保健室の先生に召使にされた僕はお悩み解決を通して学校中の女子たちと仲良くなっていた

結城 刹那

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1章:安藤日和(クラスの友達を一人作れ)

彼女の他事情

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「これ、うまいですね」

 誤解が解け、ひと段落したところで僕たちは日和先輩が持ってきてくれたクッキーをいただくことにした。

 バター、アーモンド、チョコの計三種類のクッキー。

 いつも食べているクッキーに比べて柔らかい。それでいてサクサク感がなくなっていないのが凄い。味も良好。食べた後のパサパサも少ない。三種類の中だとバターが一番舌に合っていた。

「ほんと! 私が一番好きなお菓子だから文也くんに美味しいって言ってもらえて嬉しいな。本当は紅茶を注いでこようと思ったんだけど、お湯沸かしたりするのに時間がかかりそうだったから麦茶で我慢してね」

「別に気にしてないですよ。麦茶も美味しいですし」

 パサパサが少ないとはいえ、たくさん食べれば口は乾いてくる。
 麦茶を飲むことで喉を潤わす。若干の寒さが漂う春とはいえ、冷たい飲み物は心地よかった。多分、先ほどの一件によって体が熱くなっているのが原因だろう。

「その……さっきの続きなんだけどさ……」

 僕の心に同調するように、日和先輩が先ほどの一件をぶり返す。思い出したことで高鳴った心臓が、その言葉に共鳴して、さらに大きく動く。

「文也くんにあんなことを言ってしまったのは他にも理由があるんだ」

 ただ、続け様に出た意味深な発言によって強制的に高鳴った鼓動を萎縮させられた。

「他の理由?」

「うん」

 日和先輩は僕の方を見てはいなかった。眺めるのは自分の前にある麦茶のコップ。表面の波を見ているのか、ガラスに映った自分の顔を見ているのかは僕には分からなかった。

「昨日ね、文也くんのお姉さんと妹さんと帰った時に、昔の文也くんについて聞いたの」

 昔の僕。その言葉でなんとなく察することができた。
 日和先輩はきっと同情してくれたのだろう。もしそうであるなら、僕としては喜ばしいことかもしれない。

「今日の帰りに、保健室にいたのって持病が原因だったの?」

「日和先輩の言うとおりです。眠気に耐えられなかったので、保健室で居眠りをしていました。とは言っても、昔に比べたら軽くなったので、心配しなくていいですよ」

「なら良かった……って言う話じゃないか。休日の時も食事中に眠っていたけど、気づいたら寝ちゃってる感じなの?」

「おおよそは。ナルコレプシーよりかは多少マシですが、眠気が来たタイミングでアクションを起こさないと、気づいたら眠ってしまって迷惑かけちゃうので。とは言っても、眠いから保健室に行くのも同じくらい人から嫌に思われるんですけど」

「どうしてそう思うの?」

「人生訓ですよ。今まで生きてきた中で、僕が導き出した結論です」

 眠いと言う感情はほとんどの生徒が持っている。持病だから「寝ても許される」と言うのは、先生からしたら仕方のないことだと割り切ってもらえる。

 だが、同じ立場であるクラスメイトは「あいつだけ寝られるなんてずるい」と嫉妬を抱かせてしまうのだ。しかも、そう思う生徒は少なくない。

 まあ、僕が学校ではあまり目立つ方でなかったのが一つの原因ではあろうが。

「辛かったよね?」

「どうなんでしょう? 辛いといった感情はなかったかもしれないです」

 当時のことを思い出してみる。
 思い出して見ても特に何も思わないのは辛くない証だろう。僕が彼らから受けた仕打ちは取るに足らないものだったのだ。

「抱いたとしたら、疑問……それから落胆ですかね……」

最初は『自分の体質にも関わらず、どうして酷い仕打ちを受けなければいけないのか』だった。それがいつしか『自分の体質は酷い仕打ちを受けるものなんだ』に変わっていた。

「落胆……」

 日和先輩は僕の言葉を噛み締めるように自分の口から言ってみせた。
 部屋に沈黙が訪れる。今、日和先輩は何を考えているのだろうか。生まれた静寂は僕に彼女のことを考える時間をくれた。

 ふと、コップに顔を向けていた彼女の顔がこちらを向いた。
 かと思ったら、それは僕に迫り、視界から消えていく。
 今度は前から日和先輩は僕を抱きしめていた。

 シャンプーの甘い香り。体を締め付ける柔らかい体。服を掴む彼女の握力は強かった。それは彼女の感情を表しているかのようだった。

「断られちゃったから、今日はこれで我慢するね」

 耳元で囁かれる言葉に、僕は思わず彼女の背中に手を巻きそうになる。意志の力でグッと堪えて脱力した。今ここで僕が日和先輩を抱きしめてしまえば、彼女の言った台詞を否定してしまうことになる。

「ありがとうございます」

「ありがとう、だよ。敬語は使わなくていい。それに、これからは先輩もなしにしてよ。日和って呼んで。なんだか他人行儀だから。私たちは恋人。対等な関係でしょ」

 優しい温かな声音。それでも芯のある意志のこもった声だった。
 僕は目を大きく開く。他人行儀という言葉に引っかかりを覚えた。僕の人間関係を表すにはぴったりの言葉だ。

「善処します。日和先輩」

「ははっ。全然できてないよ。罰として『日和』って呼ぶまでこの状況を続けます」

「それは罰ですか? ご褒美じゃなくて?」

「さあ、どっちでしょ? 文也が決めることだよ」

「っ! じゃあ、永遠に日和先輩って呼び続けます」

「うわぁ……私たち一心同体だね。ふふっ」

 それからしばらくの間、僕らはお互いの体を触れ合わせていた。
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