【完結】異世界に召喚された賢者は、勇者に捕まった!

華抹茶

文字の大きさ
4 / 30

4.瘴気の壁

しおりを挟む
 順調に旅は進み、今日は街に立ち寄ることになった。
 街の入り口でおすすめの宿屋を教えてもらいそこへ向かった。久しぶりに野営ではなく宿での宿泊だ。

 到着した宿屋はおすすめだと紹介されるだけあって、女将さんもいい人だったし部屋も綺麗だった。四人部屋というのがないので、二人で一部屋ずつを借りる。
 宿で止まる時は大体こんな感じだ。しかもダグラスとシャノンで一部屋を使うとなったため、自然に俺とフェリクスでペアとなる。

「風呂があってよかったー」
「ソウタは本当に風呂が好きだな」
「日本人とは切っても切れないものなんだよ」

 毎日浄化魔法を使っているから汚れていないとはいえ、やっぱり風呂に入ると疲れが取れる。これは風呂ならではの恩恵だ。最高。
 宿によっては風呂がないところもあるが、俺が風呂好きだと知っているみんなはなるべく風呂がある宿を選んでくれる。
 風呂にこだわらなければもっと安いところもあるのだが、それなら野営した方がマシだというのがみんなの意見だ。……どれだけ酷い宿なんだろ。逆に気になる。

 宿に併設されている食堂で食事も済ませると、明日も早朝からの出発のため早々に部屋へと下がる。部屋の灯りを落としベッドへ入れば、疲れているためすぐに眠気はやってきた。
 少し肌寒いような気はするが、まぁ我慢できるくらいだしこのまま寝てしまおう。
 そう思っている内に俺は夢の世界へと旅立った。

「ソウタ」と呼ばれて目が覚める。どうやら朝が来たようだ。もう少し眠りたいところだが、そういうわけにもいかない。ベッドから降りて身支度を整えようとするが、なぜか体が動かなかった。

「え? え!? フェリクス!? 何やってんの!?」
「おはよう、ソウタ。昨晩は少し肌寒かったから、ソウタが風邪をひかないように一緒に寝たんだ。温かかっただろう?」

 なんと、俺はフェリクスに後ろからぎゅっと抱きつかれていたのだ。お腹に回された腕があったから身動き取れなかったのか。
 いやしかし、男とこんな風にくっついて寝る必要ある!? 確かに肌寒さを感じていたし、今もぽかぽかして温かいけど!

「野営時も寒い時はこうして身を寄せ合って暖を取り合うこともあるから、何もおかしなことではないよ。魔王を討伐するまでは体調管理は必要不可欠なんだ。これからも肌寒い時は私が温めるから安心して」
「……ソウデスカ」

 いや、別にくっつかなくても服を着こめばよくない? しかも野営みたいに外じゃなくて室内なんだし。
 そうツッコもうかと思ったけど、フェリクスの慈愛に満ちた微笑みを見てその言葉は吞み込んだ。……まぁこいつは親切心でやってくれたことだし、実際あったかくてぐっすり眠れたのは間違いじゃないし。

 驚くことがありつつも、俺たちは魔王討伐に向かって出発した。

 そして魔王討伐の旅に出てから約二か月。俺たちはついに魔王がいるという森に到着する。

「うえぇっ……なんすかこの瘴気っ……オエェッ……」
 
 魔王がいる森では、瘴気というものが非常に濃く蔓延していて息ができない。少しでも瘴気が触れると吐き気や頭痛がするし、このまま侵され続けたら精神が錯乱しそうだ。
 ずっと鳥肌と悪寒が治まらず、とにかく近寄りたくない。

「おそらく以前は、ここまで酷くはなかったのだろうっ……魔王をそのままにして数年で、ここまで瘴気が濃くなって、しまったのだろうなっ……! ハァッ!」
「それにしてもっ、魔物の数がっ、多すぎるっすよ! てぃやっ!」
 
 魔王のいる森に近付けば近付くほど、魔物の数が尋常じゃない。瘴気の濃度もすごいしみんなつらそうだ。それをなんとか耐えて魔物の襲撃を押し返してはいるものの、このままだとジリ貧だろう。
 瘴気をなんとかできればいいんだけど……瘴気……瘴気……あ! そうか!

「効果あってくれよ! 浄化!」

 聖女が瘴気を払うっていうのも漫画やアニメでは定番だった。マイナスイオンマシマシの清涼な空気になるようイメージして浄化魔法を発動。すると一瞬で気持ち悪い瘴気が吹き飛び体が楽になる。それと同時に魔物の動きが悪くなった。魔物は浄化の魔法に弱いのか。

「さっすが『賢者様』っす! 最高っすね!」

 俺たちを中心に小さい範囲だが瘴気を浄化することに成功。だが魔物が次々と襲ってくるため状況は変わらない。浄化された空間を取り囲むように結界魔法を発動させ、魔物の侵入を拒んだ。これで一旦落ち着ける。
 
「ダグラス、怪我の具合は!?」
「ああ、大したことではない。が、すまない。ありがとう」

 タンクのダグラスは大量の魔物の攻撃の全てを防ぐことはできず怪我を負ってしまった。大きな怪我じゃなくてよかった。治癒魔法でさっと治せば治療完了だ。

「ソウタ、どうする? このままでは魔王のいる場所まで辿りつけなさそうだ」
「それに魔王がどの辺りにいるかもわからないっすもんね~……」

 魔王がいる森というのは広大で簡単に迷子になりそうなところだ。今は森全体が瘴気で侵されてしまっているからやみくもに歩くのもやめた方がいいだろう。
 魔物の襲撃を押し返しながら進み、魔王に出会ったころにみんなが疲労困憊なんてシャレにならん。
 まずは魔王がいるところを見つけたいところだ。

