9 / 14
09
しおりを挟む
「子供――」
ルイーズが生きていた。
その報を受けて喜んだのも束の間、続けられたユーゴの言葉にアレクサンドは言葉を失った。
「父親は義賊の男で……二人は夫婦として暮らしていたそうです」
ユーゴは隣に立つマクシムを見た。
「世話をしていたという女に聴取しました。結婚は合意によるもので、とても仲が良く、幸せに暮らしていたと」
「幸せ……そう、か」
マクシムの言葉に項垂れるようにアレクサンドは顔を伏せた。
「それで……ルイーズは、今は……」
「医者から絶対安静を言い渡されています」
「絶対安静だと?!」
「まだお腹の子が小さくて不安定な所に、男が死んだショックで体調を崩しまして……」
ユーゴはため息をついた。
「ともかく母が心配して、余計な刺激を与えるからと言って私も父もろくに会わせてもらえていません」
「そうか」
小さくそう応えて、アレクサンドは再び顔を伏せた。
ユーゴとマクシムは顔を見合わせると、何か確認するように小さく頷いた。
「時に殿下。ルイーズに紋章入りの指輪を贈ったことはありますか」
「紋章入りの?」
アレクサンドは顔を上げた。
「金の、紋章だけが彫られたものです」
「いや。それはルイーズに贈るようなものではないだろう」
紋章のみの指輪は、身分の低い者に褒美などで与えるものであり、公太子の婚約者に渡すものではない。
「それがどうかしたのか」
「実はルイーズが、その指輪を肌身離さず持っているようでして」
「何?」
「一度侍女が、身を清める時に外そうとしたら泣いて拒否したと」
「どういうことだ」
「それと」
マクシムが口を開いた。
「ルイーズ嬢の相手の男ですが……殿下にそっくりでした」
「何?」
「驚きましたよ、一瞬殿下が死んでいるのかと」
「その二つの件から、父があることを思い出しまして」
ユーゴが言った。
「昔、閣下が公太子だった時に侍女に手を出したことがあったそうです」
「――父上が?」
「父の記憶では、その侍女は暇を出され、その時に閣下から指輪を渡されたそうです」
「それは……まさか」
「この後、父と共に閣下に確認しに行く予定です」
「私も行こう」
ガタン、とアレクサンドは立ち上がった。
「殿下。ルイーズのことは諦めますよね」
立ち上がったアレクサンドと視線を合わせてユーゴが言った。
「何?」
「他の男と結婚し、子供まで宿しているのです。妹は……妃にはなれません」
「それは……」
「ルイーズは身体が安定したら領地へ移す予定です。二度と都へ戻ることはないでしょう」
侯爵令嬢が平民との間に子を産んだなど、貴族社会では醜聞以外の何物でもない。
ルイーズは表向き、アレクサンドによるシャンピオン子爵の悪事調査に巻き込まれないよう、領地へ向かったことになっている。
その調査や処罰は半年以上前に終わっているが、ルイーズは体調を崩したためそのまま領地で療養中だとされていた。
このまま身体が回復する見込みはないとして、アレクサンドとの婚約は解消させる。
グレゴワール侯爵はそう筋立てていた。
「……ルイーズを領地に閉じ込めるのか。その後はどうするつもりだ」
「それはまだ未定です。今はともかくルイーズの身体を守ることが第一ですから」
「そうか」
呟くと、アレクサンドはそれきり黙り込んだ。
ルイーズが生きていた。
その報を受けて喜んだのも束の間、続けられたユーゴの言葉にアレクサンドは言葉を失った。
「父親は義賊の男で……二人は夫婦として暮らしていたそうです」
ユーゴは隣に立つマクシムを見た。
「世話をしていたという女に聴取しました。結婚は合意によるもので、とても仲が良く、幸せに暮らしていたと」
「幸せ……そう、か」
マクシムの言葉に項垂れるようにアレクサンドは顔を伏せた。
「それで……ルイーズは、今は……」
「医者から絶対安静を言い渡されています」
「絶対安静だと?!」
「まだお腹の子が小さくて不安定な所に、男が死んだショックで体調を崩しまして……」
ユーゴはため息をついた。
「ともかく母が心配して、余計な刺激を与えるからと言って私も父もろくに会わせてもらえていません」
「そうか」
小さくそう応えて、アレクサンドは再び顔を伏せた。
ユーゴとマクシムは顔を見合わせると、何か確認するように小さく頷いた。
「時に殿下。ルイーズに紋章入りの指輪を贈ったことはありますか」
「紋章入りの?」
アレクサンドは顔を上げた。
「金の、紋章だけが彫られたものです」
「いや。それはルイーズに贈るようなものではないだろう」
紋章のみの指輪は、身分の低い者に褒美などで与えるものであり、公太子の婚約者に渡すものではない。
「それがどうかしたのか」
「実はルイーズが、その指輪を肌身離さず持っているようでして」
「何?」
「一度侍女が、身を清める時に外そうとしたら泣いて拒否したと」
「どういうことだ」
「それと」
マクシムが口を開いた。
「ルイーズ嬢の相手の男ですが……殿下にそっくりでした」
「何?」
「驚きましたよ、一瞬殿下が死んでいるのかと」
「その二つの件から、父があることを思い出しまして」
