僕らの生きた世界(仮)

桃李

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コンラッド・L・フローディアの場合

再会

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「つまらんな。」

 誰もいないはずの玉座の間に声が響く。

 時刻は深夜。皆が寝静まった後、目が冴え眠れずに城内を散歩していた時だった。普段は警備兵が立っているはずの玉座の間の前には誰もおらず、扉が開いていた。侵入者かと中の様子を確認しようと恐る恐る覗くと、玉座に座る人影と大型の魔獣の影が見えた。その影が月の光に照らされ露わになる。そのヒトは煌びやかに装飾されている玉座が劣って見える程のオーラを放ち、脚を組み片肘をつきながら側にいる大型魔獣を撫でていた。

「グルルルル……」

 魔獣は嬉しそうに喉を鳴らしていた。魔獣は白黄銅色レグホーンの毛色でそのヒトの何倍もの大きさで椅子のそばに伏せていた。目を凝らしてよく見ると、その魔獣にははっきりとした形があり、顔を3つ持っていた。撫でられている頭は獅子だが、胴には山羊の顔、尾には蛇というなんとも奇妙な姿だった。そもそも魔獣は負のエネルギーの塊である瘴気から生まれてくるため基本的に不可思議な存在だが、そのほとんどが黒く禍々しいオーラを放っている。そして姿の輪郭がぼやけておりはっきりとした形を保っている方が珍しいのである。しかし、あの魔獣と思しき存在ははっきりとした輪郭を持ち神々しくある。本当に魔獣なのか怪しい存在である。

まさか…いや…そんなはずは…たとえそうだったとしてもなぜここに…

 頭の中で思考がぐるぐる回っていると、そのヒトがゆっくりと僕が隠れている扉を見つめて言った。

「ルーヴェ。」

 その声を聞いた途端に魔獣が反応し唸り声を上げた。

「殺すな、連れてこい。」

 そのヒトが言い放った途端、僕の目の前に魔獣が現れた。一回の瞬きの間の出来事だった。僕は驚いて声をあげ、後ろに尻をついていた。扉の隙間から魔獣の金色の瞳が僕を睨みつけていた。

「うわあああ!?」

 魔獣は器用に扉を開け、僕の脚に尻尾を巻きつけ引き摺り出した。あまりの出来事に頭の処理が追いつかず、深夜だというのも忘れ大きな声で叫んでいた。

「え!?え、ちょっと待ってくれ!!っ!」

 魔獣は指示された通りに僕を放り投げた。魔獣は僕を横目にそのヒトのそばに戻り、撫でられていた。

「グルルルル…」

 大人しく撫でられている様を見ても、やはり姿形は今まで見たことがない。魔獣の物珍しさに見入っていると、ふと寒気が走った。先ほどまで魔獣を見ていたヒトの視線が僕に移ったのだ。一瞬にして緊張が全身を駆け巡り、呼吸を忘れてしまう。視線だけで射抜かれ死を錯覚させる程の圧力にすぐ頭を下げた。何を考えているのか分からないが、じっと観察されているようだ。

「貴様、僅かながらヒュペリオンの血が流れているな…面白い。また生まれ落ちる事はわかっていたが、まさかこことは…」

 え…?

わらべ、許可する。名を名乗れ。」
「は、はい。ぼ、私はフロイデ王国第二王子コンラッド・L・フローディアと申します。」
「フロイデ王国…そうか。」

 僕は訳が分からず、ただ話しかけられるのを待っていた。

「退屈しのぎに数百年ぶりに下界に降りてきたが、どうやら正解だったようだ。なぁ?ルーヴェ、お前もそう思うだろう?」
「我が主人に不正解や間違いなど端から存在致しません。」
「愚問だったな。」

 驚いたことにルーヴェと呼ばれた魔獣は言葉を発した。通常、魔獣は話す事は疎か意思疎通など簡単にはできない。なぜなら人間と出会った瞬間獲物と見定め襲い掛かってくるからである。しかし例外もある。それは魔族や魔人族とも呼ばれる種族だ。彼らの中には魔獣を使役できる者がいると聞く。実際に会ったことがない為、本からの知識でしかない。だが、このルーヴェとその主人は魔獣や魔族の類ではない。僕の推測が正しければこの方々は…

「朕は機嫌が良い。貴様の無礼も許してやろう。貴様は今後、愉快な存在になり得るだろうぞ。」
「は、はい!感謝いたします。」
「特別だ。貴様、先ほどからルーヴェが気になって仕方ないのであろう?面をあげよ。ルーヴェ。」
「御意。」
「はい!」

 ルーヴェが僕を見下ろす。とても不快そうな目で。

「我をそこらの魔獣風情と同じにするでないぞ、無知蒙昧たる人間よ。我が名はルーヴェ。我が主人に御使いする六神獣ろくしんじゅうが一体。嵌合体キマイラの長、ルーヴェである。」
「嵌合体!?」

 まさか僕の推測が当たってしまうとは…つまり、この方々はこの世界を創造した創造主様と神獣様ということになる。僕は顔面蒼白になりながら、姿勢を正して地面にめり込むくらい頭を下げた。

「拝謁の栄を賜り、深く感謝いたします。」
「ようやく理解したか、愚かな人間よ。」
「ルーヴェ、朕は機嫌が良い。判っておるな。」
「出すぎた真似をいたしました。」

 僕が王子として生まれたこの国、フロイデ王国はハイリヒ教を国教としている。ハイリヒ教はこの世界を創造した【創造主】を神と崇めている宗教である。『【創造主】はこの世の全てを創造した。【創造主】はこの世の全ての親であり絶対真理である。』という教理に基づき世界中に教会があり、信者は人族だけではない。創造主について判っていることは世界を創造したのは遥か昔、少なくとも数億年前であり、創造主はそれよりも長く存在していること。創造主の使徒には七神従しちしんとと六神獣がおり、彼等は常に動き続けている天空島に住み、下界を監察し罪には罰を功には祝福を与えていること。そして、ついたもう一つの名が【世界の審判者】である。これらは長い年月をかけてハイリヒ教の信者達が集めた情報であり、自ずから受け継がれてきた。

パチン__

 突然の破裂音に反射的に音の方を向いてしまったとき、紫色の瞳と目が合った。紫色は最も高貴な色として知られているが、その色を瞳に持つ者は滅多にいない。いたとしても色が濃く、黒や紺と間違えてしまうほどだが、今目が合った紫は光の加減で透明にも見える程薄く、美しい瞳だった。そして創造主しか持たぬ白金の髪が月明かりに照らされて輝いていた。この世界の美しいとされる芸術や景色、生物全てが霞んで見えるほどの美貌に見惚れていた。

「約束を果たすと信じている。」


ハッ!

 目を覚ますと見慣れた天井で、自分のベッドの上だった。

「あれ…僕は一体…いつ戻ってきたんだ…?」

コンコン__

 扉のノック音と共に侍従の声がした。

「おはようございます。コンラッド殿下、起きていらっしゃいますか?」
「ん…あぁ、起きている。入っていいぞ。」
「失礼いたします。」
「なぁ、クロード。昨日、僕は…」
「どうなさったのですか?殿下、どこか具合でも悪いのですか?侍医をお呼びしますか?」
「あ、いや…なんでもない。朝食に遅れてしまうから支度を頼む。」
「はい、畏まりました。」

 昨夜のことを思い出そうとすると靄がかかったように何も思い出せなかった。しかしそんなことも支度途中には忘れてしまっていた。
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