284 / 375
2-7
しおりを挟む
2―7
二ツ森の村についたのは、もう夕暮れだった。
「やっぱり、不便だよ」
イケが湖で足を冷やしつつ呟いた。
「でも、これが二ツ森の人たちの生き方なんだし、あれを見てみてよ」
僕はイケに、湖の一部を指した。
「あそこが湖に流れている川で、そこに集まっている小さな虫を小さな魚が食べ、その小さな魚を大きな魚を食べる。その大きな魚を育てるために、湖の一部に網を仕掛けておいて、大きめの魚が遠くに逃げないようにしているんだ」
僕は二ツ森の人たちが仕掛けたと思われる、長くて大きな網の罠に注目した。網の目は荒く、小魚は逃げられるようになっていた。
すぐに魚は大きくならないが、数年経てば自然と大きくなり、逃げようとしても網に引っかかり、簡単に獲ることが出来る。そしてまた、次に来るときには魚が大きくなっているだろう。
「よくわかっているわね。さすが、アラさんの弟さんね」
二ツ森の酋長の孫娘のリンが、僕に話しかけてきた。
「リン、お兄ちゃんはどうしてる?」
僕が尋ねると、リンはため息をつきながら「どこか二人で、色々と話しているんじゃない?」と言い、僕を見つめてきた。
「あなたの前で言うのはおかしいけど、あなたのお兄さんの何処を、姉さんは気に入ったのかしら?」
リンさんは、僕の顔をまじまじと見つめ、「私なら、選ばないわね」と言った。
「リンさん、アラさんは是川の村でも女性に人気があるんですよ」
イケがお兄ちゃんを、擁護する事を言った。
「うーん、それはわかっているんだけど、私なら可愛い男性がいいわね、例えば、あなたの様な」
リンは僕から、イケに目を移した。その瞬間、イケは顔を赤くした。
「冗談よ」
リンは笑いつつ、イケの頬を指で小突いた。
夕食は僕たちの持ってきた鳥の燻製と、湖の魚だった。
「入江の湖でも似たような魚を食べましたが、こっちの方が美味しいです」
イケはここの魚を気に入ったのか、「たくさん食べてね」と言った酋長の妻の言葉を受け取り、三匹も食べてしまった。
僕が『食べ過ぎじゃないかな』と心配していると、酋長の妻が「いいのよ。私はたくさん食べる子供を見るのが好きだから」と言い、じっとイケの食べっぷりを見ていた。
「カラと言ったな。初めて来た時に見つけ、今も交易をしておる石は役に立っているか?」
酋長から尋ねられ、僕は「みんなが使っています」と、脚色なく答えた。
二ツ森で取れる石は固くて。加工が難しい。しかし、一度造り上げてしまえば壊れることが無く、切れ味も鋭い石器が造れた。
「ここでとれた石は、俺の愛用品ですよ」
ウドさんは持ってきていた石斧を、集まっている人の前に出した。
「おお、きれいに磨き上げられているな」
二ツ森の男性らが、ウドさんの担ぎ上げた石斧を、目を輝かせながら見つめた。
「どれだけ磨いたんだ?」
ウドさんはその問いかけに、「冬の間、ずっとだ」と、胸を張って答えた。
すると、イケが僕にそっと囁いた。
「磨いたのはウドさんですけど、形を造る作業をしたのはカラさんですよね?」
僕はイケに「別に構わないさ」と言い、ウドさんら男性を眺めた。
「いいよな。俺の村でもあんな石が欲しいけど、代わりになる物が無いんだ」
ラドさんが残念そうに、首を横に振った。
「なに。弓が得意なバクと交換なら、いくらでも持っていっていいぞ?」
酋長が言うと、ラドさんは「絶対無理です」と、即答した。
「当然じゃが、残念じゃな」
酋長は笑いつつも、「代わりに、湖を往復できる小型の船はないかのう?」と、代案を出した。
「はい、村に戻ったら提案してみます」
ラドさんはそう言って、「まあ、小型の船なら造れるかな」と、軽く呟いた。
