【完結】異世界に召喚された賢者は、勇者に捕まった!

華抹茶

文字の大きさ
1 / 30

1.サラリーマン、異世界召喚される

 人生とは、なんとも摩訶不思議なものである。
 竹内颯太たけうち そうた二十七歳、ごく普通の日本人サラリーマンの俺が、まさか異世界召喚される日が来るとは……

「勇者様! どうかこの世界をお救いください!」

 はい、出ましたテンプレート。俺も一応、それなりに漫画やらアニメを見てたから知ってるけどさ。それが俺自身に降りかかるとはこれっぽっちも思っていなかったわけで。
 こんな奇想天外なことが起こっているというのに俺は意外にも冷静だった。人間ってあまりにもぶっ飛びすぎることが起こると、パニックになるどころか冷静になるんだなー。へー。初めて知った。

 いや、どうしてこうなったかなぁ……今日も今日とて、いつもと変わり映えのないいつもの日常だったのに。だが突然、こうして非日常なあり得ないことが起こってしまった。
 うーん、どうしよう……仕事、無断欠勤になるよなぁ。というか、俺は帰れるんだろうか。
 はぁ、と口からは勝手にため息がもれる。いや、本当になんでこんなことになったのか。

 俺が召喚されるような特別なものでもあっただろうか、とここへ来る前のことを振り返ってみることにした。……うん、現実逃避とか言わないでくれ。それは俺がよくわかってる。

 ◇

 朝六時半きっちりに、けたたましく目覚まし時計が音を奏でる。起きたくはないが今日は平日。眠い目を擦りながら目覚まし時計を止めるとのそりとベッドから降りた。
 1DKの決して広くはないマンションだが、すっかり住み慣れた俺の城。顔を洗って歯を磨いたあとは、朝食として適当にパンをかじる。もぐもぐしながらインスタントコーヒーも準備。お行儀が悪かろうが一人暮らしなのだから咎める者は誰もいない。
 スーツを着て身支度も整えると出勤だ。購入してから早五年経つ愛車を安全運転で走らせた。

 高給取りではないためごく普通の乗用車だがそれなりに気に入っているため、ちゃんと洗車もするし中も割と綺麗に掃除をしている。
 会社に向かう前に、昼食を買いにいつものコンビニで車を停車させた。毎日コンビニ弁当も飽きるが仕方ない。手軽さには勝てない現代人なのだ。
 今日はなんの弁当にしようかと、コンビニの自動ドアを潜ろうとしたその瞬間。俺の足元がピカッと光り輝いた。

「は?」

 一体なんだこれは? 足元にはまるで漫画やアニメなどでよく見る魔法陣のような模様が広がっていた。それは俺を中心にぐるぐると回っていて、段々と回転スピードを上げている。
 わけがわからず呆ける俺を余所に、足元の光はますます強く光り出す。とどめとばかりに一際強く光ると目を開けてもいられない。

「ぐっ……!」

 慌てて腕を顔に掲げるも意味をなすことはなく、眩しすぎる光に包まれた。

「おおおおお! 召喚成功だッ! 勇者様のご降臨だぁぁぁぁぁ!」

 いきなりの大声に驚き目を開けるとそこにコンビニはなく、多くの人々が集まり俺を凝視していた。
 
「は? え? なに?」

 目の前にいる大勢の人々は、明らかに現代人ではない格好をしている。ローブを被った人や神官のような格好の人。剣を腰にぶら下げた剣士のような人に、まるで王子様のような格好の人まで。
 まるで大きなコスプレ大会でも開いているのかと思うほど、その場にいる全員が不思議な格好をしていた。
 意味がわからず呆ける俺の前に、ローブを被った男が膝を突いた。そこで初めて、俺は尻もちをついていたことに気が付く。

「勇者様、よくぞ参られました。あなた様のご降臨を我々一同、心よりお待ち申し上げておりました」
「……勇者、様?」

 誰だそれは。間違っても俺ではないことは確かだ。自慢じゃないが、勇者と呼ばれるほど何かに秀でているところは一つもないんだから。
 だが俺の目の前で膝を突いている男はにこやかに俺を見つめている。もしや俺の後ろにも誰かが? と思い確認したが誰もいなかった。ということは、このローブを被った男は俺のことを「勇者」と呼んでいたということだ。

