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ハムさんは丸一日寝ており、起きた時には少し熱がある様に見えた。
「大丈夫だ」
ハムさんはそう言ったが、ジンさんが半ば無理やり寝かせた。
「そんな身体じゃ、お前まで悪くなる。俺の事はよく知らないだろうが、ここは俺を信じて、任せてほしい」
ジンさんがそう言うと、ハムさんは毛皮にくるまり、素直に寝始めた。
「やっぱり、無理をしていたんですね」
離れた場所で僕がザシさんに言うと、ザシさんは「そうだな」と言い、頷いた。
「仁斗田島で祈り続けると言っていた人たちを、ハムは『祈るだけじゃ、何も変わらない』って言って、蹴飛ばす様に行動していたな。その通りだ。俺も亡くなった女性たちを祈って、いや、赦してほしいと祈り続けていた。それでは、何も変わらない。俺は色んな人に、教えてもらってばかりだな」
ザシさんは自嘲気味に言った。
「いえ。その事を他の誰かに話せば、ザシさんの様に塞ぎこむ人も減って、前を見つめられる人がいるかもしれません」
僕は『ザシさんが傷ついたかもしれない』と思ったが、ザシさんの表情は変わらなかった。
「そうだな。俺も、教える側にならないとな」
ザシさんはそう言って、まだ体調の悪い人たちの元へ駆け寄っていった。
僕たちが仁斗田島に来て何日経っただろうか。それが分からないほどの日数が経った。
「俺も、元気になったぞ」
ハムさんはジンさんにそう言って、村人の介抱に向かった。しかし、ハムさんの体調が良くなる頃には、ほとんどの人たちは快調になっていた。
「もう十分じゃ。後は、ワシらが何とかする」
仁斗田島の酋長がハムさんに言い、それにシイさんも続いた。ロウさんの助力もあり、村の派閥の溝は埋まった。これからは祭事の時だけ、シイさんが祈りを捧げる事になったそうだ。
「俺たちが仁斗田島の人たちと、当面過ごすさ。牡蠣やサザエの獲り方を教えてもらいたいからな」
沼津村のトイさんが、沼津村の酋長とかけあったそうだ。なんでも、沼津村では『水は沸かして飲め』という口伝から、身体全体を水の中に入れる事を恐れ、海の中に潜っての漁を行っていなかったそうだ。
「村の人たちには悪いけど、いい経験になったわ」
ナホさんはそう言いつつ、仲良くなった女性たちと、涙ながらに別れを惜しんでいた。
「で、本当にいいのかロウ。沼津と是川は、時期が変われば海が荒れて、行き来が出来なくなる。当面、俺たちは大洞村よりも南の村々、沼津も含めて交流をしようと訪れないだろう」
ジンさんがロウさんに、ゆっくりとした口調で話しかけた。
「それでも、残るのか?」
ジンさんの言葉に、ロウさんは「残ります」と、力強く答えた。ロウさんは沼津に残り、仁斗田島の人と沼津の人との、橋渡しの様な役割を担うそうだ。
「俺も、ハムに刺激されてな」
前日の夜、ロウさんは僕にそう言っていた。
「なら、言う事は無い。だが、これだけは覚えていてくれ。お前は是川の人間でもあるだ。何か助けが必要なら、いつでも言うんだぞ?」
「はい」
ジンさんとロウさんは、これでもかというくらいの、固い握手を交わした。そして、ジンさんがロウさんの耳に何かしら囁き、ロウさんは「違いますよ」と、顔を少し赤らめて否定していた。
「ロウさん、次に会う時は、僕も『責任』を持った大人になります」
僕が言うと、ロウさんは「来年まで、会いに来ないつもりか?」と苦笑しつつ、僕とも握手を交わした。
「早く帰りましょう。天候が変わったら大変ですよ」
一人、先に船に乗り込んでいるハムさんが僕たちを急かす様に言った。ハムさんは仁斗田島の人を助けただけじゃなく、『水を沸かして飲め』という口伝を立証した。その事で、沼津村の人からも「この村の人間にならないか?」などと誘われ、中には「娘を貰ってくれないか?」とまで言われたそうだ。
「ハムも残らないか?」
ハムさんはロウさんに笑いながら言われ、「帰りを待つ人がたくさんいますので」と、ぶっきらぼうな口調で断った。
「いずれにしろ、また会おうな」
ロウさんは船に近づき、ハムさんとも固い握手を交わした。
潮が大洞村に向かって流れ、僕たちは櫂を漕ぐ事無く船に乗りながら、手を大きく振った。
「ロウさん、絶対にまた会いましょう!」
僕は大きな声を出し、海岸からも大きな声が返って来た。