「ラドさん。交換は冗談で、酋長の孫娘に嫁がないかって話じゃないですか。バクさんは、久慈村の酋長の息子さんですし」
僕が言うと、ラドさんは「それでも、石と交換でバクを使う気がして嫌だった」と答えた。
「ごめんなさい。お祖父ちゃんが変な事を言って」
リンがラドさんに謝った。
「いや、君のせいじゃないし、酋長も本気じゃなかっただろう。ところで、姉のランがいないが。おい、アラもいないじゃないか?」
僕はいつの間にか、お兄ちゃんとリンの姉のランさんがいなくなっている事に気がついた。
「まったく、アラは何しに来たんだか」
ロウさんが少し、口を尖らせた。
「何か知っているんですか?」
僕が尋ねると、ロウさんは大きなため息をついた。
「カラ、男女が揃っていなくなったんだ。もう、これ以上何か言う事はあるか?」
ロウさんに言われ、僕はようやくお兄ちゃんがいなくなった理由に気がつき、隣りにいたイケが顔を赤くした。
「そう言えば、コシさんの姿も見えませんね?」
顔が赤くなったイケの隣りにいたコシさんも、いつの間にか居なくなっていた。
「コシなら向こうにいるぞ。あいつ、大丈夫か?」
ラドさんが心配そうに、大人の男性らがいる場所を指した。
そこにはお酒に酔ったコシさんが、何やら踊りを踊っていた。
「これはぁ、是川でアワが育つように祈るための祈願ですぅ」
コシさんの踊りに合わせ、いつの間にか手拍子が加わっていた。皆が楽しそうであり、人の輪が出来上がっていた。
「コシに酒を飲ませてはいけない。と思っていたんだが、飲ませた方がいい時もありそうだな」
ロウさんが、輪になって踊っているコシさんらを見ながら言った。
しかし、アワを育てているイバさんは、コシさんの様な祈願をしてはいない。
二ツ森の村についたのは、もう夕暮れだった。
「やっぱり、不便だよ」
イケが湖で足を冷やしつつ呟いた。
「でも、これが二ツ森の人たちの生き方なんだし、あれを見てみてよ」
僕はイケに、湖の一部を指した。
「あそこが湖に流れている川で、そこに集まっている小さな虫を小さな魚が食べ、その小さな魚を大きな魚を食べる。その大きな魚を育てるために、湖の一部に網を仕掛けておいて、大きめの魚が遠くに逃げないようにしているんだ」
僕は二ツ森の人たちが仕掛けたと思われる、長くて大きな網の罠に注目した。網の目は荒く、小魚は逃げられるようになっていた。
すぐに魚は大きくならないが、数年経てば自然と大きくなり、逃げようとしても網に引っかかり、簡単に獲ることが出来る。そしてまた、次に来るときには魚が大きくなっているだろう。
「よくわかっているわね。さすが、アラさんの弟さんね」
二ツ森の酋長の孫娘のリンが、僕に話しかけてきた。
「リン、お兄ちゃんはどうしてる?」
僕が尋ねると、リンはため息をつきながら「どこか二人で、色々と話しているんじゃない?」と言い、僕を見つめてきた。
「あなたの前で言うのはおかしいけど、あなたのお兄さんの何処を、姉さんは気に入ったのかしら?」
リンさんは、僕の顔をまじまじと見つめ、「私なら、選ばないわね」と言った。
「リンさん、アラさんは是川の村でも女性に人気があるんですよ」
イケがお兄ちゃんを、擁護する事を言った。
「うーん、それはわかっているんだけど、私なら可愛い男性がいいわね、例えば、あなたの様な」
リンは僕から、イケに目を移した。その瞬間、イケは顔を赤くした。
「冗談よ」
リンは笑いつつ、イケの頬を指で小突いた。
夕食は僕たちの持ってきた鳥の燻製と、湖の魚だった。
「入江の湖でも似たような魚を食べましたが、こっちの方が美味しいです」
