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1章:安藤日和(クラスの友達を一人作れ)
修羅の部屋
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部屋に響き渡るのはモリカの陽気な音楽だった。
その音色とは裏腹に、部屋に漂う雰囲気は殺伐としている。
「文也くん」
テーブルを隔てた先に佇む日和先輩が僕の名前を呼ぶ。
冷たい淡々としたトーン。それは彼女の心を具現化しているようだった。
「この女性は一体誰なの?」
意図的か『女性』という部分が強調されているように感じた。
僕は隣で同じように正座する天音さんに顔を向ける。彼女もまた僕の方を向く。「やっちゃった」と言わんばかりの困惑した表情を見せていた。
「えっと、隣人の東坂 天音さんです」
「ど、どうも~。いつもふみ……最上くんがお世話になってま~す」
日和先輩は天音さんに冷ややかな視線を送る。天音さんは日和先輩の出すオーラに気圧され、助けを求めるように僕を見た。
そんな悲しい顔をされても僕に助ける手立てはない。むしろ僕が助けてほしいくらいだ。昨日天音さんに渡した合鍵がまさかこんな裏目に出るとは思いもしなかった。
「あなたは文也くんとどういう関係なんですか?」
「どういう関係って言われても……ただの隣人かな……」
「ただの隣人がなんで文也くんの部屋に勝手に入っているんですか?」
「そっか! 確かに変だね!」
天音さんは、納得がいったのか右手を握って、左手の平を叩いた。
その言動は日和先輩の機嫌を余計に損ねるのでは。そう思ったものの日和先輩は怒るよりも呆れた表情を見せていた。
「文也くん、この人とはどういう関係なの?」
「どういう関係と言われても……」
天音さんの言ったように隣人でしかない。ただ、じゃあなんで隣人が勝手に部屋に入っているのかと聞かれるとぐうの音も出ない。
ここは何というべきか。
場に静寂が訪れる。聞こえるのはモリカの音色。ただそれだけ。
そこで僕はハッとした。
「天音さんとは『モリカ仲間』です」
「モリカ?」
「はい。天音さんはモリカが大好きなんです。ただ、金銭的な事情でモリカを買うことができないので、仕方なく僕が貸してるんですよ」
「そうなの! それで、ふみ……最上くんがあなたと一緒に過ごすようになったからモリカを一人でもできるようにスペアキーをくれたってわけ!」
「なので、僕らは付き合ってるとかじゃないんです。対等というか主従関係みたいなもんなんですよ」
「そうそう、主従……えっ! 私たちそんな関係だったの!」
勝手な関係を築かされていたことに、天音さんは驚きの声をあげた。
日和先輩はまだ納得ができていないようで、腕組みをしながら僕らを見る。
「天音さんでしたっけ?」
「はい! 天音です!」
「事情は分かりました。文也くんがそう言うのなら今回は信じます」
「あ、ありがとう」
「ですが、今後は文也くんの家に上がらないでください。モリカは自分で買ってください」
「ええっ! 日和さん! それだけは勘弁してください!」
天音さんは心底嫌だったようで、光のような速さで日和先輩の隣に移動すると、彼女の足に絡まって懇願する。心なしか目元に涙が浮かんでいた。
日和先輩は予想だにしていなかったみたいで、呆気に取られる様子で天音さんを見る。
「ほ、本当に嫌なんですね」
「だってモリカ大好きだもん! だから取られたくないんだもん!」
泣きつく天音さんに日和先輩はたいそう困った様子だ。やがて僕の方に顔を向け、助けを求めるような表情を見せる。懇願が伝染し始めていた。
「文也くん、天音さんにモリカを貸してあげたら?」
なんとなく予期していた事を言われた。しかし、僕もそんなにお人好しではない。モリカを貸してあげると言うことはゲームハードも一緒に貸さなければならないと言うことだ。
そうなったら、僕は家にあるすべての娯楽を失ってしまう。
ただ、この状況で私情を口にしようものなら、日和先輩からのお怒りが来ることは間違いない。ここは彼女を巻き込む形で説得しよう。
「貸してあげたいのは山々なんですけど、天音さんに貸す場合、ゲームハードも一緒に貸さないといけません。そうなると、これから日和先輩と一緒にゲームができなくなってしまいます」
