【完結】僕は『番狂い』の竜人

華抹茶

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5. ディオンside

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 カミーユの父親にそう言われ、恐る恐る天蓋を開けるとそこに眠っていたのは予想通りカミーユだった。俺は足に力が入らなくなり、その場に座り込んでしまう。
 今ここに、カミーユが眠っている。いや、俺のために死んでしまったカミーユが横たわっている。
 あんなに冷たくあしらったのに、酷い暴言だって吐いたのに。なのにカミーユは俺の病を治すために自らの命を犠牲にした。こんなクズの俺のために。

「なんでっ……あなたは父親じゃないのか……? なんで魔宝玉を俺に渡すことを了承したんだ!?」
「我々竜人は番に対し並々ならぬ執着を持つ。番だけを愛し番の幸せだけを望む。その為には自らの命を投げ打つことなど造作もないこと。確かに私の息子がこうして命を散らすことは悲しいと感じている。だが私は息子より番の方が大切で、竜人が持つ番への想いは痛いほどに理解している。だから私はカミーユの気持ちを尊重したに過ぎない」

 カミーユの父親はそう淡々と答えた。息子よりも番が大切。それで死ぬことになろうとも、その気持ちを尊重する。これが『番狂い』。何よりも番が優先される。だからカミーユはこんな俺に、命といえる魔宝玉をいとも簡単に渡そうとしたんだ。

「さぁ、これで魔宝玉の持ち主が誰かわかっただろう。カミーユのものだと知られたからはっきりというが、これは魔宝玉ではなく竜玉だ。これを君の魔宝玉と交換することで病を完治出来るだけではなく、更なる魔法の高みへと昇ることが出来る。君は人間として最高峰の魔法使いとなれるだろう」
「竜玉っ……」

 話に聞いたことはある。俺達人間とは違って、竜人が持つ魔宝玉は竜玉と呼ばれることを。それは桁外れの大きさを持ち、魔力の内包量もとんでもない。
 それが俺の中に入れば、俺の魔力は更に膨れ上がり、どんな魔法だって簡単に使うことが出来る。人間でありながら竜人並みの力を手に入れることが出来る。
 そうなれば俺の将来は安泰だ。もしかしたら俺はこの国一の魔法使いになれるかもしれない。富も名声も何もかもが思いのままになるかもしれない。その未来を想像して、俺の喉はごくりとなった。

「……その竜玉を受け取ることは出来ません」
「なぜ? これで君は病を完治出来るんだぞ?」
「それでも……俺はカミーユの竜玉を、受け取る資格はありませんっ……すみません!」
 
 カミーユは死んでしまったというのに、俺はその竜玉を受け取ることは出来ない。俺にそんな資格はないから。それで俺の命が助かったとしても、俺は自分で自分が許せないと思うだろう。そんなの生きている意味があるのだろうか。

「あなたの息子を死なせてしまってごめんなさい! 俺のために死なせてしまってっ……! でも俺には受け取る資格はなくてっ……! どうしてこんなことにっ……! どうしてっ……!」
「カミーユのことが嫌いだからか? だから受け取れないと?」
「違います! 言い訳に聞こえるかもしれないでしょうけど、俺はカミーユを嫌っていたわけじゃないんです!」

 俺は実の母親に虐待を受けていた。家に監禁され、暴力を振るわれ、食事や水を与えられないままずっと放置されるなんて珍しくなかった。そしてもう少しで死にそうになった時、憲兵が俺の家を捜索に来た。そこで死にかけた俺が見つかり、俺は助かったのだ。
 俺の母親は裏社会の男と繋がっていた。犯罪に手を染めていたらしく、それで俺の家に捜索が入ったのだ。その後の俺は孤児院へ入ることになった。母親はどうなったか聞かされていないが、恐らく処刑されたのだと思う。

 母親からの虐待があったからか、俺は女という存在を嫌悪するようになった。でも成長した俺の容姿や能力に、呼んでもいない女が群がってくる。だから望むように抱いてやり捨てていた。自分で最低なことをしたとわかっている。でもそうすることで母親にやり返せた気がして気分がよかったんだ。
 でもそれはまやかしで、すぐに後悔の念が押し寄せる。でも母親のことを思い出すとイライラして辛くて悲しくて、それを発散させるために別の女を抱く。

