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本編
辛いカライお試し恋愛の結末 side 幸太 1
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あの日、彼女がドアの外に消えていく瞬間、やっとの思いで初めて彼女の名前を叫んだ。
「つぐみ!!」
追いかけたかった…。
追いかけたかったけど…初めての恋で、しかも初カノから食らったダメージは、身体を床に縫い止め、俺から彼女を追いかけるっていう選択肢を、勇気を根こそぎ奪った…。
俺に残ったのは、今更の恋心と言い知れぬ後悔だけだった。
いつもカッチリとしたスーツ姿なのに、フラフラと疲れた様子で俺がバイトしているカフェにやってくる彼女が気になり出したのは、バイトを始めて3ヶ月経って、やっと仕事に慣れた頃だった。
いつも彼女はカフェの自動ドアの前で、一つにまとめている髪の毛を解放してから入ってきた。
ふわふわと柔らくウェーブした肩までのライトブラウンの髪の毛を掻き上げながら、トールsizeのカフェラテを頼み、受け取るといつも窓際のソファー席に座る。
ゆっくりカフェラテを味わう時もあれば、仕事の書類を広げて数時間粘って帰るときもある。
ただ、どんな時でもいつも決まって帰り際、“ご馳走様でした!”と笑顔で帰る。
たまに、閉店ギリギリに出ていく時は“長居してゴメンなさい!ありがとうございました!”という言葉が加わる。
そんな風に気遣いの言葉を残してカフェを後にする彼女が気になる様になるには、そんなに時間がかからなかった。
…が、何故、彼女が気にかかるのか…俺には最初から分からなかった。
気が付けば、彼女がいつもやってくる時間になるとドアが開く音に敏感になり、彼女の姿を見るとホッとする毎日。
彼女が来なかった日は、なんだか味気なく感じた。
カフェでのバイトも一年が経ち、バリスタとして彼女にカフェラテを入れる立場になった頃、“そろそろ都会慣れしなくては!”と、俺は思い切ってイメチェンすることにした。
というか、いつまでも女性になかなか慣れない野暮ったい自分から脱したかった。
人生で初めて美容師のいるお店に行き、髪を染めて今風の髪型にして貰った。
ちょっと目に異物を入れるのは最初は怖かったけど、眼鏡もコンタクトレンズに変えた。
イメチェンして初めて彼女がカフェに来店したとき、丁度、レジカウンターに立っていた俺は、意を決して彼女に“いらっしゃいませ!”以外の言葉をかけた。
『…ビックリ…いつも私が来るの覚えて下さっているんですね。』
『はい!』
戸惑いを見せつつも、嬉しいそうに笑う彼女の笑顔を見た時、俺は言い知れぬ達成感と喜びを覚えた。
もっと笑顔が見たくて、彼女のカフェラテにこっそりとラテアートを施し始めたのも、この頃だった。
少しずつたわいの無い会話が増えて、彼女とだけは話していてもあまり緊張しない自分に気が付いた。
かと言って、どうやってこれ以上彼女に近づけば良いのか分からない。
(彼女に近づきたい…?何故!?)
そこで、やっと俺は彼女に好意を抱いている自分に気が付いた。
冬の嵐が襲ってきた日、停電で帰れなくなってしまった彼女が心配だったことが大きくて、彼女を引き留め閉店後、初めてプライベートで彼女に思い切って話しかけて、自己紹介をした。
『藍原 つぐみ…です。』
メンバーズカードを見ていたから知っていた彼女の名前けど、彼女の口から聞かされると何とも言えない喜びを感じた。
そんな彼女は無防備にも自分の家に誘った、俺を注意してくれた。
無論、下心なんて全く無くて、彼女を寒空の下に残して帰りたくなかったから出た、俺のお節介だった。
『自分が言った言葉の重大性に気が付いたなら、良かった…。他の女の子に言ったら、色々と勘違いされるから気を付けないとね?』
(色々と勘違い?)
