『潮が満ちたら、会いに行く』

古代の誇大妄想家

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カラSide 5-1

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カラSide
 5―1
 季節は夏へと移り変わり、家にはお母さんとキアさんが、二人で過ごしている事が多くなった。
「思ったよりも、疲れているみたい」
 お母さんが言うには、子作りに関しても多くの言い争いがあったそうだ。今はキンさんやエンさんと共に土器などを造りながら、その事について話し合っている所を見かける。
そのせいと言ってはなんだが、僕が家にいる事が少なくなった。自分の家なのに自分が入れないという、おかしな構図になっている。
 そして、お兄ちゃんも村にいない事が多くなった。
「二ツ森の人と、話し合いをしてきます」
 お兄ちゃんは真面目な顔をして言うのだが、お母さんもお父さんも、僕もその本質的な目的が、ランさんに会いに行く事だと分かっていた。
「ちゃんと、石器用の石を持ってきているから、いいんじゃないかね?」
 ガンさんはそう言うけれど、ロウさんは少し不満気だった。
「色恋沙汰に、現を抜かすなんてな」
 アワやヒエを育て得ているイバさんに、そうぼやいているところ見かけたことがある。
 不満気と言えば、僕自身が不満気な人間かもしれないと思いつつあった。
 コマさんを入江に送り届け、それなりの月日が経った。今頃、コマさんとレイとサキさんは、何をしているだろうか。迷惑になっていないだろうかと、海を見ながら考える事が多くなった。 
 そして、ダロに顔を舐められることも増えた。
「またか。カラは、悩むことが好きだな」
 ジンさんが笑いながら、僕に近寄って来た。
「はい、コマさんと入江の人たちが気になってしまって」
 僕が正直に話すと、ジンさんは「カラが今考えたって、どうにもならないだろ」と、僕の頭を軽く叩いた。
「たまには、何も考えない方がいいだろ」
 ジンさんはそう言って、僕を抱えて海に放り込んだ。
「突然何をするんですか?」
 僕は頭をふりつつ、ジンさんを睨んだ。しかし、ジンさんは眼前に居らず、僕の背後に波しぶきをあげて飛び込んでいた。
「久しぶりに、いくぞ?」
 ジンさんは両手を奇妙な形にし、膨らませる様にして僕の方に手を向けた。そして、その両手から激しい水しぶきが飛んできた。
「ははは、久しぶりだろ?」
 ジンさんは笑いつつ、さらに両手を海の中に入れ、水を僕に向かって放ってきた。
「ちょ、それで鼻に水が入って、一日中痛くなったことがあるんですから」
「何を言っているんだ。一日中考え事をさせないようにしようとしているんだ。俺は元から、鼻に入れるつもりだぞ?」
 僕の言う事はお構いなしに、ジンさんは僕を追いかけまわすようにして、海水をぶつけてきた。
 しばらくして、僕は砂浜に上がり込み、泳ぎ疲れて倒れ込んだ。
「どうしたんだ。もうお終いか?」
「ジンさんだって、息が絶え絶えじゃないですか」
 僕たちは二人で、荒い呼吸のまま砂浜に倒れ込んだ。
「ジンさん、久しぶりですね。こうやって遊ぶのは」
僕が言うと、ジンさんも「そうだな」と言った。
「最近は、あまり子供と遊ばなくなった。みんな俺よりも、仕事を優先させるからな」
 ジンさんが意地悪そうに、僕の顔を覗き込んできた。
「そう言えばそうですね。イケは土偶造りに熱中して、マオとカオはシキさんの所に入り浸りですし、オクはキノジイの所に行っていますしね」
「そうだ。ズイも、まだ幼いのにヤンさんと一緒に船を漕いでいる。イバもロウも、自分で決めた仕事をしているし、アラは・・、もう放っておけ。他人の色恋沙汰に、関わる事は無いさ」
ジンさんは笑いつつも、少し寂しそうに見えた。 
「ザシさんとは、どうですか?」
「兄さんか、ホウさんと一緒にしている久慈村の近くの木々の管理が楽しいそうだ。俺は今、独りぼっちかもな」
 僕とジンさんはしばらく黙ったまま、海を眺めた。
「カラは、これからどうするつもりなんだ?」
「これからって、どういう事ですか?」
「これからはこれからさ。目標にしている、村と村との交流を増やす事にするのか。入江で聞いた、ハウさんの言う様に少しずつ交流を増やすのか。それとも、是川の村で静かに暮らすのか。どうしたいんだ?」
 ジンさんに尋ねられ、僕は今の所、これからどうしようかという事をあまり考えていなかった事に気がついた。
「まだ、わかりません。ハウさんやハキさんを疑うわけではないですが、人と人が争う事が、本当なのかもわかりません。だから、もっと色々と見聞きしたいという気持ちもありますし、この村で、ゆっくりとした生活をしてもいいかという気持ちもあります」
 ハキさんからは、三内の管理はとても疲れるという話も聞いた。僕は、もっと新しい事をしたいのか。それとも、ゆっくりとした生活をしたいのか。どちらがいいかと問われると、答えに詰まるだろう。
「俺は、カラは自由に生きる方がいいと思っているんだ」
「自由に、ですか?」
 ジンさんは砂浜を手で掘りつつ、砂を掴んで海に投げた。
「だって、カラは何か行動していないと、こうやって考えたり悩んだりしてばかりじゃないか。それなら、行動ばかりしていた方がいいんじゃないかって、俺は思うんだ」
「行動ばかりしてちゃ、疲れちゃいますよ」
 僕は笑いながら答えたが、ジンさんは冗談のような顔をしていなかった。
「疲れたら、いつでもこの村に帰ってきたらいいさ」
 どことなく、ジンさんはガンさんやキンさんの様な、お年寄りが言うような口調で言った。
「ジンさんは、どこかに行きたいとは思わないんですか?」
 僕が尋ねると、ジンさんは「俺は、あまりないんだ」と答えた。
「俺は小さな子供の面倒を見て、子供と遊んで、大人の仕事もちゃんとして、ゆっくりとした生活でいいんじゃないかって思えるんだ」
「それで、いいんでしょうか?」
 僕がジンさんの人生を決めてはいけない。それでも、僕は言いたかった。
「いいさ。新しい物事は、カラが見聞きして来ればいい。いつカラが帰って来てもいいように、俺がこの村を守っているさ」
 ジンさんの言葉に、僕は一抹の寂しさを感じた。ジンさんはそれでいいと、本心から言っているのだろう。でも、僕はジンさんとも、何処か新しい所に行ってみたかった。
「ジンさん。何だか僕を、この村から出て行かせようとしていませんか?」
 僕が冗談のような口調で言うと、ジンさんは「そんな事は無いさ」と強い口調で言い、またも僕を、海の中に放り込んだ。

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