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続・あなたは僕の憧れの人~聖夜に性夜を~
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これは仕事だ。演技だ。あれは藤原君じゃなくて『聡』だ。そう頭でわかっていても、『麗奈』に見せたあの表情ですら、キスを見た後だと藤原君が俺以外の人を愛おしく思っているのだと見えてしまう。
テレビは未だドラマが続いていた。だけど幸せそうに笑う二人をそれ以上見ていられなくて、思わずリモコンのオフボタンを押していた。
俺は初めて、藤原君が出ている作品を途中放棄したのだ。
食べていたカップラーメンはまだ半分ほど残っている。だけどそれ以上口を付けることは出来ず、心の中で謝りながら流し台のゴミ受けに流して捨てた。
シャワーを済ませてベッドに横になる。時間は既に日付を変えているというのに眠気は一向に襲ってこない。あのキスシーンを見てしまったからだ。
体から始まった関係だったはずなのに、俺は完全に藤原君に落ちていた。彼が俺を好きだと言うその言葉は嘘だと思わないし、今の関係がとても心地よくて幸せだ。
だけど俺はどう見てもおっさんで。これからもっともっと老け込んでいくだろう。藤原君はまだまだ若く、そんな俺と今後も付き合ってくれるのか。こんな俺よりも、あの女優のように若くて綺麗な子の方がいいんじゃないか。
「嫌だっ……そんなの、無理だよ」
藤原君が俺じゃない誰かと恋人になる。想像しただけで胸が痛くて堪らなかった。目頭が熱くなって、耐えられずに零れ落ちる。
藤原君と別れるなんて嫌で嫌で堪らない。だけど彼のことを思えば俺じゃダメなんだと、そんな考えに支配される。
彼の周りには綺麗な子がとても多い。俺なんかが太刀打ちできないほどの若くて綺麗な子ばっかりだ。いつかは彼も俺なんかより、彼女たちの方がいいと思うかもしれない。そう思われてもおかしくない。
「……なんとかしないと」
俺は諦めが悪い。だから今でもこの仕事にしがみ付いている。そんな俺が「はいそうですか」と簡単に諦められるわけがない。
藤原君を繋ぎ留めておくために、俺は出来ることをやらなければ。
そう一人決意を固めたその時、スマホの通知音がピロンと鳴る。そっと手に取ってみれば愛しの彼氏からだった。
『恭介さん、夜遅くにすみません。もう寝てしまったかな? 今日のドラマ観てくれました? あのセリフを練習した時のこと、思い出してしまいました。恭介さんに会いたくて堪りません』
彼は今、仕事で海外へと行っている。ちょうど仕事が一段落して連絡をくれたようだ。会いたくて堪らない。今の俺にとってこの言葉は何よりも救われる。感じていた胸の痛みは、そのたった一言ですーっと軽くなった。
『もうすぐクリスマスですね。その時には日本に帰っているので、約束通りデートしましょうね。今はそれを楽しみに仕事を頑張っています。だから恭介さんも、絶対に予定を入れないようにしてください』
去年のクリスマスは藤原君が忙しすぎて一緒に過ごすことが出来なかった。俺は仕方ないと思っていたのだが、彼は相当悔しかったらしく今年のクリスマスに仕事を入れないよう、前もって強く事務所にお願いしていたそうだ。
イベントなんかもたくさんあるし、彼の人気を思えば許容するべきじゃないんだろう。でも藤原君のクリスマスに対する熱意と圧力が凄くて、俺も仕事を入れないよう調整した。
『そちらはとても寒いと思うので風邪ひかないようにしてくださいね。それじゃあまた連絡します』
最後には投げキッスをするかわいいスタンプ。それを見てふふっと笑いが零れる。『ありがとう。藤原君も無理しないで頑張ってね』とメッセージを返し、ふと閃いた。
そうだ。今年のクリスマスはイブからの二日間ずっと一緒だ。外でデートした後、彼の家に泊る予定になっている。たった今閃いたことを実現するために、俺はしばらくスマホで検索をかけ続けた。
それから日が経ち、今日は待ちに待ったクリスマスイブ。藤原君も一週間前には帰国していたが、メッセージアプリを使ったメッセージのやり取りや、短い時間の電話しかしていない。会うのは久しぶりだ。
久しぶりのデートだと、俺はこの日のために買った服に袖を通す。モデルでもある藤原君が、一緒に雑誌を見ていた時に俺に似合いそうだと言っていた服だ。それをこっそり買っていた。
