21 / 35
20 ヒロインのその後
しおりを挟む
「――ということで、二国間の関所は十三年前に廃止されたんだ」
二年生になって最初の試験前。エディーとラウルの三人で、我が家で勉強会を開いている。――勉強会というか、ラウル先生による講習会だけれど。
「で、この国境だけど。最近アリス・リオットが越えたらしい」
「え?」
アリスって……ヒロイン?!
「あのおかしい女か? 修道院に入ったんじゃなかったのか」
「脱走したんだって」
「脱走?!」
そんなことできるの?
「協力者がいたらしい。彼女と親しくしていた騎士見習いの男も消息不明になっている」
騎士見習いと国境を越えたって……それってまさか、冒険者になるルート?!
ラウルに口パクで『冒険者?』と尋ねると小さく頷いた。
「ふうん。それで、そいつらはどうなるんだ?」
「さあ。わざわざ捜索するような重罪を犯したわけでもないから、たぶん放置じゃないかな」
「そうなんだ……」
冒険者なんて、大丈夫なのかな。
ああでも、どうせ転生するならRPGの世界が良かったとか言っていたから。ちょうどいいのかしら。
しばらくして試験結果が貼り出された。
「すごいですわラウル様! 満点だなんて!」
私の隣で大きな瞳を輝かせているのは一年生のサーシャ・アボット嬢。ラウルのお見合い相手だ。
その後も定期的に会っているようで、このままいけばラウルが卒業するまでに婚約する予定だという。
「ラウル様はこれまで一度も失点がないのよ」
「まあ、本当に?!」
よく変わる表情が可愛らしい。いいなあ、こんな可愛い妹が欲しかったなあ。
「相変わらずあり得ないな、ラウルは」
サーシャ嬢に癒やされていると、すぐ後ろから声が聞こえた。
「殿下……」
「またクリスティナに勝てなかったね」
私の肩に手を乗せながら殿下は言った。
今回、私は二点マイナスの二位、殿下は三点マイナスで三位、そのあとにエディーと続いている。
「クリスティナはどこを間違えたの?」
「ええと……歴史学の、最後から三番目の設問を……」
「ああ、あれは難しかったよね。じゃあ他は満点だったの?」
「はい……」
振り返ると、殿下は笑みを浮かべていた。
「すごいねクリスティナは。私は数学がだめだったよ」
「で……殿下もすごいです」
(顔が近い!)
肩を抱かれたまま振り返ると、すぐ目の前に殿下の顔があった。
「次は勝てるよう、頑張らないとな」
「殿下」
目の前で微笑まれて思わず顔に熱がこもるのを感じていると、低い声が響いた。
「もう婚約者ではないのですから、そうやって触れるのはおやめください」
いつの間にか現れたエディーが、そう言って殿下を引き剥がすと私の腕を取って自分へと引き寄せた。
「――君も人のことは言えないのでは?」
「俺は『家族』ですから」
「家族、ね」
エディーを一瞥すると、殿下は再び私を見た。
「クリスティナ。次の休日に王宮へ来てくれる?」
「またですか」
私が答えるより早くエディーが言った。
「エディー。確かに一度婚約は解消したが、クリスティナが王太子妃の最有力候補であることに変わりはない」
エディーを見据えて殿下は言った。
「候補なのだから会う機会を多く持つのは当然だろう」
そう言うと、殿下は私を見て目を細めた。
「それじゃあクリスティナ、また迎えの馬車を送るから」
「……むかつくな」
立ち去った殿下の後ろ姿を見つめながらエディーは呟いた。
「クリスティナ様を巡る男同士の戦いですわね! 恋愛小説で読みましたわ」
サーシャが先刻以上に目を輝かせた。
「でも、どうして婚約解消したのにまだクリスティナ様がお妃候補なんですの?」
「それは、クリスティナ嬢以上にお妃に相応しい人がいないからだよ」
ラウルの声が聞こえた。
