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幕間2
私、強くなりたいんです!
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「強くなりたい……か……」
束の間の沈黙があった後、四宮先生はようやく口を開いた。
「まずは理由を聞くとしよう。どうして『強くなりたい』と思ったんだ?」
抽象的な悩みであるため、何を持って『強くなりたい』と思ったのか具体性を取り入れようと思ったみたいだ。
「私、小さい頃からずっと臆病で弱虫なんです。よく男の子に揶揄われたり、女の子に悪口言われたりするんです。ただ、私には一つ上のお姉ちゃんがいまして。お姉ちゃんは私がいじめられているといつも助けてくれました。だから私はずっとお姉ちゃんに頼り切ったまま生きてきたんです」
桐花姉さんのことが脳裏に浮かぶ。夕凪さんも僕と同じ境遇みたいだ。
「でも、ここ最近、お姉ちゃんは何か思い悩んでいるのか家にいる間は部屋に引き籠ることが多くて。たまに私と廊下で会う時には『不甲斐ない姉でごめんね』って謝ってきたりするんです。学校で会っても優しい笑みを浮かべるだけだし」
自分の話した光景を思い出しているのか、彼女の目線は少しずつ下がっていく。
「きっとお姉ちゃんは自分が守り続けたために私が自立できないと嘆いているんだと思いました。だから私はお姉ちゃんの力を必要としないほど強くなりたいんです。そしてお姉ちゃんに楽をさせてあげたいんです」
俯いていた顔を上げる。
「だから私が強くなれるためにアドバイスをもらえませんでしょうか?」
四宮先生に顔を向けると夕凪さんは深くお辞儀をした。
「あちっ!」
すると、ゴトンと倒れる音がしたのと同時に悲鳴があがった。下げた頭がコップに当たって倒れたみたいだ。
四宮先生はため息を漏らし、席を立ち上がる。そばにあったティッシュを手に取り、濡れた机に置いた。
「すまないが、廊下にある雑巾を持ってきてくれるか?」
僕は頷き、廊下に出る。思っていたよりもすぐに見つかり、一枚手に取って保健室に戻った。机から床にこぼれた紅茶を雑巾で拭く。
「すみません」
夕凪さんはしょんぼりした様子で僕が拭く姿を見ていた。
「気にしなくていいですよ」
僕は笑みを浮かべて答える。彼女は瞳を大きくして頬を赤らめた。
「あ、ありがとうございます」
それから笑顔で感謝する。弱々しい笑み。笑い慣れていないのだろう。
雑巾で拭き終えたところで洗面所に行って水で洗い、今度は水拭きで濡れた部分を拭く。それからもう一度洗面所で水洗いし、元あった位置に戻した。
「つまり、君の悩みは『自立したところを姉に見せる』と言ったところか。強くなりたいのはそのための手段といった感じだな」
僕が保健室に帰ってきたのを見て、先生は再び会話を始める。
「そ、そうです」
自分の思いが伝わったことを嬉しく思ったのか、夕凪さんは前のめりになる。
「どうすればお姉ちゃんの心配を解消させてあげられるでしょうか?」
「そうだな……」
四宮先生は腕組みをしながら考える姿勢を見せる。しばらくカチカチと時計の針の音だけが響き渡った。
「今の話を聞く限り君の姉さんはうちの高校に通っているみたいだな」
「は、はい」
「ならやることは一つだろうな。君のお姉さんは君が他の生徒に揶揄われていることを気にしている。だから反対に君が他の生徒から称賛されているところを見せればいいんだ」
「称賛されているところ。それはどうやって見せればいいんでしょう?」
「来月に体育祭がある。そこで君は一番を取ってクラスに貢献すればいいのだ」
先生の言ったとおり6月には体育祭がある。全学年参加であるため夕凪さんがクラスに貢献したところをお姉さんも見ることができる。
夕凪さんは四宮先生の話を聞くと納得したように右拳を左掌に乗っけた。
「な、なるほど。で、でも私なんかが一番になれますかね?」
「強くなりたいのだろう?」
自信なさげに言う彼女に四宮先生が当初の願いを口にする。それを聞いて彼女はハッとしたような表情を見せた。
「そうでした。分かりました! 絶対に一位を取ろうと思います!」
道筋が見えたことで彼女の闘志に火がついたのか、両拳を握って気合を入れる。
「私の悩みに付き合っていただきありがとうございました。では、これにて失礼致します」
風に吹かれるように席を立ち、保健室を出ていく。僕は彼女の様子を見送る。最初は頼りなかったが、あの調子ならうまくやれるだろう。
「そういえば、君は今日から助手になったんだっけか?」
廊下側に目を向けている最中、四宮先生が声を漏らす。『助手』と言うワードを出したので僕に話しかけているのだろう。まあ、今ここには僕しかいないから僕に話しかけているのは当たり前か。
「さっきは召使と言ってましたけどね」
「今日なったんだから呼び慣れていなかっただけだ」
何回か助手にはなっていたと思うのだが。
「召使から助手にランクアップしたのだ。仕事もそれ相応にしないといけないな」
四宮先生は不適な笑みを浮かべて僕を見る。なんだか嫌な予感がした。
「先ほどの彼女の手伝いをしてやってくれ。もちろん、朱雀さんのことも頼んだよ」
同時に二つの依頼。初めての経験だ。
「あの……つかぬことを聞きたいんですけど、依頼を達成した時の報酬って貰えたりしないんでしょうか?」
「そんなのあるわけないだろ。元々これが始まったのは君の嫌らしい秘密が学校中にバレないようにするためだからな」
「ですよね……」
報酬はないのに仕事だけが増える。
