る以上、悲劇のヒロインのように振舞ってはいけないのだ。
それから非常事態に備えて寝る間も惜しむように働き、夜が明けた。
今頃ライリーさん達は、更なる緊張感と重圧に苦しんでいる頃だろう。まだドラゴンが襲来したという連絡はない。そんなもの、この先一生なければいい。
不安で押しつぶされそうになりながら仕事をこなし、どれくらい時間が経ったのかわからないが、バタバタという足音と共に参謀課の扉が開かれた。
「ヴィンセント殿! 大変です!」
「っ!? どうしました!?」
とある文官が焦ったように部屋へと入りそう一言伝えると、彼の後ろからは我が家の使用人が息を切らせて遅れて入室した。
「ヴィ、ヴィンセント様っ……申し訳ありません! ジェフリー様が屋敷から姿を消しました! 少し情報を集めましたら、白い大きな犬に乗って王都の外へと出たかもしれないことが分かりまして……っ」
「な……なんですって…?」
今、何と言った? ジェフリーが王都の外へと、出ていった…? 何故? どうして?
今ドラゴンが襲来するかもしれないと、王都の外は危険地帯となっている。そんなところへジェフリーが出かけていった…?
「……ジェ、ジェフリー………ジェフリーー!!」
頭の中は真っ白になり何も考えられないはずなのに、体は無意識に動きだした。
目の前にいた人を突き飛ばすかのような勢いで部屋の外へと出ると、そのまま外へ向かって勢いよく駆け出していく。
「ヴィンセント殿!?」
がむしゃらに、ただただジェフリーの元へ行くために、それだけが頭の中を支配する。
「うおっ!? な、な…? ヴィンセント殿…?」
途中誰かとぶつかりそうになりながら、転びそうになりながらも走り抜け外へと出る。王宮の外は、何かあった時にすぐ対応できるよう馬が何頭も待機されていた。
「お、お願いです! 私を乗せて王都の外へ! 今すぐ連れていってください!」
「は…? え? ヴィンセント殿!? 一体どうされたんです?」
「ライリーさんに、外にいる騎士たちに渡さなければならないものがあるんです! 時間がありません! 早く!」
あり得そうであり得ない嘘が、いとも簡単に口から零れていく。ここで足を止められては敵わない。
私は必要であれば、簡単に嘘を付ける人間なのだと今認識した。
「わかりました! 私が連れていきます、乗ってください!」
1人の騎士に馬に乗せてもらい、そのまま全速力で駆けて貰う。
ジェフリー! どうか無事で! 何事もありませんように――
必死にそれだけを祈り続け、馬はやがて王都の外へと出る。そのまま待機している騎士の元へ行けば、騎士たちは移動をしているようだった。
その方向へと馬の首を向かせ駆け抜けていく。
するとやがて、巨体なドラゴンが5体降り立っているのを視認した。そしてその前にはジェフリーが。
「ジェフリーーーーー!!」
馬の速度が緩んでいたため、そのまま思い切って馬から飛び降りる。「ヴィンセント殿!?」と連れてきた騎士に驚かれているが知ったことか。
地面に足を付けるとそのまま転び体を打ち付けるが、何とか体を起こしジェフリーの元へと駆け出していく。
あのドラゴン相手に勝てる見込み何てこれっぽっちもない。そんなことはわかっているしわかりきっている。でもそんな理屈じゃなく、ジェフリーを守らなければいけないという思いだけで体は動いていた。
だがジェフリーの元へとたどり着く前に、私の体は誰かに拘束されてしまった。
「ヴィン!! なんでここにいる!?」
ライリーさんだ。近くにいたらしく、あっという間に駆け寄り私の体を抑え込んでしまった。
「は、放してください! ライリーさんもわかっているでしょう!? ジェフリーが! ジェフリーがっ!!」
「わかってる! だけど今むやみやたらに近づくのは危険だ! ここで待って!」
ライリーさんが言ってる意味もわかっている。だけど理解することと納得することは別だ。
私はいやいやと体を動かし、その強い拘束から逃れようともがく。でもライリーさんの力に敵う事はなくその場から離れることは出来なかった。
すると目の前のドラゴンに動きがあった。
ドラゴン5体共、その巨大な顔をジェフリーに近づけて――
「「ジェフリーーーーーーーーーーー!!」」
その顔がジェフリーに触れるかどうかのその瞬間、余りの事に私は目の前が真っ暗になり気を失った。
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