ユーゴが言った。
「昔、閣下が公太子だった時に侍女に手を出したことがあったそうです」
「――父上が?」
「父の記憶では、その侍女は暇を出され、その時に閣下から指輪を渡されたそうです」
「それは……まさか」
「この後、父と共に閣下に確認しに行く予定です」
「私も行こう」
ガタン、とアレクサンドは立ち上がった。
「殿下。ルイーズのことは諦めますよね」
立ち上がったアレクサンドと視線を合わせてユーゴが言った。
「何?」
「他の男と結婚し、子供まで宿しているのです。妹は……妃にはなれません」
「それは……」
「ルイーズは身体が安定したら領地へ移す予定です。二度と都へ戻ることはないでしょう」
侯爵令嬢が平民との間に子を産んだなど、貴族社会では醜聞以外の何物でもない。
ルイーズは表向き、アレクサンドによるシャンピオン子爵の悪事調査に巻き込まれないよう、領地へ向かったことになっている。
その調査や処罰は半年以上前に終わっているが、ルイーズは体調を崩したためそのまま領地で療養中だとされていた。
このまま身体が回復する見込みはないとして、アレクサンドとの婚約は解消させる。
グレゴワール侯爵はそう筋立てていた。
「……ルイーズを領地に閉じ込めるのか。その後はどうするつもりだ」
「それはまだ未定です。今はともかくルイーズの身体を守ることが第一ですから」
「そうか」
呟くと、アレクサンドはそれきり黙り込んだ。
358
あなたにおすすめの小説
【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目の人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
【本編完結】笑顔で離縁してください 〜貴方に恋をしてました〜
桜夜
恋愛
「旦那様、私と離縁してください!」
私は今までに見せたことがないような笑顔で旦那様に離縁を申し出た……。
私はアルメニア王国の第三王女でした。私には二人のお姉様がいます。一番目のエリーお姉様は頭脳明晰でお優しく、何をするにも完璧なお姉様でした。二番目のウルルお姉様はとても美しく皆の憧れの的で、ご結婚をされた今では社交界の女性達をまとめております。では三番目の私は……。
王族では国が豊かになると噂される瞳の色を持った平凡な女でした…
そんな私の旦那様は騎士団長をしており女性からも人気のある公爵家の三男の方でした……。
平凡な私が彼の方の隣にいてもいいのでしょうか?
なので離縁させていただけませんか?
旦那様も離縁した方が嬉しいですよね?だって……。
*小説家になろう、カクヨムにも投稿しています
裏切りの街 ~すれ違う心~
緑谷めい
恋愛
エマは裏切られた。付き合って1年になる恋人リュカにだ。ある日、リュカとのデート中、街の裏通りに突然一人置き去りにされたエマ。リュカはエマを囮にした。彼は騎士としての手柄欲しさにエマを利用したのだ。※ 全5話完結予定
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。
愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。
それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。
一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。
いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。
変わってしまったのは、いつだろう。
分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。
******************************************
こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏)
7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。
完結 愛される自信を失ったのは私の罪
音爽(ネソウ)
恋愛
顔も知らないまま婚約した二人。貴族では当たり前の出会いだった。
それでも互いを尊重して歩み寄るのである。幸いにも両人とも一目で気に入ってしまう。
ところが「従妹」称する少女が現れて「私が婚約するはずだった返せ」と宣戦布告してきた。
その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*
音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。
塩対応より下があるなんて……。
この婚約は間違っている?
*2021年7月完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる