呪いを受けて少女は魔女になった

冬野月子

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12.弟子

「あのアデルの後ろを付いて回っていた子供が公国の魔導師ねえ。出世したな」
「そういうアルフィンはランベールの王女と結婚するのかあ。めでたいね」
二人の男が酒を飲みながら近況を報告しあうのを聞くとはなしに聞きながら、私はマグカップに入れたハーブ酒を紅茶で割ったものをちまちまと飲んでいた。
それを見てアルフィンが眉をひそめる。
「アデル…じゃなくてフローラ。そんなもの飲んで満足できるのか?」
「この身体はお酒に強くないからこれでいいのよ」
「酔ったらちゃんと介抱するから、飲んでも大丈夫だよフローラ様」
「下心が丸見えよ、ラウル。…もう、あの純真だったラウルはどこにいってしまったのかしら」
「———あの頃から純真ではなかったよ」
ぽつりと何だか怖いことを呟いて、ラウルはテーブルの上に置いてあった紙を取った。

「これが花嫁の家かあ。随分立派だね」
王宮で会った時とは随分砕けた口調のラウルの横顔に幼かった頃の面影を探していると、ふとこちらを向いてラウルは笑みを浮かべた。
「俺たちの新居もこれくらい広い方がいい?」
「———私は狭い家で一人暮らしがいいわ」
私は視線をカップに戻した。

アルフィンの元へ行こうと家を出ると、両親と共に公国へ戻ったはずのラウルが立っていた。
これから白の山へ行くのだというと自分も久しぶりにアルフィンに会いたいと付いてきたのだ。
ラウルは二回、山へ連れて行った事がある。
そうして再会を祝して昼から酒盛りが始まってしまったのだ。

「へえ、ちゃんと子供部屋まであるのか。用意周到だね」
出来上がった図面を眺めてラウルが言う。
「———気になっていたんだけどさ、アルフィンみたいに人間の姿になれる霊獣はいいとして、獣のままの霊獣と人間が結婚する事もあるよね。そういう時夫婦生活ってどうするの?」
「まあ、獣のままでもやろうと思えばできるからな」
「じゃあアルフィンも獣の姿で王女と———」
「ちょっと!」
お酒だけではなく顔が赤くなるのを感じて私は声を上げた。
「何て話してるの?!」
「フローラ様はこういう話ダメ?」
「大した話じゃないだろ。生娘でもあるまいし」
一瞬場が凍りついた。

「…アルフィン!どうしてあなたそうやって余計な言葉が多いの?!」
「本当の事を言うのが悪いのか」
「フローラ様…まさかあの王子にもう…」
「違うから!今の話じゃないの!」
怖い表情と声のラウルに慌てて首を振ったけど…私も何告白しているんだろう。
「じゃあアデル様が……」
「その前!」
「男を連れてきた事があったな。あの時はマリアという名だったか」
「アルフィン!」
もうやだ、お酒怖い。
いやお酒飲まなくてもアルフィンは爆弾発言するけど。

「———はあ…」
ラウルは深くため息をついた。
「一緒に夜を過ごした男は俺だけだと思っていたのに…」
「変な言い方はやめて」
あれはただの子供との添い寝だから。


ラウルは五歳の時に森に捨てられていた。
あまりの魔力の高さに親に恐れられたらしかった。
夜になると寂しがって泣くから一緒に寝てあげていて———本当にあの頃のラウルは可愛かったのに。

「———三百年も生きているんだから、そういう人の二人や三人いてもいいでしょ」
恋人ができる事だってあるわ。
「三人?そんなに?!」
「…少ないじゃない。誰もいなかった時の方が多いわ」
こういう生活していると出会いが少ないから滅多に出来なかったけれどね。
「———フローラで何人めなんだ?生まれ変わったのは」
「ええと…最初を除いて八人?」
アルフィンの問いに頭の中で指折り数えて答えた。

「…三百年でそれは…多くない?」
ふとラウルが真顔になった。
「アデル様も早くに亡くなったけど…」
「寿命が短くなるからよ」
「短くなる?」
「呪いの影響で身体に負担がかかるからどうしても…」
何気なくそこまで言ってはたと気づいた。
やっぱりお酒はダメだわ、余計な事を言ってしまう。

ガタン、と音を立ててラウルが立ち上がった。
「何だよそれ…初めて聞いたんだけど」
「私も知らなかったぞ」
「…誰にも言った事ないもの…」
「じゃあフローラ様も長く生きられないのか?」
「———そうね…でも仕方ないわ」
「仕方ないって何だよ!」
ラウルの顔は怒りと———悲しみが混ざっていた。

「貴女はいつもそうだ、どうしてそうやって最初から諦める?呪いのせいだ、運命だって」
「…だって……」
ラウルの顔を見ていられなくて、私は顔を伏せた。
「———そう思わないと…生きていられないじゃない……」
私には抗う術も力もないから。
己が受けた呪いを大人しく受け入れるしか出来ないのに。


「———俺が救うから」
ラウルが私を抱きしめる。
「だから…仕方ないなんて言わないで…」
私よりもずっと大きい身体のはずなのに。
私に縋り付いていた———幼い頃のラウルに抱きつかれているような感覚を覚えた。
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