「クリスティナ嬢の優秀さを知ってしまうと、どうしても見劣りするんだって。それにお妃教育は何年もかかるから、今から新しい婚約者を決めるのも大変だし」
「それでしたらそもそも婚約を解消しなければ良かったのでは?」
側までやってきたラウルにサーシャが尋ねた。
「――色々あるらしいよ」
「色々ですの?」
私も王妃様に尋ねたことがある。婚約解消という処遇は重すぎるのではないかと。
そのことは王宮内でも賛否があったそうだ。
他の者たちと異なり、殿下とアリスはただ会話をしていただけで、それはアリスも認めているという。
それに対して、謹慎はともかく婚約解消は厳しすぎるのではないかという声もあったのだが、王太子としての自覚に欠けているとの意見も多く、結局再教育のためにも一旦解消することにしたのだという。
そのおかげなのか、殿下は猛省し予定より早く謹慎も解かれることとなった。
『このままだと本当にあなたとの婚約がなくなってしまうと、あの子かなり焦っていたのよ』と王妃様は笑顔で言っていた。
「本当にあなたがお妃になるか、それはあなた自身で選んでいいのよ」
王妃様はそうも言った。
「無理にお妃になってとは言いづらいけれど、あの子が王に相応しいと思えて、あの子を支えてもいいと思えるならお妃になって欲しいの」
(私が決めるとか、気が重いなあ)
のんびり暮らしたいからお妃にはなりたくないなんて、言えないし。
「色々な意見があるから、『一旦婚約破棄』というのが落とし所ってことかな」
ラウルがそうサーシャに説明した。
「そうなんですの……」
「それで振り回されるこっちは迷惑なんだよな」
分かったような分からないような表情のサーシャの隣で、エディーが眉を寄せた。
二年生になって最初の試験前。エディーとラウルの三人で、我が家で勉強会を開いている。――勉強会というか、ラウル先生による講習会だけれど。
「で、この国境だけど。最近アリス・リオットが越えたらしい」
「え?」
アリスって……ヒロイン?!
「あのおかしい女か? 修道院に入ったんじゃなかったのか」
「脱走したんだって」
「脱走?!」
そんなことできるの?
「協力者がいたらしい。彼女と親しくしていた騎士見習いの男も消息不明になっている」
騎士見習いと国境を越えたって……それってまさか、冒険者になるルート?!
ラウルに口パクで『冒険者?』と尋ねると小さく頷いた。
「ふうん。それで、そいつらはどうなるんだ?」
「さあ。わざわざ捜索するような重罪を犯したわけでもないから、たぶん放置じゃないかな」
「そうなんだ……」
冒険者なんて、大丈夫なのかな。
ああでも、どうせ転生するならRPGの世界が良かったとか言っていたから。ちょうどいいのかしら。
しばらくして試験結果が貼り出された。
「すごいですわラウル様! 満点だなんて!」
私の隣で大きな瞳を輝かせているのは一年生のサーシャ・アボット嬢。ラウルのお見合い相手だ。
その後も定期的に会っているようで、このままいけばラウルが卒業するまでに婚約する予定だという。
「ラウル様はこれまで一度も失点がないのよ」
「まあ、本当に?!」
よく変わる表情が可愛らしい。いいなあ、こんな可愛い妹が欲しかったなあ。
「相変わらずあり得ないな、ラウルは」
サーシャ嬢に癒やされていると、すぐ後ろから声が聞こえた。
「殿下……」
「またクリスティナに勝てなかったね」
私の肩に手を乗せながら殿下は言った。
今回、私は二点マイナスの二位、殿下は三点マイナスで三位、そのあとにエディーと続いている。
「クリスティナはどこを間違えたの?」
「ええと……歴史学の、最後から三番目の設問を……」
「ああ、あれは難しかったよね。じゃあ他は満点だったの?」
「はい……」
振り返ると、殿下は笑みを浮かべていた。
「すごいねクリスティナは。私は数学がだめだったよ」
「で……殿下もすごいです」
(顔が近い!)
