ライフ・サンクチュアリ ~追放された回復術師の第二の人生~

都一

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第52話:決意の一線

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左手から放たれる淡い光が、アシュの体を包み込む。

それは温かく、優しく、そして——痛ましいほどに儚かった。

ライフ・サンクチュアリの力が体を巡り、一時的に痛みが和らぐ。しかし、アシュは知っていた。この力を使う度に、自分の命が削られていくことを。

それでも、今は戦わなければならない。

目の前の敵——黒いローブを纏った幹部が、冷たい笑みを浮かべながら剣を構えている。その目には、何の感情も宿っていなかった。

「ライフ・サンクチュアリの力か。興味深いな」

男が呟き、剣を振るう。

刃が空気を切り裂き、アシュに迫る。速い——思わず息を呑むほどの速さだった。

しかし、アシュは剣を振るい、それを弾いた。金属の甲高い音が響き、火花が散る。

男の目に驚きが浮かぶ。

「ほう……さすがは継承者か」

そして、男は再び剣を振るう。今度は連続攻撃だった。

一閃、二閃、三閃——休む間もなく、刃がアシュに襲いかかる。

アシュは必死に剣を振るい、攻撃を受け流す。しかし、男の剣技は見事で、アシュの防御を少しずつ崩していく。

四閃目——アシュの剣が弾かれ、体勢が崩れる。

男が笑みを浮かべ、剣を振り下ろす。

「終わりだ!」

その瞬間——

「アシュ!」

ミラの声が響き、光の矢が男の剣を弾いた。男が舌打ちをし、一歩後ろに下がる。

「ミラ……!」

アシュが振り返ると、ミラが杖を構えて立っていた。その顔には汗が滲んでいたが、目には強い意志が宿っていた。

「一人で戦わないで! 私たちは仲間でしょ!」

ミラが叫び、再び光の矢を放つ。それは男の肩を掠め、男が苦悶の表情を浮かべる。

その隙に、トーマが横から斬りかかる。剣が男の腕を切り裂き、血が飛び散る。

「くそっ……!」

男が悪態をつき、後退する。その目には怒りと焦りが浮かんでいた。

「お前たち……!」

「俺たちが相手だ」

トーマが低い声で言い、剣を構える。その目には揺るぎない決意が宿っていた。

アシュは息を整え、ミラとトーマを見つめた。

そうだ。自分は一人じゃない。

仲間がいる。共に戦う仲間が——。

「ありがとう、二人とも」

アシュが言うと、ミラが微笑む。

「当たり前でしょ。私たち、仲間なんだから」

トーマも頷く。

「さあ、行くぞ。この野郎を倒して、儀式を止める!」

三人は同時に駆け出した。

———

激しい戦闘が繰り広げられる。

アシュが正面から斬りかかり、男が剣で受け止める。その瞬間、トーマが横から斬りかかる。男は咄嗟に身を翻し、トーマの剣を避けるが、その隙にミラの光の矢が飛んでくる。

男が舌打ちをし、魔法の盾を展開する。光の矢が盾に当たり、弾かれる。

「くそっ……厄介な連中だ!」

男が叫び、剣を振るう。しかし、三人の連携は見事で、男の攻撃を次々と防いでいく。

アシュが剣を振るい、男の剣を弾く。その瞬間、トーマが斬りかかり、男の腕を切り裂く。男が悲鳴を上げ、血が滴る。

「今だ、ミラ!」

アシュが叫び、ミラが杖を掲げる。

「光よ、我が敵を貫け——ライト・アロー!」

強烈な光の矢が放たれ、男の胸を貫いた。

男が目を見開き、その場に崩れ落ちる。

「……ば、馬鹿な……」

男が呟き、動かなくなった。

アシュは息を整え、ミラとトーマを見つめた。

「やったな……」

しかし、喜ぶ暇はなかった。

背後から、激しい悲鳴が聞こえてくる。

振り返ると、祭壇の周りで、さらに多くの人々が倒れていた。魔法陣の光は強まり、空気が震えている。

そして、祭壇の前に立つルシウスが、静かに手を掲げていた。

「まだ……まだ足りない。もっと……もっと命が必要だ……」

その声は、狂気に満ちていた。

「やめろ、ルシウス!」

アシュが叫び、祭壇に向かって走り出す。

しかし、その前に、さらに多くの黒いローブの男たちが立ちはだかった。

「通さないぞ!」

その一人が叫び、武器を構える。

アシュは歯を食いしばり、剣を構えた。

しかし、その時——

