緋色の糸

れおぽりす

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出会い

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高浜七海は、窓の外を眺めていた。
いや、端から見ればぼーっとしているように見えるだけで、本当はワクワクして授業の終わりを待ち望んでいたのかもしれない。なぜなら今日の午前授業が終われば、いとこのかっちゃんに会えるからだ。

そんな感じでぼんやりしてると、後ろの席の幼なじみの田中歩が、背中をつついて手紙を回してくる。
「なにぼーっとしてんの!恋煩い?笑」
七海はバッと顔を赤くして、即座に返事を書く。
「違うし!スカイツリーが綺麗だから見てたの!」
歩はプッと吹き出して、返事を寄越す。
「今日は曇っててスカイツリーなんか見えないっつーの、ばーか!」
七海はムカついたのでちょっと振り返って、半涙目で口の形だけで、「うるさい」と言った。
すると神様は案外ちゃんと悪いことは見逃さないらしい、いや、神様というか普通に数学の須藤先生なのだけど。
「高浜、142Pの問3黒板に解いてね。仲良しの田中と一緒にだぞ。」
と、わざわざからかうような口調で言った。ニヤニヤするクラスメイトの視線を一心にあびて、歩と七海は二人して数学の問題を解くはめになってしまった。


12時半。
七海は下駄箱に靴を突っ込んで、早足で校門を出ると、後ろからに歩の呼ぶ声がした。
「おーいナナちゃん!一緒に帰ろーぜ♪」
振り替えるとサラサラの茶っ毛が揺れてる。どこまでも能天気な奴だ。さっき恥をかかされたっていうのに。
「悪いけど、あたし今日は急ぐから。」七海はつんけんして答える。
歩はにやっとして、
「もしかして、図星だった?」
と答える。
「図星って...なにが?」と七海が言うと、
「そりゃーいくら超ツンデレの七海だって恋くらいするっしょ?」
「こっ、恋なんかしてないし!次言ったら殺すから!」
「殺されたら困る、俺まだ女の子とたくさんセックスしたいもん」
と涼しい顔でいう歩の顔面に、七海は通学カバンで打撃を食らわせる。
「ぶっ!!いってえ!!なにすんだよ!?」
「あんたがっ...その、せ、....すとか軽々しく言うからでしょ!?」
歩は爽やかに笑って、「だって俺変態だもん。つーか知ってる?世の中の男は大体変態だよ?」と堂々と言う。七海は半ばあきれて、このモテ男の幼なじみの顔を見た。

歩と七海は幼稚園からの幼なじみだった。二人とも近所でお似合いの美少年美少女カップルと噂されたが、真面目な七海はそれがすごく嫌で、歩に恋愛感情を抱いたことはなかった。歩のほうはというと、高校に入って茶髪ピアスにしてからますますモテが爆発して現在女の子を取っ替え引っ替えらしい。七海は告白こそ絶えないものの、恋より勉強の日々だった。

歩は男の子にしてはすごく綺麗な指で、七海の長い髪をすこし持ち上げて、言う。
「こんなに綺麗なのにさー、勿体無いよ。」
七海は、こういうところが歩がモテる理由なのだろうと思ったが、悔しいから言わなかった。なにより今日は、歩よりかっちゃんのことで頭がいっぱいだったのだ。
七海と歩の家は、歩が引っ越してから正反対の方向になってしまったが、歩はモテ男らしく七海を毎日家まで送ってくれる。今日はなんだかそれを後ろめたく思いながら、七海は家の前で歩と別れた。

「ただいまー」
七海が家に帰ると、この町一番の美人で有名だった母親がテレビを見ていた。振り返って
「おかえりー、じゃ、早速行こっか!」
とにっこり笑う。
七海は頷いて、制服から久々の私服の一張羅のスカートに着替える。普段はもっぱらジーンズだが、今日は清楚な女の子でなければいけない。

昼食後母親の車で、大叔母さんの家に向かう。母と七海は母子家庭で、離婚後莫大な資産家の妻である大叔母さんの家にさんざんお世話になってきた。
七海は父の顔は微塵も思い出せないから、他の子が羨ましくはあったが寂しいと思ったことはあまりない。男手が足りなければ、歩の家のやたら多い男兄弟に頼めば良かったのだ。
そんな今日は大叔母さんの別荘でパーティーだった。大叔母さん67才の誕生日。各界のエリートや親戚が日本中から集まってきて、年に一度大叔母さんの豪邸で盛大に祝う。いたって平均的な家庭に育った七海は、毎年それが夢のようだった。去年はなんと超有名小説家に、テレビでたまに見る政治家を三人を見かけた。

大叔母さん宅につくと、車を駐車場に泊める。相変わらず、小学校みたいに馬鹿でかい別荘。メルヘンチックな洋風の城のような家に入るまで、セキュリティ対策ばっちりな外門から30mは歩かなければならない。
七海は綺麗にとかしてきた髪をもう一度鏡でチェックして、グロスを気持ちばかり塗って車を降りた。
敷地内に母と入り、玄関でボーイさんに名前のチェックを受けて場中へ入る。そこは毎年見ても見慣れない、映画アンナ・カレーニナに出てきたようなきらびやかなパーティー場。普段はめったにお目にかかれない凝った食べ物がたくさんたくさん置いてあって、着飾った大人が談笑している。相変わらずここは日本?と七海は疑ってしまう。

