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第4章 黒魔術
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(アドリアン視点)
「マリアンヌ様!」
意識を失ったマリアンヌ嬢を見て、一緒にいた女生徒が悲鳴を上げた。
「大丈夫、魔力酔いです。少し休めば治ります」
「魔力酔い?」
「何度か魔術を受けて身体に魔力が溜まってしまったのでしょう」
「それって大丈夫なんですか?!」
「一時的なものですから」
マリアンヌ嬢を抱き上げるとセベリノは私へと向いた。
「医務室へ連れて行きます。殿下は先に教室へ戻られますか」
「いや、同行しよう」
「私も行きます!」
そう言って女生徒はセベリノを睨みつけた。
この女生徒はマリアンヌ嬢の中身が別人であることを知っているところを見ると、彼女の侍女か特に親しい関係なのだろう。
マリアンヌ嬢を、この国では使われない黒魔術によって意識まで失わせたセベリノは、他国の王子の従者とはいえ睨まれても仕方ないし信用もできないのだろう。
我々は三人で医務室へ向かうことにした。
医務室にいた校医には貧血で倒れたと伝え、授業が始まる直前まで付き添うという女生徒を残して私とセベリノは教室へ向かった。
「マリアンヌ様……いえ、リリアン様ですが」
ミジャン語でセベリノが口を開いた。
「ぜひ国へ連れて帰りたいですね」
「連れて帰る?」
「彼女の身体は私の魔術と相性が良さそうです。それに、彼女の魂は少し変わっています」
「変わっているとは」
「曇りが見えないのです。とても純粋な方なのでしょう。貴族社会に長く生きていてあれだけ穢れていない魂も珍しい」
セベリノは立ち止まると、私を見てその目を細めた。
「彼女の子供はきっと良い黒魔術師になるでしょうね」
「は?」
思いがけない言葉に、私は耳を疑った。
「――まさかリリアン嬢を娶りたいというのか?」
「ええ」
セベリノは笑顔で頷いた。
「彼女はフレデリク殿下の婚約者だ」
「それはマリアンヌ様であって、リリアン様ではありませんよね」
「だが殿下はリリアン嬢に随分と惚れ込んでいる。エナン王国との揉め事は御免だ」
「ですが、彼女を手に入れることができればメラス家の繁栄に繋がる――ひいては殿下のためにもなるんですよ」
それはそうかもしれないが……貴族ならともかく、王子の婚約者を奪うのはさすがにまずい。
「我々がこの国へ来たのは伯母上を探すため。伯母上の力があれば目的は果たせる」
「伯母様が協力してくれるとは限りません」
「しかし」
「それに、私は彼女が気に入ったよ」
セベリノは笑みを深めた。
「アドリアン。君は従兄の恋路を邪魔するのかい?」
「――恋路?」
この魔術バカの男の口からそんな言葉を聞くとは。
思わず顔が引きつる。
「そんな顔をしなくともいいだろう」
「お前にもそんな感情があったのか」
「失礼だな、私だって魔術の研究ばかりしている訳ではないさ」
アドリアンは私の護衛兼従者としてこのエナン王国へ来ているが、彼は私の従兄であり、母の実家のメラス家の次期当主であり、そして後見でもある。
幼い頃から共に過ごしてきた、七歳歳上の彼は私にとっては兄のような存在だが――女性に興味を持ったことなど一度もないはずだ。
ミジャン王国は今、国王の後継争いで揺れている。
本来ならば第一王子が王太子となるのが妥当だが、彼は側室の子。
正妃の子である第二王子を王太子にすべきだと正妃派が主張し、第一王子派との争いが年々激しくなっているのだ。
第三王子である私の母は黒魔術を司るメラス家当主の妹で、黒魔術師との繋がりを強めるために王家から求められて王宮へと入った。
メラス家は陰で王家を支えているとはいっても伯爵家で身分は高くなく、私は王位争いとは関係ないはずだったのだが。
成長するにつれ、私を王にという声が上がり始めたのだ。
私は『烈王』と称された、先代である祖父に見た目も性質も似ているという。
自分ではそうは思わないが、セベリノ曰く『普段は穏やかな分、いざという時は恐ろしい』らしい。
二人の兄は王になるにはもの足りない部分があるらしく、またこの後継争いを鎮めるためには『烈王』を思い出させる私が王位に就くのがいいと思う一派がいるのだ。
元々王位には興味はなかった。
だが、兄たちの一族に命を狙われるようになってその考えを改めた。
立場が下だからと殺されるくらいならば、頂点に立って生き抜いてやる。
私が王となるのには伯母の力が必要だ。
余計な血を流すことなく二人の兄を堕とすためには黒魔術を使うのが早くて確実なのだが、エナン家の魔術師たちは王族に術をかけることを固く禁じられている。
けれど一族を抜けた伯母にはその禁戒は関係ない。
セベリノの父親である現当主の姉であり、歴代最強の黒魔術師といわれた伯母ベルタは、エナン王国の男と恋に落ち、あっさりと地位も家も捨てて駆け落ちしてしまった。
今もエナン王国にいるであろう伯母を探すため、表向きは後継争いから逃れるために私はセベリノを連れてこの国へ留学にきたのだ。
自由に行動できないこのエナン王国の、学園で伯母上の痕跡を見つけることができたのは幸運だったが……まさか、セベリノが伴侶にと望む相手をも見つけるとは。
従弟として彼の願いを叶えたい気持ちはあるが、相手が悪い。
彼には悪いが……いや、セベリノのことだ、私が反対しても彼は自身の意思を曲げないだろう。
本当にリリアン嬢に恋心を抱いているかは疑問だが、彼女の存在が彼にとって利となのならば、婚約者がいても気にしないのだろう。
