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第0章 遠い遠い、古の物語 -大賢者様と魔王-
0-3.受け継ぎし者
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「歪んだ秩序が……。おしまい、と」
(この年になると、こう長く喋っているのも疲れるねぇ)
そんなことを考えながら癒しを求めてひ孫の顔を覗き込む。すると、目が眩む。話を聞かせる前とは比べ物にならない程、その目はキラキラと眩く輝いていた。
(いやはや、そんな目をキラキラさせるお話じゃ無いんだけどねぇ。この子の母親なんかはお話なんかよりステーキでも出してあげた方がずっと喜んだもんだけど)
そんなことを考えながら、ふと自身がこの話を聴かされた時を思い出す。この娘ほどでは無いが、とても胸躍り、ワクワクした記憶を。
(これも血筋なのかねぇ)
この身に流れる、誇らしくも呪われた血がそうさせるのかと。目の前の少女と遥か昔の自分を重ね合わせ、そう思う。
自分の代で終わっても構わない。そう思っていたけれど、ふとした気まぐれでこの子に話してしまった。これも運命だったのかと、そんな風に感じた。
だから、この幼い少女に託す。その決心がついた。
「リーニャ」
「なぁに?」
「最初にこのお話を聴かせた時の約束、憶えてるかい?」
「うん。このお話は、だれにも話してはいけない。だよね?」
「そうさ。でも、それは忘れておくれ。そして、代わりの約束をしておくれ」
「?うん」
これから話すことは、秘中の秘。代々、一族の限られた者だけに伝えられる、正しく一族の暗部である。それを伝えることの意味を擦り減った奥歯で噛み締め、長らく使っていなかった顔の筋肉を動かし真剣な面持ちを取る。
産まれてから一度も見たことがないその豹変振りに感じ入るものがあったのか、リーニャの身体が強張るのが分かった。
「いいかい、リーニャ。あのお話はね、先祖代々に伝わる我が一族の責務であり、絶やしてはいけないお話なんだ」
「せきむ?」
「そうさ。古の大賢者様。その子孫である、我が一族のね」
「!!」
お話をお話として捉えていなかったであろうリーニャの驚愕が伝わってくる。無理も無い。ひいおばあさんから聴かされた私もそんな感じだったから。
「大賢者様も、ダンジョンも、そして魔王も。これは正しく本当のことさ。私達以外は誰も知らない、ね。そして、このことは誰にも言ってはいけない。この責務を受け継ぐ、一族の者以外にはね」
「ほんとう……。でも、なんでだれにも言ってはいけないの?」
「ダンジョンが役割を果たす為さ。未知であるからこそ人はそこに集まるし、仕組みを知らないからこそ無防備に魔王の力を溜めてくれる。そしてもう一つは……」
そこで話を区切る。これから話すことは、この子にとって最も大事な話だから。
「ダンジョンと魔王様を守る為さ」
「守る?まおうさまって、つよいんでしょ?」
「ああそうさ。お話には入ってなかったけど、一国を滅ぼしたことさえある、間違いなく世界最強さ」
「なのにまおうさまを守るの?」
「最強ってのは無敵じゃない。どんなに強かろうと魔力は無限大じゃないし、未来永劫ダンジョンの秘密が守られるとも限らない。もし魔王様が動けなくなった。そんな不測の事態が起きた時に、どんな手を使ってでも魔王様を支えること。そういう時には表立って庇うよりも後ろから刺す。最強の魔王様が苦しめられるなんて、絡め手の可能性の方がずっと高いからね。そして、それを成す為に秘密を知る者は少なければ少ない方が良い。そういうことなのさ」
「うしろから、さす……」
およそ子供に伝える話ではない。だけど、この秘密を継ぐとはそういうことなのだ。優しい世界の為に身を捧げた、大賢者様の後を継ぐ者として。
「さて、ここまでが一族に伝わる方の約束さ。そしてこれは、私との約束だ」
「ひいおばあちゃんとの?」
「ああ。……絶やしてはいけない、受け継がなきゃいけないってこの話だけどね。リーニャがそうしたいと思ったなら、全部捨てても良いよ」
「……いいの?」
「構わないさ。むしろ、リーニャがいなければ私が捨てたいたよ。大賢者様は尊敬に値する人だろうけどね。あたしはそんな誇りよりも、ひ孫の幸せの方がずっと大事なんだよ」
そしてずっと続けていた真面目な面持ちを崩し、その柔らかい頬を皺だらけになった両手で包み込みながら優しく笑いかける。
「あんたがそうしたいなら止めない。優しい世界は大事だろうけど、その為に可愛いひ孫に優しくない世界なんて糞くらえさ。まぁ捨ててもいいけど、広めるってのは勘弁して欲しいけどね」
そう言って、より深く笑う。これが、あたしの本心さ。なんせ私は、立派な血筋よりも可愛いひ孫の方が百倍可愛いからね!
