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第41話:遺された手掛かり
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ダミアンの死体は、すでに城の地下に運ばれていた。
呪いの力の代償――黒い痣が全身を覆い、最後には心臓が止まった。
アシュは地下牢の冷たい石の壁に背を預け、息を整えていた。右手を胸に当てると、そこにも痣が這い上がっているのを感じた。
「……まだ、時間はあるはずだ」
そう自分に言い聞かせる。だが、セオドア院長の言葉が頭から離れない。「3ヶ月……いや、もっと短いかもしれない」
アシュは唇を噛み締めた。ダミアンを捕らえることには成功した。
だが、尋問の途中で死なれてしまった。ヴォイドの本拠地への手掛かりは、まだ掴めていない。
「アシュ」
振り返ると、ミラが心配そうな顔で立っていた。
「大丈夫? 顔色が悪いわ」
「ああ……大丈夫だ」
アシュは無理に笑顔を作った。ミラは何も言わず、ただ隣に座った。
「ダミアンの遺品を調べたの。オズワルドとリアが今、解析してるわ」
「……何か分かったのか?」
「まだ詳しくは。でも、何か暗号のようなものが書かれた紙が見つかったって」
アシュは立ち上がった。「行こう」
———
ライフ・サンクチュアリの本部、作戦室。テーブルの上には、ダミアンが所持していた小さな紙切れが広げられていた。オズワルドが拡大鏡を使い、リアが古代文字の辞典を片手に睨んでいる。
「これは……古代ルーン文字の一種だな」
オズワルドが低い声で呟いた。
「意味は分かるのか?」
アシュが尋ねると、オズワルドは頷いた。「ああ。一部だがな」
彼は紙を指差した。「『北の果て、凍てつく地の奥深く』……『死者の眠る場所に、真実は隠されている』」
「死者の眠る場所……?」
ミラが首を傾げた。リアが辞典から顔を上げた。
「もしかして、北方の『氷結の墓地』のことかもしれない」
「氷結の墓地?」
「ええ。昔、大戦で死んだ兵士たちが眠る場所よ。今は誰も近づかない、呪われた土地って言われてる」
アシュは腕を組んだ。「……ヴォイドの本拠地が、そこにあるのか?」
「可能性は高い」
オズワルドが答えた。「ダミアンがわざわざ暗号にして持っていたということは、重要な情報だ」
「じゃあ、すぐに向かおう」
アシュが言うと、トーマが口を開いた。「待て、アシュ」
トーマは珍しく、険しい表情をしていた。
「氷結の墓地は危険すぎる。少なくとも、準備が必要だ」
「だが、時間がない」
「分かってる。だが、焦って死んだら元も子もない」
トーマの言葉に、アシュは黙り込んだ。確かに、トーマの言う通りだ。だが――三ヶ月。アシュの胸に、焦りが渦巻いていた。
オズワルドが地図を広げた。
「氷結の墓地は、ここから北へ五日の道のりだ。だが、冬の嵐が吹き荒れる。準備なしで行けば、ヴォイド以前に凍死する」
「王都からの支援も必要だな」
リアが言った。
「あの場所は、魔物も多い。騎士団の協力があれば心強い」
アシュは頷いた。「レオナルドに連絡を取ろう。明日、王都から使者が来る予定だ」
「分かった。それまでに、装備と補給品を整えておく」
トーマが答えた。アシュは彼を見た。
トーマの表情は、いつもと変わらない。だが、どこか――疲れているように見えた。
その夜、アシュは自室で、右手の痣を見つめていた。
黒い痣は、すでに心臓に達している。胸の奥が、時折、鋭く痛んだ。
「……まだ、戦える」
そう自分に言い聞かせる。だが、身体は正直だった。
力を使うたびに、命が削られていく。その実感が、今ははっきりと分かる。
ドアをノックする音がした。
「入れ」
ドアが開き、オズワルドが姿を現した。
「眠れないのか?」
「ああ……お前もか」
オズワルドは頷き、椅子に腰を下ろした。
「アシュ。お前、無理をしすぎている」
「……分かってる」
「本当に分かっているのか?」
オズワルドの声は厳しかった。
「お前が倒れたら、ライフ・サンクチュアリは終わりだ。仲間も、エルムヘイヴンも、守れなくなる」
アシュは黙っていた。オズワルドは溜息をついた。「……すまん。説教するつもりじゃなかった」
「いや、お前の言う通りだ」
アシュは苦笑した。「だが、俺にはもう時間がない。ヴォイドを止めるには、今しかないんだ」
「……そうか」
オズワルドは何も言わず、立ち上がった。「休め、アシュ。明日、王都のレオナルドと打ち合わせがある」
「ああ」
オズワルドが部屋を出ていく。アシュは再び、右手を見つめた。そして、深く息を吐いた。
———
翌朝、アシュは作戦室に向かった。だが、途中で奇妙な光景を目にした。トーマが、誰かと話しているのだ。それも、裏口の近くで。
アシュは足を止め、物陰に隠れた。トーマの相手は――黒いローブを着た人物だった。
ヴォイドの人間……!?