今まで自分で買おうとも思わなかった少し派手な服。いつもは無地の服ばかりだったため、柄があることで本当に似合うのかと不安になる。でも藤原君が似合うと思うと言ってくれたのだから、きっと大丈夫だろう。
テレビは未だドラマが続いていた。だけど幸せそうに笑う二人をそれ以上見ていられなくて、思わずリモコンのオフボタンを押していた。
俺は初めて、藤原君が出ている作品を途中放棄したのだ。
食べていたカップラーメンはまだ半分ほど残っている。だけどそれ以上口を付けることは出来ず、心の中で謝りながら流し台のゴミ受けに流して捨てた。
シャワーを済ませてベッドに横になる。時間は既に日付を変えているというのに眠気は一向に襲ってこない。あのキスシーンを見てしまったからだ。
体から始まった関係だったはずなのに、俺は完全に藤原君に落ちていた。彼が俺を好きだと言うその言葉は嘘だと思わないし、今の関係がとても心地よくて幸せだ。
だけど俺はどう見てもおっさんで。これからもっともっと老け込んでいくだろう。藤原君はまだまだ若く、そんな俺と今後も付き合ってくれるのか。こんな俺よりも、あの女優のように若くて綺麗な子の方がいいんじゃないか。
「嫌だっ……そんなの、無理だよ」
藤原君が俺じゃない誰かと恋人になる。想像しただけで胸が痛くて堪らなかった。目頭が熱くなって、耐えられずに零れ落ちる。
藤原君と別れるなんて嫌で嫌で堪らない。だけど彼のことを思えば俺じゃダメなんだと、そんな考えに支配される。
彼の周りには綺麗な子がとても多い。俺なんかが太刀打ちできないほどの若くて綺麗な子ばっかりだ。いつかは彼も俺なんかより、彼女たちの方がいいと思うかもしれない。そう思われてもおかしくない。
「……なんとかしないと」
俺は諦めが悪い。だから今でもこの仕事にしがみ付いている。そんな俺が「はいそうですか」と簡単に諦められるわけがない。
藤原君を繋ぎ留めておくために、俺は出来ることをやらなければ。
そう一人決意を固めたその時、スマホの通知音がピロンと鳴る。そっと手に取ってみれば愛しの彼氏からだった。
『恭介さん、夜遅くにすみません。もう寝てしまったかな? 今日のドラマ観てくれました? あのセリフを練習した時のこと、思い出してしまいました。恭介さんに会いたくて堪りません』
彼は今、仕事で海外へと行っている。ちょうど仕事が一段落して連絡をくれたようだ。会いたくて堪らない。今の俺にとってこの言葉は何よりも救われる。感じていた胸の痛みは、そのたった一言ですーっと軽くなった。
『もうすぐクリスマスですね。その時には日本に帰っているので、約束通りデートしましょうね。今はそれを楽しみに仕事を頑張っています。だから恭介さんも、絶対に予定を入れないようにしてください』
去年のクリスマスは藤原君が忙しすぎて一緒に過ごすことが出来なかった。俺は仕方ないと思っていたのだが、彼は相当悔しかったらしく今年のクリスマスに仕事を入れないよう、前もって強く事務所にお願いしていたそうだ。
イベントなんかもたくさんあるし、彼の人気を思えば許容するべきじゃないんだろう。でも藤原君のクリスマスに対する熱意と圧力が凄くて、俺も仕事を入れないよう調整した。
『そちらはとても寒いと思うので風邪ひかないようにしてくださいね。それじゃあまた連絡します』
最後には投げキッスをするかわいいスタンプ。それを見てふふっと笑いが零れる。『ありがとう。藤原君も無理しないで頑張ってね』とメッセージを返し、ふと閃いた。
そうだ。今年のクリスマスはイブからの二日間ずっと一緒だ。外でデートした後、彼の家に泊る予定になっている。たった今閃いたことを実現するために、俺はしばらくスマホで検索をかけ続けた。
それから日が経ち、今日は待ちに待ったクリスマスイブ。藤原君も一週間前には帰国していたが、メッセージアプリを使ったメッセージのやり取りや、短い時間の電話しかしていない。会うのは久しぶりだ。
久しぶりのデートだと、俺はこの日のために買った服に袖を通す。モデルでもある藤原君が、一緒に雑誌を見ていた時に俺に似合いそうだと言っていた服だ。それをこっそり買っていた。
今まで自分で買おうとも思わなかった少し派手な服。いつもは無地の服ばかりだったため、柄があることで本当に似合うのかと不安になる。でも藤原君が似合うと思うと言ってくれたのだから、きっと大丈夫だろう。
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