肩を抱かれたまま振り返ると、すぐ目の前に殿下の顔があった。
「次は勝てるよう、頑張らないとな」
「殿下」
目の前で微笑まれて思わず顔に熱がこもるのを感じていると、低い声が響いた。
「もう婚約者ではないのですから、そうやって触れるのはおやめください」
いつの間にか現れたエディーが、そう言って殿下を引き剥がすと私の腕を取って自分へと引き寄せた。
「――君も人のことは言えないのでは?」
「俺は『家族』ですから」
「家族、ね」
エディーを一瞥すると、殿下は再び私を見た。
「クリスティナ。次の休日に王宮へ来てくれる?」
「またですか」
私が答えるより早くエディーが言った。
「エディー。確かに一度婚約は解消したが、クリスティナが王太子妃の最有力候補であることに変わりはない」
エディーを見据えて殿下は言った。
「候補なのだから会う機会を多く持つのは当然だろう」
そう言うと、殿下は私を見て目を細めた。
「それじゃあクリスティナ、また迎えの馬車を送るから」
「……むかつくな」
立ち去った殿下の後ろ姿を見つめながらエディーは呟いた。
「クリスティナ様を巡る男同士の戦いですわね! 恋愛小説で読みましたわ」
サーシャが先刻以上に目を輝かせた。
「でも、どうして婚約解消したのにまだクリスティナ様がお妃候補なんですの?」
「それは、クリスティナ嬢以上にお妃に相応しい人がいないからだよ」
ラウルの声が聞こえた。
「クリスティナ嬢の優秀さを知ってしまうと、どうしても見劣りするんだって。それにお妃教育は何年もかかるから、今から新しい婚約者を決めるのも大変だし」
「それでしたらそもそも婚約を解消しなければ良かったのでは?」
側までやってきたラウルにサーシャが尋ねた。
「――色々あるらしいよ」
「色々ですの?」
私も王妃様に尋ねたことがある。婚約解消という処遇は重すぎるのではないかと。
そのことは王宮内でも賛否があったそうだ。
他の者たちと異なり、殿下とアリスはただ会話をしていただけで、それはアリスも認めているという。
それに対して、謹慎はともかく婚約解消は厳しすぎるのではないかという声もあったのだが、王太子としての自覚に欠けているとの意見も多く、結局再教育のためにも一旦解消することにしたのだという。
そのおかげなのか、殿下は猛省し予定より早く謹慎も解かれることとなった。
『このままだと本当にあなたとの婚約がなくなってしまうと、あの子かなり焦っていたのよ』と王妃様は笑顔で言っていた。
「本当にあなたがお妃になるか、それはあなた自身で選んでいいのよ」
王妃様はそうも言った。
「無理にお妃になってとは言いづらいけれど、あの子が王に相応しいと思えて、あの子を支えてもいいと思えるならお妃になって欲しいの」
(私が決めるとか、気が重いなあ)
のんびり暮らしたいからお妃にはなりたくないなんて、言えないし。
「色々な意見があるから、『一旦婚約破棄』というのが落とし所ってことかな」
ラウルがそうサーシャに説明した。
「そうなんですの……」
「それで振り回されるこっちは迷惑なんだよな」
分かったような分からないような表情のサーシャの隣で、エディーが眉を寄せた。
112
あなたにおすすめの小説
P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ
汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。
※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。
乙女ゲームに転生した悪役令嬢、断罪を避けるために王太子殿下から逃げ続けるも、王太子殿下はヒロインに目もくれず悪役令嬢を追いかける。結局断罪さ
みゅー
恋愛
乙女ゲーム内に転生していると気づいた悪役令嬢のジョゼフィーヌ。このままではどうやっても自分が断罪されてしまう立場だと知る。
それと同時に、それまで追いかけ続けた王太子殿下に対する気持ちが急速に冷めるのを感じ、王太子殿下を避けることにしたが、なぜか逆に王太子殿下から迫られることに。
それは王太子殿下が、自分をスケープゴートにしようとしているからなのだと思ったジョゼフィーヌは、焦って王太子殿下から逃げ出すが……
[完結]7回も人生やってたら無双になるって
紅月
恋愛
「またですか」
アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。
驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。
だけど今回は違う。
強力な仲間が居る。
アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。
【完結】破滅フラグを回避したいのに婚約者の座は譲れません⁈─王太子殿下の婚約者に転生したみたいだけど転生先の物語がわかりません─
江崎美彩
恋愛
侯爵家の令嬢エレナ・トワインは王太子殿下の婚約者……のはずなのに、正式に発表されないまま月日が過ぎている。
王太子殿下も通う王立学園に入学して数日たったある日、階段から転げ落ちたエレナは、オタク女子高生だった恵玲奈の記憶を思い出す。
『えっ? もしかしてわたし転生してる?』
でも肝心の転生先の作品もヒロインなのか悪役なのかモブなのかもわからない。エレナの記憶も恵玲奈の記憶も曖昧で、エレナの王太子殿下に対する一方的な恋心だけしか手がかりがない。
王太子殿下の発表されていない婚約者って、やっぱり悪役令嬢だから殿下の婚約者として正式に発表されてないの? このまま婚約者の座に固執して、断罪されたりしたらどうしよう!
『婚約者から妹としか思われてないと思い込んで悪役令嬢になる前に身をひこうとしている侯爵令嬢(転生者)』と『婚約者から兄としか思われていないと思い込んで自制している王太子様』の勘違いからすれ違いしたり、謀略に巻き込まれてすれ違いしたりする物語です。
長編ですが、一話一話はさっくり読めるように短めです。
『小説家になろう』『カクヨム』にも投稿しています。
【完結】どうか、婚約破棄と言われませんように
青波鳩子
恋愛
幼き日、自分を守ってくれた男の子に恋をしたエレイン。
父から『第二王子グレイアム殿下との婚約の打診を受けた』と聞き、初恋の相手がそのグレイアムだったエレインは、喜びと不安と二つの想いを抱えた。
グレイアム殿下には幼馴染の想い人がいる──エレインやグレイアムが通う学園でそんな噂が囁かれておりエレインの耳にも届いていたからだった。
そんな折、留学先から戻った兄から目の前で起きた『婚約破棄』の話を聞いたエレインは、未来の自分の姿ではないかと慄く。
それからエレインは『婚約破棄と言われないように』細心の注意を払って過ごす。
『グレイアム殿下は政略的に決められた婚約者である自分にやはり関心がなさそうだ』と思うエレイン。
定例の月に一度のグレイアムとのお茶会、いつも通り何事もなくやり過ごしたはずが……グレイアムのエレインへの態度に変化が起き、そこから二人の目指すものが逆転をみせていく。すれ違っていく二人の想いとグレイアムと幼馴染の関係性は……。
エレインとグレイアムのハッピーエンドです。
約42,000字の中編ですが、「中編」というカテゴリがないため短編としています。
別サイト「小説家になろう」でも公開を予定しています。
【完結】婚約破棄を3時間で撤回された足枷令嬢は、恋とお菓子を味わいます。
青波鳩子
恋愛
ヴェルーデ王国の第一王子アルフレッドと婚約していている公爵令嬢のアリシアは、お妃教育の最中にアルフレッドから婚約破棄を告げられた。
その僅か三時間後に失意のアリシアの元を訪れたアルフレッドから、婚約破棄は冗談だったと謝罪を受ける。
あの時のアルフレッドの目は冗談などではなかったと思いながら、アリシアは婚約破棄を撤回したいアルフレッドにとりあえず流されておくことにした。
一方のアルフレッドは、誰にも何にも特に興味がなく王に決められた婚約者という存在を自分の足枷と思っていた。
婚約破棄をして自由を得たと思った直後に父である王からの命を受け、婚約破棄を撤回する必要に迫られる。
婚約破棄の撤回からの公爵令嬢アリシアと第一王子アルフレッドの不器用な恋。
アリシアとアルフレッドのハッピーエンドです。
「小説家になろう」でも連載中です。
修正が入っている箇所もあります。
タグはこの先ふえる場合があります。
前世を思い出した我儘王女は心を入れ替える。人は見た目だけではありませんわよ(おまいう)
多賀 はるみ
恋愛
私、ミリアリア・フォン・シュツットはミターメ王国の第一王女として生を受けた。この国の外見の美しい基準は、存在感があるかないか。外見が主張しなければしないほど美しいとされる世界。
そんな世界で絶世の美少女として、我儘し放題過ごしていたある日、ある事件をきっかけに日本人として生きていた前世を思い出す。あれ?今まで私より容姿が劣っていると思っていたお兄様と、お兄様のお友達の公爵子息のエドワルド・エイガさま、めちゃめちゃ整った顔してない?
今まで我儘ばっかり、最悪な態度をとって、ごめんなさい(泣)エドワルドさま、まじで私の理想のお顔。あなたに好きになってもらえるように頑張ります!
-------だいぶふわふわ設定です。
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる