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2章:千丈真奈(部員を5人集めよ)
お泊まりデート6
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「お先に失礼し……ます」
リビングに戻ると食卓にいた母親は机に突っ伏していた。
彼女の向かいに日和は座りながらこちらを微笑ましく見る。
「おかえり。湯加減はどうだった?」
「丁度良かった。いつも入っている湯船よりも広かったから疲れも取れやすかった」
さすがは富豪のいえと言うべきか湯船の大きさは自分の家の二、三倍はあった。実家よりも広いのは確かだ。それを独り占めできるなんて贅沢でしかなかった。
「良かった」
「日和のお母さんは寝ちゃったみたいだね」
「うん。話している最中に滑舌が回らなくなって気絶するように寝込んじゃった」
疲労と泥酔で限界を迎えたらしい。
僕と話していた時は普通にしていたのに。日和と同じく人前で強がる質なのだろう。
「お母さんをリビングのソファーに連れていくの手伝ってもらっていい?」
「うん。分かった」
僕たちは母親をソファーに連れていくために動き始める。
日和が彼女の体を引っ張って椅子を右に回転させる。僕は母親の前に腰を下ろし、日和が逆に体を押すことで僕の背中に乗せる。
あとは僕がおんぶしてソファーに運んだ。
ソファーに運び終えるまで母親はぴくりとも動かなかった。日和の言っていたように本当に気絶しているみたいだ。
「これでよし!」
広いソファーに仰向けで寝転ぶ母親を見て日和は声を上げる。
無防備な体制だ。お酒を飲んで色っぽくなっているのも相まって日和がいなかったら変な気を起こしそうだ。
「寝かせたままにしていいの? 風呂にも入ってないし、化粧も落としてなさそうだけど」
「大丈夫ではないけど、起こそうとしても全然起きないと思うからこのままにするしかないんだよね」
「なるほど。あれだけ揺すっても起きる気配すらなかったもんね」
「うん。きっと私たちが起きた時にはいつものお母さんに戻ってるよ。といっても文也はいつもを知らないか」
日和は腰を落とし、母親の腕に触れる。
「おやすみなさい」
囁くように優しく声をかけ、立ち上がった。
「日和はお母さんのこと好き?」
一連の流れを見て、僕は思わず日和に尋ねる。
母親は日和に対して半ばネグレクトのような扱いをしていた。愛情を与えられなかったことに対して日和はどう思っているんだろうか。
「好きだよ」
日和はさも当然のように応える。
僕は呆気に取られた。彼女の瞳は偽りは一切ないと言っているかのように光り輝いていた。
「お母さんに何か言われた?」
僕が変なことを尋ねたからか、日和に追求される。
「いや……」
流石に母親から伝えられたことは言えない。けど、彼女の話を聞いて僕が思ったことくらいなら伝えてもいいだろう。
「日和」
唐突に名前を呼ばれて驚いたのか、日和の目が丸くなった。
「もし、何か嫌なことがあったら相談してほしい。僕ができることなら何でもするから」
視線が交差する。
日和は言葉を交わさずに僕の気持ちを読み取っているみたいだった。
「ありがとう。私たちも寝ようか。もう夜も遅いから」
日和はそう言って玄関の方へと歩いていった。洗面所で髪を乾かしたり、歯磨きをするためだろう。
僕もまた彼女に唆されるように寝る準備を始めた。部屋に戻ってスマホを充電し、歯磨きするために洗面所に顔を出す。諸々の準備を終えると、日付はすっかり変わってしまっていた。
「じゃあ、寝よっか」
支度を終えたところで日和が声をかける。
「寝るのはいいけど、布団は敷かないの?」
「本当は敷きたかったんだけどね。でも、別の部屋から持ってくる作業が必要だから時間かかりそうなんだよね」
「そっか。じゃあ……」
じゃあ、どうするのだろうか。
