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ああ、やっぱり
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耳が芯まで凍り付きそうな寒さの中、唯一の出入り口である石段の方を眺めながら待っていると、彼女が現れた。向こうもこちらに気付いたようで、小走りで駆け寄ってきた。お互いの視線が交じり合う。
あの長い石段に加えて休みなく駆け寄ってきたのだ。疲労も溜まっただろう。呼吸を整える彼女の準備が整うのをじっくりと待つ。一年前のあの時もそうしていたように。
やがて口から漏れ出る白い吐息が収まった所で、彼女が口を開いた。
「来てくれてありがとう。寒いのに待たせちゃってごめんね」
「ううん」
何十か何百か。幾重も逢瀬を繰り返してきた私達だったが、彼女は変わらない。何回目になろうがおざなりになることなく、待った時も待たせてしまった時も必ず声をかけてくれる。こちらを気にかけるような。そんな所も好きだった。
そんなことを考えている内に、彼女が真剣な顔をしていた。そして、その言葉を紡いだ。
「今日は、伝えたいことがあります」
ああ、やっぱり。そう思う。
彼女の。そして私の。二人にとっての大事な思い出の場所。その場所に呼び出されたのだから、大事な話をする為に決まっていた。それでももしかして、と抱いていた淡い期待も今、消えてしまった。
「今日で一年。こんな私に付き合ってくれて本当にありがとう」
そこで少し言い淀む。どこまでも優しい彼女のことだから、言い出し辛くて当然だろう。こんな素直になれない、可愛げのない女に対してであっても。
その気遣いが彼女らしくて、辛い。そんな所が好きなのだと、その気持ちが強ければ強いほど、私の胸を締め付ける痛みも強くなってしまうから。
「それで……」
大人しく受け入れよう。彼女の言葉を。素直になれない自分の至らなさを。そう考えていて、納得した。そのつもりだった。
駄目だった。あと一言で終わってしまう。そんな時になって初めて。
例え同じ結果になろうとも、彼女の口から聞いてしまうのは、辛くて、悲しくて。
そして、この期に及んで自分からではなく彼女から言い出してくれるのを待っている自分が情けなくて、憎らしくて。心の中が一瞬にして洪水のように泥にまみれてぐちゃぐちゃになった。
だから、その言葉は、無意識だった。
無意識の内に口から、心から、零れ落ちたものだった。
「ごめんなさい」
あの長い石段に加えて休みなく駆け寄ってきたのだ。疲労も溜まっただろう。呼吸を整える彼女の準備が整うのをじっくりと待つ。一年前のあの時もそうしていたように。
やがて口から漏れ出る白い吐息が収まった所で、彼女が口を開いた。
「来てくれてありがとう。寒いのに待たせちゃってごめんね」
「ううん」
何十か何百か。幾重も逢瀬を繰り返してきた私達だったが、彼女は変わらない。何回目になろうがおざなりになることなく、待った時も待たせてしまった時も必ず声をかけてくれる。こちらを気にかけるような。そんな所も好きだった。
そんなことを考えている内に、彼女が真剣な顔をしていた。そして、その言葉を紡いだ。
「今日は、伝えたいことがあります」
ああ、やっぱり。そう思う。
彼女の。そして私の。二人にとっての大事な思い出の場所。その場所に呼び出されたのだから、大事な話をする為に決まっていた。それでももしかして、と抱いていた淡い期待も今、消えてしまった。
「今日で一年。こんな私に付き合ってくれて本当にありがとう」
そこで少し言い淀む。どこまでも優しい彼女のことだから、言い出し辛くて当然だろう。こんな素直になれない、可愛げのない女に対してであっても。
その気遣いが彼女らしくて、辛い。そんな所が好きなのだと、その気持ちが強ければ強いほど、私の胸を締め付ける痛みも強くなってしまうから。
「それで……」
大人しく受け入れよう。彼女の言葉を。素直になれない自分の至らなさを。そう考えていて、納得した。そのつもりだった。
駄目だった。あと一言で終わってしまう。そんな時になって初めて。
例え同じ結果になろうとも、彼女の口から聞いてしまうのは、辛くて、悲しくて。
そして、この期に及んで自分からではなく彼女から言い出してくれるのを待っている自分が情けなくて、憎らしくて。心の中が一瞬にして洪水のように泥にまみれてぐちゃぐちゃになった。
だから、その言葉は、無意識だった。
無意識の内に口から、心から、零れ落ちたものだった。
「ごめんなさい」
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