僕の発言に日和先輩は瞳を大きく開かせる。
「一緒にゲーム……流石にそれはいただけない。天音さん、やっぱりモリカは自分で買ってください」
「ええー! 嫌だよー! 日和先輩! お願い! せめてモリカだけは勘弁してください! ふみやんには何してくれても良いので!」
まるで人質を取られたかのような言い草だ。一応は僕のものなんだけどな。それと天音さんの方が年上なのに、どうして先輩呼びをしているのか。
「そうだ! ひとまず、私の部屋に置いておいて、日和先輩が来た時に取りにいくってのはどう? 私の部屋のスペアキーを日和先輩に渡すから!」
おいおい。なんてアイデアを提案してくれているんだ。さすがは自分の大切なものを取られたくないだけはある。火事場の馬鹿力(思考力ver)と言ったところか。
「ごめんなさい。流石に知らない人のスペアキーをもらうわけにはいかないです」
「じゃあ、ふみやんに?」
「それだと本末転倒ですよ」
「お願い! モリカが大好きなの! モリカがないと生きていけないの!」
「私だって文也くんのこと大好きだから!」
やり返すように部屋に日和先輩の大声が響く。本人もまさか自分が大声で叫ぶとは思っていなかったのか口にした瞬間、口を手で覆った。天音さんも僕も言葉が出せず、三度部屋にはモリカのBGMだけが響き渡る。
「私だって……文也くんのこと……大好きだから……」
噛み締めるように小さな声で同じセリフを繰り返す。
予想もしていなかった発言に、僕は開いた口が塞がらなかった。
まだ付き合って数日しか経っていないと言うのに、そこまで思ってくれていたとは。
これは僕としても誠意を見せないとな。
「分かりました。では、こうしましょう。モリカとゲームハードは天音さんの部屋に置いておくことにします。普段は天音さんに使ってもらい、日和先輩が僕の家に遊びに来る予定があれば、その日だけ返してもらう。どうですか?」
「ふみやんがそれでいいなら私は構わないよ」
「……それなら、私も賛成です」
代償はあるものの、日和先輩の気持ちに比べれば安いものか。
話が一通り済んだからか、嵐は過ぎ去り、静けさが漂う。
いずれもモリカの音楽はずっと部屋に響き渡っていた。
その音色とは裏腹に、部屋に漂う雰囲気は殺伐としている。
「文也くん」
テーブルを隔てた先に佇む日和先輩が僕の名前を呼ぶ。
冷たい淡々としたトーン。それは彼女の心を具現化しているようだった。
「この女性は一体誰なの?」
意図的か『女性』という部分が強調されているように感じた。
僕は隣で同じように正座する天音さんに顔を向ける。彼女もまた僕の方を向く。「やっちゃった」と言わんばかりの困惑した表情を見せていた。
「えっと、隣人の東坂 天音さんです」
「ど、どうも~。いつもふみ……最上くんがお世話になってま~す」
日和先輩は天音さんに冷ややかな視線を送る。天音さんは日和先輩の出すオーラに気圧され、助けを求めるように僕を見た。
そんな悲しい顔をされても僕に助ける手立てはない。むしろ僕が助けてほしいくらいだ。昨日天音さんに渡した合鍵がまさかこんな裏目に出るとは思いもしなかった。
「あなたは文也くんとどういう関係なんですか?」
「どういう関係って言われても……ただの隣人かな……」
「ただの隣人がなんで文也くんの部屋に勝手に入っているんですか?」
「そっか! 確かに変だね!」
天音さんは、納得がいったのか右手を握って、左手の平を叩いた。
その言動は日和先輩の機嫌を余計に損ねるのでは。そう思ったものの日和先輩は怒るよりも呆れた表情を見せていた。
「文也くん、この人とはどういう関係なの?」
「どういう関係と言われても……」
天音さんの言ったように隣人でしかない。ただ、じゃあなんで隣人が勝手に部屋に入っているのかと聞かれるとぐうの音も出ない。
ここは何というべきか。
場に静寂が訪れる。聞こえるのはモリカの音色。ただそれだけ。
そこで僕はハッとした。
「天音さんとは『モリカ仲間』です」
「モリカ?」
「はい。天音さんはモリカが大好きなんです。ただ、金銭的な事情でモリカを買うことができないので、仕方なく僕が貸してるんですよ」
「そうなの! それで、ふみ……最上くんがあなたと一緒に過ごすようになったからモリカを一人でもできるようにスペアキーをくれたってわけ!」