日和を見ると、彼女はにっこり微笑んで僕を見ていた。
「一緒に寝よ。シングルだからちょっと狭いけど」
まあ、そうなるよな。
二人でシングルベッドを共有する。果たして僕は心地よく寝られるだろうか。
「どっちが壁側にする?」
「日和の方がいいかな。流石に落としたくないし」
「優しいな。それじゃあ!」
日和はそう言って布団の中へと入っていく。
そして、まるで猫を招き入れるように布団を僕に向けてひらひらさせた。
ベッドに誘われることに気が引けながらも背を向けながら入っていった。
「向かい合ってもいいのに」
耳元で囁かれる甘い声。
あと数時間この状態が続くのか。楽園の拷問だな。
「流石にそれは恥ずかしい」
「結花ちゃんや桐花さんと一緒に寝たりしないの?」
「桐花姉さんと一回だけ。姉さんの寝相によるパンチでベッドから落とされたから以降は寝てない」
「ははは。私はそんなことしないから安心してね」
「その不安は元からないよ」
「そっか」
日和の相槌を最後に静けさが漂う。
すると、右腕を体に巻かれる。背中に重量が加わり、シャンプーの甘い香りが鼻腔をくすぐった。
「アレックス。電気を消して」
声に反応して電気が消える。
僕は反射的に体を縮こませる。それに応じて絡まった腕の力が上がっていった。
「ひ、ひより……さん?」
「さっきできることなら何でもするって言ったよね?」
「う、うん。言ったけど……」
確かに言った。
だが、流石にこれは早すぎるのではないだろうか。
「私さ、普段は枕元のぬいぐるみを抱き枕にして寝るんだ。でも、今日は文也がいるから代わりこうさせてほしい」
変な妄想を働かせていると、予想外の発言をされる。
ただ、抱きしめたかっただけか。安心したような、残念なような。
普段からぬいぐるみを抱いて寝る。
やっぱり、日和は深層心理では誰かに甘えたいと思っているのだろう。
なら、承諾しないわけにはいかない。
「分かった」
僕は身を委ねるように体をリラックスさせた。
寝れないかと思っていたが、リラックスしたからか思いの外早く眠りにつくことができた。
リビングに戻ると食卓にいた母親は机に突っ伏していた。
彼女の向かいに日和は座りながらこちらを微笑ましく見る。
「おかえり。湯加減はどうだった?」
「丁度良かった。いつも入っている湯船よりも広かったから疲れも取れやすかった」
さすがは富豪のいえと言うべきか湯船の大きさは自分の家の二、三倍はあった。実家よりも広いのは確かだ。それを独り占めできるなんて贅沢でしかなかった。
「良かった」
「日和のお母さんは寝ちゃったみたいだね」
「うん。話している最中に滑舌が回らなくなって気絶するように寝込んじゃった」
疲労と泥酔で限界を迎えたらしい。
僕と話していた時は普通にしていたのに。日和と同じく人前で強がる質なのだろう。
「お母さんをリビングのソファーに連れていくの手伝ってもらっていい?」
「うん。分かった」
僕たちは母親をソファーに連れていくために動き始める。
日和が彼女の体を引っ張って椅子を右に回転させる。僕は母親の前に腰を下ろし、日和が逆に体を押すことで僕の背中に乗せる。
あとは僕がおんぶしてソファーに運んだ。
ソファーに運び終えるまで母親はぴくりとも動かなかった。日和の言っていたように本当に気絶しているみたいだ。
「これでよし!」
広いソファーに仰向けで寝転ぶ母親を見て日和は声を上げる。
無防備な体制だ。お酒を飲んで色っぽくなっているのも相まって日和がいなかったら変な気を起こしそうだ。
「寝かせたままにしていいの? 風呂にも入ってないし、化粧も落としてなさそうだけど」
「大丈夫ではないけど、起こそうとしても全然起きないと思うからこのままにするしかないんだよね」
「なるほど。あれだけ揺すっても起きる気配すらなかったもんね」
「うん。きっと私たちが起きた時にはいつものお母さんに戻ってるよ。といっても文也はいつもを知らないか」