アシュの心臓が跳ね上がった。トーマは、何かを受け取っていた。小さな封筒のようなものだ。
「……分かった。伝えておく」
トーマの声が聞こえた。黒ローブの人物は頷き、闇の中に消えていった。
アシュは息を殺していた。トーマが……ヴォイドと繋がっている……?
いや、違う。そんなはずはない。トーマは、第一話から共に戦ってきた仲間だ。信頼できる戦士だ。だが――ならば、なぜ?
アシュは拳を握り締めた。トーマは封筒を懐にしまい、本部の中へ戻っていった。アシュはその場に立ち尽くしていた。
問い詰めるべきか? それとも、様子を見るべきか?
アシュの心は揺れていた。だが、今は確証がない。……もう少し、様子を見よう。
アシュはそう決め、作戦室へ向かった。
作戦室には、すでに仲間たちが集まっていた。そして、王都から使者が来ていた。
レオナルド・ゴールドマンと、アストラルクラウンの副団長、エリック・ヴァルハルトだ。
「よく来てくれた」
アシュが挨拶すると、レオナルドは頷いた。
「ダミアンの死は残念だったな。だが、暗号が見つかったのは幸いだ」
「氷結の墓地……ヴォイドの本拠地が、そこにある可能性が高い」
オズワルドが説明した。エリックが腕を組んだ。
「氷結の墓地は、魔物と呪いが渦巻く土地だ。生半可な準備では、全滅するぞ」
「それは分かっている」
アシュが答えた。
「だが、行かなければならない。ヴォイドの最終段階が始まっている」
レオナルドが頷いた。
「ならば、アストラルクラウンも協力しよう。騎士団の精鋭を派遣する」
「助かる」
アシュは深く頭を下げた。
「では、三日後に出発しよう。それまでに準備を整える」
全員が頷いた。だが、アシュの視線は、トーマに向いていた。トーマは、何も気づいていない様子で、地図を眺めていた。トーマ……お前は、一体……。
会議が終わり、皆が部屋を出ていく。アシュは最後に残り、窓の外を見つめた。北の空には、黒い雲が立ち込めていた。氷結の墓地。そこに、ヴォイドの本拠地がある。そして、全ての答えが――。
「アシュ」
振り返ると、ミラが立っていた。
「……どうした?」
「あなた、何か隠してない?」
ミラの声は静かだった。だが、その目は真剣だった。
「隠してるって……?」
「トーマのこと」
アシュの心臓が跳ねた。ミラは続けた。「あなた、さっきからずっとトーマを見てた。何かあったの?」
アシュは迷った。だが――ミラは信頼できる。今まで、何度も共に戦ってきた仲間だ。
「……実は」
アシュは、今朝見た光景を話した。トーマが黒ローブの人物と接触していたこと。封筒を受け取っていたこと。
ミラの表情が強張った。
「それ……本当?」
「ああ。だが、確証はない。もしかしたら、俺の見間違いかもしれない」
「見間違いじゃないわ」
ミラが静かに言った。
「私も、気づいてた。トーマ、最近おかしいの。夜中に一人で外に出てたり、誰かと手紙をやり取りしてたり……」
「……そうか」
アシュは拳を握り締めた。やはり、気のせいではなかった。
「どうするの? 問い詰める?」
「いや……まだだ」
アシュは首を振った。
「もし本当にトーマがヴォイドと繋がっているなら、今問い詰めても逃げられるだけだ。それに――」
「それに?」
「もし、トーマに何か理由があるなら……俺は、それを知りたい」
ミラは黙って頷いた。「分かった。私も、様子を見る」
「頼む」
その夜、アシュは再び自室にいた。窓の外には、満月が浮かんでいた。
3日後、氷結の墓地へ向かう。そこで、ヴォイドの本拠地を見つける。そして――。
アシュは右手を握り締めた。痣は、さらに広がっていた。胸の痛みも、強くなっている。
3ヶ月……いや、もっと短いかもしれない。
だが、アシュは決意していた。仲間を守る。エルムヘイヴンを守る。そして、ヴォイドを止める。
たとえ、自分の命が尽きても――。
「……行こう」
アシュは呟いた。月明かりが、彼の決意を照らしていた。
呪いの力の代償――黒い痣が全身を覆い、最後には心臓が止まった。
アシュは地下牢の冷たい石の壁に背を預け、息を整えていた。右手を胸に当てると、そこにも痣が這い上がっているのを感じた。
「……まだ、時間はあるはずだ」