そもそも他の女の子に声をかけたいと思ったことがないから、誰もしない。
(カノジョ?)
プライベートで自分から話しかけたいって思った女性は貴女が初めてだというのに、カノジョなんている訳ない!
『…あの、本当に変な意味ではなくて…俺…藍原さんの役に立ちたいんです。藍原さんがカフェに来られない様なことはしません。だから…遠慮なく頼って欲しいんです。』
それでも、俺を心配して、“ただの常連客に自分を信用するな!”と彼女が言う。
無理だ…こんな困った状況なのに、誠実に俺を注意する彼女を信用するな!って方が無理過ぎる。
俺を気遣う彼女の言葉が嬉しすぎて、強引に部屋に連れて帰った。
部屋に着くとちょっと居心地悪そうに、彼女は戸惑いながら俺の部屋の座蒲団の上にちょこんと座った。
キッチンから見えるその姿を後ろから眺める度に、彼女が今この俺の部屋に居るという喜びが溢れてしまって、ニマニマ笑いが止まらなかった。
思わず鼻歌が出るなんて、普段の俺には無いことだ。
俺の作った煮込みうどんを食べる仕草も可愛い。
『…美味しい。』
俺が作った物をそう言って食べてくれてる事が、とても嬉しかった。
ちょっとうどんが太かったらしく、少し食べにくそうなのは、失敗だった…。
(今度彼女が来た時は、もう少し食べやすい細目のうどんにしょう!)
そう思った途端に、俺は冷静になった。
(……今度って、何時だ?俺と彼女は…ただのカフェの店員と常連客じゃないか?!)
それまで気が付かなかった独占欲が、俺の中に目覚めていた。
気が付けば…3ヶ月“お試し”で付き合って欲しい!
そう口走っていた。
ただ、口走ったは良いが告白する決心まではついていなくて、俺はもっともらしい理由を話して彼女を納得させてOKを貰った!
思えば…それがいけなかったんだと今なら分かるのに、その時の俺は彼女と一緒に居られることに喜び浮かれていて気が付いていなかった。
「つぐみ!!」
追いかけたかった…。
追いかけたかったけど…初めての恋で、しかも初カノから食らったダメージは、身体を床に縫い止め、俺から彼女を追いかけるっていう選択肢を、勇気を根こそぎ奪った…。
俺に残ったのは、今更の恋心と言い知れぬ後悔だけだった。
いつもカッチリとしたスーツ姿なのに、フラフラと疲れた様子で俺がバイトしているカフェにやってくる彼女が気になり出したのは、バイトを始めて3ヶ月経って、やっと仕事に慣れた頃だった。
いつも彼女はカフェの自動ドアの前で、一つにまとめている髪の毛を解放してから入ってきた。
ふわふわと柔らくウェーブした肩までのライトブラウンの髪の毛を掻き上げながら、トールsizeのカフェラテを頼み、受け取るといつも窓際のソファー席に座る。
ゆっくりカフェラテを味わう時もあれば、仕事の書類を広げて数時間粘って帰るときもある。
ただ、どんな時でもいつも決まって帰り際、“ご馳走様でした!”と笑顔で帰る。
たまに、閉店ギリギリに出ていく時は“長居してゴメンなさい!ありがとうございました!”という言葉が加わる。
そんな風に気遣いの言葉を残してカフェを後にする彼女が気になる様になるには、そんなに時間がかからなかった。
…が、何故、彼女が気にかかるのか…俺には最初から分からなかった。
気が付けば、彼女がいつもやってくる時間になるとドアが開く音に敏感になり、彼女の姿を見るとホッとする毎日。
彼女が来なかった日は、なんだか味気なく感じた。
カフェでのバイトも一年が経ち、バリスタとして彼女にカフェラテを入れる立場になった頃、“そろそろ都会慣れしなくては!”と、俺は思い切ってイメチェンすることにした。
というか、いつまでも女性になかなか慣れない野暮ったい自分から脱したかった。
人生で初めて美容師のいるお店に行き、髪を染めて今風の髪型にして貰った。
ちょっと目に異物を入れるのは最初は怖かったけど、眼鏡もコンタクトレンズに変えた。
イメチェンして初めて彼女がカフェに来店したとき、丁度、レジカウンターに立っていた俺は、意を決して彼女に“いらっしゃいませ!”以外の言葉をかけた。
『…ビックリ…いつも私が来るの覚えて下さっているんですね。』
『はい!』
戸惑いを見せつつも、嬉しいそうに笑う彼女の笑顔を見た時、俺は言い知れぬ達成感と喜びを覚えた。
もっと笑顔が見たくて、彼女のカフェラテにこっそりとラテアートを施し始めたのも、この頃だった。
少しずつたわいの無い会話が増えて、彼女とだけは話していてもあまり緊張しない自分に気が付いた。
かと言って、どうやってこれ以上彼女に近づけば良いのか分からない。
(彼女に近づきたい…?何故!?)
