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幕間
廃部の危機
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「で、なんの相談かな?」
二人分のコーヒーを注ぎ、先生はカウンセリングにやってきた千丈 真奈(せんじょう まな)先輩の前に置く。もう一つは自分の前に置いて席についた。僕の分はないみたいだ。
「あ、あの……私、コーヒー飲めません」
「飲むまで帰さん。小学校の時に給食を残したら居残りさせられなかったか?」
「パワハラですよ! はあ……では、砂糖マシマシでお願いします」
某ラーメン店みたいな言い草で注文する。僕と先生のやりとりも側から見たらあんな感じなのだろうか。なんというか、とてもシュールだ。
四宮先生は席を立ち上がる。
シュガースティックを二本とって千丈先輩に渡す。彼女は考えるまでもなく二本入れた。とっても甘そうなコーヒーの完成だ。
「話を戻そう。相談内容を教えてもらっていいか?」
「は、はい。その……ですね……話したところで解決できるものではないのですが……」
手をもじもじさせて話を渋る。自分から保健室に来たというのに、何をもたついているのだろうか。
「カウンセリングとは解決する場所じゃない。誰かに話す、誰かに共有することで不安を和らげる場所だ。気にせず、話しなさい。
「で、では……」
一度チラッと僕を見る。
「邪魔でしたら言ってください。退出するので」
「えっ! うんうん、うんうん! 全然、全然! むしろぜひ聞いてもらいたいです!」
大きなリアクションで僕の意見を拒絶する。オーバーすぎて逆に退出してほしいと言われている気分になる。
「彼に構う必要はない。もし、彼が口外しようものなら、私が退学まで追い込んでやるから安心しなさい」
「僕が安心できないんですけど」
先生なら本当にやりそうで怖い。
僕の秘密をバラすことで自主退学。方法は確立されているので、先生の意思さえあれば不可能な話ではない。その意思を持ちそうなのが怖い。
「それで、また話が脱線してしまったが、本題を聞かせてもらっても良いかな?」
「は、はい! 実は……私の所属している部活が廃部しそうなんです」
部活の廃部。
四月の部活は新入生がやって来て盛んになる。それはあくまで入部数が多い部活に限っての話で、新入生がやって来ない部活は朽ち果ててしまうわけか。
「廃部か。それは悲しい話だな。君は何部に参加しているんだ?」
「私は『ことあそ部』に参加しています」
ことあそ部。『こそあど』は聞いたことがあるが、『ことあそ』は聞いたことがないな。
「ことあそ部ってどんな部活なんですか?」
気になったので、二人の間に割り入るように尋ねる。
「マイナーというか、この学校にしかないと思うから分からないよね。言葉で遊ぶ部活で言遊部だよ」
言葉で遊ぶ部活か。確かに聞いたことがないな。面白そうではあるけど、人を選びそうな部活であることは確かだ。
「そういえば、一昨年にそんな名前の部活ができたと聞いたな」
「はい。私の一つ上、三年生の先輩が創設した部活です」
「三年生が……なるほど。おおよそは理解した」
先生はそう言って、コーヒーを一口啜った。
「現在の部員数は何人だい?」
「えっと……恥ずかしい話ですが……私一人です」
一人とは。部活というには人数が少なすぎる。
「部活として成立するのって何人からですか?」
「五人からだ」
なるほど。四宮先生の理解が分かった気がした。
きっと廃部は必然的だったに違いない。
現在の三年生が創立したということは、三年生以上で五人以上集まっていたことになる。
彼女たちが一年生の時は創立のために勧誘に躍起になっていた。だが、成立したことで翌年は勧誘に手を抜いたのだろう。
おそらくは自分たちの学年で五人集めたに違いない。部活動は廃部にならず安泰でいられるのだから勧誘に手を抜いても構わないと思ったのだろう。もしかすると、創立者も、自分たちの代で終わらせるつもりだったのかもしれない。
しかし、想定外にも勧誘なしでも気になって入部した生徒がいた。そのため、千丈先輩は痛い目をみることになってしまった。
可哀想ではあるが、仕方のない話だな。
「四月も下旬に入りましたが、未だに誰一人として入部を希望していません。このままでは廃部を免れられません。私はどうしたらいいでしょうか?」
「それは困ったものだね」
