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8 新しい拠点と新たな決意
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村長さんに案内されたのは、かなり古い小さな家だった。ここ数年誰も使っていない空き家だそうで、あちこち修繕しなければいけない箇所が目立っていたが、こうして家を貸してもらえるだけ御の字だ。
家の間取りはリビングと小さな部屋と浴室、トイレとなっている。小さな部屋に古いベッドがあったことから寝室になりそうだ。
ヴァンにベッドを譲り僕は床で寝ると提案したら、「そんなことさせられない」と言われ同じベッドで寝ることに。この村にたどり着くまでに一緒に野営もしたし、街に立ち寄った時は宿では同じ部屋だった。だけど同じベッドで寝たことはない。
それにさっきの村長さんとのやり取りで、嘘とはいえ「恋人」となったのだから同じベッドで寝るなんて正直ドキドキして緊張が凄い。
月に一度、この村に商人がやって来るらしいので、その時にベッドを買えないか相談してみよう。僕と一緒に寝るんじゃヴァンだってちゃんと休めないはずだから。
家の外には小さいながらも庭があり、ここを耕せば畑を作れそうだ。あと二日ほどすれば商人が来る予定日らしいから、いくつか野菜の種を買おう。それから日用品もいろいろ買わなきゃだな。
これまでのお金は全部ヴァンが負担してくれている。申し訳ないと思いつつ、僕には何も財産がないのだから仕方ない。ヴァンは気にしないでいいと言ってくれたけどこのままというわけにもいかない。野菜が出来たら商人の人に売って、少しでもお金に換えよう。そしてそれをヴァンに返すんだ。
まずは僕たちの家となった住処を二人して掃除をすることに。しばらく使っていなかったから埃が凄い。箒は外にある倉庫の中にあったけど、雑巾になりそうなものがない。そこで僕が聖女として着ていた服を切って使うことにした。これを売ったら僕たちの行先がバレそうな気がしてずっと売れずに持っていたのだ。
でもこんな服、この先一生着るつもりはないし役に立つことはない。だから切り刻んで雑巾として使う。この服をヴァンが持っている剣で切り裂かれたのを見た時は、何故か胸がすっとした。
埃まみれだった家はなんとか住めるくらいまで綺麗になった。とりあえず今日はここでお終い。外はとっくに暗くなっていてお腹も空いた。
食事は途中の街で買っていた干し肉と水だけだ。明日からはヴァンが狩りにいって獲物を獲ってきてくれると言うし、しばらくかかるが僕も野菜を育てられたらもっとお腹いっぱい食べられる。
こうして隙間風が入りながらも屋根のある空間で食事が出来ることにほっとする。今はそれがなにより嬉しいことだ。
浴室は湯舟があるわけじゃないが、大きな桶が置かれていた。そこにお湯を入れれば簡易的なお風呂になる。井戸から水を汲み、台所の竈で沸かす。井戸から水を汲み上げて運ぶのはなかなか大変だったが、今まで野営をしながらここにきたから僕たちは結構汚い。
せっかくベッドで寝るのだから汚れは落としたかった。ちょっと頑張ってお湯で体を洗うことにした。
交代でなんとかお湯を使い、さっぱりとした。頭の痒みも取れたことでほっとする。ベッドに敷くシーツなどはないため、今まで使っていた毛布を敷いた。
「ヴァン、本当に今までありがとう。ここまで来れたのは全部ヴァンのお陰だよ」
「いや、俺もこうして逃げ出す決意が出来たのはフィーのお陰だ」
ベッドに二人で横になるとやっぱりドキドキと緊張が高まった。それを隠すようにヴァンに今までのお礼を伝える。
ヴァンは両親が眠る王都から離れることが出来なかったそうだ。だけど僕を助けるために一緒に離れることにした。申し訳ないと思ったが、ヴァンはいい機会だったと笑ってくれた。それにほっとする。
「明日からこの家のいろんなところ、修理しないとね」
「ああ。やることがいっぱいあるな」
「うん。でも僕はちょっと楽しみなんだ」
「奇遇だな。俺もだ」