「……人違いです」
「いいえ! 人違いではございません! ああ、なんと美しい漆黒の御髪に瞳なのでしょう! 正に伝説の勇者様のお姿です!」
「伝説……」

 えーっと……これ、もしかしなくても異世界召喚されちゃってる? え? あれって漫画とかアニメの世界だけじゃない!?
 だけど俺が今いる場所はどこなのかまったくわからない。わかるのは白壁に囲まれた広い場所というだけ。雰囲気的に神殿というかそんな感じ。
 おかしい。俺は間違いなくコンビニにいたんだぞ。車を駐車場に止めてコンビニの自動ドアを潜ろうとしてたんだから。

「勇者様! どうかこの世界をお救いください!」
「……なんて?」

 おいおいおいおい。どっかで聞いたことのあるセリフを言われてしまったぞ。こんなのは創作の世界だけにしてくれよ。
 どう見てもここって日本、というか地球じゃないよな? だって周りにいる人たちは赤やら青やら実にカラフルな髪や目の色をしているんだから。
 染めたりカラコンをすれば日本でもそんな姿になれるけど、この人たちはどう見てもカラーをしたような色じゃない。俺はしたことはないが、ここまでの鮮やかな色に染めるとしたらブリーチをしないと染まらないはずだ。
 そうするとどうしたってごわごわ感が出やすくなるし、綺麗な艶も出しにくい。それなのにここにいる人たちの髪はとても綺麗につやつやと輝いている。キューティクルが生きている証拠。

「はぁ……」

 マジか。こんなことってある? あり得ない事実に俺は大きなため息を吐いた。
 ラノベや漫画じゃどうだった? 異世界召喚された人はどんな目に遭った?
 地球に帰れないっていう設定もあったな。ってか、俺ってこのままだと会社を無断欠勤することになるんだよな? というかこの世界と向こうの世界で時間軸の違いはあるのか? あれ? その場合、もし元の世界に帰れたとしても行方不明者として捜索願いが出されていたりしない?
 それか浦島太郎みたいに数百年後の世界になっていたりとか……げ。そんなことになったら本気で困るんだが。怪しいというか、頭がぶっ飛んだ危険人物としてどこかの収容所に入れられたりするんじゃ……

「勇者様? もしやご気分でも悪いのでしょうか……突然の召喚ですからお体に負担がかかったのではっ……な、なんてことでしょう! 申し訳ございません、勇者様! 今すぐに医者をお呼びいたしますので少々お待ち――」
「落ち着けフロリアン。まずは勇者様にしっかりと確認を取らなければ」
「はっ……! 申し訳ございません、殿下」

 ここで王子様のような格好をしている、とんでもない美形の男が俺の目の前に現れた。ローブを着た男同様、膝を突いて俺と目線を合わせる。
 すごいな。綺麗に整えられた夕焼けを思わせる緋色の髪が美しく、琥珀の宝石のような綺麗な瞳で思わず見惚れてしまう。穏やかに微笑むその顔は今まで見てきたイケメンとは一線を画す麗しさ。上背もあり、正に王子様と評したくなる格好よさだ。

「勇者様、突然のことで混乱されているかと存じます。わたくしはアーマンド王国王太子、フェリクスと申します。どうぞお見知りおきください」
「は? 王太子……?」

 王太子って、次期王様になる王子様って意味だったよな? まさか本当の本物の王子様だったとは……!
 麗しき王子様は更に笑みを深めると、深々と俺に頭を下げた。それを受けて、周りの人たちも一斉に頭を下げる。

 えー……やっぱり俺が『勇者様』なんだ……
 突然のあり得るはずのない異世界召喚に思わず頭を抱えてしまった。

「……ところで、『勇者様』っていうのは何をするんだ?」
「この世界に恐ろしくも強大な『魔王』が誕生してしまったのです。それをどうか勇者様に討伐していただきたいのです」

 ローブを被った男は、神妙な面持ちで俺を召喚した理由を話してくれた。だがその内容に俺はカチンときた。

 「断る。俺はこの世界と無関係の人間だ。お前たちの世界なんだからお前たちでやれ」

 冗談じゃない。いきなり問答無用で召喚して、危険な魔王を倒してくれだと? 最悪、俺が死ぬかもしれないってことだよな。そんな危険なことをどうして無関係の俺がやってやらないといけないんだ。
 だが俺が断ると思っていなかったのか、この場にいる全員が一気にざわつきだした。「まさか」「そんな」と動揺する声が聞こえる。

「ゆ、勇者様! どうかお願いです! あなた様だけが頼りなのです!」

 ローブの男は縋るように声を上げた。その声を受けて、周りの人間も次々に「勇者様はお優しい人ではなかったのか」「勇者様なのだから受けてくれるのではないのか」と、まるで俺を非難するような声を上げだした。
 それが俺の怒りを増長させる。

「じゃあ逆に聞くけどな。お前たちがいきなり異世界に飛ばされて、危険極まりない魔王を倒してくれと言われたら喜んで倒しに行くのか? 死ぬかもしれないのに? 関係ない世界の勝手な事情を押し付けられて、何も疑問に思わず了承するのか?」

 俺がそう聞くと、王太子もローブを被った男も、周りにいる人間も、すべてがハッとした表情を浮かべた。召喚された心優しい『勇者様』は、無条件で魔王討伐に行ってくれると思い込んでいた証拠だ。
 俺が言った言葉で、やっと自分たちが何をしていたのかわかったらしい。誰も一言も言葉を漏らさなくなった。

「勇者様、本当に申し訳ありません。ですが今の我々にはあなたに縋るしか方法がないのです。どうか、どうかお力をお貸しくださいませんか」
「なっ……!? 殿下っ……! 何をされているのですか!?」

 ……驚いた。王太子だと名乗った男は床に両手両膝を突き、俺に向かって頭を下げたのだ。これはいわゆる平伏だ。
 こいつ意外誰もここまでしなかった。なのに王太子は躊躇することなく、俺に平伏したのだ。

「殿下! おやめください!」
「勇者様の仰る通りだ。我々は無関係の人を勝手に召喚し、問答無用で危険なことを頼んでいる。ここまでしなければならない立場なのだ。私は、勇者様がお許しくださるまで頭を上げるつもりはない」

 ローブの男が必死に王太子に平伏を止めるよう言っているところを見ると、本来はこんなことをやってはいけない立場なんだとよくわかる。
 周りからどんなに制止の声が上がっても、一向にやめる気配はない。

 こいつは俺の言葉の意味を受け止めて、それでもどうしても俺に魔王を倒してほしいと懇願している。こいつがここまでするということは、本当に八方塞がりでどうしようもなかったということなんだろう。

「はぁ~……頭を上げてくれ」
「っ!? ではっ……」
「……わかったよ。俺にどこまでやれるかわからないけど、とりあえず状況を聞かせてくれ」
「……感謝いたします! 勇者様!」

 王太子はほっとした表情を浮かべると、再度深々と平伏した。
 それを見たローブを被った男は、王太子に続き平伏する。そしてその動きは徐々に広がり、この部屋にいる全員がそれに倣った。

 あー……マジかよ。俺、本当に『勇者様』なんて大役、やれんの?
感想 0

あなたにおすすめの小説

推しのために、モブの俺は悪役令息に成り代わることに決めました!

華抹茶
BL
ある日突然、超強火のオタクだった前世の記憶が蘇った伯爵令息のエルバート。しかも今の自分は大好きだったBLゲームのモブだと気が付いた彼は、このままだと最推しの悪役令息が不幸な未来を迎えることも思い出す。そこで最推しに代わって自分が悪役令息になるためエルバートは猛勉強してゲームの舞台となる学園に入学し、悪役令息として振舞い始める。その結果、主人公やメインキャラクター達には目の敵にされ嫌われ生活を送る彼だけど、何故か最推しだけはエルバートに接近してきて――クールビューティ公爵令息と猪突猛進モブのハイテンションコミカルBLファンタジー!

