どすこいと鶏ガラ

るーま

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本編:体型正反対夫婦あるある

11 鶏ガラを太らせたい(下)

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「俺、そろそろ太るよ?」
 自然の摂理に則り、秋口から冬にかけて太るタイプだと言い張る。
 片腹痛し。
 それは「太る」のではなく「ただちょっと体重が増える」だけのこと。春になれば元に戻るのだから。
 私と同じくどすこいになれと言うわけではない。とにもかくにも、まずは健康へ関心を持って欲しい。適正体重に近づくというのは最終目標だ。
「俺が三キロ増やすのと、あなたが三キロ減らすのが同じだけ簡単だと思わないでね」
「二キロ食べて、一キロ飲んで、栓をすれば三キロ増加じゃんよ」
「二キロ食べられんし、栓もないからな」
「つべこべ言わずに、やるだけやってみ!」
 諦めの悪いどすこいは「鶏ガラに血肉を!」と、黒魔術でもおっぱじめたかのような遊びゲームを断行する。作戦及びルールはこうだ。

 一、炭水化物の摂取量を増やすため、茶碗十分目の白米を支給する。
 一、昼休憩に一報入れ、昼飯を食べたか確認する。
 一、昼食はお菓子ではなく必ず炭水化物を口にする。
 一、今日の夕飯は今日中に食べるよう、鶏ガラデレラになる。
   (なるべく深夜零時までに帰宅し、食事を終えられるよう心掛ける)

 出来そうなことからコツコツとを基本とし、かつ「健康」というワードも忘れずにいたい。仮に失敗したところで、失くすものはない、、、それどころか何も変わらないだけのことではないか。
 約半月の期限付きで鶏ガラ君チャレンジは始まった。

 ハァ~、鶏ガラ~、鶏ガラ~。

「重大発表がある」
 突然神妙な面持ちで鶏ガラ君が佇まいを正した。
 身構えた私の脳内には転勤の二文字がでかでかと浮かび上がっていた。しかしこの感じ。ど田舎か海外でも行くのか? と、珍しく高速回転でエネルギーを消費していた。
「ど、どこへ?」
「は?」
「早く発表せい!」
 転勤のある仕事ではある。しかし、結婚してからは一度も引越しを伴う異動はない。
 鶏ガラ君は引っ越すことになっても、いつも通り仕事に行くに違いない。生活の拠点を変えるとなると、てんてこ舞いをしてみせるのは私だろう。荷造りや子どもの教育機関などの各種手続きを一手に引き受けることになるのは目に見えている。それらを片付けるに十分な時間的猶予があるかどうかも重要な焦点だ。

「この度、わたくし見事太りました~」

 何年振りだろう。古墳時代の埴輪よろしくポカ~ンとしてしまったのは――間違いなく「どすこい」と呼ばれていると発覚して以来の出来事であった。

「え、あ、うん。ま、マジで?」
「えぇ。今日が最終日でしょ」
 あぁ~……、完全に忘れてた。
 食事の準備では一時的に思い出していたのか、お茶碗一杯のご飯をよそっていたと思う。昼食については本人が気を使っていたので確認作業をすることがなくなっていた。
 あれほど昼食に無関心であった鶏ガラ君だが、コンビニのおにぎりやサンドイッチを食するだけで体調が違うと気付いたとのこと。夕方以降の集中力に差があり、確実にパフォーマンスが伸びたと実感したらしい。
 今では時間を確認することも覚え、定食を求めて会社周辺の開拓を楽しんでいると聞いた。
「まずはこれを見てみなさいって」
 シャツを捲り上げた鶏ガラ君がみせてくれたのは、イケメンボクサーの幅広ウェストゴムが腰の肉をキュと締めている姿だった。
「ひょえ~っ!」
「な?」
「いいやんコレっ!」
 ボクサーおパンツがイケメン仕様の仕事をしているではないか。
 感慨無量である。
「やれば出来る子だったんだね」
「あなたはダイエット飽きたんでしょ」
「うん」
 本気を出せば意外と体重は減るみたいだと気付いてしまった私は、面白味と興味を削がれ、炭水化物の摂取量がダイエット開始前に戻ってしまっていた。真面目に考えれば、十キロぐらいは比較的苦労なく減らせるだろう。単純に落とせる部分が多いだけのことで、ダイエット成功ではない。むしろ、「ダイエット」と呼んでいいのはその先なのだろう。
「チョロイだなんて、適正体重になって言いなさいよ。恥ずかしい」
「ハッ! そこはお互い様でしょ」
 挑戦的な言葉を向けられて、褒め称えていた心が一瞬でやさぐれた。
 五キロは増えたと言う鶏ガラ君の、今の体重を聞いてしまったが最後だった。
『しゃぁらぁくせぇぇぇわぁぁぁっ!』
 どすこいが「性格を加味した上での結果である」とはこういうことだ。
「適正体重なんて言葉、せめて私に追いついてから口にしろよなぁぁ!」
「プププ。ヤダわ~。俺、一生あなたには追い付けないわ~」
 高身長である鶏ガラ君の適正体重なるものは、今の私の体重より上の数値である。彼が標準体型を手に入れる為には私を超えていかねばならない。

「まぁさ、あれでしょ。あなたがガリガリがタイプじゃないのは知ってるし、俺だってデブ専じゃない。そりゃぁ、俺だってボンキュボンには憧れるよ? でも嫁はどすこいじゃん。出会った頃には既にどすこいミニだったじゃん」
「ピタゴラスイッチミニみたく言うな」
「理想と現実」
「だとしても夢見たっていいじゃない」
「夢見てたの?」
「ん? あ、見てないわ!」
「知ってた。気まぐれか、いつもの思い付きだって知ってた」
「ぶわははははは」
「今日も楽しそうで何よりだわ」
「ぶわはははは。うん。鶏ガラ君も楽しめたっしょ」
「うん。寒くなってきたから、明日はすき焼き定食を食べに行こうと思ってる」
「誘えよ!」
「昼休みに行くんですぅー」
 鶏ガラ君の口から美味しいランチ情報が飛び出してくるだなんて、私の思い付きも悪くない。
 健康へ関心を持ったかはさておき、意識改革という面では大勝利だ。
 意識改革、一念発起、私たちには我慢強さだとかやる気だとか、そのほかにも色々必要なことがある。体重と同じで、足りていたり、不足していたり。補いあったり、諦めてみたり。笑い合ったり、大喧嘩をしたり。
 それでいい。

 今までもこれからも、太く明るく、細く明るく、どすこいと鶏ガラは生きて行く。
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