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14 そんな顔はそんな顔だよ

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 (エリクSide)


 「──エリク、お前ニヤニヤしすぎだろ……」

 馬車の向かいには完全に拗ねている親友の姿。いじりすぎたか。
 うん、やっぱり人間に戻っても鷹みたいな顔つきなんだよな。黒髪で、眼光鋭い金の瞳。コワモテクール系イケメン、ってやつだな。
 背もすっかり高くなったし、なんていうかすっかり大人になったな~って、お兄さんちょっと感激しているよ。

 「だってお前完全にアルベルティーヌ嬢のペットなんだもん。人間不信の王子様がすっかり手懐けられちゃって……裸にリボンで、ねぇ?」
 「……うるさい」


 全裸に首に結ばれた緑のリボン……という変態な格好で座り込むクロヴィスに気付いた俺は、悲鳴を上げるのを何とか堪えて、急いで市で服を一通り揃えた。
 クロヴィスが人間に戻ったことは嬉しかったが、その異様な光景に笑いを抑えることが出来なかった。

 王宮に戻る馬車の中で一通り経緯を聞いたが、親友はなかなか濃厚な一ヶ月を過ごしたようだった。
 まさか、初恋相手にまた拾われるとはねえ。まさにこういうのを『運命』って呼ぶのかねえ……


 「──で、どーすんの?アルベルティーヌ嬢とマニエ家。上手くやらないとアルベルティーヌ嬢と味方っぽいコリンヌ嬢も巻き込まれるだろ?」

 「まず調べないことにはどうするもこうするもないがな……一応、一週間で別邸と本邸を少し調べてきた」

 「なんかめぼしいのはあった?」

 「調べたいと思って持ち出してきたのは、別邸と本邸の管理帳簿を昨年度分まで三年分。今年分は無くなってたらさすがに騒がれそうだからな。あとは別邸の森の研究施設と違法植物の栽培、隣国の隠蔽魔法、叔父のセザールと繋がりのある貴族……が気になるな」

 ──隣国の違法植物に関する偵察に行った帰りに、国内で違法植物の栽培を見つけるとか……こいつもなかなか引きが良いよな。


 「そうだね。コリンヌ嬢も15歳の割に大人びててしっかりしていたようだけど、さすがに知らないことも多いかあ。もうデボラに直接会うか?」

 「デボラにも話を聞きたいが……コリンヌ嬢の話だけで、まだ完全に信用しきれていない。もう少し調べてある程度分かったら、だな」
 「──ただ、調べるにしても、協力関係にありそうな貴族をまず絞り込まないと、下手に情報部や魔術分析官にも頼めないだろ?コリンヌ嬢の話では軍閥の高位の貴族家、と言っていたが……」

 ──軍閥ねぇ……公爵とか侯爵とか色々いるなあ。近衛騎士団の活動としては……動きづらいことこの上ないねぇ……


 「まぁなんにせよ、しばらくはお前が人間に戻った、というか国内にいることは伏せといた方が動きやすそうだな。お前と俺だけじゃ情報集めるのに……そうだな、アルノーくらいには事情説明したらどうだ?」

 「ああ、アルノーなら信用できる。シュメルの内情にも詳しいしな。そうするよ。叔父セザールやデボラについて何か出ればいいんだが」

 ──何か出るも何も、話聞いてる限り出る要素しかなくね???叩けば埃がバンバンだろ。


 「まぁ……最悪、アルベルティーヌ嬢は先代のオーバン侯爵の孫娘に当たるわけだし?あの方なら可愛い娘と孫娘について調べるってなったらどんな手も使いそうだよな。それどころか喜んで養女にするだろ」

 「オーバン侯爵家か……クレール殿か……それは最終手段だな……」

 「『アルベルティーヌ嬢を下さいっ!』って気軽に言える相手じゃねえよな。あの爺さん。ま、その前に初恋のお嬢様にかっこいいとこ見せて思い出してもらわねぇとな。まぁ頑張れ」


 「……早く気付いてやれなかった男に求婚する資格なんてない。ベルが愛してくれたのは俺じゃなくだ」


 ──あーあーあー……もうすっかり恋する男の顔だよ。哀愁と色気ダダ漏れ。三週間でこんなメロメロに手懐けられちゃって……


 「……お前、他の女の前でそんな顔するなよ?」
 「そんな顔ってどんな顔だ」
 「そんな顔はそんな顔だよ!捨てられた子犬みたいな顔な!」


 ──なんせ顔もいいし、身分もいい。国内の独身貴族で一番優良物件だからな。
 そんな捨てられた子犬みたいな……庇護欲を掻き立てる顔してたら、狼のような令嬢たちに食われちまうぞ……?
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