執着騎士団長と、筋肉中毒の治癒師

マンスーン
BL
現代日本から異世界へ転生した治癒師のレオには、誰にも言えない秘密がある。 それは「定期的に極上の筋肉に触れて生命力を摂取しないと、魔力欠乏で死んでしまう」という特異体質であること! ​命をつなぐため、そして何より己のフェティシズムを満たすため、レオがターゲットに選んだのは「氷の騎士団長」と恐れられる英雄ガドリエル。 ​「あぁっ、すごい……硬いですガドリエル様ッ!(大胸筋が)」 「……っ、治療中にそんな熱っぽい声を出すなッ」 ​生きるために必死で揉みしだくレオを、ガドリエルは「これほど俺の身を案じてくれるとは」と都合よく勘違い 触られたいムッツリ攻め×触りたい変態受け

【完結】転生した悪役令息は、お望み通り近付きません

カシナシ
BL
「お前など、愛す価値もない」 ディディア・ファントム侯爵令息が階段から落ちる時見たのは、婚約者が従兄弟を抱きしめている姿。 (これって、ディディアーーBLゲームの悪役令息じゃないか!) 妹の笑顔を見るためにやりこんでいたBLゲーム。引くほどレベルを上げた主人公のスキルが、なぜかディディアに転生してそのまま引き継いでいる。 スキルなしとして家族に『失敗作』と蔑まれていたのは、そのスキルのレベルが高すぎたかららしい。 スキルと自分を取り戻したディディアは、婚約者を追いかけまわすのを辞め、自立に向けて淡々と準備をする。 もちろん元婚約者と従兄弟には近付かないので、絡んでこないでいただけます? 十万文字程度。 3/7 完結しました! ※主人公:マイペース美人受け ※女性向けHOTランキング1位、ありがとうございました。完結までの12日間に渡り、ほとんど2〜5位と食い込めた作品となりました!あああありがとうございます……!。゚(゚´Д`゚)゚。 たくさんの閲覧、イイね、エール、感想は、作者の血肉になります……!(o´ω`o)ありがとうございます!(●′ω`人′ω`●)

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

幼馴染が結婚すると聞いて祝いに行ったら、なぜか俺が抱かれていた。

夏八木アオ
BL
金髪碧眼の優男魔法使いx気が強くてお人好しな元騎士の幼馴染の二人です。

召喚された世界でも役立たずな僕の恋の話

椎名サクラ
BL
――こんなにも好きになるのだろうか、あれほど憎んでいた相手を。 騎士団副団長であるアーフェンは、召喚された聖者の真柴に敵意を剥き出しにしていた。 『魔獣』と対抗する存在である聖者は、騎士団存続の脅威でしかないからだ。 しかも真柴のひ弱で頼りない上に作った笑いばかり浮かべるのを見て嫌悪感を増していった。 だが最初の討伐の時に発動した『聖者の力』は、怪我の回復と『魔獣』が持つ属性の無効化だった。 アーフェンは騎士団のために真柴を最大限利用しようと考えた。 真柴も困っていた。聖者は『魔獣』を倒す力があると大司教に言われたが、そんな力なんて自分にあると思えない。 またかつてのように失敗しては人々から罵声を浴びるのではないかと。 日本に大勢いるサラリーマンの一人でしかなかった真柴に、恐ろしい魔獣を倒す力があるはずもないのに、期待が一身に寄せられ戸惑うしかなかった。 しかも度重なる討伐に身体は重くなり、記憶が曖昧になるくらい眠くなっては起き上がれなくなっていく。 どんなに食べても身体は痩せ細りと、ままならない状況となる。 自分が聖者の力を使っているのを知らないまま、真柴は衰弱しようとしていた。 その頃アーフェンは知るのだ、聖者の力は命と引き換えに出されるのだと。 そうなって初めて、自分がどれほどひどいことを真柴にしたかを思い知らされた。 同時にあれほど苛立ち蔑んだ真柴に、今まで誰にも感じたことのない感情を抱いていることにも。 騎士団を誰よりも大事にしていた副団長は、ある決意をするのだった……。 騎士団副団長×召喚された聖者の不器用な恋の話です。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。