人間不信の黒鷹王子は捨てられ令嬢に手懐けられる

poi

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4 アルベルティーヌの過去

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 (アルベルティーヌside)


 クロを拾って一週間。今日は朝から久しぶりに雨が降っている。
 ここ数日のルーティンがこなせず残念な気持ちになった。雨の日はとても嫌い。


 あいにくの雨なのでハンカチや小物への刺繍やレース編みをしようと裁縫箱を取り出した。
 するとクロが裁縫箱をじっと見つめていることに気がついた。

 「あら!クロちゃん、お裁縫箱が気になるの?キラキラしていて興味あるかもしれないけど、これは針だから痛いわよ!食べないでね?」

 『ピィィィィィ食わねぇよ!!!!』


 クロちゃんは、本当にお利口さん。
 言葉を理解してくれてるのかしら?なんて、思ってしまうくらい。


 「──クロちゃん相手だとつい話しかけてしまうわね。鳥さんですから話しかけても意味がありませんのに……」


 ────

 アルベルティーヌが10歳の時に両親が病で亡くなった。特に大好きだった母が亡くなった日は、雨がしとしとと降る寒い晩秋のことだった。

 元々、アルベルティーヌの母セレスティーヌは体が弱かった。そのためセレスティーヌと父ローランは次の子供を諦め、一人娘のアルベルティーヌを大層愛した。

 母は古い侯爵家の生まれだったが、身体も弱く三女だったために格下の伯爵家に嫁いだ。
 だが、モルヴァド領は薬草の栽培に適した地で薬師や医者も多く、身体の弱いセレスティーヌのことを考えた婚姻だった。
 モニエ家自体も歴史の長い家であり、領地の税収も良い。家格としては下だが、条件としては非常に良かったのだ。


 母と父は、娘のことを可愛がりながらも、教育は熱心に行った。
 将来婿を取り領地運営を行うことを見据え、令嬢としての基礎教育だけでなく、領地運営に関わる事柄まで教育を始めていた。

 しかし、アルベルティーヌが10歳になった春、母は流行病に罹り急激に衰弱した。秋になると食事が取れなくなり、そして亡くなった。半年間という短い闘病生活であった。
 そして、父も後を追うように流行病で亡くなってしまった。


 両親が亡くなり、アルベルティーヌの後見として領地を継いだのは父方の叔父のセザールだった。
 叔父セザールは医者で、母の看病のために邸に出入りしていた薬師のデボラという若い女性が妻だった。

 セザールとはあまり仲良くなかったが、デボラはとても優しく、アルベルティーヌはデボラを慕っていた。
 アルベルティーヌは大好きな母のことを思うと少し寂しかったが、次の母がデボラで良かった、と思った。


 そんな優しかったデボラがいきなり変わってしまったのは、叔父夫妻が邸に来て三年目のことだった。

 『いい?家を追い出されたくなければ、おとなしく言う事を聞きなさい』


 言うことを聞いたら愛されるのではないか、また優しくしてくれるのではないか、と思っていたのは甘かった。

 少し失敗しただけで叩かれる。しまいにはお仕置きと称して拘束されて軟禁されるようになった。
 それまで施されていた教育も受けられず、アルベルティーヌ付きの侍女も解雇された。


 デボラは欲が出たのだろう。モニエ家を血の繋がったコリンヌに継がせたいのだろう、と思った。

 食べ盛りにあまり食べさせないことで、アルベルティーヌは成長が遅くなってしまった。
 新入りの侍女のサリーが隙を見計らって食事を持ってきてくれていたのだが、育ち盛りの少女には足りない量だった。


 7歳の小さな義妹コリンヌには懐かれていて、妹は屈託のない笑顔でアルベルティーヌの後をくっついて歩いた。
 アルベルティーヌは無邪気なコリンヌの事を羨ましいと思いつつ、遠ざけることは出来なかった。
 あの家で普通に接してくれたのは年の離れた義妹のコリンヌと、食事を運ぶ侍女サリーだけだった。

 そして、15歳の時に義母デボラによりこの別邸に追いやられて現在に至る。


 アルベルティーヌは20歳だというのに、体は小さく細く、他の貴族令嬢のような豊満な胸もふくよかなお尻もない。
 服を着たら見えないが、足首や手首には拘束具の痕が残ってしまっている。

 「私ね、本当は再婚前の両親のような仲の良い夫婦に憧れていたのよ。でももう無理ね。体に傷がついているし、20歳になってしまったもの……変な加虐趣味の貴族や、年上の貴族の後妻にされなかっただけ幸せだと思うことにしたの」


 って私ったら、いくら雨の日が嫌いで、静かな部屋が寂しいからって……これじゃ独り言だわ!


 「ふふ……クロちゃんには分からないわよね!暗い話をしてしまってごめんなさいね」

 「こんな雨の日は手慰みにこうして針仕事をするの。何かに集中していないと両親のこと、そしてあの家にいるコリンヌのことを思い出してしまうから……」


 ──涙が滲む。こんなことクロちゃんに零しても仕方がありませんのに。

 でも困ったように『ピィ』と時々相槌を打つように鳴くクロが、まるで寄り添ってくれているように感じて、言葉を止めることができなかった。
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