先生はしばらく静寂を保ちながら机をじっと見つめていた。千丈先輩もまった黙ったまま先生に目を向けたり、背けたりを繰り返した。どうすればいいか分からなくなっているみたいだ。
「ひとつ聞きたいが、千丈さんは部活を存続させたいと思っているかい?」
「は、はい。できることなら……」
「理由を教えてもらってもいいかな?」
「理由は……えっと……」
千丈先輩は言い淀む。
考えていないのか、うまく言語化できないのか、表情だけでは分からなかった。
「どんな理由でも結構だよ。君の素直な意見が聞きたい」
先生は再びコーヒーを口に入れる。
コップを置く間、千丈先輩が答えることはなかった。
「まずは率直な意見を言ったほうが良さそうだな。君の話を聞いた時、私は『別に廃部になっても構わない』と思った。このまま誰も入らず、今年の部員は千丈さん一人ならば、わざわざ活動する意味はないからね。言葉遊びをしたいのなら、君一人でどこでも自由にできるからね」
一度息を吐き、話を続ける。
「部を存続させる理由が君自身のためであれば廃部になっても構わないんじゃないかな? 遊び相手が欲しいのならここにいる最上くんがなってくれると思うよ」
さらりと売られた。
まあでも、依頼と言われればやらざるを得ないのだから口答えはできない。
「だから私は君が思っていることを聞きたい。教えてくれないか?」
千丈先輩は僕をチラッと見る。
もしかして、本当に遊び相手が欲しいだけでは。女子と二人で遊ぶ。日和という存在がいる以上、色々と考慮する必要がありそうだ。
「いえ。先生の話を聞いても部を存続させたいです」
「その心は?」
「言遊部には創設者の思いがあるんです。最近は、心無い言葉で傷つく人が増えている。その傷は時に人の命すらも奪ってしまう。だからこそ、言葉について学ぶ環境が必要だと思うんです。その環境を失わせるわけにはいきません」
先ほどまでのオドオドした様子は感じられなかった。
まるで演説のような口ぶりを見せる。思わず拍手を送りたくなってくる。
「良い理由だ」
先生も納得したようで薄ら笑みをこぼす。
「千丈さんの熱い想いを聞かされては、力を貸さないわけにはいかないな」
そう言って、薄ら笑いは僕の方を向いた。
どうやら、次なる任務が舞い降りて来てしまったみたいだ。
先生と同じく薄ら笑みをこぼす。
だが、僕の笑みは苦笑いだった。
二人分のコーヒーを注ぎ、先生はカウンセリングにやってきた千丈 真奈(せんじょう まな)先輩の前に置く。もう一つは自分の前に置いて席についた。僕の分はないみたいだ。
「あ、あの……私、コーヒー飲めません」
「飲むまで帰さん。小学校の時に給食を残したら居残りさせられなかったか?」
「パワハラですよ! はあ……では、砂糖マシマシでお願いします」
某ラーメン店みたいな言い草で注文する。僕と先生のやりとりも側から見たらあんな感じなのだろうか。なんというか、とてもシュールだ。
四宮先生は席を立ち上がる。
シュガースティックを二本とって千丈先輩に渡す。彼女は考えるまでもなく二本入れた。とっても甘そうなコーヒーの完成だ。
「話を戻そう。相談内容を教えてもらっていいか?」
「は、はい。その……ですね……話したところで解決できるものではないのですが……」
手をもじもじさせて話を渋る。自分から保健室に来たというのに、何をもたついているのだろうか。
「カウンセリングとは解決する場所じゃない。誰かに話す、誰かに共有することで不安を和らげる場所だ。気にせず、話しなさい。
「で、では……」
一度チラッと僕を見る。
「邪魔でしたら言ってください。退出するので」
「えっ! うんうん、うんうん! 全然、全然! むしろぜひ聞いてもらいたいです!」
大きなリアクションで僕の意見を拒絶する。オーバーすぎて逆に退出してほしいと言われている気分になる。
「彼に構う必要はない。もし、彼が口外しようものなら、私が退学まで追い込んでやるから安心しなさい」
「僕が安心できないんですけど」
先生なら本当にやりそうで怖い。
僕の秘密をバラすことで自主退学。方法は確立されているので、先生の意思さえあれば不可能な話ではない。その意思を持ちそうなのが怖い。
「それで、また話が脱線してしまったが、本題を聞かせてもらっても良いかな?」
「は、はい! 実は……私の所属している部活が廃部しそうなんです」
部活の廃部。
四月の部活は新入生がやって来て盛んになる。それはあくまで入部数が多い部活に限っての話で、新入生がやって来ない部活は朽ち果ててしまうわけか。