そう自分に言い聞かせる。だが、セオドア院長の言葉が頭から離れない。「3ヶ月……いや、もっと短いかもしれない」
アシュは唇を噛み締めた。ダミアンを捕らえることには成功した。
だが、尋問の途中で死なれてしまった。ヴォイドの本拠地への手掛かりは、まだ掴めていない。
「アシュ」
振り返ると、ミラが心配そうな顔で立っていた。
「大丈夫? 顔色が悪いわ」
「ああ……大丈夫だ」
アシュは無理に笑顔を作った。ミラは何も言わず、ただ隣に座った。
「ダミアンの遺品を調べたの。オズワルドとリアが今、解析してるわ」
「……何か分かったのか?」
「まだ詳しくは。でも、何か暗号のようなものが書かれた紙が見つかったって」
アシュは立ち上がった。「行こう」
———
ライフ・サンクチュアリの本部、作戦室。テーブルの上には、ダミアンが所持していた小さな紙切れが広げられていた。オズワルドが拡大鏡を使い、リアが古代文字の辞典を片手に睨んでいる。
「これは……古代ルーン文字の一種だな」
オズワルドが低い声で呟いた。
「意味は分かるのか?」
アシュが尋ねると、オズワルドは頷いた。「ああ。一部だがな」
彼は紙を指差した。「『北の果て、凍てつく地の奥深く』……『死者の眠る場所に、真実は隠されている』」
「死者の眠る場所……?」
ミラが首を傾げた。リアが辞典から顔を上げた。
「もしかして、北方の『氷結の墓地』のことかもしれない」
「氷結の墓地?」
「ええ。昔、大戦で死んだ兵士たちが眠る場所よ。今は誰も近づかない、呪われた土地って言われてる」
アシュは腕を組んだ。「……ヴォイドの本拠地が、そこにあるのか?」
「可能性は高い」
オズワルドが答えた。「ダミアンがわざわざ暗号にして持っていたということは、重要な情報だ」
「じゃあ、すぐに向かおう」
アシュが言うと、トーマが口を開いた。「待て、アシュ」
トーマは珍しく、険しい表情をしていた。
「氷結の墓地は危険すぎる。少なくとも、準備が必要だ」
「だが、時間がない」
「分かってる。だが、焦って死んだら元も子もない」
トーマの言葉に、アシュは黙り込んだ。確かに、トーマの言う通りだ。だが――三ヶ月。アシュの胸に、焦りが渦巻いていた。
オズワルドが地図を広げた。
「氷結の墓地は、ここから北へ五日の道のりだ。だが、冬の嵐が吹き荒れる。準備なしで行けば、ヴォイド以前に凍死する」
「王都からの支援も必要だな」
リアが言った。
「あの場所は、魔物も多い。騎士団の協力があれば心強い」
アシュは頷いた。「レオナルドに連絡を取ろう。明日、王都から使者が来る予定だ」
「分かった。それまでに、装備と補給品を整えておく」
トーマが答えた。アシュは彼を見た。
トーマの表情は、いつもと変わらない。だが、どこか――疲れているように見えた。
その夜、アシュは自室で、右手の痣を見つめていた。
黒い痣は、すでに心臓に達している。胸の奥が、時折、鋭く痛んだ。
「……まだ、戦える」
そう自分に言い聞かせる。だが、身体は正直だった。
力を使うたびに、命が削られていく。その実感が、今ははっきりと分かる。
ドアをノックする音がした。
「入れ」
ドアが開き、オズワルドが姿を現した。
「眠れないのか?」
「ああ……お前もか」
オズワルドは頷き、椅子に腰を下ろした。
「アシュ。お前、無理をしすぎている」
「……分かってる」
「本当に分かっているのか?」
オズワルドの声は厳しかった。
「お前が倒れたら、ライフ・サンクチュアリは終わりだ。仲間も、エルムヘイヴンも、守れなくなる」
アシュは黙っていた。オズワルドは溜息をついた。「……すまん。説教するつもりじゃなかった」
「いや、お前の言う通りだ」
アシュは苦笑した。「だが、俺にはもう時間がない。ヴォイドを止めるには、今しかないんだ」
「……そうか」
オズワルドは何も言わず、立ち上がった。「休め、アシュ。明日、王都のレオナルドと打ち合わせがある」
「ああ」
オズワルドが部屋を出ていく。アシュは再び、右手を見つめた。そして、深く息を吐いた。
———
翌朝、アシュは作戦室に向かった。だが、途中で奇妙な光景を目にした。トーマが、誰かと話しているのだ。それも、裏口の近くで。
アシュは足を止め、物陰に隠れた。トーマの相手は――黒いローブを着た人物だった。
ヴォイドの人間……!?