矛盾することを立て続けに言われて流石に困惑してるかなと思ったけれど、こちらを覗き込んでくるその瞳には、はっきりとした決意の色が浮かんでいた。
「お話を絶やすかどうかはまだ分かんない……。でもね、これだけは決めたの!わたしはまおうさまにあこがれて、まおうさまが好きなの!だから、まおうさまを守ること。やくにたつこと。それだけは一生、捨てないよ!」
そう言い切った彼女に浮かんでいたのは、一寸の曇りも無い、笑顔。
(この娘は私が思ってたより……私なんかより、よっぽど強い娘なんだね。この娘がひ孫であることを誇りに思うよ。大賢者様の子孫であることよりも、ずっと強く)
「そうかい。リーニャが決めたのなら何も言わないよ。私から伝えなきゃいけないことはこれだけさ。後はあんたが、あんたの意思で好きにするんだよ」
「うん!それでね、まおうさまのお話、もっとききたいな~?」
「そうかいそうかい、お話からは省いてたからね。そうさね、じゃあこんな話が……」
大賢者様の意思。それが引き継がれるかどうかは分からない。ただ、今この時、一人の女の子の未来が決まったこと。それだけは、動かしようのない事実だろう。
(この年になると、こう長く喋っているのも疲れるねぇ)
そんなことを考えながら癒しを求めてひ孫の顔を覗き込む。すると、目が眩む。話を聞かせる前とは比べ物にならない程、その目はキラキラと眩く輝いていた。
(いやはや、そんな目をキラキラさせるお話じゃ無いんだけどねぇ。この子の母親なんかはお話なんかよりステーキでも出してあげた方がずっと喜んだもんだけど)
そんなことを考えながら、ふと自身がこの話を聴かされた時を思い出す。この娘ほどでは無いが、とても胸躍り、ワクワクした記憶を。
(これも血筋なのかねぇ)
この身に流れる、誇らしくも呪われた血がそうさせるのかと。目の前の少女と遥か昔の自分を重ね合わせ、そう思う。
自分の代で終わっても構わない。そう思っていたけれど、ふとした気まぐれでこの子に話してしまった。これも運命だったのかと、そんな風に感じた。
だから、この幼い少女に託す。その決心がついた。
「リーニャ」
「なぁに?」
「最初にこのお話を聴かせた時の約束、憶えてるかい?」
「うん。このお話は、だれにも話してはいけない。だよね?」
「そうさ。でも、それは忘れておくれ。そして、代わりの約束をしておくれ」
「?うん」
これから話すことは、秘中の秘。代々、一族の限られた者だけに伝えられる、正しく一族の暗部である。それを伝えることの意味を擦り減った奥歯で噛み締め、長らく使っていなかった顔の筋肉を動かし真剣な面持ちを取る。
産まれてから一度も見たことがないその豹変振りに感じ入るものがあったのか、リーニャの身体が強張るのが分かった。
「いいかい、リーニャ。あのお話はね、先祖代々に伝わる我が一族の責務であり、絶やしてはいけないお話なんだ」
「せきむ?」
「そうさ。古の大賢者様。その子孫である、我が一族のね」
「!!」
お話をお話として捉えていなかったであろうリーニャの驚愕が伝わってくる。無理も無い。ひいおばあさんから聴かされた私もそんな感じだったから。
「大賢者様も、ダンジョンも、そして魔王も。これは正しく本当のことさ。私達以外は誰も知らない、ね。そして、このことは誰にも言ってはいけない。この責務を受け継ぐ、一族の者以外にはね」
