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12.孤独な王子様
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城の入り口までたどり着き、シャノンと別れると自室へと戻る。すると中でフェリクスが待っていた。
「おかえり、ソウタ! よかった無事で」
「ただいま。心配しすぎ。危ないことなんてなかったよ」
俺の顔を見てほっと安心したのか、ふわりと笑うフェリクス。本当にこいつの顔は綺麗だよな。
フェリクスは俺に椅子を勧めるといそいそと自らお茶の用意をしてくれた。使用人の姿はないし自分たちでしなければいけないのだが、仮にも王子様がすることじゃないと思うのにいいんだろうか。
「討伐士の仕事はどうだった?」
「あー、実はちょっと予定が変更になってさ」
シャノンの恋人であるモーリスくんに会ったことを話した。彼らの状況があまりよくなくて、モーリスくんが追い詰められていること。魔力量が多いのに魔法が上手く使えなくて悩んでいたこと。
俺が魔法講義を行ったらびっくりするほど魔法が上手になって、最後は「楽しい!」と言って笑ってくれたこと。
今日あったことを一つ一つ話すとフェリクスは相槌を打ちながらちゃんと聞いてくれた。
「そう。やっぱりソウタはすごいね」
「別にちょっとコツを教えただけだぞ」
「ううん。モーリスの悩みはソウタじゃないと解決しなかったと思うよ。全然違う観点から魔法を構築するなんて、この世界の人じゃ誰も考え付かないことだったと思うから」
これもある種の固定観念だよな。魔法はこうだ、っていう考えが広がって固まりすぎて、新しい発想というか違う方向から考えることができなかった。
「ソウタは魔王を倒しただけじゃなく、この世界の価値観そのものを変えてくれた。召喚されたのがソウタで心からよかったと思っている。そんなあなたを好きになったことは私の誇りだよ」
「ちょっ……」
フェリクスはまた俺の手をそっと持ち上げると指先にキスをする。それに心臓がドキッと音を立てた。
フェリクスの俺を見る眼差しは優しくて好意を隠しもしていない。フェリクスの気持ちを知ってからこいつの行動、眼差し、声色に敏感に反応するようになってしまった。
俺はフェリクスをすごくいいやつだと思っているし、好きだと思う。でもこの好きはフェリクスとは違うもの。恋愛感情を伴うものじゃない。
だけど嫌悪感を抱くことは今までに一度もなくて、ここまで好意を寄せられていることが嫌だと思えないのだ。
それに戸惑っている自分がいる。はっきり嫌だと、無理だと思えたら楽だったのに。
「先にお風呂に入るかい? 用意は既に整えてあるよ。それとも先に食事がいい?」
「じゃあ先に風呂に入ってくるよ。いつもありがとう、フェリクス」
立ち上がり部屋の奥にある浴室へと向かおうと思ったのだが、ここで一つ思い出した。
「そういえばフェリクスの方はどうだった? 仕事はちゃんとやれたか?」
俺がそう聞くと悲しそうな表情を浮かべてしまった。上手くいかなかったのだろうか。
「……仕事はちゃんとやったよ。だけど今日で解決しなかったというか……本当はさっさと終わらせるはずだったんだけどね。また明日も話をすることになったんだ」
しょんぼりと落ち込んだフェリクスがなんだか気の毒だと思うものの、年下だからか可愛く思えてしまう。予定通り上手くいかないことなんてザラにあるんだから、そこまで落ち込まなくてもいいのに。
俺よりも高い位置にある頭をよしよしと撫でてやる。
「そっか。でも頑張ったんだろう? よくやった。偉い偉い」
「……上手くいかなかったのに褒めてくれるの?」
「当たり前だろ。フェリクスは頑張ったんだから、その頑張りを褒めることは当然だ」
「ソウタ……」
フェリクスは驚いたのか目を思いっきり見開いていた。もしかしたら王太子だということで、こうやって褒められることがなかったんじゃないだろうか。
王太子であるフェリクスより地位が高いのは父親である国王陛下か母親である王妃殿下のみ。二人とも公務で忙しいと聞いているしフェリクスのことを褒めることも少なかったのだろう。
他の人はいくらフェリクスが頑張っていたとしてもそれを褒めてあげるなんて不敬になり得ない。そんなことを気軽にできるわけもないだろうし、こいつはこれだけ恵まれた顔や地位があったとしても孤独だったのかもな。
だったら俺くらいは目一杯褒めてやりたい。
「フェリクスはいつも頑張ってるよ。俺のためにいろいろと手をかけてくれるし、魔王討伐の時だって頼りにさせてもらった。フェリクスが努力していっぱい魔法を身につけたことも知っているし、みんなお前を慕っていることも知っている。それは全部フェリクスが努力して頑張って、心砕いてたくさんいろんなことをやってきたからだ。すごいよ、フェリクスは」
もっともっと褒めてやりたくなって、両手でわしゃわしゃと頭を撫でてやる。髪がぐしゃぐしゃになって変な頭になってしまったけど、フェリクスは嫌がるどころか頬を少し赤く染めて照れていた。あーもう可愛いなこんちくしょう!