胸に激痛が走った。

「うっ……!」

アシュが膝をつき、胸を押さえる。黒い痣が首筋から顎へと広がり、視界が霞む。

体が限界を訴えている。

もう、持たない——。

「アシュ!」

ミラが駆け寄り、肩を支える。その顔には恐怖と心配が滲んでいた。

「大丈夫!? 無理しないで!」

「大丈夫じゃ……ない……」

アシュは苦しげに言葉を絞り出す。

体が重い。呼吸が浅い。心臓が激しく痛む。

もう、戦えない——。

その時、アシュの頭に、セオドア院長の言葉が蘇った。

——『この薬を飲めば、半日だけ全力で戦える。しかし、その後は……数時間で死ぬだろう』

アシュは懐から、小さな薬瓶を取り出した。

透明な液体が入ったその瓶を、じっと見つめる。

これを飲めば、戦える。

しかし、その後は——死ぬ。

「アシュ……それは……!」

ミラが息を呑む。彼女も、この薬のことを知っていた。

「やめて! そんなの飲んじゃダメ!」

ミラが叫び、薬瓶を奪おうとする。しかし、アシュはそれを避けた。

「ミラ……俺には、これしか道がない」

アシュは静かに言った。

「このままじゃ、儀式は止められない。もっと多くの人が死ぬ。俺は……それを見過ごすことはできない」

「でも……でも、あなたが死んだら……!」

ミラの目に涙が浮かぶ。その声は震えていた。

「俺が死んでも、お前たちが生きていれば、それでいい」

アシュは微笑んだ。それは穏やかで、優しい笑みだった。

「お前たちが、この世界を守ってくれ。俺の分まで——」

「ふざけるな!」

トーマが叫んだ。その顔には怒りと悲しみが滲んでいた。

「お前一人に背負わせるか! 俺たちは仲間だろうが!」

「トーマ……」

「お前が死んだら、俺は……俺たちは……!」

トーマの声が震える。その目には涙が浮かんでいた。

アシュは二人を見つめ、静かに頷いた。

「ありがとう。でも、これは俺が選んだ道だ」

そして、アシュは薬瓶の蓋を開けた。

「アシュ、待って!」

ミラが叫ぶ。しかし、アシュはもう決めていた。

薬瓶を口に運び、一気に飲み干す。

透明な液体が喉を通り、胃に落ちていく。

その瞬間——

アシュの体が、激しく震えた。

———

全身に、凄まじいエネルギーが満ちていく。

胸の痛みが消え、視界がクリアになる。黒い痣は相変わらず広がっているが、体は嘘のように軽くなった。

力が、溢れている。

これが、薬の効果——。

アシュはゆっくりと立ち上がり、剣を構えた。

その目には、揺るぎない決意が宿っていた。

「行くぞ」

アシュが静かに言い、敵に向かって走り出す。

その速さは、これまでとは比べものにならなかった。

瞬く間に敵の懐に飛び込み、剣を振るう。

一閃——敵の剣が弾かれる。

二閃——敵の胸を切り裂く。

三閃——敵が倒れる。

アシュは止まらない。次々と敵を薙ぎ払い、祭壇へと突き進む。

黒いローブの男たちが次々と襲いかかるが、アシュは全てを薙ぎ払った。

剣が閃き、敵が倒れる。

剣が舞い、血が飛ぶ。

アシュは、まるで別人のようだった。

「な、なんだあいつは……!」

敵の一人が恐怖に震える声で叫ぶ。

「化け物か……!」

しかし、アシュは止まらない。

ただ、前へ。

祭壇へ——。

———

ついに、アシュは祭壇の前に辿り着いた。

ルシウスが、ゆっくりとこちらを振り向く。

その目には、驚きと……悲しみが宿っていた。

「よくここまで来たな、継承者よ」

ルシウスが静かに言う。

「しかし、もう遅い。儀式は完成に近づいている」

アシュは剣を構え、叫ぶ。

「まだ終わっていない! 今すぐ儀式を止めろ!」

ルシウスは首を横に振る。

「止めることはできない。もう、私には後戻りはできないのだ」

そして、ルシウスは杖を掲げた。

その瞬間、魔法陣が激しく輝き、祭壇から巨大な光の柱が立ち上る。

空気が震え、地面が揺れる。

アシュは歯を食いしばり、光の柱に向かって走り出した。

「止めてみせる……! 絶対に……!」

右手に剣を握りしめ、左手にライフ・サンクチュアリの力を込める。

生命の光と、死の闇——二つの力がぶつかり合おうとしていた。
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