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四幕目 5

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「精霊の加護?」
『婚姻式の時にあいつらが勝手に付けていた。マリアの手を離れた事で加護も失われていたが、戻った事で加護を取り戻したのだ。その光だろう』
「…その加護はアルフ様にも与えられているの?」
『マリアの伴侶になる相手だからな』

「加護とは、何の加護を?」
『さあ。連中は競い合っていくつも重ね付けしていたからな、重なりすぎて何が何だか私にも見えぬ』
———そういえは、あの時精霊達が片隅に集まってこそこそ何かしていたような。
アルフ様に会えた緊張と嬉しさで、彼らが何をしているかの確認まではできなかったんだよな。
遠い記憶が蘇った。

「アルフ様の腕輪の加護も、これまで失われていたのですか」
『マリアの伴侶だから受けられる加護だ。浮気している間は無効だ』
「浮気……」
ネーロの言葉に、アルフ様が真っ青になった。

「僕は…一度もモナをそういう風に見た事はない」
…十年以上婚約していたのに、それもどうかと思うけれど。
だってモナ様は…きっと、アルフ様の事が好きだったのだもの。
それに私よりずっと美人だし!

そもそも…アルフ様とは数えるほどしか会っていなかったのに。
それなのにどうして、ずっと私の事が好きだったんだろう。

「本当にモナとは何もなかったから!」
じっとアルフ様を見つめていたら、疑われたと思ったのかアルフ様が慌てて私を見てそう言った。

『何もなくとも、マリアの腕輪を他の女に与える時点で浮気だ』
「あれは父上の命令で…!」
『ではお前は父親の命令ならばマリアを捨てる事も出来るのだな』
ネーロがアルフ様を見据える。
『その程度の者に我らが愛し子を託す訳にはいかないな』

「っ———」
「ネーロ…アルフ様をいじめないで」
唇を噛み締めたアルフ様の手を握って、私はネーロを見上げた。
「人間の世界には色々な事情があるのよ」
『その人間の事情とやらからお前を守るのも我らの役目だ』
———なんか愛し子ってめんどくさいな。攫われたりするし。
カミサマやネーロ達が聞いたら怒られそうな事をふと思ってしまった。



「———いや、ネーロの言う通りだ」
アルフ様は私の手を握り返した。
「僕がはっきりと拒絶しておけば良かったんだ」
「だけど…まだ子供だったじゃないですか。それに私だって…生きているかも分からなかったのですし」
「それでも。僕は…マリア以外の手を取るべきじゃなかったんだ」
「アルフ様…」
「ごめんマリア……本当に、ごめんね」
強く私の手を握りしめたアルフ様の声は震えていた。


「いいえ…こうやって、私の事を忘れずにいてくれただけで、十分です」
あの時、私達は五歳と七歳だったのだ。
十二年もの間幼い恋を忘れずにいてくれた———それはとても凄い事だと思う。
「謝るなら私の方です。だって…私は全て忘れていたのだから」
「それは」
「私がネーロとのんびりあの町で暮らしている間、アルフ様はずっと私の事を気にかけていてくれたのでしょう?」
そして呪いを受けて、辛い思いをしていたのだ。

「ありがとうございます、アルフ様。私の事をずっと…想っていてくれて」
「マリア———」
強く抱きしめるアルフ様の背中に、そっと手を回す。

『やれ、マリアは本当にお人好しだな』
ネーロが呆れたように言った。
そうかな…まあお人好し歴は長いからね!


「何はともあれ、無事に呪いが解けて良かった」
そう言って、カーティスさんがアルフ様を見た。
「ですがまだ、これからです」

「そうだな」
頷いたアルフ様の視線が鋭くなった。
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