悪役令嬢のハズが気づいたら女帝になってたんだが?-推しを助けるために悪役令嬢になったったw…筈なのだが…おや?様子が…?-

tikurin818

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「おかあさま、ユリアです。入ってもよろしいですか?」

 ユリアはあの後、呼びに来たマリーと共に母の部屋を訪れていた。
 どうぞ、という声が聞こえ、ユリアが取っ手に手をかける前に内側から扉が開かれる。

「ユリア!待っていたわ、体の調子はどう?」
「おかあさま、心配をかけてごめんなさい」

 寝台に体を起こして座る母に駆け寄り、ぎゅっと手を握る。黒に近い紫の瞳に、茜色のやわらかで長い髪。
 肌は青白く、頬もややこけてしまっていたが、それでいてなお美しい女性。父が一目ぼれしたのも頷ける。

 ユリアの母、エリシアはユリアを生んだ後流行り病に罹ってしまった。今でこそ完治はしているものの、病の影響で極端に体が弱く、今では一日に1時間も起き上がるのは困難な状態になってしまっていた。
 そんな母に沢山心配をかけてしまったことに罪悪感を抱き…そしてさらに心配させてしまうようなお願いをしようとしている自分の身勝手さに少し胸が痛んだ。

「本当によかったわ…ジェイドにはもう会ったの?」
「まだですわ」
「あら…!それはいけないわ。今すぐにでも王宮に使いを出させましょう。」

 そう言ってエリシアは部屋の隅で控えていた使用人を呼び、ユリアの回復を伝えるよう指示を出す。

「ユリア、貴女も怖い思いをしたでしょうけれど、それと同じくらい父も母も怖かったのよ」

 ユリアとエリシア以外誰もいなくなった部屋で、エリシアの声が凛と響いた。いつも寝たきりで、押せば折れてしまいそうな華奢な姿からは想像もつかないような、芯のある強い声だった。

「ごめんなさい、おかあさま…」
「貴女はまだ幼いから、色々とわからないことも多いでしょう。それでも、心配している周囲の人間を蔑ろにしてはだめよ」
「はい」

 そのままぎゅっとユリアを抱きしめるエリシア。母のぬくもりに思わず緩みそうになる涙腺をぐっとこらえる。
 体調ゆえにいつも一緒にいることはできず、こうして話ができることも滅多にない。それでも、たまにこうして母のぬくもりを感じることのほうがよっぽどユリアにとって価値があることだった。

 甘えたように抱き着いていると、エリシアはユリアの頭をなでながら口を開いた。

「ユリア…ここに来たのは、何か他に理由があるんでしょう?」
「えっ!」

 ユリアは目を丸くして母の顔を見た。
 確かに、ユリアは回復の報告とは別にある目的をもって母に会いに来た。しかしそれは誰にも言っていないはずなのに。

 驚いた様子のユリアを見て、エリシアはいたずらが成功したかのようにくすくすと笑った。

「一目見てわかったわ。子供の成長は早いというけれど…貴女のそれは、少しアンバランスね」

 エリシアはユリアをなでる手を止めて、寝台のそばの机の上に手を伸ばした。
 つられて視線をそちらに向けると、小さな黒い封筒が置いてあった。


「これって…」
「母の生家に関してはユリアも知っているわよね?」
「はい。ダンダリオン伯爵家ですよね」


 ダンダリオン伯爵家の名を知らぬ者はこの国にはいない。
 ユリアの生まれたこの国はフリージア王国といい、豊かで水の美しい国であるが、大陸中の強国や魔物の跋扈する暗夜領と呼ばれる地に周囲を囲まれている。
 国土は周囲の国々に比べると小さく、それでいて人口も多いわけではない。その上どの国の庇護下にも入らず、中立を宣言しているのだ。
 言ってしまえば、他国からしてみれば格好の餌場。

 では、なぜフリージア王国は中立という危うい立場を貫くことができているのか?

「”剣魔ともに絶勝であれ”…これが、ダンダリオン家に伝わる唯一絶対の家訓。国を守護する一族として、何一つ負けてはならないという鉄の掟」

 そう、それこそがダンダリオン家が名を馳せる理由である。有り体に言ってしまえば、ただひたすらに強いのだ。国家の防衛の要と呼ばれるところには、必ずその名があった。

 そして母も、父と結ばれ、病に倒れる前は騎士団長にまで上り詰めた女傑でもある。天才的な剣の才能を持ち活躍した彼女を称える英雄譚は数知れない。
 だからこそ、ユリアはエリシアを頼ることを決めた。

「この手紙は貴女の覚悟と実力を問う、特別な魔法をかけてあるわ。10歳までに貴女がこの手紙を開けられるだけ力をつければ、それは更なる力を貴女に授けるでしょう」

 母から受け取った手紙は軽く、しかしながらとてもプレッシャーを放っているように感じた。

「ジェイドに言って、伯爵家から師をつけさせましょう。難しい事ばかり言ってごめんなさいね」
「いいえおかあさま。本当に…ありがとう」

 手紙をぎゅっと握り締め、母に寄り添う。それからユリアは父のジェイドが部屋に飛び込んでくるまで母との穏やかな時間を楽しんだのだった。
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