保健室の先生に召使にされた僕はお悩み解決を通して学校中の女子たちと仲良くなっていた

結城 刹那

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2章:千丈真奈(部員を5人集めよ)

現在のポスター

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「これが……ポスターですか……」

 言遊部のポスターは想像以上に酷いものだった。

 部活動のポスターと言われればどういったものを思い出すだろうか。

 僕としては鍵となるイラストが大々的に描かれているイメージだ。野球ならバッティングやピッチング、サッカーならシュートやセービングなどなど。

 文字で書かれているのは『活動場所』『活動日時』『部員数』など必要最低限の情報だけだ。それらを適切に配置して一目見て分かるようにする。

 だが、言遊部のポスターは僕の想像しているポスターとは全く逆のものだった。

 イラストは皆無。全て文字で彩られている。

 文章は綺麗に配置はされているが、レポートのようにぎっしり書かれている。創設理念、活動場所、活動日時、部員数、そして言葉の雑学がコラムとして載っている。まるで『学年だより』みたいだ。
 
 最悪なのはポスターを掲示した場所だ。

 下駄箱にある掲示板は、学校からのお知らせと部活動のポスターが左右で分けられている。ただ、部活動の数が多い故にポスターが学校からのお知らせに侵略している部分がある。

 侵略した部分に言遊部のポスターがあるのだ。
 隣には学校からのお知らせが掲示されている。つまり、一番近い位置にある。

『学年だより』のような分量で、学校からのお知らせに近い位置とあれば、ほとんどの生徒は部活動のポスターだと思わずスルーするだろう。僕が見逃していた理由もこれに違いない。

 言遊部では読めないと思ったのか『こ・と・あ・そ・ぶ』とポップなタイトルにしているのも完全にミスだ。学年だよりっぽさを加速させてしまっている。

「やっぱり変かな?」

 僕たちの反応を見て、千丈先輩は苦い笑みを浮かべる。

「う、うん。浮いているような……浮いていないような……」

 日和は肯定はするものの、曖昧な理由を述べる。
 彼女の言うとおり、部活動のポスターとしては浮いているが、学校からのお知らせとしては浮いていない。

「言葉は良いんだけど……なんていうか地味だよね……」

 飯塚先輩が少し直接的な言い方をする。

「だよね。地味だよね」

 心を掠めた程度の傷だが、脈を引き裂かれたように千丈先輩は下駄箱に手を置いて項垂れる。

「あー、別に悪い意味じゃないよ。ただ、これだと伝えたいことが伝わらないような気がして!」

 ご機嫌をとるように慌てた様子で弁解する。

「うん。分かってた。こんな長い文章を靴を履き替える間に読むわけないって……」

 千丈先輩はまるで暗い部屋に一人取り残されたようなテンションで喋る。僕らはただ黙って彼女を見ることしかできなかった。

 今までの話を踏まえると、千丈先輩はレイアウトが悪く見向きもされないことが分かっていながらも今のポスターを使っているみたいだ。

 どうして変えないのか。
 考えられる理由は一つだ。

「これって前部長が作ったポスターですか?」

「うん。一昨年作成したポスターを再利用しているの」

「なるほど。千丈先輩、もしかして前部長を悲しませたくないから今のポスターのまま掲示しているんですか?」

 僕の問いに千丈先輩はあからさまな動揺を見せる。ポーカーフェイスという言葉を知らないような分かりやすい反応だ。

「悲しませたくないってどういうこと?」

 千丈先輩に視線を注いでいると、あらぬ方向から尋ねられる。見ると、飯塚先輩が疑問符を浮かべた表情をしていた。この人もポーカーフェイスを知らなさそうだな。

「前部長は言遊部に在籍していないものの、うちの学校に在籍しています。強豪以外は三年生に進級と同時に引退ですからね。下駄箱にポスターを貼るということは少なからず前部長の目にも入る。その時に、自分が作ったものではないポスターが貼られていれば良い気にはなりませんよね」

「確かにそうだ。仕方ないとはいえ、悲しくはなるかな」

 納得させられたところで、再び千丈先輩の方へ向く。
 彼女がそう考えるのなら、下手にポスターを変えるわけにもいかない。とはいえ、いつまでも前部長を引きずるのは今後のためにはならない。

 受け継ぐべき伝統は受け継ぎ、受け継ぐ必要のない伝統は受け継がない。新入生に興味を引くことを目的とするなら、今のポスターではダメだ。

「千丈先輩の気持ちは分かります。ただ、現状では今のポスターで新入生の入部は期待できないでしょう。おそらく存在すらも認知されないと思います。あと四人入部させないと廃部になる。ポスターを変えられるか、このまま廃部になるか、前部長はどちらを悲しむと思いますか」

 二択にすることで選択をさせやすくする。ポスター以外の方法で勧誘するということをつぶしておく。

「私は……」

 顔を俯かせて悩む。僕からは彼女の表情は見えなかった。
 苦渋の選択ではあるが、やむを得ない。次に進むためには、千丈先輩に負担を強いる必要がある。

「真奈ちゃんが思っているほど辛いものではないよ」

 静寂を破ったのは日和だった。千丈先輩は顔を上げて日和を見る。僕も同調するように視線を送った。

「ポスターを変えても、前部長の思いは残すことができるから」

 日和はそう言って掲示板に目を向けた。
 日和の言うとおりだ。新しく変えたとしても、今の情報を反映させることができる。思いは受け継ぐことができる。

「そっか。そうだよね」

 ひとりごちるように呟く。見ると、千丈先輩の表情は覚悟を決めたように晴れやかだった。

「新しく作成しよう。新生言遊部の始まりだよ」

 決め台詞とでも言うように格好よく言い放った。
 ポスター作成の始まりだ。
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