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「嫌だ…嫌だ! お願いだ! 私を1人にしないでくれっ!」

「ファウスト…。ごめんね」


 邪神の影響で魔王が誕生し、それを僕たちたったの2人で倒したのに…。

 ファウストは最後の最後に魔王に呪われてしまった。その呪いは強力で解呪に時間がかかることが分かっていたので、ファウストにお願いしてその呪いを僕に移すよう言った。

 僕は【解呪のスキル】を持っている。だから呪いを解呪出来ると言い切って。


 だけどその時からわかっていたんだ。僕でさえ解呪することは出来ないと。
 だけどファウストを死なせたくなかったから嘘を付いてでも呪いを移させた。

 
 僕は賢者として、魔王討伐に同行するきっかけになったのは光魔法に長けていたことと、僕が持つ目にあった。

 僕の目は特殊で、魔獣の弱点が何なのか、その人が持つスキルが何なのか、見ただけでわかってしまう。
 だから魔王が掛けた呪いに【スキル封印の呪い】が混じっていることも分かっていた。

 いくら僕が【解呪のスキル】を持っていたとしても、スキルを封印されてしまえば意味はない。それも分かっていて、ファウストに呪いを移させた。



「クレベール! 君が死んだら私も死ぬ! どうか一緒にっ…」

「ダメだよファウスト。君は、この世の光だから。君が死ぬことは、この世の全てが悲しむ。だから、どうか、僕の分も生きて、幸せに、なって…」

 お願いだよファウスト。死ぬなんて言わないで。僕の分まで生きて欲しいんだ。


「嫌だ! 君のいない世界になんて私はいたくない! 君がいない世界なんかっ…」

「お願いだよ、ファウスト。僕は、いずれ、生まれ変わるから…。はぁはぁ…。生まれ変わったら、君の、英雄譚を、聞くんだ。君の残した、偉業を、素晴らしさを、生まれ変わった僕が、聞く。
 だから生きて。僕の分まで。どうか、生きて」

 本当は僕だって君と一緒に生きたかった。魔王討伐したら一緒になろうって約束もした。楽しい未来を想像してあれもやりたい、これもやろうってたくさん話をした。

 その約束を守れなくてごめん。大好きだよファウスト。大好きだから君に生きて欲しかった。

「ファウスト…。今まで、ありがとう。僕は君の幸せを、祈りたいんだ。…僕が大好きな、この世界を、救ってくれて、ありがとう。君が生きる、この世界を、救ってくれて、ありがとう。僕はあの世から、君の幸せを見守って、いるから」

「ううう…クレベールっ! 愛してる…君だけを一生、想い続けるからっ…」

「ありがとう、ファウスト…僕も、大好き、だよ……今まで…ありが、と……」

 ごめんね。君を1人残して旅立つ僕を許して。

 大好きな君を救えて良かった。

 今までありがとう。さようなら、ファウスト。愛してる。








「ん……」

「おはようリコ。よく寝てたね」

 俺は意味が分からなくて固まった。なぜ勇者様がいるの? え?

 光を感じて目を開けてみれば、にっこり笑った勇者様の顔が目の前にあればびっくりもする。
 何か懐かしい夢を見ていた気がするけど、びっくりして忘れてしまった…。


 そろりと目線を動かせば、どうやら俺と勇者様は同じベッドで寝ていたらしい。しかもここは俺が借りていた家でもないようだった。

 なぜ?? そしてここはどこ??

「ふふっ。可愛いねリコ。どうして私がいるのか? そしてここはどこなのか? って聞きたいんでしょう?」

 流石勇者様。俺の考えていることなどお見通しのようだ。コクリと頷くと「まずは体を起こして水を飲もうか」と俺を優しく起こしてくれた。

 何故か体はなかなかいう事を聞かず、勇者様に支えてもらいながらなんとか体を起こし、背中にクッションを入れられもたれかかる。
 水を差し出されて、ゆっくりとそれを飲んだ。かなり喉が渇いていたようで、体に水が染みわたるような感覚が心地が良い。

「さて。リコ、あの村に私が訪ねたのを覚えてる?」

「あ…」

 そう言われて思い出す。
 俺が森へ行って死のうとしたあの日の夜、勇者様とセルジオ様、そしてギルエルミ様が俺の家へと訪ねてきた。そして俺は呪いの影響で倒れて、そして…。

「あっ! あああああ!」

「ふはっ! その様子だと思い出したようだね」

 そうだ、そうだった! 俺は勇者様に、スキル封印の呪いを解いてもらったんだった! それもあんな方法で…っ!

