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しおりを挟む「え…どうして、ここに? …え? 本物?」
「言っただろう? ポーションの代金を必ず払いに来ると。それなのに町へ行けば君は既にいなかった。なぜあの町からいなくなった? 大きな町へ行ったと聞いたのに、君の姿を見つけることが出来ずかなり探したよ」
俺を探していた? どうして?
「……なぜこんなに痩せている? ……やはり君は…」
俺の前まで来た勇者様は、そっと俺の頬に手を当てて悲しそうな顔をした。
「あ…あの……」
なんて言っていいのかわからない俺は上手く言葉を紡げない。勇者様の呪いを引き受けてこうなったなんて、勇者様に伝えるのは嫌だ。
「…もしかして今から出かけるつもりだったのか? こんな夜に? どこへ行こうとしている?」
手に持った荷物を見て勇者様がそう聞いて来る。さっきから質問攻めだ。そして俺はその質問にも答えることは出来ない。死に場所へ行こうとしているなんて聞かされても勇者様だって困るだろう。
「…とりあえず急ぎの用事ではないのなら少し話をしよう。いいね?」
何も言えない俺を見て少し悲しそうに勇者様がそう言った。
「で、話はついたのか? 僕たちの事忘れてない?」
「え? ギルエルミ様? セルジオ様まで…」
勇者様の後ろにはギルエルミ様とセルジオ様の2人が立っていた。全然気づかなかった…。あれ? ソニア様だけいないみたいだ。
それにしてもなんで勇者パーティーのメンバーが揃って俺なんかのところに来たんだろうか…。
「僕は転移するために付いてきたんだ。セルジオも…まぁ今はいっか」
なんだかよくわからないけど、とりあえず勇者様達をそのままにはしておけないので中へ招き入れた。
「…すみません。お茶を淹れようと思ったのですが、その…何もなくて」
もう死ぬから、と余計な物は全て処分してしまった。食事も飲み物も何も用意することが出来ない。
「いや、気にしないでくれ。急に押し掛けたこちらが悪いのだから。…それよりも。君の事情を話して欲しい。どうして嘘をついてこの最果ての村に来たんだい?」
「それは……」
なんて言えばいいんだ。まさか勇者様がここに来るなんて想定していなかった俺は、なんて言い訳をすればいいのか全く思いつかない。ただただ口ごもるだけ。下を向いて必死に言い訳を考えるも何もいい案が思い浮かばない。
「……ゼフィロ。店主はどうやらもうすぐ死ぬみたいだぞ」
「な!? もうそこまで来ていたのか!?」
はっとして後ろを振り向けばセルジオ様が俺の書いた置手紙を手にしていた。いつの間に寝室に置いてあった手紙を…。しまった。こんなに早く見つかるなんて…。
「手紙には『俺の寿命が近いのでここを出ていきます。今までありがとうございました。ここに置いてあるポーションはお世話になったお礼です。皆さんで使ってください』と書いてある。
勝手をして悪いが、ざっと中を見させてもらった。綺麗に片付いている。生活感がないほどに。…店主、先ほどは村を出ていくつもりだったんだな?」
「…………そうです」
バレてしまった。ひっそりと1人死ぬはずだったのに。勇者様達が来て、こんなに早くあの手紙が見つかるなんて…。
もうどうしていいかわからなくて、膝の上に置いた手を握ったりほどいたりを繰り返すだけだった。
「ウルリコ…。すまなかった。来るのが遅くなって。君の体の事は……っ!? ウルリコ!」
「うぐぅっ!」
勇者様が話をしている途中で、またあの痛みが俺を襲った。何度も襲われた痛みとはいえ、一向に慣れることのないこの痛み。崩れるようにして椅子から落ち床へと倒れこんだ。
「ウルリコ! どうした!? しっかりしろ!」
慌てて駆け寄って来た勇者様が俺を抱き起してくれる。体の痛みに耐えながらどうして俺の名前を知っているんだろう、と関係ないことをぼんやりと考えていた。
「やはり呪いが解けていないんだな。そして残った呪いのせいでこんなにも痩せてしまったのか…。もっと早く君に会えていたら、こんなにも苦しめずに済んだのにっ…! 済まない、済まないウルリコっ。私のせいだ…私が呪いなんか受けてしまったからっ…!」
「謝ら、ないでくださ、い…。勇者様の、せいじゃありま、せん…。ふぅ…はぁ…。それに俺は、あなたを救えて、嬉しかった…んです、よ」
どうやって助けたかは教えられませんけど。
「ウルリコ、もう大丈夫だから。君を必ず助けるから」
「ぐっ…。光魔法で…封印された、スキルを…開放する、ことは…ぐぅっ……できます、か?」
俺の体に残った呪いは【スキル封印の呪い】だ。
「…スキルの封印? それは…」
セルジオ様が視線をギルエルミ様へと移す。
「無理だ。そんなこと聞いたことがない…」
それを受けて、魔法に詳しいギルエルミ様がそう答えた。
やっぱり…。ということは大聖女様の力を以てしても、封印されたスキルをどうすることも出来ないということ。
ならば俺は助からない。
俺に残った呪いは、スキルを封印すると共に、それを解除出来なければ生命力を失い死ぬ呪いだ。
ここまで悪質な呪いをかける魔王は、本当に勇者を許すつもりも生かすつもりもなかったことが良くわかる。
何重にも掛けられた魔王の呪いの一番最後に、俺の【解呪のスキル】すらも封印してしまう呪い。
誰かが必ず死ぬように作られた魔王の最後の悪あがき。
最後の最後まで勇者を苦しめるために作った最凶の呪い。
「…俺は、このまま死んでも…構いませ、ん…はぁはぁ…世界を、救った…勇者様、が…助かった…んだから…」
「…ウルリコ、諦めるのはまだ早い。君を助けると言っただろう?」
え? どういう事だ? と聞く前に、何故か俺は勇者様にキスをされた。
「「はぁ!?」」
驚いたセルジオ様とギルエルミ様の声が聞こえる。俺も元気で口が開いていたら同じことを言っていただろう。
「…んぅっ…!」
勇者様の舌がくちゅくちゅと水音を鳴らしながら口内を舐めまわしてくる。全く動けない俺はされるがまま受け入れるしかなかった。
「私がスキルの封印を解いてみせる」
たっぷりと俺の口内を暴れまわった後、真剣な顔で勇者様はそう言った。
「おいっ! スキルの封印を解くって…」
「今はとにかく時間がない! 詳しい話は後でする。これから私はウルリコに掛けられたスキル封印の呪いを解く。悪いが2人は近くの町へ転移して明日の朝、また来て欲しい」
「ちょ、ちょっと待って! いくら勇者と言えどもそんなことっ…!」
「ギルエルミ! ここはゼフィロを信じよう。さ、俺達は言われた通り、近くの町へ転移だ」
「セルジオ……。あー、もう! わかったよ。明日の朝、迎えに来るから」
そう言って2人は転移して姿を消した。
「さ、ウルリコ。今まで良く耐えてきたね。今度は私が君を助けるから」
勇者様は2人が転移したのを見届けると、あの日見たのと同じ眩しいまでの笑顔で、はっきりとそう言い切った。
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