「ほんとう……。でも、なんでだれにも言ってはいけないの?」
「ダンジョンが役割を果たす為さ。未知であるからこそ人はそこに集まるし、仕組みを知らないからこそ無防備に魔王の力を溜めてくれる。そしてもう一つは……」
そこで話を区切る。これから話すことは、この子にとって最も大事な話だから。
「ダンジョンと魔王様を守る為さ」
「守る?まおうさまって、つよいんでしょ?」
「ああそうさ。お話には入ってなかったけど、一国を滅ぼしたことさえある、間違いなく世界最強さ」
「なのにまおうさまを守るの?」
「最強ってのは無敵じゃない。どんなに強かろうと魔力は無限大じゃないし、未来永劫ダンジョンの秘密が守られるとも限らない。もし魔王様が動けなくなった。そんな不測の事態が起きた時に、どんな手を使ってでも魔王様を支えること。そういう時には表立って庇うよりも後ろから刺す。最強の魔王様が苦しめられるなんて、絡め手の可能性の方がずっと高いからね。そして、それを成す為に秘密を知る者は少なければ少ない方が良い。そういうことなのさ」
「うしろから、さす……」
およそ子供に伝える話ではない。だけど、この秘密を継ぐとはそういうことなのだ。優しい世界の為に身を捧げた、大賢者様の後を継ぐ者として。
「さて、ここまでが一族に伝わる方の約束さ。そしてこれは、私との約束だ」
「ひいおばあちゃんとの?」
「ああ。……絶やしてはいけない、受け継がなきゃいけないってこの話だけどね。リーニャがそうしたいと思ったなら、全部捨てても良いよ」
「……いいの?」
「構わないさ。むしろ、リーニャがいなければ私が捨てたいたよ。大賢者様は尊敬に値する人だろうけどね。あたしはそんな誇りよりも、ひ孫の幸せの方がずっと大事なんだよ」
そしてずっと続けていた真面目な面持ちを崩し、その柔らかい頬を皺だらけになった両手で包み込みながら優しく笑いかける。
「あんたがそうしたいなら止めない。優しい世界は大事だろうけど、その為に可愛いひ孫に優しくない世界なんて糞くらえさ。まぁ捨ててもいいけど、広めるってのは勘弁して欲しいけどね」
そう言って、より深く笑う。これが、あたしの本心さ。なんせ私は、立派な血筋よりも可愛いひ孫の方が百倍可愛いからね!
矛盾することを立て続けに言われて流石に困惑してるかなと思ったけれど、こちらを覗き込んでくるその瞳には、はっきりとした決意の色が浮かんでいた。
「お話を絶やすかどうかはまだ分かんない……。でもね、これだけは決めたの!わたしはまおうさまにあこがれて、まおうさまが好きなの!だから、まおうさまを守ること。やくにたつこと。それだけは一生、捨てないよ!」
そう言い切った彼女に浮かんでいたのは、一寸の曇りも無い、笑顔。
(この娘は私が思ってたより……私なんかより、よっぽど強い娘なんだね。この娘がひ孫であることを誇りに思うよ。大賢者様の子孫であることよりも、ずっと強く)
「そうかい。リーニャが決めたのなら何も言わないよ。私から伝えなきゃいけないことはこれだけさ。後はあんたが、あんたの意思で好きにするんだよ」
「うん!それでね、まおうさまのお話、もっとききたいな~?」
「そうかいそうかい、お話からは省いてたからね。そうさね、じゃあこんな話が……」
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