ゲームには参加しません! ―悪役を回避して無事逃れたと思ったのに―

冬野月子

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14 ゲームの結末

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「あの人、校舎の裏で教師と抱き合っていたんですって」
「まあ。騎士団の宿舎に入っていくのを見たと聞きましたわ」
「図書館で逢引していたって……」
学園はアリスの噂で持ちきりだ。廊下を歩いていると幾つもの話が聞こえてくる。
「私が聞いたのは王太子殿下と……」
言いかけた女生徒が私に気づいてサッとその顔を青ざめさせた。
(別に……全部知ってるし)
そそくさと逃げるように立ち去った後ろ姿を見てため息をついた。

やはり、アリスが複数の異性と親しくしていたのは大きな問題となっていた。中でも一番の問題は、相手の中に王太子がいたことだという。
アリスは退学処分となり、倫理観が欠如していると判断され、矯正のため修道院へ送られたそうだ。
彼女と親しくなった者たちも相応の処分を受けた。
アルフレッド殿下も謹慎処分、離宮で再教育するという。

アリスは人の心につけ込むのが上手かったらしい。
家や仕事の重圧、兄弟との比較など、彼らのコンプレックスを理解し、癒すような言動を取っていたそうだ。
彼女がそのコンプレックスをどうやって知っていたのかは謎だとされているが、私とラウルは知っている。――それらはゲームに出てくる情報だからだ。
ただ、ゲームの殿下にはコンプレックスといったものはなかったはずなのだが……なんと、私に対して負い目があったという。
私のお妃教育の成果が想定以上に良かったらしい。そのことを留学から帰国後ずっと殿下は聞かされ続け、さらに学園での試験結果も私の方が上だったことが、殿下にとっては負担になったのだと。

そうして殿下は、私にはできない植物の研究に没頭するようになった。そしてある時、学園の温室に行った時にそこでアリスに声をかけられたそうだ。
遠慮のないアリスの明るさに殿下は癒され、何度か会うようになった。他の者たちのように抱擁したりといった接触はなかったそうだが、それでも二人きりで温室という人目に晒されにくい場所で会っていたのは事実だ。

自分が殿下のコンプレックスだったというのは、正直ショックだ。
私はただお妃教育を頑張っていただけなのに。
学校の試験は……まあ、数学や理科には前世の知識という裏技があったけれど。でも他の教科はこの世界で身につけたものだ。
(頑張った結果を負担だったと思われるのって……何だかなあ)
モヤモヤしてしまって、それをエディーとラウルに愚痴ったら二人は美味しいお菓子を買ってきてくれた。本当に、ウチの弟たちはいい子で可愛い。


私と殿下の婚約は解消された。
殿下の再教育のために、一度関係をリセットした方が良いと判断されたためだ。
「リセットということは……再び婚約する可能性があるの?」
婚約解消の理由を聞かされ、私はお父様に尋ねた。
「それはあるだろう、お前は何年もお妃教育を受けていたからな。それを無駄にしてしまうのはもったいないだろう。だが、もしもお前に結婚したい相手がいるならば仕方ないとも言っていた」
そんな相手はいないけれど……でも、これはチャンスなのかもしれない。
(そうよ、私は田舎暮らしをするのが夢なのよ!)
できればうちの、バリエ家の領地で過ごしたい。
夏休みに帰った時、最近発掘され整備したばかりだという温泉に連れて行ってもらった。
この世界に転生して初めての温泉はとても気持ちがよくて。景色も綺麗でご飯も美味しくて、本当に楽しい帰省だった。

(まあ……王宮へも通わなくてよくなったし。先のことはこれから考えるとして、少しのんびりしよう)
こうして、ヒロインの退場という思いがけない形でゲームは終わったのだ。
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