元お助けキャラ、死んだと思ったら何故か孫娘で悪役令嬢に憑依しました!?

冬野月子

文字の大きさ
66 / 66
エピローグ

エピローグ

しおりを挟む
「オーナー、いかがでしょう」
「ええ、完璧だわ。みんなありがとう」
シャルロットは居並んだ従業員たちを見回すと大きく頷いた。

清潔感のある、白を基調とした家具もガラス窓も丹念に磨き上げられている。
カーテンやテーブルクロスは柔らかな色彩を纏い、窓辺に並べられた鉢植えの緑がいいアクセントになっている。
入り口から入ると最初に目につくガラスケースの中はまだ空っぽだが、脇にある棚には色とりどりのアイシングで模様が施されたクッキーが並べられている。
この『パティスリー・フルール』を代表する商品だ。

「シャルロット、こっちも終わったよ」
外観のチェックをしていたディオンが中へ入ってきた。
「ありがとう」
シャルロットは改めて店内を見回した。
「いよいよ明日ね……。やっとだわ」


学園を卒業して十年が経っていた。
卒業後、本格的に菓子職人の道を歩き始めたシャルロットは、実家のパン屋の一部で自作のケーキや焼き菓子を売り始めた。
この世界の菓子は素朴なものが多かったが、前世の経験をもとに色や見た目にこだわったシャルロットの菓子はあっという間に女性客を中心に人気が出て、三年目には自分の店を持つことができた。
――まだ二十歳の、しかも女性が自分の店を持てたのは、商会の息子で幼馴染から夫となったディオン、そして後援となってくれたバシュラール侯爵家のおかげだとシャルロットは思っている。

店は順調に成長し、そうしていよいよ明日。
念願のミジャン王国支店が開店するのだ。



「オーナー。お迎えが到着しました」
「それじゃディオン、行きましょう。皆も明日に備えて今日はしっかり休んでね」
従業員たちと別れ、店の前に停められた豪華な馬車に乗ると、馬車は貴族街へと向かって走り出した。

人々の服装も街並みもエナン王国とは異なるこの国で上手く行くか不安だが……現地で雇った従業員たちにも味は好評なのだ。
商品と、彼らの腕を信じるしかない。
やがて馬車は王宮の近くにある屋敷の前で停まった。


「久しぶりですね」
屋敷の主人がシャルロットとディオンを出迎えた。
「お久しぶりです、セベリノ様」
「忙しい中、家まで来てもらって悪いですね」
「いえ。セベリノ様たちにはとてもお世話になりましたから」
シャルロットは深く頭を下げた。
「本当にありがとうございます」

店をミジャン王国に出すにあたり、場所の選定や手続きなど、セベリノが大きく協力してくれた。
閉鎖的なミジャン王国で他国の者が店を出すのはとても難しいらしいが、去年即位したアドリアン新国王の元、積極的に外国の文化を取り入れようという政策も後押ししてくれたのだろう。

「セベリノ様もお忙しいのではないですか」
アドリアンが即位すると共にセベリノもメラス家当主となった。
黒魔術師をまとめ、王を支える立場として、きっと多忙なのだろう。
「妻も楽しみにしていますし。それに王妃に『パティスリー・フルール』の菓子を献上するのと引き換えに今日の休みをもぎ取りましたから」
「まあ、そうですか」
「妻からさんざんあなたの作る菓子は美味しいと聞かされているので、王妃も明日の開店をとても楽しみにしているんですよ」
「それは……光栄、です」
――果たして庶民向けのお菓子が王妃の口に合うのだろうか。
シャルロットとディオンは不安そうに顔を見合わせた。

「リリー。二人が来たよ」
「まあ、シャルロット!」
案内された部屋の奥、ソファに座った女性が顔を輝かせた。
ダークブロンドの髪に黒い瞳。
以前の外見とは異なる、けれどその笑顔だけは変わらなかった。

「リリアン様。お久しぶりです」
「ごめんなさいね、明日開店なのに。忙しいでしょう」
「いえ。皆が優秀なので私のやるべきことはもう終わりました」
他にも幾つもの支店を抱えているため、シャルロットは滅多にこの国には来られない。
だからミジャン支店を出すにあたり、経営に関しては基本店長をはじめ現地の者たちに任せる予定だ。
店に並ぶ商品の品質と、イメージさえ守ってくれればいい。

「本当はお店へ行きたいのだけれど……このお腹でしょう」
そう言って、リリアンははち切れそうなくらい大きなお腹をそっと撫でた。
「これからはいつでも、好きな時にお店に行かれるから」
リリアンの手に自分の手を重ねるセベリノの、妻を見つめる瞳はとても優しい。



マリアンヌと共にミジャン王国へやってきたリリアンは、新たな身体を手に入れリリアンではない、別の人間として生きることとなった。
身体の元の持ち主はとある子爵令嬢で、家族や婚約者と折り合いが合わず心を病んでいたのだという。
そうして自ら命を投げだそうと、教会から身を投げたのだと。
一命は取り留めたものの、心は既に死んでしまったらしい。
リリアンの魂をその身体に移し、傷を治して元の家族とは一切関わりのない、身寄りのない者という立場を与えてセベリノは彼女を妻に迎えた。

メラス家では良い魔術師を産むために、配偶者の素性には全くこだわらないらしい。
現にリリアンが産んだ長男は既に歴代最高ではないかと言われるほど魔力量も高く、まだ五歳になっていないけれど既に黒魔術師としての技も身につけ始めているのだという。