「なので、僕らは付き合ってるとかじゃないんです。対等というか主従関係みたいなもんなんですよ」
「そうそう、主従……えっ! 私たちそんな関係だったの!」
勝手な関係を築かされていたことに、天音さんは驚きの声をあげた。
日和先輩はまだ納得ができていないようで、腕組みをしながら僕らを見る。
「天音さんでしたっけ?」
「はい! 天音です!」
「事情は分かりました。文也くんがそう言うのなら今回は信じます」
「あ、ありがとう」
「ですが、今後は文也くんの家に上がらないでください。モリカは自分で買ってください」
「ええっ! 日和さん! それだけは勘弁してください!」
天音さんは心底嫌だったようで、光のような速さで日和先輩の隣に移動すると、彼女の足に絡まって懇願する。心なしか目元に涙が浮かんでいた。
日和先輩は予想だにしていなかったみたいで、呆気に取られる様子で天音さんを見る。
「ほ、本当に嫌なんですね」
「だってモリカ大好きだもん! だから取られたくないんだもん!」
泣きつく天音さんに日和先輩はたいそう困った様子だ。やがて僕の方に顔を向け、助けを求めるような表情を見せる。懇願が伝染し始めていた。
「文也くん、天音さんにモリカを貸してあげたら?」
なんとなく予期していた事を言われた。しかし、僕もそんなにお人好しではない。モリカを貸してあげると言うことはゲームハードも一緒に貸さなければならないと言うことだ。
そうなったら、僕は家にあるすべての娯楽を失ってしまう。
ただ、この状況で私情を口にしようものなら、日和先輩からのお怒りが来ることは間違いない。ここは彼女を巻き込む形で説得しよう。
「貸してあげたいのは山々なんですけど、天音さんに貸す場合、ゲームハードも一緒に貸さないといけません。そうなると、これから日和先輩と一緒にゲームができなくなってしまいます」
僕の発言に日和先輩は瞳を大きく開かせる。
「一緒にゲーム……流石にそれはいただけない。天音さん、やっぱりモリカは自分で買ってください」
「ええー! 嫌だよー! 日和先輩! お願い! せめてモリカだけは勘弁してください! ふみやんには何してくれても良いので!」
まるで人質を取られたかのような言い草だ。一応は僕のものなんだけどな。それと天音さんの方が年上なのに、どうして先輩呼びをしているのか。
「そうだ! ひとまず、私の部屋に置いておいて、日和先輩が来た時に取りにいくってのはどう? 私の部屋のスペアキーを日和先輩に渡すから!」
おいおい。なんてアイデアを提案してくれているんだ。さすがは自分の大切なものを取られたくないだけはある。火事場の馬鹿力(思考力ver)と言ったところか。
「ごめんなさい。流石に知らない人のスペアキーをもらうわけにはいかないです」
「じゃあ、ふみやんに?」
「それだと本末転倒ですよ」
「お願い! モリカが大好きなの! モリカがないと生きていけないの!」
「私だって文也くんのこと大好きだから!」
やり返すように部屋に日和先輩の大声が響く。本人もまさか自分が大声で叫ぶとは思っていなかったのか口にした瞬間、口を手で覆った。天音さんも僕も言葉が出せず、三度部屋にはモリカのBGMだけが響き渡る。
「私だって……文也くんのこと……大好きだから……」
噛み締めるように小さな声で同じセリフを繰り返す。
予想もしていなかった発言に、僕は開いた口が塞がらなかった。
まだ付き合って数日しか経っていないと言うのに、そこまで思ってくれていたとは。
これは僕としても誠意を見せないとな。
「分かりました。では、こうしましょう。モリカとゲームハードは天音さんの部屋に置いておくことにします。普段は天音さんに使ってもらい、日和先輩が僕の家に遊びに来る予定があれば、その日だけ返してもらう。どうですか?」
「ふみやんがそれでいいなら私は構わないよ」
「……それなら、私も賛成です」
代償はあるものの、日和先輩の気持ちに比べれば安いものか。
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いずれもモリカの音楽はずっと部屋に響き渡っていた。
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