七海は色んな親戚の人に挨拶をして回ってから、親友と談笑している母親をほっておき、お腹が空いたので一人で食べ物をよそっていた。やっぱり目はチラチラ辺りを伺ってかっちゃんを探してしまう。すると、後ろから誰かに肩を叩かれた。
「七海ちゃん。」
振り替えると、かっちゃんその人だった。
かっちゃんは、大叔母さんの孫で、七海より2才年上の大学生。本名は勝俊さんだけど、親戚の子皆でかっちゃんと呼ぶ。笑うとえくぼができる、目元が涼しげな顔で、物知りで優しくて小さい頃から七海の憧れだった。
「かっちゃん!いつ来たの?」
七海は顔をちょっと赤らめて聞く。
「30分前くらいだよ。あ、七海ちゃん、これ食べな。ローズマリーのチキン、美味しいよ。あ、これも」
と、かっちゃんが面倒見良く料理を次々七海のお皿に乗せる。この、大学生とは思えない大人びたこの性格だから、七海はかっちゃんが大好きだった。
料理を取り分けてから、かっちゃんと七海はしばらく高校や大学や勉強のこと、最近読んだ本のことについて延々と話した。かっちゃんは人の話を否定せずに、うんうんと優しい笑顔で聞いてくれる。七海は最高の気分に浸っていた。やはりかっちゃんに会えるこの日のことをずっと心待ちにしてたのだ。

話が尽きて、熱くなって火照ってしまった七海の顔を見て、かっちゃんが気をきかせて水をもってこようか?と言う。七海は好意に甘えて頼み、少しミニ噴水の近くへ行って腰を下ろした。
かっちゃんが帰ってくるまで、七海はぼーっとしながら夢見心地で、かっちゃんみたいな人と結婚できたら幸せだろうな、なんて考えていた。七海はチャラチャラした男は世界一嫌いで、かっちゃんみたいな誠実な男の人が好きだった。でも七海から告白する勇気なんてもちろんない。かっちゃんから告白される以上の幸せはないけど、そんなことは誰にも言えなかった。

そんなことを考えていると、隣から誰かの声がした。
「お前、勝俊のこと何も知らないんだな」
七海はムッとして、その声の主を睨み付ける。
30~40の間くらいの無精髭の男で、顔立ちは整っているものの服といい髭といい、七海の苦手な感じの粗野な男だった。
「私がかっちゃんの何を知らないって言うんですか。大体あなた誰なんですか。」
七海が言うと、男は答えた。
「勝俊の叔父。お前勝俊のこと好きなの?」
七海は顔を赤くして、答える
「すっ、好きですけど。何かあなたに関係が?」
男は冷たい眼光で七海をじっと見て、ありえない言葉を放った。
「やめとけよ。あいつ女孕ませて捨ててっから。」
七海はびっくりして固まって、それから馬鹿馬鹿しくなって笑った。
「何言ってるんですか。かっちゃんはそんな子じゃないですよ。だってあんなに温厚で優しくて、孕ませて捨てたって...人違いじゃないですか?大体そんなことしたら親戚中に広まってパーティーなんか来れませんよ。」と七海が言う。
男は、
「全部本当だよ。大叔母が相手の家族に示談金渡して事実を揉み消したんだ。俺、なんかそういうの偶然見ちゃうタイプだからさ。....おっと、泣いちゃった」
七海は男の言葉の、あまりのショックで泣き出してしまった。手が震えて、涙が止まらない。男は突然七海の腕をつかみ、ずかずか歩き出した。皆おしゃべりに夢中で、誰も七海も男も見ていない。
「どこにっ...いぐっ....ですか、っ!離してっ..
..!!」 
しゃくりあげながら、七海は男の腕を振りほどこうとするが、びくともしない。
男は階段を上がり、二階の広いベランダの空いている席に七海を腰掛けさせた。かっちゃんはしばらく、七海を見つけることはできないだろう。

外はだいぶ日が沈んでいた。泣きじゃくる七海に男は自分が着ているジャケットを掛け、ボーイに紅茶を頼み、七海の前に置いた。そして、頭をポンポンして、
「これ飲んで落ち着け。あんまり泣くと過呼吸になるぞ、びっくりさせてごめんな。」と驚くほど優しい声で言う。
七海はなんだか拍子抜けして素直に紅茶を飲み、落ち着くと、力なさげに男に聞いた。
「さっきの話....ホントなんですか。かっちゃんは絶対そんなことする人じゃないのに...」
男は七海がまた泣きそうになったので焦って、
「おっと泣くな。全部ホントだけどな。たまたま大叔母さんの家にいたら聞こえた。勝俊は同じゼミの女の子とできてて、孕ませて逃げたのを大叔母がゆくゆくは会社の跡継ぎになる勝俊の将来に傷をつけないためにも、この金額で訴えるのは考え直してくれと言っていた」
七海はやはり信じられなかったが、男の顔を見る限り嘘をついているようには見えなかった。
あまりに落胆した顔の七海を見て、男は
「あんな奴、好きになる価値なんかない。見かけは優柔不断そうな顔してる男ほど怪しいって覚えとけよ。」と、慰めるように言う。
七海は呟いた。
「初恋、....だったのに。」
そういって今度は、堪えきれないようにポロポロと涙を流す。
男は突然、そんな七海の皮肉にも絵になる顔を見て、ふと言う。
「俺がいるけど。」
七海はえ?と顔をあげ、潤んだ目で男を見上げる。
「失恋して泣く女の子の顔が一番困るんだけど。元はと言えば余計なこと言った俺のせいだし。よし、俺と付き合おっか。」そういって、優しく七海の肩を抱いた。
七海を見つめるその端正な顔はあまりにも優しくて、七海は真っ赤になってわけもわからずにイエスと答えてしまったのだった。
これが、出会いだった。
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