 思い出した途端、顔から火が出ているのかというくらい真っ赤になった自信がある。顔が熱い…っ! 
 恥ずかしくて顔を手で覆い隠した。勇者様の顔が見れない…。どうしよう…。勇者様になんてことをさせてしまったんだっ!

「ねぇリコ。顔を見せて。ずっとリコの目が見たかったんだ。早く目覚めて欲しくて待ってたんだよ。だからお願い。可愛い顔を見せて」

「へ…?」

 可愛い? 誰が? 俺が? 可愛い?

 意味が分からなくて、そろりと目を向けると甘くとろけた笑顔の勇者様のご尊顔…。

「ああ、いいね。真っ赤になって可愛いよリコ。このままリコを食べてしまいたいくらいだ」

 そう言って、俺の頭を引き寄せるとちゅっとそのまま口づけを落とされた。

「!?」

 まさかそんなことをされるとは思わない俺は、びっくりして文字通り飛び上がった。きっと10センチは軽く飛んだだろう。

「ふふ。これから慣れて欲しいな。…体はどう? 辛くない? 痛みは? 吐き気は? お腹空いてない?」

 俺の頬を両手で挟み込んで、優しく問う勇者様。

「い、たみとか、吐き気は、ない、です…。はい。ちょっとだるい感じはします、けど…。お腹は…わかりません…」

「そう、良かった。後でスープを貰ってくるからそれをゆっくり飲もう。少しずつ食事が取れるように慣らしていこうね。それから…」

「あ、あの!」

 話を遮るなんて怒られるかもしれないけど、まずは大事なことを言わなきゃいけないと思って声を上げた。

「あの…助けていただいてありがとうございました。それから…すみません。あんなコト、させてしまって…」

「…ねぇリコ。お礼を言うのは私の方だよ。あの時、私を助けてくれてありがとう。でもそのせいで苦しめることになってごめんね。
 それにあんなコトって言うけど、私にしてみればご褒美みたいなものだから気にしないで」

「ごほうび…」

 なぜ? なぜアレがご褒美になる? わからない…。勇者様が何を言っているのかわからない…。

「そうご褒美。…今スープを貰ってくるよ。それを食べながらゆっくり話をしようね」

 勇者様にそんなことをさせられないのに、体を満足に動かせない俺は部屋を出ていく勇者様を見ているだけだった。


 というか。なんで俺は勇者様と一緒に寝ていたんだろう…。

 俺を助けてくれて俺の事が気になっていた、というのはわかる。優しい人だと思うから俺の体の事を気にしてくれたんだろう。だけど。
 なんで同じベッドで寝ていたのかがわからない。それにこの部屋にはベッドが一台しか置いていない。

 うんうんと唸りながら考えていたら、勇者様がスープを持って部屋へ戻って来た。

 ベッドの横の椅子に腰かけるとスプーンを手に持ち、スープを掬って俺の口元へと持ってきた。

「はいあーん」

 当然の事のように俺に食べさせようとする勇者様。どうしていいかわからずそのスプーンを見つめてしまった。

「リコ? 口開けて。はい、あーん」

「あ…あの、勇者様? 俺は自分で食べられますから…」

「ゼフィ」

「はい?」

「ゼフィ。そう呼んで。勇者様だなんて堅苦しいし、もう私は勇者様なんかじゃないよ。それはもうお終い。今ここにいるのはただのゼフィロ。
 それにリコにはゼフィって呼んで欲しいな」

 首をコテンとかしげ甘い微笑みを讃えた勇者様…。金の髪と金の瞳が相まって、更に眩しいご尊顔…。

「いや、あのッ…そんな失礼な事…」

「失礼なんかじゃないよ。ね、お願い。ゼフィって呼んで」

「………ゼフィ、様」

「うーん…。様はいらないんだけど、ま、今のところはそれで我慢するか。じゃスープをどうぞ。はい、あーん」

「……………ぱく」

 どうしても食べさせる気なのか、全く譲る気のない勇者様、いや、ゼフィ様に負けた俺は大人しく口を開けてスープを食べさせてもらうことにした。

 それを見たゼフィ様は、にっこにこになって本当に嬉しそうだった。

 なぜ? 何故俺はゼフィ様に甲斐甲斐しくお世話をされているんだろうか……。

 こんなところを誰かに見られたら、俺は「不敬だ!」と言われて殺されないかな…。え、これ大丈夫?






* * * * * * * *

拙作をお読みいただきありがとうございますm(_ _)m

昨日の夜から別の新作も公開しています。こちらの話よりも明るい感じなので、もしよろしければそちらの方も見ていただけると嬉しいです。

よろしくお願いいたします。
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