 捨てられた女は俺に怒りを向けた。『どうして私を捨てるの!』と。でも最初に抱くのは一度きりだと言って、相手もそれを了承していたんだ。なのにそんなことを言われてますます女が嫌いになった。
 俺に群がる女は皆俺の容姿や魔法のことだけ。俺個人を見てくれる奴なんて一人もいなかった。
 でもそれが当たり前だと思ってた。母親に虐待され、自分の気晴らしに女を手あたり次第抱いては捨てていたんだから。そんな最低な俺を見てくれる人なんていやしないと思っていた。
 
 でもカミーユは違った。俺がどんなに冷たくあしらってもめげなかった。いつもいつも『好きです』だの『番になって』だの、俺がどれだけ男は嫌いだと言っても『それでも君は番で、僕は君のことが大好きなんだ!』って笑顔で言う。
 俺は怖かったんだ。カミーユの愛を受け入れることが。俺にそんな資格はないし、もし受け入れた後で今までの女みたいに怒りを向けられることが。俺から離れることが。

 俺が女を手あたり次第抱いていたのは、その瞬間だけは愛されていると思えたから。でもその後にそれはまやかしだと気づいて自己嫌悪に陥る。これだけ俺に愛を向けてくれているカミーユを受け入れた後で、そんな風に突き放されたらって考えたら怖かった。
 だから俺は本当に最低な奴なんだ。こんな俺は誰も愛してはいけないし、愛される資格もない。この病気になったのも天罰だ。俺に生きる資格なんて、なかったんだ……

「普通の人間が、我々竜人の番に対する執着がわからないというのは理解している。だがそれでもあえて言おう。我々竜人の想いを舐めるな」
「え……?」
「カミーユは君を捨てることは絶対にない。君がカミーユを捨てたとしてもどんなに酷いことをされたとしても、君への想いは消えることはない。それが竜人の愛の深さであり、厄介なところだ」

 カミーユの父親はそう言って自嘲気味に笑った。

「状況がどうあったとしても、竜人は番を最優先する。正直番さえ無事であればその他はどうでもいいんだ。例え血の繋がった我が子であっても。向ける気持ちの大きさが違う。だから我々は『番狂い』と呼ばれるのだよ」

 カミーユは俺を捨てたりしない。俺に愛をくれる。どんな俺であっても、俺が何をしても。
 誰かに心から愛されたいと思っていた。それで許されないことをした自覚もある。そんな俺でも心から愛してくれる存在がいる。

「でも俺はっ……そんなカミーユを死なせてしまったっ……! 本当にっ、申し訳ないことをっ……!」
「ああ、カミーユなら大丈夫だ」
「……へ?」
「確かにこのままであればいずれ死ぬ。だが竜人というのは強靭でね。竜玉を取り出しても三日は生きている。……いや、語弊があるな。今のカミーユは仮死状態だ。だからこのまま竜玉を戻せばカミーユは生き返る」
「へ……!?」

 仮死状態……? 生き返る……? じゃあ、まだ間に合うというのか。

「も、戻してください! カミーユにその竜玉を今すぐ戻してください!」
「だがそれでは君は死ぬぞ」
「構いません! これは俺の天罰だから! こんな俺のせいでカミーユが死ぬなんて、それだけは絶対にダメなんです!」
「……そうか。カミーユは納得しないだろうが、その後のことは話し合いなさい。きっといい方向へ流れていくはずだ」
「え……? どういうことですか?」

 カミーユの父親は俺の質問には答える気がないのか、無言のまま状態保存の魔法がかかった箱から竜玉を取り出す。そしてそのままカミーユの胸へとそっと置いた。
 竜玉はそのまますーっとカミーユの中へと溶けるように入り込み、その輝きは見えなくなっていった。そしてそのすぐ後。カミーユの金の瞳がゆっくりと開かれていった。
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