保健室の先生に召使にされた僕はお悩み解決を通して学校中の女子たちと仲良くなっていた

結城 刹那

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3章:夕凪雅(体育祭で活躍せよ)

指導開始

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「ふむふむ……なるほど……」

 綾花姉さんは朱雀先輩から差し出された用紙を見ながら考え込んでいた。

 朱雀先輩が渡したのは2月に行われた模試の成績表だった。ゴールデンウィーク中にも同種の模試を行ったらしいが、結果はまだ届いておらず、自己採点のみとなっている。

「第一志望にしている大学には全く届かずって感じです」

 朱雀先輩の言うとおり成績表における第一志望の判定は下から二つ目だった。

「絶望的ですかね?」

「ん? そんなことは全くないわよ」

 綾花姉さんは軽い口調で言う。最初の挨拶以降、姉さんは敬語を外しラフな喋り方をするようになった。堅苦しいのが嫌いな綾花姉さんらしい。

 朱雀先輩は簡単に言われたことに驚き、目を大きく開く。

「まだ5月だもん。判定が低くて当たり前よ。仮に判定が良かったなら志望校を変えた方がいいだろうから、香苗ちゃんが選んだ大学が妥当であることが証明されただけに過ぎない。とは言っても、このままだと落ちるのは確定しているから頑張らないとだけどね。一緒に頑張っていこ!」

「……そう言っていただけると助かります」

「よしっ! なら、早速始めていこうかしら」

「はい! まずは何から始めますか?」

 朱雀先輩はそう言って鞄の中を探っていく。

「まだ科目の勉強は始めないから何も出さなくていいわよ」

 綾花姉さんは朱雀先輩の行動を牽制する。朱雀先輩は鞄を探っていた手を止め、綾花姉さんに顔を向けた。

「では、これからは何をするんでしょうか?」

「受験勉強において一番大事なことは『計画を立てること』よ! 今日はそのための時間にしましょ」

「計画を立てること……ですか……」

「そう。文くんから聞いたけど、朱雀さんは『緊張しい』なのよね?」

 昨日、今後の予定について話している中で朱雀先輩からもう一つお願い事をされた。

 緊張を克服すること。朱雀先輩は緊張しいらしく普段は解ける問題が模試になると途端に解けなくなってしまうらしい。そのため、学力向上とともに緊張しやすい性格を治す必要があるみたいだ。

「は、はい。本番に弱いんですよね。いつもならすんなり出るはずの知識が急に出なくなったりするんです」

「なるほど。こんなこと言うのは申し訳ないけど、私は緊張しない体質だから実体験の克服法を話すことはできないのよね」

 普段の様子を見ていれば、綾花姉さんが緊張しない性格なのは納得だ。というか、桐花姉さんも緊張とは程遠い性格をしているし、僕も高校受験の時は全く緊張しなかったので、最上家は全員緊張しない体質なのだろう。

「でも、実体験がないからと言って方法を知らないわけじゃないわ。周りには緊張しやすい人とかいたしね。私が思うに香苗ちゃんは真面目すぎるんだと思う」

「真面目すぎるですか?」

「そっ! これを見てもらえれば分かるわ!」

 綾花姉さんはそう言って成績表の見開きのページを開いてテーブルに置いた。そこには各科目の問題における正誤率が記載されている。

「香苗ちゃんは問題が後になればなるほど間違える確率が高くなっている。多分、前から順に解いていっているために後半に差し掛かって時間が足りなくなっているのだろうね」

「綾花さんの言うとおりです。受験での緊張に上乗せして時間が足りないことでの緊張が相まって頭の中がパニックになってしまうんですよね」

「分かるわ。そうならないための戦略的が必要なの」

「戦略ですか?」

「ええ。まずやるべきは問題の解き方を変えるところかな。香苗ちゃんは1から順に解いていっている」

 国語の問題の部分を大問1から4まで順になぞっていく。

「でも、国語は現代文よりも漢文古文の方が簡単なことが多い。だから順番を変える必要がある」

 今度は大問3、4となぞり、それから大問1、2をなぞっていく。

「順番を変えるだけでも取れる点数は変わってくる。もし、1から順に解きたいのであれば、各々の大問に時間制限を設けるのもありね」

「なるほど」

 綾花姉さんの指さす先を見ながら朱雀先輩は大きく頷いた。そこにいつもの大らかな様子はなく、真剣そのものだった。

「香苗ちゃん、受験ってね恋愛と一緒だと私は思うの」

 朱雀先輩の視線を惹きつけるように綾花姉さんは成績表をなぞる指を自分の口元に持っていく。

「恋愛と一緒なんですか?」

「うん。好きな人との恋を実らせるためにはね、両思いである場合を除いて好きな人を振り向かせる必要があるの。そのためには好きな人のことを知る必要があり、知った情報を元に自分を適用させる必要があるの」

 綾花姉さんはそう言いながら僕の背中に手を添えた。不意に触られたからか僕は鳥肌が立つのを感じた。

「受験も同じ。志望校はどんな問題を出す傾向があるのか。自分は何が得意で何が苦手なのか。志望校に出てくる問題に自分の苦手なものはないか。もしあるのなら、来る日に向けて克服しておく必要がある」

 背中に添えられた手が僕の脇下を捕らえる。

「そうすれば」

 強い力を受け、僕は綾花姉さんの元に倒れる形となった。

「手に入れることができるわ」

 綾花姉さんは僕の方を向く。僕は綾花姉さんの胸に顔を埋めることとなった。朱雀先輩に見られているためいち早く抜け出したい気持ちがあったが、綾花姉さんが両手でぎゅっと抱きしめているので動くことができなかった。

「分かった?」

「は、はいっ!」

 朱雀先輩は上ずった声で返事をする。綾花姉さんの胸に圧迫されているため彼女の表情は見えないが、取り乱していると思われる。

 変なところを見られてしまった。おそらく、姉さんは僕とのスキンシップを図るためにわざと恋愛の話を持ち出したに違いない。
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