イケはここの魚を気に入ったのか、「たくさん食べてね」と言った酋長の妻の言葉を受け取り、三匹も食べてしまった。
僕が『食べ過ぎじゃないかな』と心配していると、酋長の妻が「いいのよ。私はたくさん食べる子供を見るのが好きだから」と言い、じっとイケの食べっぷりを見ていた。
「カラと言ったな。初めて来た時に見つけ、今も交易をしておる石は役に立っているか?」
酋長から尋ねられ、僕は「みんなが使っています」と、脚色なく答えた。
二ツ森で取れる石は固くて。加工が難しい。しかし、一度造り上げてしまえば壊れることが無く、切れ味も鋭い石器が造れた。
「ここでとれた石は、俺の愛用品ですよ」
ウドさんは持ってきていた石斧を、集まっている人の前に出した。
「おお、きれいに磨き上げられているな」
二ツ森の男性らが、ウドさんの担ぎ上げた石斧を、目を輝かせながら見つめた。
「どれだけ磨いたんだ?」
ウドさんはその問いかけに、「冬の間、ずっとだ」と、胸を張って答えた。
すると、イケが僕にそっと囁いた。
「磨いたのはウドさんですけど、形を造る作業をしたのはカラさんですよね?」
僕はイケに「別に構わないさ」と言い、ウドさんら男性を眺めた。
「いいよな。俺の村でもあんな石が欲しいけど、代わりになる物が無いんだ」
ラドさんが残念そうに、首を横に振った。
「なに。弓が得意なバクと交換なら、いくらでも持っていっていいぞ?」
酋長が言うと、ラドさんは「絶対無理です」と、即答した。
「当然じゃが、残念じゃな」
酋長は笑いつつも、「代わりに、湖を往復できる小型の船はないかのう?」と、代案を出した。
「はい、村に戻ったら提案してみます」
ラドさんはそう言って、「まあ、小型の船なら造れるかな」と、軽く呟いた。
「ラドさん。交換は冗談で、酋長の孫娘に嫁がないかって話じゃないですか。バクさんは、久慈村の酋長の息子さんですし」
僕が言うと、ラドさんは「それでも、石と交換でバクを使う気がして嫌だった」と答えた。
「ごめんなさい。お祖父ちゃんが変な事を言って」
リンがラドさんに謝った。
「いや、君のせいじゃないし、酋長も本気じゃなかっただろう。ところで、姉のランがいないが。おい、アラもいないじゃないか?」
僕はいつの間にか、お兄ちゃんとリンの姉のランさんがいなくなっている事に気がついた。
「まったく、アラは何しに来たんだか」
ロウさんが少し、口を尖らせた。
「何か知っているんですか?」
僕が尋ねると、ロウさんは大きなため息をついた。
「カラ、男女が揃っていなくなったんだ。もう、これ以上何か言う事はあるか?」
ロウさんに言われ、僕はようやくお兄ちゃんがいなくなった理由に気がつき、隣りにいたイケが顔を赤くした。
「そう言えば、コシさんの姿も見えませんね?」
顔が赤くなったイケの隣りにいたコシさんも、いつの間にか居なくなっていた。
「コシなら向こうにいるぞ。あいつ、大丈夫か?」
ラドさんが心配そうに、大人の男性らがいる場所を指した。
そこにはお酒に酔ったコシさんが、何やら踊りを踊っていた。
「これはぁ、是川でアワが育つように祈るための祈願ですぅ」
コシさんの踊りに合わせ、いつの間にか手拍子が加わっていた。皆が楽しそうであり、人の輪が出来上がっていた。
「コシに酒を飲ませてはいけない。と思っていたんだが、飲ませた方がいい時もありそうだな」
ロウさんが、輪になって踊っているコシさんらを見ながら言った。
しかし、アワを育てているイバさんは、コシさんの様な祈願をしてはいない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる