呪いを受けて少女は魔女になった

冬野月子

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25.目覚め

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「……ん」
身動いだ私をすぐに———その感触をすっかり覚えてしまった腕が抱きしめた。
「フローラ様…」
いつもとは違う響きを含んだ声に目を開くと、泣きそうな顔をしたラウルがいた。
「ラウル…」
「ああ…良かった」
大きく息を吐いたラウルの目元はうっすらと黒くて、彼がまともに寝ていない事を示していた。
「私…どれくらい眠っていたの?」
「丸二日だよ」
「そんなに…」
温かいラウルの胸元に頭をすり寄せる。
「心配かけたでしょう」
「心配なんて…俺の方こそ……」
「———クランに共鳴してしまったみたい」
私が感じた痛みも熱も…あれはきっとクランの苦しみだった。
「ごめん…まさかあんな事になるとは…」
「……仕方ないわ、まだ呪いについて分からない事が多いのでしょう」
私はラウルを安心させたくて笑顔を向けた。
「私は大丈夫よ。もう痛みも何もないから」
それは本当だった。
身体も心も、とてもすっきりしている。
「クランの呪いは解けたのね」
「…ああ」
「ありがとう」
まるで子供のように今にも泣きそうな顔のラウルに、私は手を伸ばしてその頬に触れると自分から口付けた。
唇を離すと———目を丸くしたラウルの顔が現れた。
「これはお礼ね」
「フローラ様…!」
お返しとばかりにキスの雨が大量に降ってきた。
ちょっと!それはやり過ぎだから!
ラウルの腕の中でもがいていると、扉をノックする音が聞こえた。
———え、誰かいるの?!

「フローラは起きたのか?」
扉の向こうからアルフィンの声が聞こえた。
「———ああ」
邪魔をされて不機嫌な顔になったラウルはベッドから起き上がると私に手を差し出した。

ラウルとリビングに向かうと———人の姿になったアルフィンとティーナがいた。
ティーナは…妖艶な美女という言葉がぴったりだ。
ウェーブを描く豊かな赤い髪とぽってりした真っ赤な唇、そして…
「フローラ!ああ良かった」
ギュッとティーナに抱きしめられる。
豊かな胸に顔が埋もれて…本当に大きくて柔らかくて…く、悔しくなんかないんだから!

「もしかして…二人はずっと居てくれたの?」
「帰れるわけないだろう。あんたは目を覚ます気配はないし、坊やは泣きながらずっとくっついたままだし…」
「———その坊やと呼ぶのはいい加減止めてくれないか」
「私からすればまだまだ坊やだよ」
不快そうなラウルに笑みを浮かべて返す。
私達は椅子に座り、ティーナが作ってくれた———薬効のある苦いスープを飲みながら、私が眠っていた間の話を聞いた。

クランの呪いは無事に解けたけれど…やはり命は助からなかった。
彼に呪いをかけたのは、私が呪いを受けた邪神の仲間だったらしい。
ラウルとティーナが神殿を訪れると砕かれた石の残骸があるだけだったという。
「特にそこに何かが封印されている様子はなかったから、単純にかかった呪いを解いただけで済んだけど…」
フローラ様の場合はそうはいかないな、とラウルはため息をついた。
「だが少なくとも呪いを解ける事はこれで分かったのだろう」
「ああ」
「坊やは凄い魔導師になったんだねえ。邪神の呪いを解いたなんて聞いた事がないよ」
感心したようにティーナが頷く。
「フローラ様への愛の力だね」
…しれっと恥ずかしい事を言われてしまった。

四人で昔話などしていると、外から扉を叩く音が聞こえた。
「王子様かしらね。昨日も来ていたよ」
———ジェラルド様にもきっと心配かけてしまったよね。
ラウルが立ち上がって扉を開く。
けれど飛び込んできたのは予想外の声だった。

「フローラ!」
「…シャルロット?!」
「ああ!良かった!」
シャルロットは私に抱きつくとぎゅっと力を込めた。
「どうして…」
「お兄様から聞いたの」
「どうしても一緒に行くと聞かなくてな」
後ろからジェラルド様が嬉しそうな顔を覗かせた。
「大丈夫そうで良かった」
「…ご心配をおかけしました」
私はシャルロットを抱きしめ返した。
「シャルロットも…来てくれてありがとう」
「———無事で良かったわ…」
顔を上げたシャルロットは、そこでようやく部屋の中にいる人物に気づいたようだった。
「え…アルフィン様……」
みるみるその頬が赤くなる。
「どうして…お、お兄様!どうしてアルフィン様もいらっしゃるって教えてくれなかったの?!もっとちゃんとお化粧してきたのに!」
「お前の目的はフローラに会うことだろう?今日はいないかもしれなかったし」
しれっとしてるけど…多分わざと言わなかったんだろうな。
「私は化粧などしていないシャルロットの方が好きだぞ」
アルフィン…だからどこでそういう殺し文句を覚え…いや、この子の場合は天然か。

「へえ、この子がアルフィンの花嫁かい」
ティーナが耳まで赤くなったシャルロットに近づいた。
「またずいぶんと可愛い子を選んだね」
「あの…?」
「私はティーナ。フローラとアルフィンは小さい時から知っているからね。二人とも子供みたいなものだよ」
「は、はじめまして。シャルロットと申します」
慌ててシャルロットがマントの裾をつまんで王女らしく優雅に挨拶をする。
「子供じゃなくて孫だろ」
「…あんたはその余計な一言をいうのを直しな」
ぼそっと呟いたアルフィンを睨み付けるとシャルロットには笑顔を向ける。
「気の利かない子だから苦労するかもしれないけど。頑張るんだよ」
「はい。ありがとうございます」
「いい子だね。夫婦喧嘩の時は私とフローラが助けてあげるからね」
「…は、はい」
おそらく夫婦という言葉に反応してシャルロットは更に真っ赤になってしまった。
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