『潮が満ちたら、会いに行く』

古代の誇大妄想家

文字の大きさ
308 / 375

コマSide 2

しおりを挟む
コマSide
 2
 俺はいつもならば、船に乗って漁をしている時間だ。しかし、今はレイと一緒に、磯部で釣りをしている。
「なあ、お前は船に乗って漁をしたくはならないのか?」
 漁をしている船を眺めつつ、俺はレイに、少し酷かもしれない事を尋ねた。
「してみたいとは思いますけど、出来ない事は出来ないですから」
レイはそう言って、ゆっくりと右手で蔦を手繰り寄せ、籠状に編んだ蔦でエビを釣り上げた。俺は今まで、獲物を傷つけずに漁をしたことは無かった。レイは蔦に止まっているエビを、逃げないようにゆっくりと釣り上げている。俺には無かった発想だ。
「そんな小さなエビを獲るだけで、お前は満足するのか?」
 俺の村では、大きな獲物を獲る事こそが一人前の男であり、レイの釣っているエビ釣りなんて、女子供がやる事だった。
「このエビは、小さいですけど煮込むととても美味しい汁が出来上がるんです。冷えた身体が温まりますし、漁から戻って来た人たちにも好評ですよ」
 レイはそう言いつつ、またエビを釣り上げた。
「この村と俺の村は違う。俺の村だと、お前のような事をしている男の子供はいない。みんな、漁の手伝いをしている」
 俺が言うと、レイは特に気にする様子もなく、腰に付けてある籠から、乾燥させた虫をエサとして海面に撒いた。
「コマさんの村だと、僕の様な仕事をしている人がいたらどうなりますか?」
 レイから尋ねられ、俺は「漁の手伝いをしろって言われるだろうな」と答え、自分でもそう言うだろうと思った。
「でも、僕は出来ませんよ。それでも、言いますか?」
 レイからさらに尋ねられ、俺は言葉に詰まった。出来ない子供に、そんなこと言えるわけがないからだ。
「コマさんの村では、コマさんにも『漁の手伝いをしろ』って言いますか?」
「いや、そんな事は言われていない。むしろ『休んでいろ』って言われるな」
 俺が寂しげに言うと、レイは「コマさんは休んでいたくないんですか?」と、聞き返してきた。
「当たり前だろ。みんな仕事をしているのに、どうして俺だけ休んでいられるんだ」
「じゃあ、今のコマさんには何が出来ますか?」
レイの言葉に、俺はまたも言葉に詰まった。
 しばらく沈黙が続いた後、俺の持っていた木の竿に反応があり、俺は魚を釣り上げた。漁で獲れる魚とは違う、小さなものだった。
「小さな魚は、お姉ちゃんが喜びますよ」
 レイはそう言って、あの臭い物の話題を出した。
「俺には、何が出来るんだろうな」
 俺はレイだけではなく、自分自身にも問う様に言った。
「それを、一緒に考えていこうって話ですよ。でも、決めるのはコマさんです」
「決めるって、何が出来るかをか?」
 俺が聞き返すと、レイは首を横に振った。
「自分が、自分の仕事に満足できるかですよ。コマさんは何が出来ると、自分で満足できると思いますか?」
「そうだなぁ。大きな獲物を獲る事だな」
 俺は自分で言ってから、今の自分には出来ない事だと思い、気分が暗くなった。
「なら、もしその釣り竿で大きなカツオか何かが獲れたら、満足しますか?」
「獲れやしないだろうが、するだろうな」
「村の人から『釣り竿で獲った魚は、男の仕事じゃない』って言われてもですか?」
 レイの言葉を聞き、俺はその様子を想像した。
 俺の村では船を使って漁に出て、大きな魚を獲れれば大人として認められる。なら、磯部で釣り竿を使って、大きな魚を釣り上げたとしたら、それは大人として認められるのだろうか。俺には、わからなかった。
「決めるのは村の人じゃなくて、コマさんですよ」
 レイはそう言って、また蔦に停まったエビを釣り上げた。
「でも、認めるのは他の人だろ?」
 俺が言い返すようにして尋ねると、レイの顔が少し曇った。
「そうですね。僕自身も、たまに怖くなります。本当は、僕は邪魔者で、こんな小さなエビを獲ることしか出来ないんじゃ、口減らしとして、村にいない方がいいんじゃないかって思う時があります」
レイはそう言うが、俺はそうは思わなかった。
「そんな事ないだろ。俺はお前といてまだ半月も経っていないが、誰もお前を邪魔者扱いなんてしていないはずだ。土器を造る時には姉のサキと一緒に小さな子供に教え、毎朝海や雲、山を見て天候を予測して、俺には思いつかないような創作話を考えて、村のみんなを楽しませているじゃないか。そんなお前が村の邪魔者なんて、俺にはとうてい思えない」
 俺は少し、熱っぽくレイに語りかけた。レイがこの村の邪魔者になんて、俺には考えられなかったからだ。
「ありがとうございます」
 レイはそう言って、笑顔を取り戻した。
「コマさんを村の一員として認めるのは村の人ですけど、それを認めるかはコマさん次第ですよ。僕が小さなエビを釣っていて、村の人が『村の一員だ』と認めてくれても、それを自分で認めるかは自分次第ですし、例え認められなくても、自分が『村の一員だ』って認めれば、それでいいんじゃないかって思うんですよ」
「それで、他の人が『お前は邪魔者だ』って言ってきてもか?」
「さすがにそう言われると自信は無くなりますが、本当はどう思っているかなんてわかりませんよ。他人の心の中なんて、わからないですし」
 レイは少し、寂しげに言った。
 俺はどうだろうか。妻のキアは、俺の事をどう思っているのだろうか。俺がこんな身体になっても、俺と一緒にいてくれている。それは、キアの本心なのだろうか。もしかすると、他の村人から『お前がコマの介助をしろ』と、強制的にやらされているのかもしれないのだ。
 そこまで考えると、急に怖くなってきた。
「他人の本心も、自分の妻の本心も、本当はわからないのか」
 俺が呟くように言うと、レイは「そうですね」と言い、同意した。
「本人には、自分の気持ちを直接言えないって人もいますね。例えば、ハムさんはカラの事を『嫌いだ』って言っていますが、父親のハウさんの思想の違いとは関係ないかもしれないんです。本当は去年、班長だったトウさんがハムさんよりも、カラを信用していた事に、嫉妬していただけなのかもしれないんですよね」
 俺もハウの思想である、村と村が交流しすぎることは『自然に反する』という話を本人から聞いた。
 しかし、その実態は人と人の争いだ、人と人が争うのが『自然に反する』と言った方が適切だろう。
「じゃあ本心では、ハムはカラの事が好きなのか?」
「さあ、どうでしょう。僕は人の心は読めませんからね」
レイはそう言って笑いつつ、またエビを釣り上げた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

処理中です...