「ありがとう、ソウタ。それだけで今までのことがすべて報われたような気がするよ」
「お、おう。だったらよかった」
感極まったのか、フェリクスに強く抱きしめられてしまった。ちょっと恥ずかしさを感じているものの、まぁいっかと俺もフェリクスの背中に腕を回す。そのまま宥めるようにぽんぽんと叩いてやると、フェリクスはすっと体を離した。
「さ、お風呂に入ってさっぱりしてきて。その後、すぐに食事ができるよう手配しておくね」
「ああ、いつもありがとな、フェリクス。じゃいってくる」
これで明日も頑張ろうと思ってくれたら俺も嬉しい。
◇
そして翌日。フェリクスと一緒に朝食をとったあと、フェリクスは昨日からの仕事の続きで出かけて行った。その直前に「頑張ってくるから、そしたらまた褒めてくれる?」なんて言いやがった。
もう可愛すぎて頭を撫でてやりながら「もちろんだ。頑張ってこい」って言うとふにゃりと笑って部屋を出て行った。こんなことであいつのモチベーションが上がるなら安いもんだ。
さて今日はどうしようかなと思っているとダグラスが部屋を訪ねてきた。どうやらフェリクスが側にいないことでダグラスを付けてくれたらしい。
ダグラスだって騎士団長なんだし絶対忙しいはずなのにいいんだろうか。
「だったら騎士団の練習を見にくるか?」
「え!? いいの!?」
召喚された当初から俺は別メニューでの魔法の練習ばっかりだったから、騎士団の練習を見たことはない。これはまた異世界でしか体験できないことだからわくわくする。
「むしろソウタ殿が来てくれたら、団員たちは張り切るだろうな」
「じゃあお願いします!」
というわけで、ダグラスと一緒に騎士団の訓練場へと移動することに。しかしかなり遠い。
城の中は当然だけどとても広くてそれぞれ区画によって分かれている。騎士団関連の区画、文官関連の区画、使用人たちの区画、王族の居住区など。
ちなみに俺が使わせてもらっている部屋は王族居住区の一角だ。王族居住区は城の中でも一番奥に位置しているからここから騎士団関連の区画に移動となるとかなり距離がある。
それに城の中はかなり複雑な構造にもなっていて未だに内容を把握しきれていない。誰かがいないと迷子になること間違いない。
ようやっと騎士団の訓練場へ辿り着くと、騎士たちはそれぞれ訓練を行っていた。走り込みをするものや剣術の練習をするもの。奥では魔法の練習をしている団員の姿もあった。
「おお! すごい! 迫力あるなぁ!」
打ち合いをしている団員たちは鬼気迫る表情で、見ているこちらがハラハラするほど迫力がある。まさに異世界ならではの光景だ。
「え? まさか『賢者様』!?」
俺の姿に気が付いた団員が驚きの声を上げると、それが広がっていき一斉に俺へ視線を向ける。打ち合いをしていた団員も動きを止めてこちらを凝視しているから、手を止めさせてしまって申し訳ないくらいだ。
「今日はソウタ殿が皆の訓練を見学に来られた」
「よ、よろしくお願いします」
俺がぺこりと頭を下げると「うぉぉぉぉぉ!」と野太い声が上がる。一気にハイテンションになった団員たちの威勢がものすごくて思わず仰け反ってしまった。
「うるさくてすまない」
「いやいや。元気があっていいと思うよ」
俺が来たからか、団員たちの訓練はより激しくなって見ごたえがあったのは言うまでもない。
「おかえり、ソウタ! よかった無事で」
「ただいま。心配しすぎ。危ないことなんてなかったよ」
俺の顔を見てほっと安心したのか、ふわりと笑うフェリクス。本当にこいつの顔は綺麗だよな。
フェリクスは俺に椅子を勧めるといそいそと自らお茶の用意をしてくれた。使用人の姿はないし自分たちでしなければいけないのだが、仮にも王子様がすることじゃないと思うのにいいんだろうか。
「討伐士の仕事はどうだった?」
「あー、実はちょっと予定が変更になってさ」
シャノンの恋人であるモーリスくんに会ったことを話した。彼らの状況があまりよくなくて、モーリスくんが追い詰められていること。魔力量が多いのに魔法が上手く使えなくて悩んでいたこと。