明日はあそこを修理しよう。狩りにいって獲物を捕まえたらお腹いっぱい食べよう。そんな話をしていると段々と眠くなってきた。ここまで逃げてくるまでずっと緊張しっぱなしだったから仕方ない。でもこれでやっと安心して寝られる。
ヴァンも相当疲れていたのだろう。僕より先にすーすーという寝息が聞こえてきた。僕もそれにつられるように、夢の世界へ旅立った。
翌朝。窓から差し込む日の光で目が覚める。まだ早朝のようだが、ベッドで横になって眠ったことで体はすっきりとしている。そこで隣に温かい、というより熱い何かがあることに気が付いた。
はっとして見ればすぐ隣にヴァンが。そう言えば一つのベッドで一緒に眠ったんだった……ってヴァンの様子がおかしいことに気が付く。
ヴァンの息は荒く苦しそうにしていた。体も熱く、大量の汗をかいている。そっと額に手を当てるととんでもなく熱く、高熱にうなされているとわかった。
大変だ。きっと僕を庇いながらここまで逃げてきた疲れが出たに違いない。ようやく落ち着ける場所に辿り着けて緊張の糸が切れたんだ。
「ごめんね、ヴァンッ……」
一体いつから熱にうなされていたのだろう。その隣で僕はぐーすかと眠っていたなんて……
ヴァンの体に手を当てて癒しの力を使う。大きな病などは見つからずとりあえずはほっとする。熱が下がるように、疲れが取れるように、少しでも癒されますように。そう祈りながら力を全体に行き渡らせた。
するとすぐにヴァンの苦し気な表情は治まり、呼吸も安定したものへと変わる。それを見てほっと息を吐いた。よかった。とりあえずはこれで大丈夫。
でも相当疲れが溜まっていたのかヴァンが起きる様子はない。今日は狩りに行くと言っていたけどこのままゆっくり休んでもらおう。
ただびっしょりと汗をかいているからそれは拭き取ってあげた方がよさそうだ。このままだと風邪を引きかねない。
僕はベッドから下りると急ぎ綺麗な布を手に取った。ヴァンの元へ戻り、服のボタンを外していく。服をはだけさせ汗を拭こうとした時だ。信じられないものが目に飛び込んできた。
ヴァンの露になった上半身にはおびただしい数の傷跡があったのだ。綺麗な肌が少ないほどの、たくさんの傷跡。ヴァンは騎士だから訓練で傷を負うことはあるだろう。だけどそれでここまで傷が付くだろうか。あまりの異常さに息を呑むことしか出来なかった。
もしかして、ヴァンが話していた嫌がらせによるものだろうか。わからないけど、日頃から酷い暴力を受けていたのかもしれない。そうじゃなければこんな傷だらけになる理由が思いつかない。
ヴァンがそんな辛い状況を長年耐えていたのかと思うと、涙が零れそうになる。ぐいっと目元を拭き取ると、僕は優しくヴァンの汗を拭き取っていった。
◇
ヴァンが起きてきたのは夕方に差し掛かる頃だった。それまで僕は残っている家の掃除をして、水を汲む時に会った村の人に少し分けてもらった野菜でスープを作っていた。
「すまない、こんな時間まで寝ていたとは……起こしてくれてよかったのに」
「ううん。気にしないで。ヴァンも疲れがたまっていたんだよ」
僕が起きた時に高熱が出てうなされていたことを教えてあげる。するとヴァンは「こんなはずじゃ……」とがっくりと肩を落としていた。
でもヴァンがこうなったのは僕の責任でもある。僕というお荷物を抱えて国を跨いで来たんだ。ヴァン一人だったらこうはならなかっただろう。もっと早く癒しの力を使ったりしてヴァンの体調を見てあげなければいけなかった。それを怠ったのは僕の責任だ。
「俺にフィーの貴重な力を使う必要はない。今日は大丈夫だったのか? 今の体調は?」
「そこまでたくさん力を使ったわけじゃなかったから大丈夫。今はもう魔力もかなり回復してるよ」
「……それならよかったが……ありがとう。すまなかった」
僕がヴァンに癒しの力を使ったことを知って、大丈夫なのかと僕のことを気遣ってくれる。あの国の人たちは僕が力を使うことが当然だと、もっと力を使えと強要したのに、ヴァンは僕を当てにすることはない。
今までは力を使わされることが嫌で堪らなかったけど、ヴァンに力を使うことは嫌じゃない。むしろ僕に出来ることはそれくらいなのだからもっと頼って欲しいとそう思ってしまう。