そこで、やっと俺は彼女に好意を抱いている自分に気が付いた。
冬の嵐が襲ってきた日、停電で帰れなくなってしまった彼女が心配だったことが大きくて、彼女を引き留め閉店後、初めてプライベートで彼女に思い切って話しかけて、自己紹介をした。
『藍原 つぐみ…です。』
メンバーズカードを見ていたから知っていた彼女の名前けど、彼女の口から聞かされると何とも言えない喜びを感じた。
そんな彼女は無防備にも自分の家に誘った、俺を注意してくれた。
無論、下心なんて全く無くて、彼女を寒空の下に残して帰りたくなかったから出た、俺のお節介だった。
『自分が言った言葉の重大性に気が付いたなら、良かった…。他の女の子に言ったら、色々と勘違いされるから気を付けないとね?』
(色々と勘違い?)
そもそも他の女の子に声をかけたいと思ったことがないから、誰もしない。
(カノジョ?)
プライベートで自分から話しかけたいって思った女性は貴女が初めてだというのに、カノジョなんている訳ない!
『…あの、本当に変な意味ではなくて…俺…藍原さんの役に立ちたいんです。藍原さんがカフェに来られない様なことはしません。だから…遠慮なく頼って欲しいんです。』
それでも、俺を心配して、“ただの常連客に自分を信用するな!”と彼女が言う。
無理だ…こんな困った状況なのに、誠実に俺を注意する彼女を信用するな!って方が無理過ぎる。
俺を気遣う彼女の言葉が嬉しすぎて、強引に部屋に連れて帰った。
部屋に着くとちょっと居心地悪そうに、彼女は戸惑いながら俺の部屋の座蒲団の上にちょこんと座った。
キッチンから見えるその姿を後ろから眺める度に、彼女が今この俺の部屋に居るという喜びが溢れてしまって、ニマニマ笑いが止まらなかった。
思わず鼻歌が出るなんて、普段の俺には無いことだ。
俺の作った煮込みうどんを食べる仕草も可愛い。
『…美味しい。』
俺が作った物をそう言って食べてくれてる事が、とても嬉しかった。
ちょっとうどんが太かったらしく、少し食べにくそうなのは、失敗だった…。
(今度彼女が来た時は、もう少し食べやすい細目のうどんにしょう!)
そう思った途端に、俺は冷静になった。
(……今度って、何時だ?俺と彼女は…ただのカフェの店員と常連客じゃないか?!)
それまで気が付かなかった独占欲が、俺の中に目覚めていた。
気が付けば…3ヶ月“お試し”で付き合って欲しい!
そう口走っていた。
ただ、口走ったは良いが告白する決心まではついていなくて、俺はもっともらしい理由を話して彼女を納得させてOKを貰った!
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