俺が魔法講義を行ったらびっくりするほど魔法が上手になって、最後は「楽しい!」と言って笑ってくれたこと。
今日あったことを一つ一つ話すとフェリクスは相槌を打ちながらちゃんと聞いてくれた。
「そう。やっぱりソウタはすごいね」
「別にちょっとコツを教えただけだぞ」
「ううん。モーリスの悩みはソウタじゃないと解決しなかったと思うよ。全然違う観点から魔法を構築するなんて、この世界の人じゃ誰も考え付かないことだったと思うから」
これもある種の固定観念だよな。魔法はこうだ、っていう考えが広がって固まりすぎて、新しい発想というか違う方向から考えることができなかった。
「ソウタは魔王を倒しただけじゃなく、この世界の価値観そのものを変えてくれた。召喚されたのがソウタで心からよかったと思っている。そんなあなたを好きになったことは私の誇りだよ」
「ちょっ……」
フェリクスはまた俺の手をそっと持ち上げると指先にキスをする。それに心臓がドキッと音を立てた。
フェリクスの俺を見る眼差しは優しくて好意を隠しもしていない。フェリクスの気持ちを知ってからこいつの行動、眼差し、声色に敏感に反応するようになってしまった。
俺はフェリクスをすごくいいやつだと思っているし、好きだと思う。でもこの好きはフェリクスとは違うもの。恋愛感情を伴うものじゃない。
だけど嫌悪感を抱くことは今までに一度もなくて、ここまで好意を寄せられていることが嫌だと思えないのだ。
それに戸惑っている自分がいる。はっきり嫌だと、無理だと思えたら楽だったのに。
「先にお風呂に入るかい? 用意は既に整えてあるよ。それとも先に食事がいい?」
「じゃあ先に風呂に入ってくるよ。いつもありがとう、フェリクス」
立ち上がり部屋の奥にある浴室へと向かおうと思ったのだが、ここで一つ思い出した。
「そういえばフェリクスの方はどうだった? 仕事はちゃんとやれたか?」
俺がそう聞くと悲しそうな表情を浮かべてしまった。上手くいかなかったのだろうか。
「……仕事はちゃんとやったよ。だけど今日で解決しなかったというか……本当はさっさと終わらせるはずだったんだけどね。また明日も話をすることになったんだ」
しょんぼりと落ち込んだフェリクスがなんだか気の毒だと思うものの、年下だからか可愛く思えてしまう。予定通り上手くいかないことなんてザラにあるんだから、そこまで落ち込まなくてもいいのに。
俺よりも高い位置にある頭をよしよしと撫でてやる。
「そっか。でも頑張ったんだろう? よくやった。偉い偉い」
「……上手くいかなかったのに褒めてくれるの?」
「当たり前だろ。フェリクスは頑張ったんだから、その頑張りを褒めることは当然だ」
「ソウタ……」
フェリクスは驚いたのか目を思いっきり見開いていた。もしかしたら王太子だということで、こうやって褒められることがなかったんじゃないだろうか。
王太子であるフェリクスより地位が高いのは父親である国王陛下か母親である王妃殿下のみ。二人とも公務で忙しいと聞いているしフェリクスのことを褒めることも少なかったのだろう。
他の人はいくらフェリクスが頑張っていたとしてもそれを褒めてあげるなんて不敬になり得ない。そんなことを気軽にできるわけもないだろうし、こいつはこれだけ恵まれた顔や地位があったとしても孤独だったのかもな。
だったら俺くらいは目一杯褒めてやりたい。
「フェリクスはいつも頑張ってるよ。俺のためにいろいろと手をかけてくれるし、魔王討伐の時だって頼りにさせてもらった。フェリクスが努力していっぱい魔法を身につけたことも知っているし、みんなお前を慕っていることも知っている。それは全部フェリクスが努力して頑張って、心砕いてたくさんいろんなことをやってきたからだ。すごいよ、フェリクスは」
もっともっと褒めてやりたくなって、両手でわしゃわしゃと頭を撫でてやる。髪がぐしゃぐしゃになって変な頭になってしまったけど、フェリクスは嫌がるどころか頬を少し赤く染めて照れていた。あーもう可愛いなこんちくしょう!