ハムさんは丸一日寝ており、起きた時には少し熱がある様に見えた。
「大丈夫だ」
ハムさんはそう言ったが、ジンさんが半ば無理やり寝かせた。
「そんな身体じゃ、お前まで悪くなる。俺の事はよく知らないだろうが、ここは俺を信じて、任せてほしい」
ジンさんがそう言うと、ハムさんは毛皮にくるまり、素直に寝始めた。
「やっぱり、無理をしていたんですね」
離れた場所で僕がザシさんに言うと、ザシさんは「そうだな」と言い、頷いた。
「仁斗田島で祈り続けると言っていた人たちを、ハムは『祈るだけじゃ、何も変わらない』って言って、蹴飛ばす様に行動していたな。その通りだ。俺も亡くなった女性たちを祈って、いや、赦してほしいと祈り続けていた。それでは、何も変わらない。俺は色んな人に、教えてもらってばかりだな」
ザシさんは自嘲気味に言った。
「いえ。その事を他の誰かに話せば、ザシさんの様に塞ぎこむ人も減って、前を見つめられる人がいるかもしれません」
僕は『ザシさんが傷ついたかもしれない』と思ったが、ザシさんの表情は変わらなかった。
「そうだな。俺も、教える側にならないとな」
ザシさんはそう言って、まだ体調の悪い人たちの元へ駆け寄っていった。
僕たちが仁斗田島に来て何日経っただろうか。それが分からないほどの日数が経った。
「俺も、元気になったぞ」
ハムさんはジンさんにそう言って、村人の介抱に向かった。しかし、ハムさんの体調が良くなる頃には、ほとんどの人たちは快調になっていた。
「もう十分じゃ。後は、ワシらが何とかする」
仁斗田島の酋長がハムさんに言い、それにシイさんも続いた。ロウさんの助力もあり、村の派閥の溝は埋まった。これからは祭事の時だけ、シイさんが祈りを捧げる事になったそうだ。
「俺たちが仁斗田島の人たちと、当面過ごすさ。牡蠣やサザエの獲り方を教えてもらいたいからな」
沼津村のトイさんが、沼津村の酋長とかけあったそうだ。なんでも、沼津村では『水は沸かして飲め』という口伝から、身体全体を水の中に入れる事を恐れ、海の中に潜っての漁を行っていなかったそうだ。
「村の人たちには悪いけど、いい経験になったわ」
ナホさんはそう言いつつ、仲良くなった女性たちと、涙ながらに別れを惜しんでいた。
「で、本当にいいのかロウ。沼津と是川は、時期が変われば海が荒れて、行き来が出来なくなる。当面、俺たちは大洞村よりも南の村々、沼津も含めて交流をしようと訪れないだろう」
ジンさんがロウさんに、ゆっくりとした口調で話しかけた。
「それでも、残るのか?」
ジンさんの言葉に、ロウさんは「残ります」と、力強く答えた。ロウさんは沼津に残り、仁斗田島の人と沼津の人との、橋渡しの様な役割を担うそうだ。
「俺も、ハムに刺激されてな」
前日の夜、ロウさんは僕にそう言っていた。
「なら、言う事は無い。だが、これだけは覚えていてくれ。お前は是川の人間でもあるだ。何か助けが必要なら、いつでも言うんだぞ?」
「はい」
ジンさんとロウさんは、これでもかというくらいの、固い握手を交わした。そして、ジンさんがロウさんの耳に何かしら囁き、ロウさんは「違いますよ」と、顔を少し赤らめて否定していた。
「ロウさん、次に会う時は、僕も『責任』を持った大人になります」
僕が言うと、ロウさんは「来年まで、会いに来ないつもりか?」と苦笑しつつ、僕とも握手を交わした。
「早く帰りましょう。天候が変わったら大変ですよ」
一人、先に船に乗り込んでいるハムさんが僕たちを急かす様に言った。ハムさんは仁斗田島の人を助けただけじゃなく、『水を沸かして飲め』という口伝を立証した。その事で、沼津村の人からも「この村の人間にならないか?」などと誘われ、中には「娘を貰ってくれないか?」とまで言われたそうだ。
「ハムも残らないか?」
ハムさんはロウさんに笑いながら言われ、「帰りを待つ人がたくさんいますので」と、ぶっきらぼうな口調で断った。
「いずれにしろ、また会おうな」
ロウさんは船に近づき、ハムさんとも固い握手を交わした。
潮が大洞村に向かって流れ、僕たちは櫂を漕ぐ事無く船に乗りながら、手を大きく振った。
「ロウさん、絶対にまた会いましょう!」
僕は大きな声を出し、海岸からも大きな声が返って来た。
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