それはランクアップじゃなくてランクダウンなんじゃないだろうか。
僕は一人でにため息をついたのだった。
束の間の沈黙があった後、四宮先生はようやく口を開いた。
「まずは理由を聞くとしよう。どうして『強くなりたい』と思ったんだ?」
抽象的な悩みであるため、何を持って『強くなりたい』と思ったのか具体性を取り入れようと思ったみたいだ。
「私、小さい頃からずっと臆病で弱虫なんです。よく男の子に揶揄われたり、女の子に悪口言われたりするんです。ただ、私には一つ上のお姉ちゃんがいまして。お姉ちゃんは私がいじめられているといつも助けてくれました。だから私はずっとお姉ちゃんに頼り切ったまま生きてきたんです」
桐花姉さんのことが脳裏に浮かぶ。夕凪さんも僕と同じ境遇みたいだ。
「でも、ここ最近、お姉ちゃんは何か思い悩んでいるのか家にいる間は部屋に引き籠ることが多くて。たまに私と廊下で会う時には『不甲斐ない姉でごめんね』って謝ってきたりするんです。学校で会っても優しい笑みを浮かべるだけだし」
自分の話した光景を思い出しているのか、彼女の目線は少しずつ下がっていく。
「きっとお姉ちゃんは自分が守り続けたために私が自立できないと嘆いているんだと思いました。だから私はお姉ちゃんの力を必要としないほど強くなりたいんです。そしてお姉ちゃんに楽をさせてあげたいんです」
俯いていた顔を上げる。
「だから私が強くなれるためにアドバイスをもらえませんでしょうか?」
四宮先生に顔を向けると夕凪さんは深くお辞儀をした。
「あちっ!」
すると、ゴトンと倒れる音がしたのと同時に悲鳴があがった。下げた頭がコップに当たって倒れたみたいだ。
四宮先生はため息を漏らし、席を立ち上がる。そばにあったティッシュを手に取り、濡れた机に置いた。
「すまないが、廊下にある雑巾を持ってきてくれるか?」
僕は頷き、廊下に出る。思っていたよりもすぐに見つかり、一枚手に取って保健室に戻った。机から床にこぼれた紅茶を雑巾で拭く。
「すみません」
夕凪さんはしょんぼりした様子で僕が拭く姿を見ていた。
「気にしなくていいですよ」
僕は笑みを浮かべて答える。彼女は瞳を大きくして頬を赤らめた。
「あ、ありがとうございます」
それから笑顔で感謝する。弱々しい笑み。笑い慣れていないのだろう。
雑巾で拭き終えたところで洗面所に行って水で洗い、今度は水拭きで濡れた部分を拭く。それからもう一度洗面所で水洗いし、元あった位置に戻した。
「つまり、君の悩みは『自立したところを姉に見せる』と言ったところか。強くなりたいのはそのための手段といった感じだな」
僕が保健室に帰ってきたのを見て、先生は再び会話を始める。
「そ、そうです」
自分の思いが伝わったことを嬉しく思ったのか、夕凪さんは前のめりになる。
「どうすればお姉ちゃんの心配を解消させてあげられるでしょうか?」
「そうだな……」
四宮先生は腕組みをしながら考える姿勢を見せる。しばらくカチカチと時計の針の音だけが響き渡った。
「今の話を聞く限り君の姉さんはうちの高校に通っているみたいだな」
「は、はい」
「ならやることは一つだろうな。君のお姉さんは君が他の生徒に揶揄われていることを気にしている。だから反対に君が他の生徒から称賛されているところを見せればいいんだ」
「称賛されているところ。それはどうやって見せればいいんでしょう?」
「来月に体育祭がある。そこで君は一番を取ってクラスに貢献すればいいのだ」
先生の言ったとおり6月には体育祭がある。全学年参加であるため夕凪さんがクラスに貢献したところをお姉さんも見ることができる。
夕凪さんは四宮先生の話を聞くと納得したように右拳を左掌に乗っけた。
「な、なるほど。で、でも私なんかが一番になれますかね?」
「強くなりたいのだろう?」
自信なさげに言う彼女に四宮先生が当初の願いを口にする。それを聞いて彼女はハッとしたような表情を見せた。
「そうでした。分かりました! 絶対に一位を取ろうと思います!」
道筋が見えたことで彼女の闘志に火がついたのか、両拳を握って気合を入れる。
「私の悩みに付き合っていただきありがとうございました。では、これにて失礼致します」
風に吹かれるように席を立ち、保健室を出ていく。僕は彼女の様子を見送る。最初は頼りなかったが、あの調子ならうまくやれるだろう。
「そういえば、君は今日から助手になったんだっけか?」
廊下側に目を向けている最中、四宮先生が声を漏らす。『助手』と言うワードを出したので僕に話しかけているのだろう。まあ、今ここには僕しかいないから僕に話しかけているのは当たり前か。
「さっきは召使と言ってましたけどね」
「今日なったんだから呼び慣れていなかっただけだ」
何回か助手にはなっていたと思うのだが。
「召使から助手にランクアップしたのだ。仕事もそれ相応にしないといけないな」
四宮先生は不適な笑みを浮かべて僕を見る。なんだか嫌な予感がした。
「先ほどの彼女の手伝いをしてやってくれ。もちろん、朱雀さんのことも頼んだよ」
同時に二つの依頼。初めての経験だ。
「あの……つかぬことを聞きたいんですけど、依頼を達成した時の報酬って貰えたりしないんでしょうか?」
「そんなのあるわけないだろ。元々これが始まったのは君の嫌らしい秘密が学校中にバレないようにするためだからな」
「ですよね……」
報酬はないのに仕事だけが増える。
それはランクアップじゃなくてランクダウンなんじゃないだろうか。
僕は一人でにため息をついたのだった。
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