元お助けキャラ、死んだと思ったら何故か孫娘で悪役令嬢に憑依しました!?

冬野月子

文字の大きさ
13 / 66
第2章 二回目の学園生活

07

しおりを挟む
「殿下……下ろしてくれませんか」
「ダメだよ」
「でもこれは……とても恥ずかしいのですが……」

私は温室にあるベンチに座っていた。
――正確には、殿下の膝の上に。

これはさすがに恥ずかしすぎるし、腰に回った殿下の手がくすぐったい。
何よりも互いの体温が伝わるほどに密着したこの状態は……色々とまずいのではないだろうか。
側から見れば婚約者同士、問題はないのかもしれない……いや婚約者といっても未婚の男女がこれは……それとも最近の若い子はこれが普通なの?!


後はお二人でというように、ローズモンドと庭師たちは帰ってしまった。
二人きりに――といっても護衛や侍女はいるのだが、彼らは基本空気だ――なるやいなや、殿下は私の手を取りベンチへ導くとすかさず自分の膝上に私を座らせたのだ。

「じゃあ『フレッド』と呼んでくれたら下ろすよ」
「それは……」
「アン」
すぐ目の前に私を見つめる殿下の瞳があった。
「君は僕の婚約者だ。婚約者同士愛称で呼ぶのは普通だろう」
「……婚約の件は保留と……」
「僕は絶対にリリアンと結婚する」
ふいに視界が暗くなった。


「リリアンは……僕と結婚するのは嫌?」
私を閉じ込めるように抱きしめて殿下は言った。
「嫌というか……」
「まだアルノー殿が好きなの?」

アルノー。
私の夫。
優しい笑顔が頭によぎる。

「お祖母様が言っていたんだ。リリアンはきっとまだアルノー殿が好きだから、僕の事はすぐには好きになってくれないって。でも僕はアンが僕を好きになってくれるまで待つから」
「どうして……私なのですか」
「理由なんか分からない。でも初めて絵姿を見た時に思ったんだ、僕はこの人がいいって」
それはもう何度も尋ねた理由だけれど、何度答えを聞いても理解は難しい。
――いくら絵姿に一目惚れしたといっても……私は殿下の祖母であるローズモンドと同い年なのに。

それを言っても『年齢なんか関係ない』と返される。
確かに……見た目は十六歳なのだから、心の年齢を意識するのは難しいかもしれないけれど。

そしてもう一つ、大事なこと。

「……この身体は私のものではありません。――マリアンヌの心が戻ってくるかもしれないんです」
そうなったら私はどこへ行くのだろう。
また転生するのか、それとも……

「そうしたら僕はリリアンの心を探すよ」
私を抱きしめていた腕を緩めると、殿下は私を見つめた。
「どこにいても、どんな姿でも。リリアンに出会えるまで何年でも探し続けるから」

私を見つめる瞳はとても純真で。
それ以上は言い返せなかった。




「アルノー……私、どうすればいいのかしら」
屋敷へ戻り、テーブルの上に飾った白百合を見つめて私は呟いた。

殿下のことは……好ましいとは思うけれど、それはマリアンヌやカミーユに抱くのと同じ、孫のように思う好意だ。
十六歳の子供に恋心を抱けと言われても難しい。

それに殿下も言っていたけれど――私にはアルノーがいる。
彼と生き別れたのは私の感覚では二ヶ月前だ。
――そうすぐに忘れられるはずもない。


物心つくより前からアルノーは側にいた。
いつも一緒に遊んでいた私たちは当たり前のように婚約をし、結婚した。

私たちは何でも話し、相談し、共有した。
私に前世の記憶があることも、乙女ゲームのことも思い出してすぐアルノーに語った。
アルノーは私の話を否定せず受け止め、ローズモンドが王太子の婚約者となるのに協力もしてくれた。

「アルノー……会いたいわ……」
話を聞いて欲しい。
そして私がどうすればいいのか、教えて欲しい。

目頭が熱くなるとともに、目の前の白百合が滲んで見えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~

白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」  枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。  土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。  「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」  あなた誰!?  やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!  虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。

本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます

氷雨そら
恋愛
 本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。 「君が番だ! 間違いない」 (番とは……!)  今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。  本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。 小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】転生白豚令嬢☆前世を思い出したので、ブラコンではいられません!

白雨 音
恋愛
エリザ=デュランド伯爵令嬢は、学院入学時に転倒し、頭を打った事で前世を思い出し、 《ここ》が嘗て好きだった小説の世界と似ている事に気付いた。 しかも自分は、義兄への恋を拗らせ、ヒロインを貶める為に悪役令嬢に加担した挙句、 義兄と無理心中バッドエンドを迎えるモブ令嬢だった! バッドエンドを回避する為、義兄への恋心は捨て去る事にし、 前世の推しである悪役令嬢の弟エミリアンに狙いを定めるも、義兄は気に入らない様で…??  異世界転生:恋愛 ※魔法無し  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

処理中です...