日和は腰を落とし、母親の腕に触れる。
「おやすみなさい」
囁くように優しく声をかけ、立ち上がった。
「日和はお母さんのこと好き?」
一連の流れを見て、僕は思わず日和に尋ねる。
母親は日和に対して半ばネグレクトのような扱いをしていた。愛情を与えられなかったことに対して日和はどう思っているんだろうか。
「好きだよ」
日和はさも当然のように応える。
僕は呆気に取られた。彼女の瞳は偽りは一切ないと言っているかのように光り輝いていた。
「お母さんに何か言われた?」
僕が変なことを尋ねたからか、日和に追求される。
「いや……」
流石に母親から伝えられたことは言えない。けど、彼女の話を聞いて僕が思ったことくらいなら伝えてもいいだろう。
「日和」
唐突に名前を呼ばれて驚いたのか、日和の目が丸くなった。
「もし、何か嫌なことがあったら相談してほしい。僕ができることなら何でもするから」
視線が交差する。
日和は言葉を交わさずに僕の気持ちを読み取っているみたいだった。
「ありがとう。私たちも寝ようか。もう夜も遅いから」
日和はそう言って玄関の方へと歩いていった。洗面所で髪を乾かしたり、歯磨きをするためだろう。
僕もまた彼女に唆されるように寝る準備を始めた。部屋に戻ってスマホを充電し、歯磨きするために洗面所に顔を出す。諸々の準備を終えると、日付はすっかり変わってしまっていた。
「じゃあ、寝よっか」
支度を終えたところで日和が声をかける。
「寝るのはいいけど、布団は敷かないの?」
「本当は敷きたかったんだけどね。でも、別の部屋から持ってくる作業が必要だから時間かかりそうなんだよね」
「そっか。じゃあ……」
じゃあ、どうするのだろうか。
日和を見ると、彼女はにっこり微笑んで僕を見ていた。
「一緒に寝よ。シングルだからちょっと狭いけど」
まあ、そうなるよな。
二人でシングルベッドを共有する。果たして僕は心地よく寝られるだろうか。
「どっちが壁側にする?」
「日和の方がいいかな。流石に落としたくないし」
「優しいな。それじゃあ!」
日和はそう言って布団の中へと入っていく。
そして、まるで猫を招き入れるように布団を僕に向けてひらひらさせた。
ベッドに誘われることに気が引けながらも背を向けながら入っていった。
「向かい合ってもいいのに」
耳元で囁かれる甘い声。
あと数時間この状態が続くのか。楽園の拷問だな。
「流石にそれは恥ずかしい」
「結花ちゃんや桐花さんと一緒に寝たりしないの?」
「桐花姉さんと一回だけ。姉さんの寝相によるパンチでベッドから落とされたから以降は寝てない」
「ははは。私はそんなことしないから安心してね」
「その不安は元からないよ」
「そっか」
日和の相槌を最後に静けさが漂う。
すると、右腕を体に巻かれる。背中に重量が加わり、シャンプーの甘い香りが鼻腔をくすぐった。
「アレックス。電気を消して」
声に反応して電気が消える。
僕は反射的に体を縮こませる。それに応じて絡まった腕の力が上がっていった。
「ひ、ひより……さん?」
「さっきできることなら何でもするって言ったよね?」
「う、うん。言ったけど……」
確かに言った。
だが、流石にこれは早すぎるのではないだろうか。
「私さ、普段は枕元のぬいぐるみを抱き枕にして寝るんだ。でも、今日は文也がいるから代わりこうさせてほしい」
変な妄想を働かせていると、予想外の発言をされる。
ただ、抱きしめたかっただけか。安心したような、残念なような。
普段からぬいぐるみを抱いて寝る。
やっぱり、日和は深層心理では誰かに甘えたいと思っているのだろう。
なら、承諾しないわけにはいかない。
「分かった」
僕は身を委ねるように体をリラックスさせた。
寝れないかと思っていたが、リラックスしたからか思いの外早く眠りにつくことができた。
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