アシュの心臓が跳ね上がった。トーマは、何かを受け取っていた。小さな封筒のようなものだ。
「……分かった。伝えておく」
トーマの声が聞こえた。黒ローブの人物は頷き、闇の中に消えていった。
アシュは息を殺していた。トーマが……ヴォイドと繋がっている……?
いや、違う。そんなはずはない。トーマは、第一話から共に戦ってきた仲間だ。信頼できる戦士だ。だが――ならば、なぜ?
アシュは拳を握り締めた。トーマは封筒を懐にしまい、本部の中へ戻っていった。アシュはその場に立ち尽くしていた。
問い詰めるべきか? それとも、様子を見るべきか?
アシュの心は揺れていた。だが、今は確証がない。……もう少し、様子を見よう。
アシュはそう決め、作戦室へ向かった。
作戦室には、すでに仲間たちが集まっていた。そして、王都から使者が来ていた。
レオナルド・ゴールドマンと、アストラルクラウンの副団長、エリック・ヴァルハルトだ。
「よく来てくれた」
アシュが挨拶すると、レオナルドは頷いた。
「ダミアンの死は残念だったな。だが、暗号が見つかったのは幸いだ」
「氷結の墓地……ヴォイドの本拠地が、そこにある可能性が高い」
オズワルドが説明した。エリックが腕を組んだ。
「氷結の墓地は、魔物と呪いが渦巻く土地だ。生半可な準備では、全滅するぞ」
「それは分かっている」
アシュが答えた。
「だが、行かなければならない。ヴォイドの最終段階が始まっている」
レオナルドが頷いた。
「ならば、アストラルクラウンも協力しよう。騎士団の精鋭を派遣する」
「助かる」
アシュは深く頭を下げた。
「では、三日後に出発しよう。それまでに準備を整える」
全員が頷いた。だが、アシュの視線は、トーマに向いていた。トーマは、何も気づいていない様子で、地図を眺めていた。トーマ……お前は、一体……。
会議が終わり、皆が部屋を出ていく。アシュは最後に残り、窓の外を見つめた。北の空には、黒い雲が立ち込めていた。氷結の墓地。そこに、ヴォイドの本拠地がある。そして、全ての答えが――。
「アシュ」
振り返ると、ミラが立っていた。
「……どうした?」
「あなた、何か隠してない?」
ミラの声は静かだった。だが、その目は真剣だった。
「隠してるって……?」
「トーマのこと」
アシュの心臓が跳ねた。ミラは続けた。「あなた、さっきからずっとトーマを見てた。何かあったの?」
アシュは迷った。だが――ミラは信頼できる。今まで、何度も共に戦ってきた仲間だ。
「……実は」
アシュは、今朝見た光景を話した。トーマが黒ローブの人物と接触していたこと。封筒を受け取っていたこと。
ミラの表情が強張った。
「それ……本当?」
「ああ。だが、確証はない。もしかしたら、俺の見間違いかもしれない」
「見間違いじゃないわ」
ミラが静かに言った。
「私も、気づいてた。トーマ、最近おかしいの。夜中に一人で外に出てたり、誰かと手紙をやり取りしてたり……」
「……そうか」
アシュは拳を握り締めた。やはり、気のせいではなかった。
「どうするの? 問い詰める?」
「いや……まだだ」
アシュは首を振った。
「もし本当にトーマがヴォイドと繋がっているなら、今問い詰めても逃げられるだけだ。それに――」
「それに?」
「もし、トーマに何か理由があるなら……俺は、それを知りたい」
ミラは黙って頷いた。「分かった。私も、様子を見る」
「頼む」
その夜、アシュは再び自室にいた。窓の外には、満月が浮かんでいた。
3日後、氷結の墓地へ向かう。そこで、ヴォイドの本拠地を見つける。そして――。
アシュは右手を握り締めた。痣は、さらに広がっていた。胸の痛みも、強くなっている。
3ヶ月……いや、もっと短いかもしれない。
だが、アシュは決意していた。仲間を守る。エルムヘイヴンを守る。そして、ヴォイドを止める。
たとえ、自分の命が尽きても――。
「……行こう」
アシュは呟いた。月明かりが、彼の決意を照らしていた。
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