「ソウタ?」

 俺は目を瞑って森全体に魔力を薄く広げてみた。すると魔物の反応が森全体にあることがわかり、その奥へ進むと一際強い魔物の反応があった。おそらくこれが魔王なのだろう。他の魔物と比べても反応の強さが尋常じゃない。

「……見つけた。魔王だ」
「え!? どういうことっすか!?」

 みんなに俺が今やったことを説明すると「ソウタがすごすぎて意味がわからない」と言われてしまった。攻撃魔法しかなかった世界からすれば、俺の魔法や魔力の使い方がおかしいんだろうな。
 
「とりあえず一旦退避しよう」

 この森に来るずっと手前に馬車を隠してある。とにかくそこまで戻って作戦会議だ。ということで、俺は転移魔法を使って全員を馬車まで転移させた。

「……うお! これが転移魔法……ソウタ殿は本当に規格外だな」
「さすがはソウタだ。あなたと出会えたことはこれ以上にない幸運だ」

 感動したのかフェリクスは俺をぎゅうぎゅうと強く抱きしめる。喜んでくれて嬉しいが、今は魔王の元までたどり着く作戦を考えないと。
 もう一度馬車の周りを囲むように結界を張り、みんなに浄化魔法をかけると食事の準備を始めた。腹が減っては戦はできぬと言うからね。

「ソウタさんってこんな時でもいつも通りっすね」
「へこんだり落ち込んだりしても状況は変わらないからな」

 みんなは魔王へ簡単には近付けないことと、魔物の数が多すぎてどうすればいいのかと表情は暗い。本当にこの世界の人たちだけではどうしようもなかったんだな、と本当の意味でそれを知る。
 ご飯を食べてお腹が膨れたからか、みんなの顔から悲壮感が薄れてきた。やっぱりちゃんと食べるって大事だよな。

「ところでソウタ殿が魔王を見つけたところまではいいが、そこからどうする?」
「あの瘴気がすごくて森に入れないっすもんね~」
「あの魔物の数では魔王の場所まで走り抜けるのも困難そうだったな」

 俺も魔王のところまで結界を張って一直線に走り抜けるっていう方法を考えたけど、どうせならもっと楽に辿り着きたいよな。みんなが万全な状態で魔王と対峙しておきたい。

「うーん……ちょっと実験してみるか」
「ソウタ?」

 俺は魔王の森でやったみたいに薄く魔力を巡らせる。ここから少し離れたところに一体魔物の反応があった。この魔物の上に転移して足元に結界を張って足場を作れれば落ちることはないだろう。よし。

「フェリクス、ちょっとついてきてくれ」
「ん? いいが、一体どこへ?」
「とりあえず空中へ転移するから俺から離れるなよ」

 フェリクスの腕を掴み目的の場所へ転移。すると一瞬で景色が変わり、俺たちは空中に出現する。すぐに足元に結界を張って足場を作り落下を阻止。

「……たしかにソウタから離れたら私は下へ真っ逆さまだったな」
「驚かせてごめん。まぁフェリクスだったら何かあっても大丈夫と思って連れてきたんだけど」
「そこまで信頼してもらえて嬉しいよ、ソウタ。とりあえずは下にいる魔物を倒してしまおう」

 フェリクスはバリバリっと雷魔法を発動させると、下から俺たちを食べよう鼻息荒い魔物に向かって魔法を放った。一瞬で魔物は黒焦げになり討伐完了だ。
 
「フェリクスおつかれさん。じゃ戻るか」

 そしてまたみんなのいるところへ転移で戻る。するとダグラスとシャノンが「いきなりいなくなるからびっくりした!」と俺たちに怪我はないかと心配してくれる。
 本当にこの討伐メンバーは人がよくて俺は大好きだ。

「え!? ソウタさん、そんなことができるんすか!?」
「うん。実験してみたらできたからこれで魔王のところまで行こう」

 俺が立てた作戦はさっき魔物の上へ転移したやり方だ。とにかく魔王の頭上へ転移して結界を張って足場を張る。そこから魔王を取り囲むように大きく結界を張って、中を浄化。
 おそらく魔王の近くにも魔物がたくさんいるだろうし、結界内の魔物は俺の広範囲の魔法で討伐。その後、魔王の体から生み出される魔物はシャノンが、魔王はフェリクスが主体で倒すことに決まった。
 ダグラスは俺を守ることが主になるが、状況次第ではフェリクスを守ることを優先してもらおう。
 あとは状況次第で臨機応変に動くってことで作戦は決まった。

「これは本当にソウタ殿がいなければ立てられない作戦だな」
「無理やり召喚したというのにここまで力を貸してくれたこと、本当に感謝しかない。ありがとう、ソウタ」
「いやいやいや、それは本当に魔王を倒してから言ってくれ」

 とりあえず今日はこのまま休んで、魔王討伐は明日決行することになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

追放された『呪物鑑定』持ちの公爵令息、魔王の呪いを解いたら執着溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
「お前のそのスキルは不吉だ」 身に覚えのない罪を着せられ、聖女リリアンナによって国を追放された公爵令息カイル。 死を覚悟して彷徨い込んだ魔の森で、彼は呪いに蝕まれ孤独に生きる魔王レイルと出会う。 カイルの持つ『呪物鑑定』スキル――それは、魔王を救う唯一の鍵だった。 「カイル、お前は我の光だ。もう二度と離さない」 献身的に尽くすカイルに、冷徹だった魔王の心は溶かされ、やがて執着にも似た溺愛へと変わっていく。 これは、全てを奪われた青年が魔王を救い、世界一幸せになる逆転と愛の物語。

悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!

はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。 本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる…… そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。 いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか? そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。 ……いや、違う! そうじゃない!! 悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!! 

のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした

こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

処理中です...