僕もヴァンの役に立ちたい。ヴァンに頼りにされたい。僕と一緒にいることで、ヴァンが少しでも楽しいと思える時間を過ごしてほしい。
そのためなら僕は力を使うことを厭わない。
家の間取りはリビングと小さな部屋と浴室、トイレとなっている。小さな部屋に古いベッドがあったことから寝室になりそうだ。
ヴァンにベッドを譲り僕は床で寝ると提案したら、「そんなことさせられない」と言われ同じベッドで寝ることに。この村にたどり着くまでに一緒に野営もしたし、街に立ち寄った時は宿では同じ部屋だった。だけど同じベッドで寝たことはない。
それにさっきの村長さんとのやり取りで、嘘とはいえ「恋人」となったのだから同じベッドで寝るなんて正直ドキドキして緊張が凄い。
月に一度、この村に商人がやって来るらしいので、その時にベッドを買えないか相談してみよう。僕と一緒に寝るんじゃヴァンだってちゃんと休めないはずだから。
家の外には小さいながらも庭があり、ここを耕せば畑を作れそうだ。あと二日ほどすれば商人が来る予定日らしいから、いくつか野菜の種を買おう。それから日用品もいろいろ買わなきゃだな。
これまでのお金は全部ヴァンが負担してくれている。申し訳ないと思いつつ、僕には何も財産がないのだから仕方ない。ヴァンは気にしないでいいと言ってくれたけどこのままというわけにもいかない。野菜が出来たら商人の人に売って、少しでもお金に換えよう。そしてそれをヴァンに返すんだ。
まずは僕たちの家となった住処を二人して掃除をすることに。しばらく使っていなかったから埃が凄い。箒は外にある倉庫の中にあったけど、雑巾になりそうなものがない。そこで僕が聖女として着ていた服を切って使うことにした。これを売ったら僕たちの行先がバレそうな気がしてずっと売れずに持っていたのだ。
でもこんな服、この先一生着るつもりはないし役に立つことはない。だから切り刻んで雑巾として使う。この服をヴァンが持っている剣で切り裂かれたのを見た時は、何故か胸がすっとした。
埃まみれだった家はなんとか住めるくらいまで綺麗になった。とりあえず今日はここでお終い。外はとっくに暗くなっていてお腹も空いた。
食事は途中の街で買っていた干し肉と水だけだ。明日からはヴァンが狩りにいって獲物を獲ってきてくれると言うし、しばらくかかるが僕も野菜を育てられたらもっとお腹いっぱい食べられる。
こうして隙間風が入りながらも屋根のある空間で食事が出来ることにほっとする。今はそれがなにより嬉しいことだ。
浴室は湯舟があるわけじゃないが、大きな桶が置かれていた。そこにお湯を入れれば簡易的なお風呂になる。井戸から水を汲み、台所の竈で沸かす。井戸から水を汲み上げて運ぶのはなかなか大変だったが、今まで野営をしながらここにきたから僕たちは結構汚い。
せっかくベッドで寝るのだから汚れは落としたかった。ちょっと頑張ってお湯で体を洗うことにした。
交代でなんとかお湯を使い、さっぱりとした。頭の痒みも取れたことでほっとする。ベッドに敷くシーツなどはないため、今まで使っていた毛布を敷いた。
「ヴァン、本当に今までありがとう。ここまで来れたのは全部ヴァンのお陰だよ」
「いや、俺もこうして逃げ出す決意が出来たのはフィーのお陰だ」
ベッドに二人で横になるとやっぱりドキドキと緊張が高まった。それを隠すようにヴァンに今までのお礼を伝える。
ヴァンは両親が眠る王都から離れることが出来なかったそうだ。だけど僕を助けるために一緒に離れることにした。申し訳ないと思ったが、ヴァンはいい機会だったと笑ってくれた。それにほっとする。
「明日からこの家のいろんなところ、修理しないとね」
「ああ。やることがいっぱいあるな」
「うん。でも僕はちょっと楽しみなんだ」
「奇遇だな。俺もだ」
明日はあそこを修理しよう。狩りにいって獲物を捕まえたらお腹いっぱい食べよう。そんな話をしていると段々と眠くなってきた。ここまで逃げてくるまでずっと緊張しっぱなしだったから仕方ない。でもこれでやっと安心して寝られる。