「ありがとう、ソウタ。それだけで今までのことがすべて報われたような気がするよ」
「お、おう。だったらよかった」
感極まったのか、フェリクスに強く抱きしめられてしまった。ちょっと恥ずかしさを感じているものの、まぁいっかと俺もフェリクスの背中に腕を回す。そのまま宥めるようにぽんぽんと叩いてやると、フェリクスはすっと体を離した。
「さ、お風呂に入ってさっぱりしてきて。その後、すぐに食事ができるよう手配しておくね」
「ああ、いつもありがとな、フェリクス。じゃいってくる」
これで明日も頑張ろうと思ってくれたら俺も嬉しい。
◇
そして翌日。フェリクスと一緒に朝食をとったあと、フェリクスは昨日からの仕事の続きで出かけて行った。その直前に「頑張ってくるから、そしたらまた褒めてくれる?」なんて言いやがった。
もう可愛すぎて頭を撫でてやりながら「もちろんだ。頑張ってこい」って言うとふにゃりと笑って部屋を出て行った。こんなことであいつのモチベーションが上がるなら安いもんだ。
さて今日はどうしようかなと思っているとダグラスが部屋を訪ねてきた。どうやらフェリクスが側にいないことでダグラスを付けてくれたらしい。
ダグラスだって騎士団長なんだし絶対忙しいはずなのにいいんだろうか。
「だったら騎士団の練習を見にくるか?」
「え!? いいの!?」
召喚された当初から俺は別メニューでの魔法の練習ばっかりだったから、騎士団の練習を見たことはない。これはまた異世界でしか体験できないことだからわくわくする。
「むしろソウタ殿が来てくれたら、団員たちは張り切るだろうな」
「じゃあお願いします!」
というわけで、ダグラスと一緒に騎士団の訓練場へと移動することに。しかしかなり遠い。
城の中は当然だけどとても広くてそれぞれ区画によって分かれている。騎士団関連の区画、文官関連の区画、使用人たちの区画、王族の居住区など。
ちなみに俺が使わせてもらっている部屋は王族居住区の一角だ。王族居住区は城の中でも一番奥に位置しているからここから騎士団関連の区画に移動となるとかなり距離がある。
それに城の中はかなり複雑な構造にもなっていて未だに内容を把握しきれていない。誰かがいないと迷子になること間違いない。
ようやっと騎士団の訓練場へ辿り着くと、騎士たちはそれぞれ訓練を行っていた。走り込みをするものや剣術の練習をするもの。奥では魔法の練習をしている団員の姿もあった。
「おお! すごい! 迫力あるなぁ!」
打ち合いをしている団員たちは鬼気迫る表情で、見ているこちらがハラハラするほど迫力がある。まさに異世界ならではの光景だ。
「え? まさか『賢者様』!?」
俺の姿に気が付いた団員が驚きの声を上げると、それが広がっていき一斉に俺へ視線を向ける。打ち合いをしていた団員も動きを止めてこちらを凝視しているから、手を止めさせてしまって申し訳ないくらいだ。
「今日はソウタ殿が皆の訓練を見学に来られた」
「よ、よろしくお願いします」
俺がぺこりと頭を下げると「うぉぉぉぉぉ!」と野太い声が上がる。一気にハイテンションになった団員たちの威勢がものすごくて思わず仰け反ってしまった。
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「いやいや。元気があっていいと思うよ」
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