「双子でしたっけ」
「ええ。マルロが教えてくれたの、男の子と女の子ですって。娘が欲しかったから嬉しいわ」
マルロというのが長男で、彼には赤子が宿っているのが分かり、母親の妊娠に気づいたのも彼が最初だと、リリアンから届いた手紙にあった。

(子供か……)

幸せそうなリリアンとセベリノの顔を見て、シャルロットは心の中でそっとため息をついた。
自分も結婚して八年。
夫婦仲は良好で、仕事も順調。
幸福だけれど……ただ子供が出来ないことだけが悩みだった。
大人になれば結婚して子供を設けるのが当然という価値観が主流のこの国で、未だ子供がいないというのは世間的に冷たい目で見られる。
仕事を抑えて子作りを優先するよう、両方の親から小言を言われることもある。
シャルロッテとて努力はしているが、こればかりは努力だけで叶うものでもない。


「シャルロットたちはいつまでここにいられるの?」
悶々としていたシャルロットにリリアンが尋ねた。
「あ、ええと一週間ほどです」
「マリアンヌたちは来週帰ってくるのですって。間に合うといいのだけれど」
「そうですか……マリアンヌ様たちもお忙しそうですね」

アドリアンが王太子となるために暗躍する使命を無事果たしたカインは、メラス家が持つ子爵位を与えられ、カイン・オルベラ子爵となり実父と同じ、外交官の仕事を任されるようになった。
王子妃教育で複数の外国語や外交を学んでいたマリアンヌも、外交官夫人として夫とともにあちこちを回る日々を過ごしていた。



「おとうさま、おかあさま」
しばし互いの近況などを話していると、扉が開かれ小さな頭が顔をのぞかせた。
「マルロ、お勉強は終わったの?」
「はい」
「それじゃあお客様にご挨拶をなさい」
リリアンとセベリノの息子、マルロはセベリノによく似ていた。
大きく異なるのはその瞳の色で、水色のその色彩は、マリアンヌと同じものだった。
マルロは部屋へ入るとシャルロットを見、その顔を輝かせた。

「はじめまして、マルロです」
シャルロットとディオンに向かい、しっかりとした口調でそう挨拶をして頭を下げるとマルロは笑顔をシャルロットのお腹へと向けた。

「はじめまして、ぼくのおよめさん」
少年の言葉に、周囲の大人たちが固まった。


「まあ! シャルロット、あなたもおめでただったの?!」
最初に声を上げたのはリリアンだった。
「え……え?」
とっさにお腹に手をやり、シャルロットは呆然としているディオンと顔を見合わせた。
「……赤ちゃん……?」

「そうか、その子がマルロのお嫁さんになるのかい?」
苦笑しながらセベリノは息子の頭を撫でた。
「うん」
「まだ生まれてもいないのに決めたのか?」
「ぼく、わかるんだ」
「……そうか」
セベリノは妊娠が発覚すると同時に嫁ぎ先を宣言されてしまった夫婦に視線を送ると、くしゃりともう一度息子の頭を撫でた。
リリアンと結婚すれば優秀な子が生まれると確信していたが、予想以上にこの息子は色々な力を秘めているようだ。

「まあ、シャルロットの子とマルロがなんて、素敵だわ」
ただリリアンだけが楽しげに笑顔を浮かべていた。



シャルロットの娘を巡り、高位貴族の子息たちが争いを繰り広げるものの、一番先に目をつけていたマルロが奪い、『まるで乙女ゲームかロマンス小説みたいね』とリリアンが笑顔で語るのは、それから十七年後の話。


おわり



最後までお読みいただき、ありがとうございました。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します

みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが…… 余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。 皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。 作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨ あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。 やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。 この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。

転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。 前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。 恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに! しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに…… 見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!? 小説家になろうでも公開しています。 第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

【完結】転生したら脳筋一家の令嬢でしたが、インテリ公爵令息と結ばれたので万事OKです。

櫻野くるみ
恋愛
ある日前世の記憶が戻ったら、この世界が乙女ゲームの舞台だと思い至った侯爵令嬢のルイーザ。 兄のテオドールが攻略対象になっていたことを思い出すと共に、大変なことに気付いてしまった。 ゲーム内でテオドールは「脳筋枠」キャラであり、家族もまとめて「脳筋一家」だったのである。 私も脳筋ってこと!? それはイヤ!! 前世でリケジョだったルイーザが、脳筋令嬢からの脱却を目指し奮闘したら、推しの攻略対象のインテリ公爵令息と恋に落ちたお話です。 ゆるく軽いラブコメ目指しています。 最終話が長くなってしまいましたが、完結しました。 小説家になろう様でも投稿を始めました。少し修正したところがあります。

冷徹と噂の辺境伯令嬢ですが、幼なじみ騎士の溺愛が重すぎます

藤原遊
恋愛
冷徹と噂される辺境伯令嬢リシェル。 彼女の隣には、幼い頃から護衛として仕えてきた幼なじみの騎士カイがいた。 直系の“身代わり”として鍛えられたはずの彼は、誰よりも彼女を想い、ただ一途に追い続けてきた。 だが政略婚約、旧婚約者の再来、そして魔物の大規模侵攻――。 責務と愛情、嫉妬と罪悪感が交錯する中で、二人の絆は試される。 「縛られるんじゃない。俺が望んでここにいることを選んでいるんだ」 これは、冷徹と呼ばれた令嬢と、影と呼ばれた騎士が、互いを選び抜く物語。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

処理中です...