ヴァンも相当疲れていたのだろう。僕より先にすーすーという寝息が聞こえてきた。僕もそれにつられるように、夢の世界へ旅立った。
翌朝。窓から差し込む日の光で目が覚める。まだ早朝のようだが、ベッドで横になって眠ったことで体はすっきりとしている。そこで隣に温かい、というより熱い何かがあることに気が付いた。
はっとして見ればすぐ隣にヴァンが。そう言えば一つのベッドで一緒に眠ったんだった……ってヴァンの様子がおかしいことに気が付く。
ヴァンの息は荒く苦しそうにしていた。体も熱く、大量の汗をかいている。そっと額に手を当てるととんでもなく熱く、高熱にうなされているとわかった。
大変だ。きっと僕を庇いながらここまで逃げてきた疲れが出たに違いない。ようやく落ち着ける場所に辿り着けて緊張の糸が切れたんだ。
「ごめんね、ヴァンッ……」
一体いつから熱にうなされていたのだろう。その隣で僕はぐーすかと眠っていたなんて……
ヴァンの体に手を当てて癒しの力を使う。大きな病などは見つからずとりあえずはほっとする。熱が下がるように、疲れが取れるように、少しでも癒されますように。そう祈りながら力を全体に行き渡らせた。
するとすぐにヴァンの苦し気な表情は治まり、呼吸も安定したものへと変わる。それを見てほっと息を吐いた。よかった。とりあえずはこれで大丈夫。
でも相当疲れが溜まっていたのかヴァンが起きる様子はない。今日は狩りに行くと言っていたけどこのままゆっくり休んでもらおう。
ただびっしょりと汗をかいているからそれは拭き取ってあげた方がよさそうだ。このままだと風邪を引きかねない。
僕はベッドから下りると急ぎ綺麗な布を手に取った。ヴァンの元へ戻り、服のボタンを外していく。服をはだけさせ汗を拭こうとした時だ。信じられないものが目に飛び込んできた。
ヴァンの露になった上半身にはおびただしい数の傷跡があったのだ。綺麗な肌が少ないほどの、たくさんの傷跡。ヴァンは騎士だから訓練で傷を負うことはあるだろう。だけどそれでここまで傷が付くだろうか。あまりの異常さに息を呑むことしか出来なかった。
もしかして、ヴァンが話していた嫌がらせによるものだろうか。わからないけど、日頃から酷い暴力を受けていたのかもしれない。そうじゃなければこんな傷だらけになる理由が思いつかない。
ヴァンがそんな辛い状況を長年耐えていたのかと思うと、涙が零れそうになる。ぐいっと目元を拭き取ると、僕は優しくヴァンの汗を拭き取っていった。
◇
ヴァンが起きてきたのは夕方に差し掛かる頃だった。それまで僕は残っている家の掃除をして、水を汲む時に会った村の人に少し分けてもらった野菜でスープを作っていた。
「すまない、こんな時間まで寝ていたとは……起こしてくれてよかったのに」
「ううん。気にしないで。ヴァンも疲れがたまっていたんだよ」
僕が起きた時に高熱が出てうなされていたことを教えてあげる。するとヴァンは「こんなはずじゃ……」とがっくりと肩を落としていた。
でもヴァンがこうなったのは僕の責任でもある。僕というお荷物を抱えて国を跨いで来たんだ。ヴァン一人だったらこうはならなかっただろう。もっと早く癒しの力を使ったりしてヴァンの体調を見てあげなければいけなかった。それを怠ったのは僕の責任だ。
「俺にフィーの貴重な力を使う必要はない。今日は大丈夫だったのか? 今の体調は?」
「そこまでたくさん力を使ったわけじゃなかったから大丈夫。今はもう魔力もかなり回復してるよ」
「……それならよかったが……ありがとう。すまなかった」
僕がヴァンに癒しの力を使ったことを知って、大丈夫なのかと僕のことを気遣ってくれる。あの国の人たちは僕が力を使うことが当然だと、もっと力を使えと強要したのに、ヴァンは僕を当てにすることはない。
今までは力を使わされることが嫌で堪らなかったけど、ヴァンに力を使うことは嫌じゃない。むしろ僕に出来ることはそれくらいなのだからもっと頼って欲しいとそう思ってしまう。
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