厄介なことにならなければよいが。
私は内心ため息をついた。
「マリアンヌ様!」
意識を失ったマリアンヌ嬢を見て、一緒にいた女生徒が悲鳴を上げた。
「大丈夫、魔力酔いです。少し休めば治ります」
「魔力酔い?」
「何度か魔術を受けて身体に魔力が溜まってしまったのでしょう」
「それって大丈夫なんですか?!」
「一時的なものですから」
マリアンヌ嬢を抱き上げるとセベリノは私へと向いた。
「医務室へ連れて行きます。殿下は先に教室へ戻られますか」
「いや、同行しよう」
「私も行きます!」
そう言って女生徒はセベリノを睨みつけた。
この女生徒はマリアンヌ嬢の中身が別人であることを知っているところを見ると、彼女の侍女か特に親しい関係なのだろう。
マリアンヌ嬢を、この国では使われない黒魔術によって意識まで失わせたセベリノは、他国の王子の従者とはいえ睨まれても仕方ないし信用もできないのだろう。
我々は三人で医務室へ向かうことにした。
医務室にいた校医には貧血で倒れたと伝え、授業が始まる直前まで付き添うという女生徒を残して私とセベリノは教室へ向かった。
「マリアンヌ様……いえ、リリアン様ですが」
ミジャン語でセベリノが口を開いた。
「ぜひ国へ連れて帰りたいですね」
「連れて帰る?」
「彼女の身体は私の魔術と相性が良さそうです。それに、彼女の魂は少し変わっています」
「変わっているとは」
「曇りが見えないのです。とても純粋な方なのでしょう。貴族社会に長く生きていてあれだけ穢れていない魂も珍しい」
セベリノは立ち止まると、私を見てその目を細めた。
「彼女の子供はきっと良い黒魔術師になるでしょうね」
「は?」
思いがけない言葉に、私は耳を疑った。
「――まさかリリアン嬢を娶りたいというのか?」
「ええ」
セベリノは笑顔で頷いた。
「彼女はフレデリク殿下の婚約者だ」
「それはマリアンヌ様であって、リリアン様ではありませんよね」
「だが殿下はリリアン嬢に随分と惚れ込んでいる。エナン王国との揉め事は御免だ」
「ですが、彼女を手に入れることができればメラス家の繁栄に繋がる――ひいては殿下のためにもなるんですよ」
それはそうかもしれないが……貴族ならともかく、王子の婚約者を奪うのはさすがにまずい。
「我々がこの国へ来たのは伯母上を探すため。伯母上の力があれば目的は果たせる」
「伯母様が協力してくれるとは限りません」
「しかし」
「それに、私は彼女が気に入ったよ」
セベリノは笑みを深めた。
「アドリアン。君は従兄の恋路を邪魔するのかい?」
「――恋路?」
この魔術バカの男の口からそんな言葉を聞くとは。
思わず顔が引きつる。
「そんな顔をしなくともいいだろう」
「お前にもそんな感情があったのか」
「失礼だな、私だって魔術の研究ばかりしている訳ではないさ」
アドリアンは私の護衛兼従者としてこのエナン王国へ来ているが、彼は私の従兄であり、母の実家のメラス家の次期当主であり、そして後見でもある。
幼い頃から共に過ごしてきた、七歳歳上の彼は私にとっては兄のような存在だが――女性に興味を持ったことなど一度もないはずだ。
ミジャン王国は今、国王の後継争いで揺れている。
本来ならば第一王子が王太子となるのが妥当だが、彼は側室の子。
正妃の子である第二王子を王太子にすべきだと正妃派が主張し、第一王子派との争いが年々激しくなっているのだ。
第三王子である私の母は黒魔術を司るメラス家当主の妹で、黒魔術師との繋がりを強めるために王家から求められて王宮へと入った。
メラス家は陰で王家を支えているとはいっても伯爵家で身分は高くなく、私は王位争いとは関係ないはずだったのだが。
成長するにつれ、私を王にという声が上がり始めたのだ。
私は『烈王』と称された、先代である祖父に見た目も性質も似ているという。
自分ではそうは思わないが、セベリノ曰く『普段は穏やかな分、いざという時は恐ろしい』らしい。
二人の兄は王になるにはもの足りない部分があるらしく、またこの後継争いを鎮めるためには『烈王』を思い出させる私が王位に就くのがいいと思う一派がいるのだ。
元々王位には興味はなかった。
だが、兄たちの一族に命を狙われるようになってその考えを改めた。
立場が下だからと殺されるくらいならば、頂点に立って生き抜いてやる。
私が王となるのには伯母の力が必要だ。
余計な血を流すことなく二人の兄を堕とすためには黒魔術を使うのが早くて確実なのだが、エナン家の魔術師たちは王族に術をかけることを固く禁じられている。
けれど一族を抜けた伯母にはその禁戒は関係ない。
セベリノの父親である現当主の姉であり、歴代最強の黒魔術師といわれた伯母ベルタは、エナン王国の男と恋に落ち、あっさりと地位も家も捨てて駆け落ちしてしまった。
今もエナン王国にいるであろう伯母を探すため、表向きは後継争いから逃れるために私はセベリノを連れてこの国へ留学にきたのだ。
自由に行動できないこのエナン王国の、学園で伯母上の痕跡を見つけることができたのは幸運だったが……まさか、セベリノが伴侶にと望む相手をも見つけるとは。
従弟として彼の願いを叶えたい気持ちはあるが、相手が悪い。
彼には悪いが……いや、セベリノのことだ、私が反対しても彼は自身の意思を曲げないだろう。
本当にリリアン嬢に恋心を抱いているかは疑問だが、彼女の存在が彼にとって利となのならば、婚約者がいても気にしないのだろう。
厄介なことにならなければよいが。
私は内心ため息をついた。
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