6 / 66
第1章 出会い
05
しおりを挟む
「まったく…どうしてこんな事になったんだ」
「お兄様は気を張りすぎだわ」
このところ文句ばかりのクリストファーにイリスはそう言って労わるようにその背中を撫でた。
二人は離れへと向かう小道を歩いていた。
レナルドにイリスの存在を知られてから十日ほどが経っていた。
「そんなに気にしなくても大丈夫よ。…この国の人達にとってはずっと昔の、歴史の中の話なんだもの」
「だからといって油断はできない。この国にだって血を継ぐ者はいるんだから」
「…その人達に知られてしまう時は知られてしまうわ。そういうものなのでしょう」
「僕が危惧しているのはイリスが利用される事だよ。———例えばこの国の権力争いとやらに」
「レナルド殿下はそんな事をするような方ではないわ」
「殿下にその気はなくとも周りは分からないだろう。…それに」
立ち止まると、クリストファーは妹を見つめた。
「殿下はイリスの事をずいぶんと気に入ったようだからね」
「ヤキモチを焼いているの?私が殿下と一緒にいる時間が増えているから」
「…それもあるけれどね」
分かっていないのだろう、首を傾げて見上げるイリスに苦笑するとふと真顔になる。
「殿下はイリスを妃に欲しいと言い出すかもしれないよ」
イリスを見るレナルドの眼差しの奥に宿る熱にクリストファーは気づいていた。
見た目も愛らしく、性格も良いイリスだ。
———間近で接する内に必要以上の好意を抱かれてもおかしくはない。
「まあ」
クリストファーの言葉にイリスは目を丸くした。
「うちは何の力もない小さな伯爵家なのに?」
この屋敷から出た事のない、世間知らずのイリスにだって、自分が王子の妃になれるような身分ではない事は分かっている。
「家柄の事はどうとでもなるんだよ」
「それに王都には素敵なご令嬢が大勢いるでしょう」
「イリスより可愛い子は学園にはいなかったな」
「あら、それはお兄様の贔屓目だわ」
ふふとイリスは笑った。
———その無垢な笑顔が男を惹きつけるんだ。
喉から出かかった言葉をクリストファーは呑み込んだ。
他に比較する相手のいないイリスに、自分の見た目がどれだけのものなのか伝えるのは難しいだろう。
「イリスを王族に渡すわけにはいかないんだから。あまり親しくはするな」
「きっと殿下は王都に帰られたら私の事なんか忘れるわ」
「…それはどうかな」
星の出始めた空を見上げるイリスを見つめて、クリストファーはその手を取ると再び歩き出した。
「お兄様は気を張りすぎだわ」
このところ文句ばかりのクリストファーにイリスはそう言って労わるようにその背中を撫でた。
二人は離れへと向かう小道を歩いていた。
レナルドにイリスの存在を知られてから十日ほどが経っていた。
「そんなに気にしなくても大丈夫よ。…この国の人達にとってはずっと昔の、歴史の中の話なんだもの」
「だからといって油断はできない。この国にだって血を継ぐ者はいるんだから」
「…その人達に知られてしまう時は知られてしまうわ。そういうものなのでしょう」
「僕が危惧しているのはイリスが利用される事だよ。———例えばこの国の権力争いとやらに」
「レナルド殿下はそんな事をするような方ではないわ」
「殿下にその気はなくとも周りは分からないだろう。…それに」
立ち止まると、クリストファーは妹を見つめた。
「殿下はイリスの事をずいぶんと気に入ったようだからね」
「ヤキモチを焼いているの?私が殿下と一緒にいる時間が増えているから」
「…それもあるけれどね」
分かっていないのだろう、首を傾げて見上げるイリスに苦笑するとふと真顔になる。
「殿下はイリスを妃に欲しいと言い出すかもしれないよ」
イリスを見るレナルドの眼差しの奥に宿る熱にクリストファーは気づいていた。
見た目も愛らしく、性格も良いイリスだ。
———間近で接する内に必要以上の好意を抱かれてもおかしくはない。
「まあ」
クリストファーの言葉にイリスは目を丸くした。
「うちは何の力もない小さな伯爵家なのに?」
この屋敷から出た事のない、世間知らずのイリスにだって、自分が王子の妃になれるような身分ではない事は分かっている。
「家柄の事はどうとでもなるんだよ」
「それに王都には素敵なご令嬢が大勢いるでしょう」
「イリスより可愛い子は学園にはいなかったな」
「あら、それはお兄様の贔屓目だわ」
ふふとイリスは笑った。
———その無垢な笑顔が男を惹きつけるんだ。
喉から出かかった言葉をクリストファーは呑み込んだ。
他に比較する相手のいないイリスに、自分の見た目がどれだけのものなのか伝えるのは難しいだろう。
「イリスを王族に渡すわけにはいかないんだから。あまり親しくはするな」
「きっと殿下は王都に帰られたら私の事なんか忘れるわ」
「…それはどうかな」
星の出始めた空を見上げるイリスを見つめて、クリストファーはその手を取ると再び歩き出した。
3
あなたにおすすめの小説
忘れ去られた婚約者
かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』
甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。
レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
※他のサイトにも掲載しています。
毎日更新です。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
ハーレム系ギャルゲの捨てられヒロインに転生しましたが、わたしだけを愛してくれる夫と共に元婚約者を見返してやります!
ゴルゴンゾーラ三国
恋愛
ハーレム系ギャルゲー『シックス・パレット』の捨てられヒロインである侯爵令嬢、ベルメ・ルビロスに転生した主人公、ベルメ。転生したギャルゲーの主人公キャラである第一王子、アインアルドの第一夫人になるはずだったはずが、次々にヒロインが第一王子と結ばれて行き、夫人の順番がどんどん後ろになって、ついには婚約破棄されてしまう。
しかし、それは、一夫多妻制度が嫌なベルメによるための長期に渡る計画によるもの。
無事に望む通りに婚約破棄され、自由に生きようとした矢先、ベルメは元婚約者から、新たな婚約者候補をあてがわれてしまう。それは、社交も公務もしない、引きこもりの第八王子のオクトールだった。
『おさがり』と揶揄されるベルメと出自をアインアルドにけなされたオクトール、アインアルドに見下された二人は、アインアルドにやり返すことを決め、互いに手を取ることとなり――。
【この作品は、別名義で投稿していたものを改題・加筆修正したものになります。ご了承ください】
【この作品は『小説家になろう』『カクヨム』にも掲載しています】
魔法使いとして頑張りますわ!
まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。
そこからは家族ごっこの毎日。
私が継ぐはずだった伯爵家。
花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね?
これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。
2025年に改編しました。
いつも通り、ふんわり設定です。
ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m
Copyright©︎2020-まるねこ
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。
夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。
辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。
側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。
※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。
婚約者は無神経な転生悪役令嬢に夢中のようです
宝月 蓮
恋愛
乙女ゲームのモブに転生したマーヤ。目の前にいる婚約者はそのゲームの攻略対象だった。しかし婚約者は悪役令嬢に救われたようで、マーヤそっちのけで悪役令嬢に夢中。おまけに攻略対象達に囲まれている悪役令嬢も転生者で、何だか無神経発言ばかりで少しモヤモヤしていしまうマーヤ。そんな中、マーヤはゲームには関係ない隣国の公爵令息と仲良くなり……!?
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる