婚約者の心変わり? 〜愛する人ができて幸せになれると思っていました〜

冬野月子

文字の大きさ
11 / 14

11

しおりを挟む
「ルイーズ。息災であったか」
私が通されたのは、謁見の間ではなく大公家の居住区にあるティールームだった。
そこには既に大公様とお妃様、そして先に登城していた父が座っていた。

「はい。お気遣いありがとうございます」
「ああ、そんな堅苦しい挨拶はいらぬ」
ドレスの裾をつまみ、膝を折って礼を取ろうとすると遮られた。
「楽にして座ってくれ」
「……ありがとうございます」
「ルイーズ、ここへ」
殿下に手を取られ、ソファへ腰を下ろすと殿下と兄がそれぞれ両側へ座った。

「早速だがルイーズ。そなたのその指輪を見せてもらえぬだろうか」
大公様の言葉に、思わず指輪を嵌めた手をもう片方の手で隠す。
「それは……」
「申し訳ございません、閣下。ルイーズは決してその指輪を外さないのです。どうかご容赦を」
兄が頭を下げてそう言った。

この指輪はエドのたった一つの形見。
指から離してしまったら、エドから離れてしまいそうで……怖くて外せないのだ。

「そうか。ではルイーズ嬢、その指輪の裏側に何か刻まれているのを知っておるか」
「……はい」
「何が刻まれておる?」
「飾りのついたEの文字です」
それは、職人によるものではない拙い手で――大公様自ら彫ったと、エドは母親から聞かされていたという。
Eは大公様の名前、エドワルドの頭文字で、エドの名前はそこから取られたのだと。

「そうか。確かにそれは私があの娘に渡したものであろう」
大公様はそう言うと、私のお腹へと視線を落とした。
「それで、その腹の子の父親の名は?」
「エドと申します」
「エドか。――似ておったか?」

「はい。顔立ちや声はアレクサンド殿下によく似ていて……目は大公様に、そっくりでした」
指輪を握りしめるように手を重ねる。
この二人を見るとエドを思い出してしまう。
本当に……改めて見るとそっくりで――




「そうか……そのエドの母親は?」
「エドが幼い時に亡くなりました。働きすぎで倒れたそうです」
「――頼ってくれとその指輪を渡したのだったがな」

「頼れるはずもありませんでしょう」
それまで黙っていたお妃様が口を開いた。
「もしもあの女が赤子を抱いて目の前に現れたら、親子共々どうしていたか分かりませんわ」
私は思わずお腹に手を当てた。

「妃よ……子には罪はないぞ」
「あの頃に現れたら、という話ですわ。今は私も年を重ねて寛容になりましたもの」
そう答えて、お妃様は私を見た。
「ルイーズ。愚息のせいであなたには苦労をさせました」
「……いえ」
私はそっとお腹を撫でた。
「確かに、色々ありましたが……夫と出会えて、この子を授かることが出来て幸せです」
エドが死んだことは、とてもとても辛いけれど。
それでも短かった結婚生活は幸せで……あの思い出だけでこの先も生きていけるのだと、そう思う。

「そう。良い夫でしたか」
「はい」
「アレクサンド」
お妃様は殿下へと視線を移した。
「お前はルイーズにとって、良い婚約者ではなかった。それは分かっていますね」
「……はい」
「女は愛されただけ幸せになれるし美しくなる。そして今のルイーズは以前よりずっと美しくなった。この意味も分かりますね」

「はい」
殿下は深く頭を下げた。
「己の非力と愚かさを痛感しております」
「それが分かったのなら、間違っても父親のような過ちはしないように」
「勿論です」
「あー。それでだ」
ごほん、と大公様は咳払いをした。

「侯爵には先程伝えたが、ルイーズの今後についてだが」
「……はい」
ぎゅっと自分の手を握りしめる。

「アレクサンド、お前から伝えよ」
「ルイーズ」
殿下が固く握りしめた手を解すように取った。
「私を、君のお腹の子の父親にしてくれないか」


「え」
私は顔を上げた。
「私が君にしたことは許されるとは思っていない。けれど私は君を愛している。君と君の子供を守りたいんだ」
エドとは違う、お妃様に似た瞳が私を見つめていた。

(父親? それって……まさか)

「その子は私の血を引く。どこかへ養子に出すにも庶民とするにも、いつか問題が起きるであろう」
大公様が言った。
「どう扱うか考えあぐねていた折、アレクサンドから申し出があったのだ。元の予定通りそなたと結婚し、生まれる子を自分の子にすると」
「……でも私は」
「ルイーズ」
父が口を開いた。
「お前が生まれてくる子供と共に生きるには、それしかないんだよ。分かるだろう」
「それは……」
分からなくは……ないけれど。

「いきなりやはりアレクサンドと結婚しろと言われても戸惑うでしょう」
お妃様が言った。
「そうだな。二人で話をするといい」
大公様の言葉で、私と殿下を残して他の人たちは部屋を出ていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目の人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

【本編完結】笑顔で離縁してください 〜貴方に恋をしてました〜

桜夜
恋愛
「旦那様、私と離縁してください!」 私は今までに見せたことがないような笑顔で旦那様に離縁を申し出た……。 私はアルメニア王国の第三王女でした。私には二人のお姉様がいます。一番目のエリーお姉様は頭脳明晰でお優しく、何をするにも完璧なお姉様でした。二番目のウルルお姉様はとても美しく皆の憧れの的で、ご結婚をされた今では社交界の女性達をまとめております。では三番目の私は……。 王族では国が豊かになると噂される瞳の色を持った平凡な女でした… そんな私の旦那様は騎士団長をしており女性からも人気のある公爵家の三男の方でした……。 平凡な私が彼の方の隣にいてもいいのでしょうか? なので離縁させていただけませんか? 旦那様も離縁した方が嬉しいですよね?だって……。 *小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

裏切りの街 ~すれ違う心~

緑谷めい
恋愛
 エマは裏切られた。付き合って1年になる恋人リュカにだ。ある日、リュカとのデート中、街の裏通りに突然一人置き去りにされたエマ。リュカはエマを囮にした。彼は騎士としての手柄欲しさにエマを利用したのだ。※ 全5話完結予定

【完結】この胸が痛むのは

Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」 彼がそう言ったので。 私は縁組をお受けすることにしました。 そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。 亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。 殿下と出会ったのは私が先でしたのに。 幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです…… 姉が亡くなって7年。 政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが 『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。 亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……  ***** サイドストーリー 『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。 こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。 読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです * 他サイトで公開しています。 どうぞよろしくお願い致します。

鈍感令嬢は分からない

yukiya
恋愛
 彼が好きな人と結婚したいようだから、私から別れを切り出したのに…どうしてこうなったんだっけ?

愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。 それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。 一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。 いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。 変わってしまったのは、いつだろう。 分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。 ****************************************** こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏) 7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。

完結 愛される自信を失ったのは私の罪

音爽(ネソウ)
恋愛
顔も知らないまま婚約した二人。貴族では当たり前の出会いだった。 それでも互いを尊重して歩み寄るのである。幸いにも両人とも一目で気に入ってしまう。 ところが「従妹」称する少女が現れて「私が婚約するはずだった返せ」と宣戦布告してきた。

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

処理中です...