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第1章 出会い
05
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「まったく…どうしてこんな事になったんだ」
「お兄様は気を張りすぎだわ」
このところ文句ばかりのクリストファーにイリスはそう言って労わるようにその背中を撫でた。
二人は離れへと向かう小道を歩いていた。
レナルドにイリスの存在を知られてから十日ほどが経っていた。
「そんなに気にしなくても大丈夫よ。…この国の人達にとってはずっと昔の、歴史の中の話なんだもの」
「だからといって油断はできない。この国にだって血を継ぐ者はいるんだから」
「…その人達に知られてしまう時は知られてしまうわ。そういうものなのでしょう」
「僕が危惧しているのはイリスが利用される事だよ。———例えばこの国の権力争いとやらに」
「レナルド殿下はそんな事をするような方ではないわ」
「殿下にその気はなくとも周りは分からないだろう。…それに」
立ち止まると、クリストファーは妹を見つめた。
「殿下はイリスの事をずいぶんと気に入ったようだからね」
「ヤキモチを焼いているの?私が殿下と一緒にいる時間が増えているから」
「…それもあるけれどね」
分かっていないのだろう、首を傾げて見上げるイリスに苦笑するとふと真顔になる。
「殿下はイリスを妃に欲しいと言い出すかもしれないよ」
イリスを見るレナルドの眼差しの奥に宿る熱にクリストファーは気づいていた。
見た目も愛らしく、性格も良いイリスだ。
———間近で接する内に必要以上の好意を抱かれてもおかしくはない。
「まあ」
クリストファーの言葉にイリスは目を丸くした。
「うちは何の力もない小さな伯爵家なのに?」
この屋敷から出た事のない、世間知らずのイリスにだって、自分が王子の妃になれるような身分ではない事は分かっている。
「家柄の事はどうとでもなるんだよ」
「それに王都には素敵なご令嬢が大勢いるでしょう」
「イリスより可愛い子は学園にはいなかったな」
「あら、それはお兄様の贔屓目だわ」
ふふとイリスは笑った。
———その無垢な笑顔が男を惹きつけるんだ。
喉から出かかった言葉をクリストファーは呑み込んだ。
他に比較する相手のいないイリスに、自分の見た目がどれだけのものなのか伝えるのは難しいだろう。
「イリスを王族に渡すわけにはいかないんだから。あまり親しくはするな」
「きっと殿下は王都に帰られたら私の事なんか忘れるわ」
「…それはどうかな」
星の出始めた空を見上げるイリスを見つめて、クリストファーはその手を取ると再び歩き出した。
「お兄様は気を張りすぎだわ」
このところ文句ばかりのクリストファーにイリスはそう言って労わるようにその背中を撫でた。
二人は離れへと向かう小道を歩いていた。
レナルドにイリスの存在を知られてから十日ほどが経っていた。
「そんなに気にしなくても大丈夫よ。…この国の人達にとってはずっと昔の、歴史の中の話なんだもの」
「だからといって油断はできない。この国にだって血を継ぐ者はいるんだから」
「…その人達に知られてしまう時は知られてしまうわ。そういうものなのでしょう」
「僕が危惧しているのはイリスが利用される事だよ。———例えばこの国の権力争いとやらに」
「レナルド殿下はそんな事をするような方ではないわ」
「殿下にその気はなくとも周りは分からないだろう。…それに」
立ち止まると、クリストファーは妹を見つめた。
「殿下はイリスの事をずいぶんと気に入ったようだからね」
「ヤキモチを焼いているの?私が殿下と一緒にいる時間が増えているから」
「…それもあるけれどね」
分かっていないのだろう、首を傾げて見上げるイリスに苦笑するとふと真顔になる。
「殿下はイリスを妃に欲しいと言い出すかもしれないよ」
イリスを見るレナルドの眼差しの奥に宿る熱にクリストファーは気づいていた。
見た目も愛らしく、性格も良いイリスだ。
———間近で接する内に必要以上の好意を抱かれてもおかしくはない。
「まあ」
クリストファーの言葉にイリスは目を丸くした。
「うちは何の力もない小さな伯爵家なのに?」
この屋敷から出た事のない、世間知らずのイリスにだって、自分が王子の妃になれるような身分ではない事は分かっている。
「家柄の事はどうとでもなるんだよ」
「それに王都には素敵なご令嬢が大勢いるでしょう」
「イリスより可愛い子は学園にはいなかったな」
「あら、それはお兄様の贔屓目だわ」
ふふとイリスは笑った。
———その無垢な笑顔が男を惹きつけるんだ。
喉から出かかった言葉をクリストファーは呑み込んだ。
他に比較する相手のいないイリスに、自分の見た目がどれだけのものなのか伝えるのは難しいだろう。
「イリスを王族に渡すわけにはいかないんだから。あまり親しくはするな」
「きっと殿下は王都に帰られたら私の事なんか忘れるわ」
「…それはどうかな」
星の出始めた空を見上げるイリスを見つめて、クリストファーはその手を取ると再び歩き出した。
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