「廃部か。それは悲しい話だな。君は何部に参加しているんだ?」
「私は『ことあそ部』に参加しています」
ことあそ部。『こそあど』は聞いたことがあるが、『ことあそ』は聞いたことがないな。
「ことあそ部ってどんな部活なんですか?」
気になったので、二人の間に割り入るように尋ねる。
「マイナーというか、この学校にしかないと思うから分からないよね。言葉で遊ぶ部活で言遊部だよ」
言葉で遊ぶ部活か。確かに聞いたことがないな。面白そうではあるけど、人を選びそうな部活であることは確かだ。
「そういえば、一昨年にそんな名前の部活ができたと聞いたな」
「はい。私の一つ上、三年生の先輩が創設した部活です」
「三年生が……なるほど。おおよそは理解した」
先生はそう言って、コーヒーを一口啜った。
「現在の部員数は何人だい?」
「えっと……恥ずかしい話ですが……私一人です」
一人とは。部活というには人数が少なすぎる。
「部活として成立するのって何人からですか?」
「五人からだ」
なるほど。四宮先生の理解が分かった気がした。
きっと廃部は必然的だったに違いない。
現在の三年生が創立したということは、三年生以上で五人以上集まっていたことになる。
彼女たちが一年生の時は創立のために勧誘に躍起になっていた。だが、成立したことで翌年は勧誘に手を抜いたのだろう。
おそらくは自分たちの学年で五人集めたに違いない。部活動は廃部にならず安泰でいられるのだから勧誘に手を抜いても構わないと思ったのだろう。もしかすると、創立者も、自分たちの代で終わらせるつもりだったのかもしれない。
しかし、想定外にも勧誘なしでも気になって入部した生徒がいた。そのため、千丈先輩は痛い目をみることになってしまった。
可哀想ではあるが、仕方のない話だな。
「四月も下旬に入りましたが、未だに誰一人として入部を希望していません。このままでは廃部を免れられません。私はどうしたらいいでしょうか?」
「それは困ったものだね」
先生はしばらく静寂を保ちながら机をじっと見つめていた。千丈先輩もまった黙ったまま先生に目を向けたり、背けたりを繰り返した。どうすればいいか分からなくなっているみたいだ。
「ひとつ聞きたいが、千丈さんは部活を存続させたいと思っているかい?」
「は、はい。できることなら……」
「理由を教えてもらってもいいかな?」
「理由は……えっと……」
千丈先輩は言い淀む。
考えていないのか、うまく言語化できないのか、表情だけでは分からなかった。
「どんな理由でも結構だよ。君の素直な意見が聞きたい」
先生は再びコーヒーを口に入れる。
コップを置く間、千丈先輩が答えることはなかった。
「まずは率直な意見を言ったほうが良さそうだな。君の話を聞いた時、私は『別に廃部になっても構わない』と思った。このまま誰も入らず、今年の部員は千丈さん一人ならば、わざわざ活動する意味はないからね。言葉遊びをしたいのなら、君一人でどこでも自由にできるからね」
一度息を吐き、話を続ける。
「部を存続させる理由が君自身のためであれば廃部になっても構わないんじゃないかな? 遊び相手が欲しいのならここにいる最上くんがなってくれると思うよ」
さらりと売られた。
まあでも、依頼と言われればやらざるを得ないのだから口答えはできない。
「だから私は君が思っていることを聞きたい。教えてくれないか?」
千丈先輩は僕をチラッと見る。
もしかして、本当に遊び相手が欲しいだけでは。女子と二人で遊ぶ。日和という存在がいる以上、色々と考慮する必要がありそうだ。
「いえ。先生の話を聞いても部を存続させたいです」
「その心は?」
「言遊部には創設者の思いがあるんです。最近は、心無い言葉で傷つく人が増えている。その傷は時に人の命すらも奪ってしまう。だからこそ、言葉について学ぶ環境が必要だと思うんです。その環境を失わせるわけにはいきません」
先ほどまでのオドオドした様子は感じられなかった。
まるで演説のような口ぶりを見せる。思わず拍手を送りたくなってくる。
「良い理由だ」
先生も納得したようで薄ら笑みをこぼす。
「千丈さんの熱い想いを聞かされては、力を貸さないわけにはいかないな」
そう言って、薄ら笑いは僕の方を向いた。
どうやら、次なる任務が舞い降りて来てしまったみたいだ。
先生と同じく薄ら笑みをこぼす。
だが、僕の笑みは苦笑いだった。
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